#1140 ナーガラージャの森の遺跡
謎の遺跡の出現に俺たちは様々な推理をすることになる。
「ただのオブジェじゃないよね?」
「ここに来る前の遺跡はボスに辿り着くためのギミックがあったからな」
「そこを逆手にとって、ただのオブジェの可能性も高い気がするね」
「罠探知! …罠では無さそうよ」
一応調べるが成果は無し。取り敢えず先に進むと空間索敵で大きな建物が映った。
「そこがボスの根城かな?」
「あぁ…そのボスについてなんだが、ちょっと予想がある」
俺とブルーフリーダムの狙撃手ちゃんの予想を伝える。
「ボスが予想通りならこの遺跡、怪しくない?」
「怪しいよな」
「じゃあ、壊そう!」
「リサちゃん、文化遺産っぽいのを簡単に壊すとか言わないでおこうね」
確かにそこが抵抗感がある所なんだよな。逆にそこを狙っている感はある。
「んん~…鑑定。あ」
「…どうかした? 兄様」
「普通に鑑定出来た」
罠でもオブジェでもなく何かの装置ならもしかしたら鑑定出来るかもとは思ったけど、ビンゴだ。結果がこちら。
タクシャカの結界装置:通常アイテム
遺跡に擬装したタクシャカ特有の結界を発生させる装置。
タクシャカの魔力供給装置:通常アイテム
遺跡に擬装したタクシャカに魔力を供給するための装置。
タクシャカの生命力供給装置:通常アイテム
遺跡に擬装したタクシャカに生命力を供給するための装置。
これでボスも確定した。そしてみんなも鑑定して、メルを見る。
「うん。壊そうか」
俺たちは文化遺産っぽい装置を破壊した。一応言っておくが文化遺産を傷付けるのは重大な犯罪です。一生を台無しにしてしまうので、絶対にやめましょう。
「本当によく気が付くよね。タクト君」
「アトランティスで町に設置されている装置とか見ているからな」
「やっぱり冒険の経験値でもタクトが一歩先に行っているな~」
「頑張れ。大賢者」
レッカに睨まれた。賢者ならここは見抜かないと行けないところだと思うのですよ。そしてナーガの像がある遺跡に辿り着いた。そこにはナーガとナーガラージャが沢山いる。
「どう攻めようか」
「相手の作戦は封じたっぽいし、大魔法による奇襲から突撃で良いと思うぞ?」
「反対意見は…ないね。それで行こうか。レッカ君、準備をお願い」
レッカが禁呪を発動させる。
「いくよ! 禁呪! ハイパーノヴァ!」
「極超新星爆発を遺跡に放つのはどうなんだ?」
「建物は壊れないからいいんだよ! さっさと行かないと獲物がなくなるよ」
「まぁ、俺たちはのんびり行こう」
たまには楽して攻略を進める日があってもいいだろう。俺たちが遺跡に入るとレッカから通信が来た。
『誰か助けて!』
「あ、そういえばレッカの護衛に誰もいなかったような」
「あぁ…みんなで突撃しちゃったね」
「今から戻っても間に合わんな。彼の無事を祈ろう」
みんなで黙祷したがメルの元にレッカの死亡が表示された。
「さっさと行けと言ってたし、あいつの為にもボスを倒すとしますか」
「弔い合戦って奴だな!」
「…それをしてもレッカさんに経験値が入ることはない」
ミライの言う通りでそこが悲しいゲームの現実だ。俺たちは遺跡を進んでいくとトリスタンさんとブルーフリーダムの狙撃手ちゃんがその実力を発揮する。次々、狙撃で敵を倒していくのだ。
「壁で見えない敵が見えてたりする?」
「えぇ。壁透過よ。これで姿を視認して必中スキルを使っているの」
それは便利だ。結果としては入り組んだ道を銃弾や矢が狙った相手まで不自然に曲がって命中している。因みに町中では使用することが出来ない。まぁ、プライベート空間を見るのはダメだろう。俺たちはシルフィ姫様に完全に把握されているけどね。
更にこの遺跡はまぁ、罠の数が圧倒的に多かった。床から槍は突き出て来るは壁から毒矢が飛んで来るは。極め付けは地雷や遺跡ではお馴染みの壁が降りて来るトラップに部屋を水で一杯にする罠、大岩が転がって来るものまであった。
そして俺たちは巨大な蛇の像がある部屋にやって来た。その巨大な蛇の口の中には玉があり、扉には玉を入れるくぼみがあった。
「アーレイ、出番だぞ」
「言うと思ったよ! 絶対に行かないからな!」
「あら? あなたならおふざけ演技とかすると思っていたわ」
「ぐ…」
どうやら図星らしい。一つのお決まりではあるからな。
「いいぜ…やってやるよ!」
アーレイが蛇の像の口の中に手を突っ込む。
「よし! 貰い! ん? あれ? 抜けない!?」
「おぉ! 結構演技上手いんじゃないか?」
「まだまだこれからよ」
「いや! 演技とかじゃなくて本当に抜けないんだけど!? うひゃい!? ちょ!? ざらざらしたものが服の中に!? ま、助け!? うおぉおおお! 抜けろ! 抜けてぇえええ! いってぇえええ!?」
アーレイが必死に抜こうとした結果、抜けると勢い余って、転がり、壁に体を強打する。そしてアーレイの利き腕は無くなっていた。
「演技じゃなかったんだな」
「だから言ってただろ! なんで助けてくれなかったんだよ!」
「まぁ、あれよ。普段ふざけているから区別がつかなかったのよ」
「それなら最初から俺以外にやらせろよ」
ミライが治療しようとするが治せなかった。
「え…利き腕なんだけど」
「寧ろどうして利き腕でいったんだよ」
「治せないものはどうしようもないわよ。玉は手に入ったし、先に進みましょう」
「ひっでー」
最後にナーガの像がある門の部屋に辿り着いた。その先に巨大な扉があるからあそこがボス部屋だろう。するとインフォが来た。
『この門を通る為には出される問題に一人一問、答えないと通れません。不正解になると大幅に弱体化するので気を付けて下さい』
これは初めてのタイプだな。試しにメルが最初に行ってみるとナーガの像に赤い目が灯ると声が聞こえてきた。
「問題。パールヴァティの体の垢からできてる神様の名前は?」
「ガネーシャ神」
「正解」
インド神話の中でも有名な話だ。インド神話にはこういうツッコミどころが満載のエピソードが沢山がある。だからこそ人気があるとも言えるんだけどね。普通に話を聞くとギャグ漫画な感じがするのだ。
「…終わった」
こういう問題が苦手な人は絶望的な状態だ。しかもこれは勉強どうこうの話じゃない。インド神話を知っているかどうかのレベルだ。
「えーっと…それじゃあ、先に行ってるね」
正解したメルは門を潜るとゴールの扉の前に転移した。そしてみんながチャレンジしているわけだが、不正解者が続出する結果となった。普通に知らない人やスラー酒をスカー酒と間違えて覚えていた人などもいて、やばい事態だ。
因みに不正解者は弱体化を受けて、子供の姿になっていた。そして問題なのは出される問題に難易度のばらつきがあったところだ。シヴァとパールヴァティーが合体した神の名前とかかなりの難易度だと思う。正解はアルダナーリーシュヴァラ。これを答えたミライを褒めてあげたい。
難易度にばらつきがあったため、最後は俺が担当することになった。どうやら俺の場合は召喚獣の分も答えないと行けないらしい。やってやろうじゃないか。
「問題。ナーガラージャの中で一番有名なナーガラージャの名前は?」
「カドゥルー」
タクシャカなんて答えてあげないよ?カドゥルーはナーガラージャの祖とされている。流石にこれには勝てないだろう。
「…正解」
間があったな。認めたくないのだろうか?
「問題。ナーガラージャの中で最強のナーガラージャの名前は?」
「これ正解があるのか? ん~…ヴァースキかアナンタなんだろうけど…世界を滅ぼしかけたヴァースキで」
「…正解」
他にも結構怪しいナーガラージャがいるのだが、エピソードを見るとこの二体がずば抜けていると思う。まずヴァースキは山を回転させるための綱にされた際にあまりの苦しさに世界を滅ぼす猛毒を吐いてしまう話がある。
この毒はシヴァ神が飲み込むことで世界を救うわけだが、飲み込んだ結果、シヴァ神の体は青くなったとされている。
一方アナンタはヴィシュヌ神の乗り物として登場する。俺が悩んだ原因はこのゲームでは最強の属性とされている無限属性がある可能性が高いナーガラージャなので本気で迷った。
因みにこの二体はエピソードが強すぎるので、ある意味ではカドゥルーより有名だと思う。俺に出される問題は結構個人が判断する問題だと思うんだよね。まぁ、間違いないのはタクシャカではないことだけは断言できる。
「問題。カドゥルーとヴァースキ以外でナーガラージャの名前を五体あげよ」
「多いな。アナンタ、シェーシャ、マナサー、タクシャカ…後は…ムチャリンダ」
「正解!」
やっとタクシャカの名前が出たせいか声が弾んでいる。因みに結構ギリギリだった。みんなも拍手している。
「問題。勝利の踊りを踊って大地を砕きそうになった女神カーリーから大地を守るために踏まれた神の名前は?」
「シヴァ」
「正解」
これは有名な話だな。よくカーリーが舌を出して、シヴァが踏まれている絵がこのシーンだ。
「問題。インドラのヴァーハナの名前は?」
「アイラーヴァタ」
「正解」
ヴァーハナは神の乗り物として登場する動物や架空の生物のこと。インドラの場合はアイラーヴァタという白い象が有名だ。この他にもウッチャイヒシュラヴァスという七つの頭を持つ架空の馬もいるが言いにくいので避けた。次が最後の問題だ。
「も、問題。ガウタマ聖仙から全身に女性器の印を一千個も付けられる呪いと自身の性器を奪われるという呪いを受けた神様の名前は?」
「インドラ」
「せ、正解」
心なしか声が震えている。まぁ、こんな問題を出したらインドラの逆鱗に触れそうではある。取り敢えずこれでゴールだ。セフォネたちから変な質問がされる前にさっさと門を潜った。これで後はボス攻略だけだ。
「だ、大丈夫かな?」
「弱体化を受けたみんなは戦えそうにないですね…」
「不甲斐ない」
「ごめんなさい」
子供になった帝さんとブルーフリーダムのリーダーが謝って来る。まぁ、インドの神話を知らなくてもこれは責められない。そもそもこんなものを用意した運営に問題があるのだ。
「まぁ、タクトがいるなら何とかなるだろ」
「そうね」
「兄ちゃんなら何とか出来る!」
小さくなったケーゴとユーコ、リサに言われてもな。
「まぁ、ここまで楽させてもらったからな。頑張らせて貰うよ。みんなを頼めるか? メル。何せボスはタクシャカだからな」
「確かに弱体化を受けた人を優先的に攻撃とかして来そうだね。任せて。タクト君たちは思いっきり戦っていいからね」
「…援護くらいは出来ると思います」
「頼む。それじゃあ、ボス戦行きますか」
俺は装備を変更して魔導書を展開して、近衛を装備する。即ち本気モードだ。こうして俺たちは扉を開けて、ボス部屋に入った。




