#1137 天国の階段
帰って来た俺は最初にグレイたちにお土産をあげてから結果を報告する。それを聞いたグレイたちは食べるのを途中で中断するがリリーたちと同様に食べたなら俺の料理は明日に持ち越しだ。
次にリープリッヒで従業員の皆に報告する。
「凄いです! 遂に五つ星シェフになられたんですね!」
「試験で作った料理を教えてください! なんとか覚えてお店に並べますから」
「皆の者! 一大事じゃ! フリーティア中にこの事を伝えねばならんぞ」
リーゼが食べに来ていた。これはもう自然とフリーティアの国民に広がるな。
「今日はこの店の記念日だな。で、記念日なのに何もなしかい?」
「はぁ…わかったよ。今日と明日は全ての料理を半額にしてあげよう。ただ売り切れはたぶん発生するからそこは覚悟してくれよ」
「よ! 流石フリーティア一の出世頭!」
「この食材の料理を半額で食べれるなんて早々ないぞ!」
「金持ちたちより先に俺たちで全部食べようぜ!」
みんな大盛り上がりだ。
「い、いいんですか?」
「みんなの給料には影響を出さないから大丈夫だよ。ただ今日と明日はいつも以上に人が来るだろうから大変だろうな」
「そうですね…出来れば臨時スタッフを雇って貰えませんか?」
「ルインさんに報告がてらお願いしてくるよ」
ギルドに報告に行くとルインさんが納得する。
「それでこの騒動なわけね」
主に女性NPCが集まっているらしいです。その理由がロコモコとエアリーの乳を使ったデザートだ。これが半額になると聞いたら、群がるのが女性の心理なのだろう。
「食材足ります?」
「たぶん全然足りないから後で買いに行くよ」
「ラジャー! ギルマスの大量購入が始まるって号令をかけて来るね」
なんだ?その謎の号令は…聞いたことがないぞ。
「とにかく料理人以外で五つ星シェフはたぶんタクト君が最初よ。おめでとう」
「ありがとうございます」
「なんかボアの肉の料理法を教えてもらったのが昨日のことのようね」
「そんなこともありましたね」
俺の料理人としてのスタートはボア肉から始まった。そこからよくもまぁ、これだけリッチな食文化になったものだよ。
「ふふ。なんだがもうこのゲームが終わる感じになっちゃったわね。とにかく事情は分かったわ。臨時のスタッフと食材集めは任せてちょうだい。後、例の武器をレイジたちが見つけたみたいよ。聖杯で出せるみたいだから見せて貰ったら、どうかしら?」
「そうします」
レイジさんに武器を見せて貰ってから大量に食材を買い込んでお店に戻ると並んでいるお客様から祝福の言葉を貰えた。改めて凄いことをやってのけたんだと自覚がちょっと出てきた。何せ物凄い行列が出来ており、順番整理の人まで登場する事態となっている。
そして調理場はもう戦争状態だ。その結果、リリーたちも参加させることにした。
「もの凄い人だよ!? タクト!?」
「え…どうするんですか? これ」
「大丈夫だろう。じゃ、頼んだぞ」
「頼んだぞじゃないですよ! ちょっと待ってください! タクトさーん!」
残念ながらイオンたちは従業員のみんなにお願いされて、お店を手伝うことになるのだった。さて、現在の俺はスキアーが進化したことで砂漠の神殿クエストの攻略の準備が整っている状況なのだが、先にエデンの攻略を進めるとしよう。
その前に今日の聖杯を使って、レイジさんに見せて貰った武器を出す。それがこちら。
天逆鉾:レア度10 杖槍 品質S+
重さ:200 耐久値:4000 攻撃力:4000
効果:破魔、神気、伸縮、魔力超回復、巨大化、海流支配、大地支配、大海波動、神波動、大海壁、間欠泉、渦潮、津波、瀑布、日光、拡散光線、後光、神療、神雨、神撃、原初の加護、神の加護
桜花の安寧を願って、桜花の山に突き刺されたとされる神の鉾。神の力は減衰しているが力の一部はまだ残っており、槍として以外にも杖や棒として使用することが出来る桜花最古の武器の一つ。
聖杯からこれを出るところを見た伊雪は絶句する。
「あの…お父さん、これって」
「今日、レイジさんたちが発見した武器だよ。見せて貰ったから早速出して見た」
「そんな軽いノリで出していい武器じゃないと思うんですけど」
伊雪の言う通りで天逆鉾は別名で天沼矛と呼ばれ、イザナミとイザナギはこれを使って日本を作ったとされている。最もこのゲームでは別物扱いされている。だからこそ聖杯で出せたとも言えるのかも知れない。
因みに見つかったのは俺が向かったのは逆方向で現実の位置では鹿児島県と宮崎県の県境だ。現実では、高千穂峰という山になる。現実でもここに天逆鉾が刺さっているが火山の噴火などで折れたとされている。
現在は地中部分は本物で地上はレプリカとか色々言われているが詳細は分かっていない。そしてこの場所には有名な話がある。それが坂本龍馬が新婚旅行で訪れて天逆鉾を抜いたという話だ。これはゲームでも再現されて、レイジさんたちは坂本龍馬夫婦と出会ったそうだ。流れを軽く説明されたのだが、辿り着くと天逆鉾を抜いてしまった坂本龍馬夫婦遭遇し、天逆鉾はいらないから渡されたという話だった。
レイジさんはあまりの流れに絶句したらしいが坂本龍馬ならそういうこともあり得そうと思えるのが怖いところだ。
「気に入った?」
「気に入られないとバチが当たりますよ。ありがとうございます。お父さん。大切に使いますね」
後は残った時間でエデンの攻略をする。選んだメンバーはコノハ、アラネア、スピカ、ハーベラス、スキアーだ。
「なんかエデンを攻略というより侵略しているみたいだな」
メンツがキリスト教とは無関係メンバーなだけになんとも酷いものだ。
「ホー!」
「ん? どうしたコノハ?」
コノハが示した先には天使の輪っかがある白いカバが後ろ向きで飛んでいた。後ろ向きなので、カバかどうかは外れるかも知れないけど、たぶんカバだろう。
クリーブLv60
通常モンスター 討伐対象 ノンアクティブ
お、識別できるようになった。成長したな。というかここ最近のレベルアップのペースが可笑しいと言うべきか。魔王や魔神と戦ってばかりいたからな。
「あいつと戦いたいのか?」
「ホー!」
「まぁ、レベル上げも兼ねているし、初めての敵だからいいか。初手はコノハに任せるよ」
コノハが魔法をぶっ放すとクリーブがこちらを向くと顔がスキンヘッドのおっさんだった。その顔がキレている顔に変化する。
「今、何かやったか? 小僧共」
「ホー…」
「何もやってませんよー」
コノハと二人で知らん顔をする。だって、怖いんだもん。ついでにスキンヘッドのおっさんに天使の輪っかがあるとか笑わせに掛かっているとしか思えない。
「お前らしかいねーだろうが!」
スキンヘッドに血管が浮き出て、突進してきた。その結果、真正面でその光景を見てしまった俺は限界を迎える。
「ぷっ…」
「てめぇえええ! ぶらぁ!?」
スキアーの尻尾の一撃が決まり、クリープはぶっ飛ぶ。もうダメだ。スキアーの一撃が入った歪んだ顔も諸に見てしまった。悪いと思うし、失礼なことなのは百も承知だ。
「あはははは!」
しかし笑いというのはなかなか我慢出来ないものだ。すると他の皆まで釣られて笑い出してしまった。
「てめぇら…覚悟は出来ているんだろうな。号令!」
クリープの軍団が一斉に向かって来た。うん。全員同じ顔とかはホラーだ。これは笑えない。
「逃げるか」
俺たちが逃げ出すと怒り狂っているクリープたちは追って来る。すると光の階段が見えてきた。階段と言っても普通の階段ではなく宙に階段状に吹いている光の板に飛び乗るタイプの階段だ。どうやらあれを登って上層に挙がっていくことで攻略を進めていく感じみたいだね。しかしこうなると空を飛べるクリープたちに階段を登っている所を攻撃されるのは避けたいな。
というわけで階段の手前で止まる。
「コノハ、獣魔魔法行くぞ!」
「ホー!」
コノハがアバランチ、俺がトルネード。
「獣魔魔法! アバランチストリーム!」
雪崩がクリープたちに向かって放たれる竜巻に巻き込まれる形となり、クリープたちを呑み込んだ。そんな中、クリープたちは尚も突撃している。どうやら魔法に強いらしい。
「そんなもん効くか! 喰らいやがれ! 拡散光線!」
クリープたちからの一斉の拡散光線が放たれる。普通なら厄介な事態だが、彼らが魔法に強いようにこちらにも光に強いスキアーがいる。
「シャー!」
スキアーがとぐろを巻くように俺たちを守ると拡散光線が降り注ぐが全て吸収される。
「あん?」
「シャー!」
スキアーの暗黒ブレスが直撃する。そしてとぐろの隙間からスピカに乗った俺は飛び出す。そして超連携が発動するとスサノオと契約したせいか俺とスピカは蒼い稲妻に包まれて、クリープの軍団を貫いた。
「ヒヒーン!」
「おぉ…これはこれでいいな」
通った跡に蒼い稲妻が発生していた。スピカと一緒に感動していると犠牲になったクリープが次々落下してきた。
「な、なんだ!?」
「俺たちの方を見ていいのか?」
クリープがアラネアの鋼索に捕まると引き寄せられる。そしてスキアーに噛み付かれるとスキアーの毒に侵される。
「ぐあぁあああ!? や、やめろー--!」
「シャ!」
噛み砕かれて終わった。残すは号令で集まってしまった奴らだ。
「こいつらやべー!」
「逃げろー!」
「ハーベラス」
「「「ワン!」」」
ハーベラスから逃げることは出来ない。次々噛みつかれて、俺たちがいる方に投げられる。
「さて、お前たちは魔法に随分自信があるんだよな? ちょっと俺たちの魔法スキルのレベル上げに付き合ってくれよ」
「ホー!」
コノハも大賛成のようだ。
「逃げたければ逃げていいですよ。逃がしませんけど」
「な、なんなんだよ!? なんで魔王がここに…まさか攻め込んで」
「スキル上げに付き合ってくれてありがとよ」
「「「「ぎゃあああああ!?」」」」
人を魔王呼ばわりしたのだ。その解答はスキル上げを了承したと解釈させて貰う。俺たちの容赦ない魔法が浴びせられるとクリープたちは生き残った。
「へ、へへ。残念だったな」
「あぁ…残念だ。スキアー、ハーベラス。悪いが後始末を頼む」
「「「ワン!」」」
「シャー!」
なんか悪魔だのなんだの聞こえてきたが無視する。こうして倒したクリープを解体すると天性石が手に入った。
「魔法のレベル上げにはいいけど、あまりおいしい敵とは言えないな」
「ホー…」
コノハも魔法のレベル上げは嬉しいが倒せなかったのが納得いかないところのようだ。スキアーのレベルも上がらなかったし、経験値的にも美味しい相手とは言えない。
魔力を結構使ったので、今日はこの光の階段を登ったところで終わりだな。ここで飛行禁止エリアのインフォが来た。つまり落ちたらアウトなわけだ。ちょっと危なそうなので、コノハと二人で登っていく。
「一つだけ外れとかないよな?」
レオナルドのところであったし、このゲームならやりかねない。
「ホー!」
コノハが乗って確認してくれた。これなら安心だ。結局外れはなく、エデンの第二階層に到着した。流石に天国に挙がっていく階段にそんな仕掛けはしないか…いや、油断させといて、次はするかもしれない。俺のこのゲームの警戒感はそれまでまでに上がっていた。
そしてエデンの第二階層は猛吹雪のフィールドだった。
「ホー!?」
「おっと…大丈夫か? コノハ」
強風で吹っ飛ばされそうになったコノハを助ける。俺はスサノオの加護のおかけで何も感じないが相当過酷なフィールドのようだ。まだイオンに返してない草薙剣を使ってみる。
「真昼! ダメか」
どうやらこの猛吹雪と突風の中を進めと言いたいらしい。つまりここからがエデンの試練の開始地点と言えるのかも知れない。俺はルミを召喚して雪洞でまず穴を開けて、穴の中に入る。これで取り敢えず風は防げる。
ただ積もって来る雪はこのままでは防げない。なので今度は横に雪洞を使って貰った。これで雪も入って来ない。最後に念のためにかまくらを作って貰って、その中にワープポイントを設置する。入り口はもしかしたら積もって、塞がれるかも知れないが重要なのは猛吹雪が発生していない安全な場所にワープポイントを設置することだ。
こうしてフリーティアに帰って来た俺はリープリッヒに向かうと閉店になっていた。どれだけ高速で売れたんだよ。みんなを労って、先に帰ったリリーたちの所に向かうと家で全員が寝ていた。
「お疲れ様」
俺が寝ているみんなを運んでいると耳や尻尾とかがピクピク動く。完全に寝ている真似をしているだけだが、これぐらいは頑張ったご褒美として見なかったことにしよう。まぁ、リープリッヒのみんなから分身スキルを使って本体は楽していたと報告を受けているけどね。
セチアやリビナ、ファリーダに至っては寝相の演技で抱き着きて来たのはやりすぎだとは思う中、最後に恋火を運ぶ。
「ノワと一緒に寝た時に可哀想だから今日寝ようと思ったんだけど、しょうがないか」
「っ!? …ん~」
尻尾が腕に巻き付いて来た。これは完全に意識があるだろう。恋火の必死の甘え方に微笑みを浮かべながら、今日はこれでログアウトした。




