#1167 クリュスVSシルフィ姫様のスルト
進化したクリュスを見た全員が驚く。ギルドクエストを通した進化じゃないからカインさんたちが知らないのは当たり前だ。
「…クリュスさんを進化させていたんですね」
「はい。つい先ほどギルドメンバーの力も借りてこっそり進化させて貰いました。流石に直前の進化は察知出来なかったですよね?」
「はぁ…確かに分かりませんでした。スルトには恋火ちゃんかイクスちゃん、リアンちゃん、セフォネちゃん、ファリーダちゃんの誰かをぶつけて来ると思ってました」
まぁ、俺もスルトを相手にするのにそのメンバーは確かに考えていた。ただイクスをぶつけた時は装備が壊れるのが怖いし、恋火とリアン、セフォネには荷が重い相手だと思っていた。ファリーダなら炎で互角ぐらいになるかと思っていて、もう一人の候補が月輝夜だった。これはヘーパイストスに作って貰った対スルト用の切り札が関係している。
ただやはり相性を考えると進化したばかりのクリュスが一番勝つ可能性が高い。しかも格納で切り札もしっかり預けておいた。後はもう戦ってみないと分からない。
「それでは戦うフィールドを選択してください」
「海でお願いします」
何もないフィールドが一面海に変わると両者が海に降ちる。するとスルトの周りの海が一瞬で蒸発し、スルトは海底に海水に触れることなく直地した。その結果、海面も下がり、両者が睨み合うとお互いに武器を構える。
「それでは始めましょうか…先手はお譲りします」
「では、遠慮なく。クリュス!」
「女神技! ゴッドマザー・ソング!」
クリュスの声が聞こえるとスルトは倒れ込み、鼻提灯を作って爆睡する。
「えぇ!? 何寝ているんですか!? スルト!」
「クリュス、女神域!」
クリュスから紫色の原初の海が発生し、スルトに襲い掛かるが蒸発する。眠らしてもダメなのか…これは加護か何かの自動スキルの仕業だな。発動に自分の意志が必要なスキルは睡眠時には使えないからね。
「水がダメならゴリ押すまで! クリュス! ドラゴンブレス!」
クリュスの六つのドラゴンの首から同時にドラゴンブレスが放たれ、スルトに直撃する。これでスルトが目を覚ます。
「今度はこっちの」
「クリュス! 神波動!」
手を構えていたクリュスが特大の神波動をスルトにぶつける。そして更にドラゴンの首たちから死滅光線と石化光線が放たれた。だが、スルトは撃ち抜かれた所から再生の炎を発生させて立っていた。
「今度こそこちらの番です! スルト! 魔剣解放!」
スルトの炎の巨剣が燃え上がる。
「グレインラグナロク!」
「オォオオオオ!」
炎の斬撃が海を蒸発させて、クリュスに迫るとクリュスを真っ二つにしてしまう。更に攻撃はクリュスの後ろまで届いて、海を割る。あれが枝の破壊という異名を持つスルトの炎の剣か。ここでの枝はユグドラシルを指しており、時々レーヴァテインと同一視されるが別物と考えられるのが一般的だ。中にはいつの間にかスルトの手に渡っているという話もあるようだけどそれならロキかスルトの妻からスルトに手渡す話が合っていいはずだ。それがない以上、別物と考えるのはしょうがない事だと思う。
「…そう簡単には行きませんよね」
斬られたクリュスが体が液状化するとくっつき、元のクリュスに戻ると強化復活のバフが発生する。
「スルト! 溶波動!」
「クリュス! 神撃!」
スルトは炎の巨剣から溶岩の波動を放つとクリュスはこれを体で受け止めるとスルトに神撃が落ちる。
「猛毒尾!」
クリュスの強烈な尻尾の一撃を受けて、スルトは吹っ飛び、毒に侵されるが炎で毒が消える。加護のようには見えなかった。知らないスキルだな。
「熱無効ですか…スルトの相手に選んだ理由がよく分かりました、しかし水に強いのはスルトも同じなんですよ! スルト! 魔神域!」
海が消滅し、世界が燃え上がる。更に熱無効があるクリュスが燃え上がってしまった。これがスルトの魔神域…これでスルトのこのゲームでの立ち位置がはっきりした。
スルトはムスペルヘイムという炎の世界の王として知られているが同時にムスペルヘイムの守護神でもある。魔王域ではなく、魔神域であることから守護神としての性質が強いんだろうな。
「クリュス! 女神域!」
クリュスが女神域を使うとまた原初の海が発生し、クリュスの炎は消えるがスルトには届かない。クリュスを強くする時間があればごり押しで勝てるんだけどな。
「スルト! 冥波動!」
「クリュス! 大海波動!」
「スルト! ゴッドブレス!」
「クリュス! ゴッドブレス!」
これらのぶつかり合いは互角に終わる。
「それならスルト! 火砕流!」
「クリュス! 大津波!」
これも互角。そして焼尽が使用されるがクリュスが暴食で食べながら、体で受けた焼尽は沈殿の効果でクリュスの体内に吸い込まれて、魔力吸収で魔力が回復する。そしてクリュスが反撃で放った巨大な水の刃を作り出す大海刃で攻撃するがスルトは炎熱装甲で蒸発させてしまう。お互いに中々突破口が見つけられない。
「スルト! 猛爆です!」
「オォオオオオ!」
スルトが絶叫するとフィールド全体が次々爆発する。爆発属性の全体攻撃スキルか。
「クリュス、大海壁!」
「えぇ! 大海壁!」
クリュスの体全体が海の壁に包まれて、爆発を弱めた。そしてお互いが拳を構えて、次元震がぶつかる。天照大神が用意してくれた別世界ならまず間違いなく崩壊しているだろうがこの世界は持っている。最も次元震のぶつかり合いで海が吹き飛んでしまったけどね。ケストルの優秀さをアピールしなくていいですよ。運営さん。
「今です! スルト! 魔軍!」
炎の武器を持った炎の巨人たちが現れる。海が消し飛ぶタイミングを狙われたか。
「クリュス! 生物創造!」
生物創造でティアマトの十一の怪物たちが炎の巨人と戦うが押される。一体一体が強い上に数で負けている。
「そのまま押しつぶしてください!」
「そう簡単に行きますかね? クリュス! 神軍!」
地面から岩の突起が次々発生し、炎の巨人軍団がくし刺しにされると天空から竜巻が発生し、炎の巨人たちが空に舞い上がる。そしてティアマトの左右に二柱の神が現れる。
アンシャル?
? ? ?
キシャル?
? ? ?
アンシャルが天空神でキシャルが地母神として知られている。神話ではあまり登場しない神たちだが、シュメール神話の最高神アヌを生んだ神として有名だ。なぜこの二柱の神が神軍で登場したかはティアマトの十一の怪物であるラハムとラフムの子供だからだと思われる。
その二柱の神が炎の巨人軍団と激突する。ただアンシャルが通り過ぎただけでとんでもない空振でぶっ飛ばされ、地面に立つことしか出来ない炎の巨人たちは隆起する地面に次々貫かれるという一方的な展開だ。
「な!? 神様を呼び出すなんてズルいですよ!」
「炎の巨人軍団を呼び出した人に言われたくないです!」
ムスペルヘイムの炎の巨人の軍団は世界を滅ぼしている。それなら神こそが相手に相応しいだろう。事実一方的にボコられるように見えるが再生の炎で懸命に耐えている。
そもそも物量が違い過ぎたのが問題で流石の二柱の神でもきついかと思っていると二柱の神が揃って手を繋ぐと必殺技を繰り出す。
「「神技! ドゥルアンキ!」」
天と地に次元の裂け目が発生し、炎の巨人たちが裂け目に吸い寄せられて時空の彼方に消えていく。スルトは大きすぎるので、びくともしていないのは流石だな。
ここで神軍の効果が切れて、この勝負の結果は両軍の壊滅という結果に終わる。
「とんでもない力でしたがこれで振り出しです! 魔神技! スルト・ラッシュ!」
炎の拳が連続で飛んで来る。これの対処法はみんなから聞いている!
「クリュス! 海の手で受け止めろ!」
「えぇ! 大瀑布! 海流支配! 物理化!」
クリュスはナイアガラの滝のような滝を発生させて、水を作り出すと滝をぶち抜いて来た炎の拳が迫ると海から水の手が現れると飛んできた炎の拳を次々受け止める。みんなが戦っていたティアマトが使っていた技だ。原初の海の手に捕まって、加護は失うし、海に引きずり込まれて大変だったらしい。
「そう来ますか…やりますね。スルト! デモングランドクラック!」
スルトが地面を踏みつけると地面を砕いて炎が迫る。
「クリュス! 海割れ!」
クリュスが槍で海面に触れると斬撃が放たれ、デモングランドクラックにぶつかるとクリュス周辺の海が割れる。
クリュスの流星群とスルトの大噴火による火山弾がぶつかり合う中、ドラゴンの首が伸びては炎の巨剣で向かえ打ち、激しい攻防が続く。この戦闘を見ているフリーティアの面々は引いている。
「世界の終わりを見ているようだな」
「最強の召喚師がこれを用意した理由がよくわかりますね。ギルドや城でこんな戦いをされては国が持ちません」
「そうですね。お母様。でも、シルフィお姉様のスルトとここまで戦える召喚獣がいることに驚いています」
「そうだな。だが、スキルの撃ち合いで勝負がつかない以上、この勝負は接近戦が得意なスルトに分がある。どうする? タクト」
サラ姫様がそう言うとシルフィ姫様はスルトに接近戦を指示するとスルトは炎の巨剣を盾にして走り出す。幸い速くはない!
「クリュス! 止めろ!」
「えぇ! 伸縮!」
クリュスのドラゴンたちが伸びて、左右からスルトに噛み付くが溶けてしまう。さっきまで毒を炎で消していただけだったのに!
「く! 原初鎖!」
スルトを拘束するように空間から現れた鎖も溶けてしまう。
「スルトの熔解スキルはあらゆるものを溶かします! ガラスの盾で防げるものじゃないですよ! 液状化しても蒸発させて見せます!」
それだけじゃない。スルトに溶かされた首が溶岩で固まることで復活が封じられていた。恐らくヘラクレスがヒュドラの復活を封じた方法を再現されたスキルと見るべきだな。これがスルトの実力か。これでまだ本気を出していないんだから恐ろしい敵だ。
「スルト! 王撃です!」
「オォオオオオオ!」
クリュスにスルトのムスペルヘイムの王としての一撃が迫る。この接近戦を待っていた!
「クリュス! 切り札だ!」
「格納! ルーンレーヴァチェーン!」
クリュスの両手から武器が消えると代わりに鎖が出現し、上段に炎の剣を構えているスルトに鎖が巻き付くように念動力で鎖が動く。
「無駄です! 鎖を熔かしたところを見せたはずですよ! スルト! 熔解!」
「オォオオオオオ!」
スルトの体が真っ赤に染まるが鎖は溶けず、拘束が決まると逆に封殺が発動し、熔解が解除される。そしてクリュスがスルトに発生している重力を軽くし、鎖を引いてスルトを持ち上げて、地面に叩きつけまくる。
「どうして…」
「この鎖はヘーパイストスがスルトを拘束するために特注で作った鎖です。巨人が三人がかりで壊すことが出来ず、ヘーパイストスの炎でもびくともしない鎖なんですよ」
鑑定したものがこちら。
ルーンレーヴァチェーン:レア度10 鎖 品質S+
重さ:250 耐久値:15000 攻撃力:100
効果:魔神殺し、神殺し、天使殺し、堕天使殺し、竜殺し、破魔、大物殺し、堅固、物理耐性、拘束、封殺、帰還、荷重操作、熱無効、腐蝕無効、加護無効、耐性無効、神の加護
サマエルの封印釘とダマスカス鋼、タングステンの合金で作られた耐久値を極限まで高められた熱に特に強い鎖。どんな種族でも拘束が決まると容易に脱出することは出来ない拘束に特化した鎖となっている。
重いのが難点だが、今のクリュスや月輝夜なら問題がないレベルだ。
「ちょっと待ってください…スルトのためだけにこれを作ったんですか!?」
「はい。ある意味、一番怖い召喚獣でしたからね」
「は、反則ですよ! それは!」
「シルフィ姫様が選んだのが悪いんですよ。それに武器と防具の制限はなしと説明したじゃないですか」
シルフィ姫様が悔しそうな顔をする。これは完全に俺の読み勝ちだ。最も外れたら外れたでボス戦のスルトで使う事になるから無駄にはならない注文となっている。
「スルト! 気合いです! 気合いで壊してください!」
それで壊せるならとっくにスルトは壊しているだろう。封殺が決まった以上、切り札は使えない。それでもシルフィ姫様の声に答えて、大声を上げるスルトは偉いね。でも、もう終わりだ。
「クリュス」
「えぇ。凄く強くて楽しかったわよ。お礼に私の海で眠らせてあげるわ。女神域!」
封殺で炎を封じられたスルトはもうクリュスの海を防ぐ術を持っていない。原初の海に海沈で沈んでいくスルトはクリュスに言う。
「見事だ…原初の海の女神よ。俺の負けだ」
スルトはそう言うと笑顔で海に沈んでいった。喋れたんだね。ここでレベルアップのインフォが来た。経験値入るんだね。しかも今のクリュスで四も上がった。一対一とはいえスルトのレベルの高さが伺える。
チロルたちと進化素材を譲ってくれたみんなに感謝だな。クリュスじゃ無かったら、相当やばかったかもしれない。ここでみんなが戦闘の感想を言う。
「スルトを出す事を読み、勝つための準備を整えていたタクトの読み勝ちだな」
「原初鎖でシルフィお姉様とスルトの油断を誘ったのがえげつないですね…しかも大技を出すタイミングでの使用。あれでは流石のスルトでも防げようがないですよ」
サラ姫様とアンリ姫様の言う通りでスルトが相手として確定した時点で俺が考えていたのはどうやってルーンレーヴァチェーンを決めることが出来るかに注視していた。事前に原初鎖を囮に使う案をクリュスに伝えており、クリュスは必死さを演出し、スルトの大振り攻撃を誘ってみせた。
「彼の召喚獣に目が行きがちだけど、彼らの戦闘を常に支えて来たのは彼の作戦とそれを信じて答える召喚獣との絆と彼らが装備している武器や防具であることを改めて認識させられた戦いだったね」
「そうねぇ。スルトは初期装備だけだったし、ちょっと可哀想だったわね」
ここでシルフィ姫様がアウラさんの一言に噛み付く。
「そう思うなら執務よりも冒険に行かせてくれたら、良かったじゃないですか! しかもやっとスルトに進化させることが出来たと思ったら、倒れちゃったんですよ? 私にどうしろって言うんですか!」
あぁ…スルトに進化させて間もない感じで ドォルジナス事件が起きたのか。それはもうどうしようもないな。シルフィ姫様の様子にグラン国王様たちも苦笑いするのだった。とにかくこれでまず一勝して、一つの難関は突破した。
ここで最初の空間に戻り、俺はクリュスにお礼を言って、召喚石に戻すとシルフィ姫様が次の召喚獣を召喚する。
「次はこうは行きませんからね! 出番ですよ! 夜叉!」
現れたのは長髪の銀髪に鬼の面を付けた男だった。服は陰陽師っぽい服に甲冑を装備している。武器は腰に剣、背には弓矢や槍が見えている。
「あ、化けていた奴だ」
「っ!?」
「ここで召喚獣の動揺を誘うのは卑怯ですよ! タクト様!」
怒られた。でもギクッとした時点で犯人は確定だ。さて、それじゃあ予定通り俺も楽しみな戦闘を見させてもらうとしよう。
「俺が選ぶのは…来い! 千影!」
千影と夜叉が相対する。さて、どちらの武が優れているのか見せて貰おう。




