#1150 アヴァロン海域の中深層
俺たちはアヴァロンに向かい、そこからノアズ・スクナで潜水する。俺が選んだメンバーはセチア、リアン、ルーナ、ダーレー、ミールだ。セチアとルーナ、ミールは外せなくて、残りは水中戦闘を意識してみた。
ノアズ・スクナの運転手にシャローさんとノアがいる。
「俺の急な決定で本当に申し訳ないです」
「全然大丈夫ですよ。いつもノアズ・スクナに乗せて貰っていますからね。これぐらいの恩返しはさせて下さい」
「そうだぜ。ギルマス。それにティル・ナ・ノーグに行けるんだ。船乗り冥利に尽きるってもんだぜ」
心優しい船乗りに恵まれて、ノアズ・スクナの嬉しいだろうな。ここで空間索敵に反応があった。
「下から来るぞ! 結構な数でしかも早い!」
現れた敵はこちら。
ヒッポカンプスLv35
召喚モンスター 討伐対象 アクティブ
ケルピーLv54
召喚モンスター 討伐対象 アクティブ
まずはホースの海適正ルートの第三進化であるヒッポカンプスと第四進化のケルピーだ。どちらも上半身が馬で下半身が魚の召喚獣でケルピーにはユニコーンのような角があり、身体は水になっている。
ヒッポカンプスはポセイドンの馬とされているがケルピーのほうが強いという謎設定が召喚師の中で不思議になっているのだが、恐らくケルピーの凶暴性が考慮されたんだと思われる。何せ人肉を好んで食べるとされている妖精だからだ。
更に彼らに乗っている妖精がいた。
ガンコナーLv40
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
セルキーLv62
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
ガンコナーはパイプを口に咥えている美男子でセルキーはアザラシの毛皮を装備しており、大剣や巨大な槍を構えている。
アザラシの顔が帽子になっており、非常に可愛い見た目をしているのだが、とんでもない怪力だな。ガンコナーは知らない。
「あははは! 久々の遊びだー!」
「遊びか…あれで攻撃されるのは遊びの領域じゃないんだけどな」
「妖精に人間の常識は通用しませんよ。タクト様」
まぁ、遊びに付き合ってやるとしますか。するとシフォンが慌てる。
「タクト君! ガンコナーから倒して! あの妖精はやばい妖精なの!」
「そうなのか? 知らないんだが、どんな妖精なんだ?」
「えーっと…一言で言うなら女の敵!」
女性に強い敵なのか?何か知らないがシフォンがそこまで言うからには理由があるんだろう。
「最初は我々に任せて下さい! 酸素魚雷! 一斉掃射!」
「「「「アイアイサー!」」」」
ノアズ・スクナの下から魚雷の発射口が現れると魚雷を発射した。
「なんだ?」
「とにかく回避だー!」
「ひゃっほーい!」
本当にセルキーは遊んでいる感覚のようだな。だが、酸素魚雷は追尾し、セルキーたちに直撃すると大爆発した。
「な、なんか凄い罪悪感を感じます…」
「戦闘ってそういう物ですよ。こんな事になっているとは聞いていないんですが」
「あれ? ちゃんとノアさんに話したはずですが伝わっていません?」
いないね。そもそもノアはご飯の声を掛けてもずっとノアズ・スクナにいるのだ。まぁ、俺のコミュニケーション不足は否めないか。一応島で生産している時にご飯などは運んで話は聞くようにしているんだけどね。
「皆さんを島から島に運んでいるとどうしても戦闘が発生して、より強力な武装が必要になって来たんです」
まぁ、それは分かる気がするな。シャローさんたちの船乗りとしての仕事は安全にプレイヤーを島まで届けることだ。その安全性を高めるためには武装の強化は必須と言える。
「お金はどうしたんですか? 結構なお金が必要になると思うんですが」
「そこは運航費として貰っているお金が貯まっていく一方でしたので、そこから使いました。自分たちの船の強化をする案もあったんですがまずはお世話になっているノアズ・スクナの強化からすることにしたんです」
「はぁ…それはどうもありがとうございます」
「お礼は不要ですよ。寧ろタクトさんたちの船を完全に自分たちの船のように使用している我々に問題があるんですから…一応我々のノアさんの船も完成しているんですけどね。みんなタクトさんの船に乗りたがるんです。今までの功績に勝るものはないと実感していますよ」
誰でも死に戻りは嫌だし、安全を優先する気持ちは確かにある。それに加えてウィザードオーブ戦争とレヴィアタン戦で活躍した実績と今までたくさんのプレイヤーを運んだ功績がある。他の同型船と比べるとやはりノアズ・スクナが人気になるのはしょうがないのかも知れない。
「タクト君!」
「ん? セチア!?」
シフォンの声に我に帰るとセチアの前にガンコナーが突然現れる。更にルーナとミールの前にも現れた。精霊門か!
「君のフレグランスに誘われてやって来たよ。今日から君はボクの物だ」
「あぁ。麗しの女王よ。君の心はこれより私の物になる」
「木のフレグランスを放つ君よ。さぁ、僕の物におなり」
「「「「はぁ?」」」」
俺とセチアたちが同じリアクションをする。怒っていい所なんだが、気持ち悪さが先に来た。するとガンコナーたちの目が怪しく光るとセチアたちの指輪が光り、ガンコナーたちが吹っ飛ばされる。
「うぐ…なんだ!?」
「…ミール」
「はい。セチアお姉様。 樹海操作!」
ノアズ・スクナに使われているゴフェルの木がガンコナーたちを拘束するとセチアが近付く。
「先ほど私たちに何をしようとしましたか?」
「「「え…えーっと…」」」
「答えられませんか? 魅了の魔眼を使いましたよね? 私たちがあなたたち程度にメロメロになるとでも思いましたか? 私たちはこの指輪にタクト様への愛を誓っているんですよ」
セチアの怒りの追及を前にガンコナーたちは震えている。ここでシフォンから教えて貰った。
「ガンコナーは必ずナンパが成功する魔法を使う妖精と言われていて、女性を惚れさせるだけ惚れさせると姿を消す妖精なの」
「「「「なんて羨ましい妖精なんだ! そして勿体ない!」」」」
みんなの意見は最もだと思う。そもそもナンパする時点でその子ことが少しは好きだと思うんだが、ポイ捨てする意味が分からない。
「ちょっと黙っててくれないかな? その結果、女性は恋煩いを永遠に味わって死んでいくと言われているの」
ひで…かなり悪趣味な妖精だな。つまりこの女性は他の恋もすることが出来ないまま、ずっと思い続けるだけ思い続ける孤独に死んでいくわけだ。
「なるほど。それで女の敵なわけね。で、永遠の愛を誓うウェルシュマリッジリングに相反するから弾かれたわけか」
俺が再び見るとセチアの姿がない。するとノアズ・スクナの扉が開いて木箱を持ったセチアがやって来た。俺はその木箱を知っていた。
「船で薬を作るのは大変なのを知っていますか? 特にこの船では戦闘がよく発生して、揺れで漏れた薬が混じってしまうことがよくあるんです」
「「「へ…へー…そうなんですか」」」
セチアが謎の薬が入った瓶の蓋を開けると七色の煙が発生した。黒や濃い紫色も怖いが七色の煙ってこんなに怖いんだな。
「覚悟は出来てますね?」
これは見てはいけないシーンな気がする。するとノアズ・スクナのシールドにほぼ無傷のセルキーと傷を負ったケルピーが突っ込んで来た。これをみたシャローさんは驚愕する。
「そんな!? 大型のモンスターも倒したことがあるのに無傷!?」
「何かありそうですね。行くぞ。リアン! ダーレー!」
「はい!」
「おう!」
後ろで聞いちゃいけない謎の絶叫とセチアたちの楽しそうな声が聞こえてきた気がするが今は攻撃を受けているし、きっとそれどころじゃない場面だ。
俺たちがセルキーに攻撃を仕掛けると攻撃を受け止められた。
「だぁ!」
しかも弾き飛ばされた。小さいのに結構強い!
「あはは! 相当強そうだな! お前たち!」
「楽しい遊びになりそうだ!」
戦闘を遊びと思う彼女たちも問題はあるがガンコナーよりも何倍もいいし、好感を持てる。そして俺たちとメルたちは戦闘を開始する。すると酸素魚雷を防いだセルキーの能力が判明した。
「多乱刃!」
俺が多乱刃を放つとセルキーが装備しているアザラシの革の目がキリっとした目に変化するとアザラシの手の部分が動いて多乱刃を弾いてしまった。なんか滅茶苦茶可愛かったぞ。
「自動防御に固さもしっかりあるみたいだな」
「でぇやあああ! カラミティカリバー!」
初手で武技は愚策だ。なんかこの子たちがリリーに見えてきた。俺はあっさり躱してカウンターで斬り裂こうとした瞬間だった。再びアザラシの目が変化する。分かっているよ。ガードするんだろう。
そう思っているとアザラシの手部分が蒼く輝くと俺にボディーブローを決めて来た。
「なんだ!? あの装備!? ちっ…氷拳か」
氷拳は氷属性のパンチでチロルのペンギンが使っている技だ。それよりも衝撃なのが防具が武技を使ったことだ。しかもセルキーが使っているようには見えない。つまりこれは自動で武技を使用している事になる。
「兄ちゃん! あれ欲しい!」
「…うん。可愛いし、強い」
「確かに欲しいね」
「え? メルもか?」
メルには年齢的にかなり厳しい装備だと思う。するとメルも察して詰め寄って来た。
「何が言いたいのかな? タクト君?」
口笛で誤魔化しているとセルキーが再び突っ込んで来た。
「カラミティカリバー!」
「遊んでいる場合じゃないぞ。メル」
「分かってます! これが終わったら、ちゃんと話を聞くからね!」
話を聞く前にメルにはこの防具を装備してもらうとしよう。それで俺が言いたいことははっきりするはずだ。俺は迫りくる大剣にカウンターで斬り裂こうとすると再びアザラシの手が蒼く光る。
カウンターでも反応するか…しかし俺も手を残している。
「朧」
俺の刀を弾こうとしたアザラシの氷拳が外れ、代わりにセルキーを斬り裂いた。
「うぐ!? うわぁあああ!?」
「ごめんな…そっちもカウンターで来るならこっちはフェイントで対応させてもらうまでだ」
カウンターは攻撃に対して行う物だ。その攻撃が嘘ならカウンターは成立しない。これはボクシングでよく言われていることだ。
ボクシングなのにお互いに体を動かすだけでなかなかパンチを出さない時がある。見ている側からすると殴り合えよと思うかも知れないがあれはお互いに高下するフェイントを出し合って、相手の動きやカウンターを出すのを探っているのだ。
だから俺の個人的な意見を言うとそれで攻め気がないと減点されたり、急かされるのは好きではない。柔道とかでも指導が入るのはどうにも好きにはなれないのだ。
確かに周りから見ると攻めていないように見せるかも知れないが彼らはその間も攻撃するタイミングを計り、確かに戦っている。それなら俺は勝負の行方を見守りたい。
減点や急かされて、雑になる試合を見るくらいなら多少時間が掛かってもいいから選手たちの本気の試合を見たい。まぁ、観客受けはしない理論だとは思うけどね。それに決められたルールの下で全力を出すのがプロのスポーツマンだと言われると俺は納得するしか無くなる。
「ヒヒーン!」
ケルピーが角を輝かせて、突っ込んで来る。
「ご主人様の仇打ちか? そういうのは嫌いじゃないぜ」
俺はあっさり躱してすれ違い様に斬り裂いた。
「よくもやったなー!」
「仲間の仇だー!」
うん。やっぱりこの子たちはいい子だね。物凄く清々しい。
「いいぜ…こい!」
「「「「…」」」」
俺が近衛を構えるとスルーされた。どうやら斬られるのを避けられたらしい。
「ま、仲間がやられるのを見たら、簡単には来れないか」
ダーレーやリアンを見るとダーレーは力と力の真っ向勝負を挑んでおり、押している。
逆にリアンはスピードで翻弄しながら魔法で攻撃を加えていた。どちらも手を出す必要は無さそうだな。
メルたちも大丈夫そうだ。特にリサは俺より先に倒していた。まぁ、格闘家ならあのアザラシ防具と相性がいいだろう。更にシャローさんたちがしっかりヒッポカンプスを倒してくれていた。ノアズ・スクナに乗って、プレイヤーたちを運んできたのは伊達じゃないね。
俺が船に帰る頃にはガンコナーたちの姿は無く、セチアが持って来ていた謎の薬がたくさんあった木箱もない
「彼らなら消えちゃいました」
それはきっと死んだことを意味している。そして殺害の証拠隠滅をしているセチアが怖すぎる。
「そうか…お疲れ様」
俺にはこういって頭を撫でてやる事しか出来ない。知らない方がいいことが世の中にはたくさんあるのだ。
戦闘が終わり、解体結果がこちら。
ヒッポカンプスの皮:レア度5 素材 品質B
馬の皮と魚の鱗が半分に分かれている皮で潜水服の素材として知られている素材で泳ぐことに特化している素材。
ケルピーの皮:レア度7 素材 品質A-
馬の皮と魚の鱗が半分に分かれている皮で見た目は水のように透き通っている。見た目の美しさから非常に人気が高い素材で高級のバッグなどに使われることがある。火と水に強いが基本的には水中戦闘用の防具となる。
ケルピーの一角:レア度7 素材 品質A-
青白く発光する神秘的な角。水と光属性の角で主に槍の素材として使用される。青白く発光する槍は見た目が美しく、槍使いに非常に高い人気がある。
セルキーの服:レア度10 防具 品質S-
重さ:250 耐久値:1000 防御力:1000
効果:氷拳、水中行動、堅牢、自動防御、自動攻撃、寒無効、水圧無効、狂戦士化、獣化
セルキーがアザラシの剥製から作った服。見た目の可愛さもさることながら攻撃と防御にも使える珍しい防具で見た目に騙されて近付くと酷い目に会うので、注意が必要。獣化を使うとアザラシになることが出来る。
防具が手に入ったのはいいが重たいな。考えてみるとアザラシを被っているようなものだからな。それでもここにいるメンバーなら問題は無いだろう。
そんなわけで装備するとリサとミライは気に入り、セチアたちも悪くはないのだがある問題が発生する。フレンド登録やパーティーメンバー以外が下手に近付くと防具が攻撃してしまうのだ。これはつまり町中で歩いているとNPCや他のプレイヤーを突然攻撃することを意味している。まぁ、色々な問題を起こすだろうな。
「痴漢の撃退にはいい装備なんでしょうけどね」
「そもそもここにいる女を痴漢出来る男がいるのか?」
アーレイは口を滑らせ、女性陣にボコボコにされる。危ない…俺も言いそうになった。先に言ってくれたアーレイに感謝だ。
一応、俺が解体して手に入れたセルキーの服の二着とケルピーの一角を二本貰った。残りは売却だ。さて、更に深く潜っていくとしよう。
調べている時にセルキーの可愛さにやられました。元々ゴマフアザラシとか可愛いと思っていましたが妖精と合わさると反則級でした。興味がある人は調べてみてください。
フレグランスは英語で香りという意味です。主に香水に使われる単語です。




