#1142 聖戦イベント告知
画面に映し出されたのは一人の知らない男の魔王だった。
『全世界の生物、神に告げる。私は暗黒大陸を支配している大魔神サタンだ。今日は諸君らに宣戦布告をするためにこうして通信させて貰っている』
あれがこのゲームでの俺の父さんなのか。そしていよいよサタンが全世界に対してクエストを発表する。
『まずは私の協力者を紹介しよう。あなたから行こうか』
『えぇ。私の名前はアザトース。エクスマキナのマスターたちにとっては有名かも知れないわね。私の目的はこの星の支配。故にサタン同様にこの星にいる生物、神に対して宣戦布告するわ』
「あれがアザトース」
「知らなかったのか? イクス」
「はい…何せ彼女と戦いに出るまでもなくエクスマキナは致命的なダメージを受けてしまいましたので」
「なるほどな。気持ちは分かるが熱くなるなよ?」
「マスターにだけは言われたくありません」
ごもっとも。流石にこんな形で死んだ父さんと会うとは思っていなかったからな。
『次は君がしようか』
かなりの細身で独特のぶかぶか帽子で顔を隠している紫色の髪をした男が映し出された。
『はーい! どーも! アースガルズで神様をしているロキでーす! アースガルズの神共に幽閉されて、酷い目にあったんでやり返すことにしました! 俺はここにいるサタンに助けられた訳だけど、助けようとしなかった人間どもも同罪なので覚悟してくださーい!』
その幽閉された原因がバルドルを殺すように仕向けて、神様たちのこれまでの罪とか恥辱を暴露したのが原因なんだけどね。まぁ、ロキにも色々思う所があるだろう。少なくとも過去の罪についてはそれぞれの神が悪いわけだしね。
このロキの復讐が北欧神話の最後のラグナロクになっている。このラグナロクは結末はそれぞれの物語で微妙に違っているが神様の世界が燃えて、人間の時代が始まるというところは共通している点だ。だからもう人間の世界があるこのゲームではもしかしたら、起きない可能性もあると思っていたけど、オーディンたちがいる時点で避けようが無かったみたいだな。
『彼らの他に封印されているテューポーンとアポカリプスビースト、ウロボロスドラゴンを折りをみて解放して行く予定だ。それじゃあ改めて私からの宣戦布告をさせて貰おうか』
インフォが来る。
『ワールドイベント『聖戦』が発生しました』
『このイベントが本ゲーム最後のイベントとなります』
ワールドイベント『聖戦』:難易度SSSSS
参加プレイヤー:全プレイヤー
敗北条件:全世界の国の全滅
勝利条件:大魔神サタンの討伐
イベント期間:12月23日まで
特殊条件:町内、建物内での戦闘あり、パーティー人数制限なし。サタンに協力している魔王を討伐することでサタンに弱体化が発生する。
報酬:イベント結果で変動する。
大魔神サタンと魔神同盟との戦争に勝利せよ。
このインフォにプレイヤーたちがざわついた。最後のイベントと言う事はこのゲームはもうすぐ終わるということだからな。そんな中、サタンが説明する。
『まず暗黒大陸にいる私の同士たちにある装置を配布した。この装置は私の力を高める装置だ。これを諸君が破壊出来れば私は弱くなり、出来なければ私は強くなる。装置の設置した場所は教えてあげよう』
暗黒大陸の地図が表示されて、赤い点が表示される。俺たちがまだ攻略していないのに赤い点がない所があるな。恐らくヴァンパイアなどの領地は含まれていないだろう。逆に言うと彼らをこちらの味方に引き込むことが出来る可能性がある。
『そして同盟を結んだ彼らは各自の判断で諸君の国を滅ぼしに掛かる。君たちだけ一方的に攻めるのはフェアじゃないからね。ただハンデとして彼らが攻撃を加える期間は教えてあげよう』
インフォが来て、予定表が表示される。
12月7日:テューポーン解放
12月8日:アザトース進軍
12月14日:ラグナロク
12月21日:アポカリプスビースト、ウロボロスドラゴン解放
土日ごとに大きな戦いを仕掛けて来る感じか。つまりこのイベントをクリアしながら、暗黒大陸の攻略を進めないというわけだな。しかもただ攻略を進めればいいだけならなんとかなるが攻略や彼らの攻撃を止めるためには神との契約などの強くなることも不可欠となるだろう。このことも考えて、俺たちは予定を考えないと行けないな。
『最後に重要なことを伝えよう。12月23日を超えた瞬間、私は禁呪【ジ・エンド】を発動させて、この世界を終わらせる。その前に我々から逃げ出すのも君たちの自由だ。ただ君たちに世界を守る度胸があることを期待しているよ』
これで通信は終わった。我が父ながらプレイヤーを煽ったな。我々から逃げ出すなんてこの世界の人間に向けた言葉じゃない。何せ世界を消されるのだ。どこに逃げ出せと言うんだろうか?つまりこれはゲームが終わるからもうゲームを辞めようとするプレイヤーへの挑発だ。
クリアが出来そうにないから戦いを放棄というなら度胸がないと断じると宣言した。これがプレイヤーたちにどう影響が出るかは謎だな。やる気になる人もいれば、逆にこれに抗議する人もいるだろう。ここでリリーたちが悲しそうな声で聞いて来る。
「タクト…この世界、無くなっちゃうの?」
「それってつまり私たちもいなくなるってことですよね?」
「タクト様や皆さんとはもう二度と」
「そ、そんなの嫌です!」
俺はみんなの頭を撫でた。
「そうならないように頑張ろうって話だよ」
「う、うん! リリー、頑張るよ! ずっとタクトと一緒にいたいもん!」
「私だってそうですよ!」
「皆さん、気持ちは同じみたいですね。まぁ、当たり前のことですが」
「よーし! 大魔神とかサタンとか知らないけど、みんなで倒そう!」
みんなが盛り上がる中、リリーたちの純粋な気持ちが胸に突き刺さる。もう最後のイベントと告知された時点でこのゲームの終わりは避けられないことを意味している。ただ12月23日で終わるのか。それとももう少しだけこのゲームを楽しむ時間が伸びるのか。この最後のイベントはこれを決める戦いでもあると思う。
それなら俺は少しでもリリーたちと一緒にいられる時間を欲する。そのためなら大魔神だろうが父だろうがぶっ倒すまでだ。ここでルインさんから通信が来る。
『タクト君。さっきの見てたわよね?』
『はい』
『13時からプレイヤーのみで緊急の魔神同盟の会議を開催することになったわ』
『了解しました』
お昼ためにログアウトしようとするとみんながくっついて来た。口では強気に出ていたがやはり不安みたいだ。恐らくリリーたちも感覚的にこのゲームの終わりを察しているのかも知れない。その結果、久々に皆で寝る事になった。これで少しでも不安が取り除けるなら安いものだ。




