#1128 天魔雄神との決闘
俺が次の試練の間に転移するとそこは青空と海が広がるフィールドだった。よく見ると海から突き出た山がある。そんなフィールドが急に暗雲に包まれると俺が良く知っている人物が雷と共に現れた。
天魔雄神?
? ? ?
和狐が契約している式神だ。スサノオの子供と言える彼がここで登場するのはある意味必然なのかもしれない。何せ俺たちは荒神状態の彼には勝っているがまだ正気の状態で勝っているわけではない。
「父の試練を受けに来たのはやはりお前たちだったか」
「あぁ。色々縁があったものでね」
「私に母まで契約したのだ。こうなるのは必然だったかも知れないな」
半分狙っているんだけどね。スサノオのクエストを進めたのは俺だからさ。
「お前たちが相手であるなら、一つ頼みがある」
「恋火たちとの決着を付けたいか?」
「あぁ。もちろんこれは俺の我儘だ。断ると言うなら」
「いや。受けるよ。俺も全力のお前と勝負したいからな。ただお前の強さは俺たちが一番よく知っている。悪いが仲間は追加させて貰うぞ」
「是非もなし。我が父に我らの雌雄を決する勝負を見せてやろうではないか!」
俺は恋火、和狐、虎徹、伊雪、千影に事情を説明する。
「そんなことを言われたら、戦うしかありませんね!」
「でも、ここでタクトはんが戦うということは次の戦いはリリーお姉様との戦いには参加出来ないということになりますよね?」
「マリッジバーストする気、満々でしたよ。お父様」
「俺もそうだったよ。わざわざ最初の枠を減らした程だったからな。でも相手が天魔雄神ならしょうがないだろう?」
俺の言葉にこの場にいるみんなは納得してくれた。ただリリーたちはきっと反対しただろうな。この後が怖いが男からの決闘の申し出だ。男として逃げるわけにはいかない。そして俺たちが陣形を取ると天魔雄神が言ってくる。
「俺の我儘を聞いてくれた礼だ。初手は手出しせん」
そうは言っているけど、エンゲージバーストを使えと言っている物だよね。逆にこの機会を逃せば使おうとしている最中でも容赦なく襲うという宣言でもあるからな。
「なら遠慮なく使わせて貰おうか」
俺たちが指輪を掲げる。
「「「「エンゲージバースト!」」」」
降臨したのは狐のお面をした袴にゴールデンフリースの羽織を着た俺だった。コートでは似合わないと判断されたようだ。
身体的特徴はまず黄色の狐の耳と白い尻尾が九つあり、背中からは大きなカラスの羽がある。天の披帛も目立つが最大の特徴は背中の武器でたくさんある。気分は完全に武蔵坊弁慶だ。あっちは僧侶スタイルだけどね。
俺は腰にある原初海竜の太刀と恋白を抜いて構える。最強クラスのドラゴンが宿った二刀流だ。一度やってみたかった。これに対して天魔雄神は刀を構える。
「では、始めようか」
「いざ、尋常に」
「「勝負!」」
俺たちがぶつかり合う。筋力で押されてしまう俺たちだが、すぐさま恋白で斬りかかると天魔雄神は離れる。
「「雷化!」」
「はぁああああ!」
「ぜりゃあああ!」
お互いに空のあちこちでぶつかり合う。やはり速さでも天魔雄神に分があった。だが、剣術と技の多彩さではこちらが上回っている。
「はぁ!」
「く!?」
ここで俺が慣れていない太刀が裏目に出て、原初海竜の太刀が上に弾かれてしまう。だが、まだ両腰には近衛と水薙刀があり、俺は近衛を抜く。
「ぜあ!」
「ち!」
天魔雄神は大振りしたので、後ろに下がって躱すしかない。ここで俺は近衛を振り抜いた状態から前に出る。俺は恋白をフェイントに近衛を持った手で裏拳をする。すると天魔雄神はこれを手で止められる。
「残念だったな。お前の武術はもう見切っている!」
俺たちは蹴り飛ばされる。追撃に出ようとする天魔雄神は原初海竜の太刀を千影が念動力で操り、更に虎徹が追撃を阻止した。
「ぐ…俺たちと一緒に戦って来たんだから学ばれて当然か」
『でも、このエンゲージバーストは初めてです』
『負けないでありますよ』
『そうだな…俺たちの技が見切られているなら知らない技で攻めるまでだ。今度は俺たちの成長をあいつに見せてやろう』
『『『『はい!』』』』
俺は近衛をしまい、戻って来た原初海竜の太刀を手に取り、全ての刀を弾かれて、斬られそうになっていた虎徹を守る。
「虎徹!」
「がぁ!」
虎徹の突きが放たれるが後ろに下がって、躱される。そこに俺たちが追撃すると受け流される。俺の剣術を盗んでいるな。
「はぁ!」
「ら!」
「く!?」
受け流して斬りかかって来た天魔雄神を蹴り飛ばす。しかし腕でしっかりガードしていた。すると虎徹が俺たちの上から時雨を使う。襲い掛かる時雨の突きの斬撃に対して、天魔雄神は全て弾いている。
『流星一文字!』
時雨の最中に襲い掛かったがこれも止められた。滅茶苦茶強い。そして虎徹と共に連続攻撃を仕掛けるが見事に攻撃を止められると天魔雄神は刀を構える。
「電光一閃!」
「ガ」
虎徹はガードしようとしたが全ての尻尾が一瞬で横一線に斬られると追撃の雷撃を受けて、墜落してしまった。刀を失ってしまった虎徹はもう戦えないだろう。見事に虎徹の弱点を狙ったな。
『虎徹はん!? 狐稲爆!』
「雷雨!」
お互いに技がぶつかり合い、爆発すると爆煙の中から天魔雄神が現れる。
『ハーミットテイル!』
「甘い!」
伸びる尻尾より先に俺たちの懐に入って来て、斬られる。
『変わり身であります!』
『天の披帛!』
「く!? ぐは!?」
俺たちは丸太に変わると天魔雄神の後ろから天の披帛で拘束するとそり出ていた山に叩きつけた。
「白熱刃!」
「紫雷槍!」
恋白からの白熱刃の攻撃を天の披帛の拘束を抜ける為に紫雷槍で天の披帛を破り、山をバク転しながら躱された。やっぱり恋白の攻撃は警戒するよな。なんとかして当てれないものか…ここで俺は秘策を思いついて、戦いながらみんなに可能がどうか聞く。
『それは…可能でありますけど、危ないでありますよ?』
『いや、天魔雄神が相手ならたぶん大丈夫のはずだ』
全員の同意を得て、ここで勝負を仕掛けようとした時だった。天魔雄神の角と刀に蒼い稲妻が発生する。あれは最初に召喚した時に敵部隊を横一閃に焼き滅ぼした技だ。
「魔神技! 雷光殲滅斬!」
「絶対防御!」
辛うじてガードするが絶対防御が爆発して、俺たちは吹っ飛ばされる。そう言えば結界を焼き斬っていたな。
『伊雪! 千影!』
ここで俺たちの背にある武器が爆煙の中に入り、天魔雄神に襲い掛かる。
「勝負に出て来たか…だが、この程度で俺は止められんぞ!」
天魔雄神は煙の中でも飛んで来る武器を弾くと刀を構えると右手に光、左手に闇が発生し、刀に紫色の光が宿る。その光を一瞬だが、爆煙の中で俺たちは感じ取った。俺たちが知らない技だ。どんな技か知らないが仕掛けるなら、ここだ!
『猛吹雪!』
「魔神技! 天魔次元斬!」
視界が猛吹雪で失われる中、天魔雄神は雷速で一直線に俺たちに向かっていく。
『『変化!』』
放たれた斬撃は時空を斬り裂き、時空の裂け目に猛吹雪が吸い込まれて、消滅する。そんな中、俺たちは大ピンチだ。
『『『『吸い込まれる~!?』』』』
『絶対に離すもんか~!』
技が終わり、俺たちはなんとか生き残った。
「…消えた?」
『『『『危なかった…』』』』
天魔雄神の攻撃は外れており、俺たちの姿は消えていた。さて、ここからが俺たちの無双タイムだ。見つけることが出来るかな?
「っ!? これは切り傷? ぐ!?」
天魔雄神が恐れていた半減の効果が発動する。早く俺たちを見つけないと取り返しがつかないことになるぜ。
天魔雄神はまた斬られる。ここで俺が思いついた秘策を理解した。
「自らを小さくしたのか!」
そう…俺たちが現在蚊サイズになっている。俺が参考にしたのは日本で有名な昔話である一寸法師だ。まぁ、一寸法師は小さすぎて鬼に食べられた後、お腹の中で針の剣で刺しまくる話だけどね。
因みに大ピンチの時は両手が太刀で塞がっている俺は天魔雄神の服に噛み付く形で時空の裂け目に吸い込まれるのを阻止していた。なんかノミやダニの気持ちが少しは分かった気がする。出来れば一生分かりたくはなかった。
このゲームでは大きくとなると攻撃力が上がり、小さくなると下がるようになっている。なので本来ならこれはデメリットが大きい作戦なのだ。しかし今の俺たちならメリットが遥かに上回ると判断した。
まず大前提として小さくなっても武器やスキルが無くなる訳じゃない。俺たちが小さくなるとそれに合わせて、装備している武器や防具も小さくなる。そしてそれらの武器の攻撃力は下がるがスキルが失われるわけじゃない。
「はぁあああ!」
天魔雄神は連続で刀を振るうが俺たちは全て躱す。蚊サイズの俺たちを刀で斬るのは至難の業だ。これが普通の蚊なら恐らく簡単に天魔雄神はやってのけるだろうが俺たちが相手では話が別だ。
「く…鬱陶しい! 旋風刃!」
天魔雄神が刀を振るうと斬撃の竜巻が俺たちに向かってくる。
『仙郷移動どす!』
俺たちは仙郷に逃げ込むと仙郷の空間が斬り裂かれて、天魔雄神が現れると身体から蒼い稲妻が発生する。
「雷轟!」
「閃影!」
俺は雷轟を受けてから閃影を使用した。するとゴールデンフリースのロングコートの効果で恋白に天魔雄神の雷轟が宿り、天魔雄神を斬り裂いた。そして半減と共に天魔雄神の雷轟が入る。
「く…元の世界に戻ったか」
天魔雄神も元の世界に戻ると拳を構える。
「大気震!」
俺たちは山に着地する。大気震の攻撃範囲は空のみ。山や地面は対象外だ。
「魔神技。雷神暴閃!」
ここで天魔雄神に雷鳴と共に姿が消える。これも最初に天魔雄神を式神召喚したときに使った技だ。俺たちは刀の攻撃を躱すがその後発生した暴風に巻き込まれる。
「雷光刃!」
天魔雄神の刀が超巨大な雷光刃が宿る。なるほど。ハエたたきのように攻撃する範囲を広くして、俺たちを狙う気だ。判断は間違っていない。
「はぁあああ!」
ただし俺はこの瞬間を待っていた。ここで俺たちの変化が解ける。
「閃電!」
「っ!?」
俺たちは暴風の中、距離を詰めた。稲荷の斎皇女服には衝撃無効と全属性耐性、空天狐の加護がある。空天狐の加護は天候の影響を無効にし、風、闇、光属性の強化に加えて、気系統のスキル、狐技と妖術、仙術の効果まで強化する。
よって多少のダメージは受けたが動けなくなるほどじゃない。これに対して天魔雄神はかなりの大振りをしてしまい、隙だらけだ。
「空衝脚!」
まず刀を上段から振り落としている天魔雄神の顎に空衝脚が入る。そのまま一回転していた俺たちに超連携が発動する。刀から燃える桜が発生する。恋火の狐炎之舞と俺の百花繚乱の合わせ技!名付けて!
「『炎桜繚乱!』」
俺たちの燃える桜が触れると斬られると同時に天魔雄神は爆炎に包まれた。紅炎と爆心の効果も健在だ。更にこれで半減の効果も浴びせた。後一撃で終わると思った時だった。
「逆鱗!」
爆炎の中から凄まじい稲妻が発生し、髪の毛が蒼雷になった天魔雄神が現れた。そして刀を構える。
「十拳剣! 神格解放!」
あれは十拳剣だったんだ。十拳剣は十束剣など色々な呼び名で知られている神剣だ。一番最初に登場するのがイザナギが黄泉の国の追手から逃げる時に使った剣として登場している。
カグツチを斬った剣とも言われているがこのゲームではイザナギの武器は天之尾羽張となっているので、イザナギが二本の剣を持っていた設定なのかよくわからない。
何故なら十拳剣は剣の長さを示しているとされており、色々な話で登場しているから天魔雄神が持っている十拳剣がどの十拳剣か分からないのだ。間違いないのはスサノオの剣ではないと言う事。何故なら天羽々斬を持っていたからだ。
十拳剣が神格解放されると剣に黒く美しいオーラが宿ると伊雪が警告する。
『あれはまずいです! お父様! 原初の加護に神殺しの力を感じます』
伊雪の天人の知識が正しいならイザナギの剣ということになるのか?いや、イザナギなら創造の力があるはずだ。それでもスキルはイザナギの剣を示している。そこで俺は十拳剣のある神話を思い出した。
スサノオは最初に十拳剣を持っていたのだが、天照大神と契約をする話がある。そこで天照大神は十拳剣をかみ砕いて、吐き捨てている。神話ではその結果、女神が三人生まれるのだが、現時点でその三女神は確認されていない。つまり砕かれた十拳剣が女神ではなく、それぞれの武器になった設定である可能性を考えた。これなら創造の力がない説明がつく気がする。
ここで風向きが変化し、雲と風が十拳剣に引き寄せられる。それを見た俺は繰り出される攻撃は重力球に匹敵すると考えた。
『タクトお兄ちゃん』
『あぁ。受けて立とう』
『はい! 天竜解放!』
『海竜解放であります!』
二頭のドラゴンがそれぞれの太刀から出現する。
『ほぅ…今度の相手はあの神か。中々愉快そうな神だな』
『あぁ…それにあの剣に宿っているかすかに宿っている神も上級神と見た。我々が戦うに相応しいと認めてやろうではないか』
俺はバツの字に構える。小細工は使わない。真っ向勝負で決着を付けてやる。
「ふ…我らを見下す神々よ! 我が怒りの一撃を見るがいい! 神技! 天魔神斬剣!」
凄い名前の必殺技だな。
『あたしたちも負けちゃダメです!』
『お館様! 格好いいのをお願いするであります!』
自分たちで考えないんだな。こういうの結構恥ずかしいんだよね。でも、物凄い期待されているから応えないと行けない。
「原初の海竜。白亜の毒竜。力を融合し、今こそ神を超える! 超連携!」
俺たちが踏み出すと後ろから二頭のドラゴンが追いかけてくる形となる。
「近衛流融合技!」
「『『『蒼天龍閃!』』』」
最後の所だけ合わせる恋火たちだった。そして天魔神斬剣にぶつかる。
「「はぁあああああ!」」
最初は競り合ったが後ろから来た二頭のドラゴンが天魔神斬剣とぶつかると天魔神斬剣が押し返され、十拳剣が弾かれる。
「見事」
天魔雄神はそう言うと俺たちはバツの字に斬り裂くと二頭のドラゴンに飲み込まれて消えた。
『天魔雄神を倒しました。次の試練に進むことが出来ます。また扉の前のログアウト出来る場所と湧き水で回復と武器の修復をすることが出来ます』
『恋火の太刀のレベルが30に到達しました。太刀【燕飛】を取得しました』
『千影の格闘のレベルが20に到達しました。格闘【ジョルト】を取得しました』
『千影の妖術のレベルが20に到達しました。妖術【夢幻陣】を取得しました』
天魔雄神も俺たちもこの勝負が俺たちが勝つことは分かっていた。いくら逆鱗に神格解放を使っても半減スキルをあれだけ喰らって、勝てるわけがない。それでも天魔雄神は自分が出せる最強の技を使った上での決着を望んだ。男のその決意に俺も答えないと行けないと思った。
そして残された十拳剣を鑑定する。
十拳剣:レア度10 片手剣 品質S
重さ:100 耐久値:1600 攻撃力:2250
効果:逆鱗効果二倍、神殺し、神気、無我、戦闘高揚、肉体活性、時空切断、神波動、神格解放、原初の加護、神の加護
拳十個分の長さを誇る剣。本来の強さは失っており、効果として残っているのは一部のみとなっている。桜花では原初の神剣とされており、この剣から数多くの桜花の神が誕生した伝説が残っている神産みの神剣。
うーん…微妙。強いんだけど、これはグラムのような流れな気がするな。ただ名持の剣は揃っているからどうなるか分からない。武器で困ったことがあるならヘーパイストスに相談するべしだ。
「ガウ~」
「お、虎徹、無事だったか~」
「へっへっへ!」
虎徹は十拳剣を狙っているようだ。舌を出したかと思えば体を摺り寄せて来た。虎徹がここまでじゃれつくことは滅多にない。それだけ欲しい武器ということだろう。
「わかったわかった。ほら、虎徹」
「ガウ!」
尻尾がないので、十拳剣を咥える虎徹は満足そうだ。まぁ、虎徹は桜花由来の召喚獣だから悪い選択ではないと思う。
「さて、問題は次だな」
「絶対にリリーお姉ちゃんたちは怒りますね」
「うちらはおれへんから頑張ってな。タクトはん」
「少しは助けてくれよ」
まぁ、俺が決定したことだし、素直にリリーたちに事情を説明するとしよう。そんなわけで回復した後、最後の試練に挑む。




