#1123 ヤマトタケルノミコトが戦ったドラゴン
俺たちは鳥居の門を潜ると出雲大社ではない山のフィールドに転移される。
「んん~! いい天気です!」
「恋火…タクトはんにとって、これは重要な試練なんやよ?」
「わ、分かってますよ。お姉ちゃん」
ここで地震が発生し、山の鳥たちが一斉に飛び立つ。そして山のあちこちから黄金の鱗を持つ東洋風のドラゴンが次々現れた。
九頭竜?
? ? ?
俺が仲間にしたかった八岐大蛇の進化先のドラゴンがここで登場かよ。残念ながら翼は無く、ディアンと同じタイプのドラゴンだ。
九頭竜はヤマトタケルノミコトが千葉県の鬼泪山で退治したドラゴンとして知られている。因みに鬼泪山には様々な伝承があり、このゲームで登場したダイダラボッチとヤマトタケルノミコトが戦ったとか鬼と戦ったなどがある。鬼泪山の名前の由来は鬼の伝承から来ているわけだ。
さて、こいつと戦うメンバーを決めよう。俺は最後で決定で問題は最後のマリッジバーストを誰と使うかだ。最後にドラゴニュートのマリッジバーストを使うならどこかで人数を減らさないと行けない。
普通に考えるなら最初であるこの勝負だな。悩んだが狐子、ミール、ディアン、ストラ、クリュスに決めた。
「「「「シャー…」」」」
早くもディアンとストラが九頭竜と睨み合う。西洋対東洋みたいな感じになっているもんな。日本人としては九頭竜を応援したいがこれを試練クリアの為だ。多勢に無勢で挑ませて貰う。
「本来なら六人を選びたいんだが、大丈夫だよな?」
「もちろんよ」
「ディアンさんたちもいますので、余裕かと」
「私だけでも十分よ」
狐子は強気だな。まぁ、クリアを優先で協力して頑張って貰いたい。俺はある程度の作戦を話して、みんなが陣形を整えたことでクエストを開始する。
「「「「シャー!」」」」
最初にまずディアンと九頭竜が噛み合う。すると噛まれたディアンが感電し、別の首は凍り付いている。
「荷電牙と星氷の牙が使えるのか…」
黄金の鱗だからもしかしたらとは思っていたけど、八岐大蛇は土のドラゴンだったから雷属性と氷属性は予想外だ。
更にディアンの毒が毒吸収で吸い取られている。耐性無効があるディアンだが、毒吸収は耐性ではない。まさかディアンの毒をこんな風に封じられるとは思って無かった。
ここでディアンは斥力場で強引に九頭竜を自分から離すとお互いとブレスがぶつかり合う。だが、ブレスの数でもディアンを上回り、九頭竜の神魔毒ブレスがディアンに迫る。
「毒吸収!」
これを狐子が吸収する。こちらも毒対策は考えていますとも。そして空からストラが火山弾で攻撃する。これを九頭竜は雷轟で破壊しつつ、みんなに各属性のブレスで攻撃する。
「やっぱり強いなー」
伝説では物凄く簡単に倒されてしまっている可哀想なドラゴンなんだけどね。スポットライトが当たってくれて、俺は嬉しいよ。だが、雷轟を受けたことでみんなが本気になる。
最初に仕掛けたのはクリュスだ。アイアース・アスピスを構えて突撃する。
「シールドドライブ!」
これに対して九頭竜はドラゴンブレスで攻撃するがアイアース・アスピスは見事に防ぎ切り、そのまま体当たりが決まると離れる際にクリュスの尻尾の吸血刃が九頭竜の顔に決まる。これが九頭竜の怒りを買う。
「シャー!」
「多重障壁! く!」
クリュスはアイアース・アスピスでドラゴンブレスを防ぐが押される。すると別の首がクリュスに噛み付きクリュスをぶっ飛ばすと次々木々をなぎ倒して、地面に叩きつける。
そして雷ブレスがクリュスに放たれると雷ブレスが急に空に上がっていく。ストラの電磁操作だ。そして自分の雷ブレスに超集束で集めて放つ。これに対して九頭竜は地面に潜って躱す。
「大丈夫かしら? クリュス」
「かなり痛かったけど、大丈夫よ」
「どうしましょうか? 地中戦を挑むのは危なそうですけど」
「地の利は向こうにあるものね…」
逆に言うと九頭竜は空が飛べないから空の有利は狐子たちにある。こうなるとどれだけ九頭竜を外に引きずり出すかが攻略のポイントになる。その為に俺はミールを選んだ。
「ミールお姉様。あいつらを引きずり出せるわよね?」
「やって見ます。ディアンさんは護衛を。皆さんはいつでも攻撃出来るように準備をしてください」
ミールが手を合わせる。
「植物召喚! いでよ! 水樹!」
九頭竜の山に水樹が現れる。さて、ここからがミールの見せ場だ。
「行きます! 天昇! 樹海支配!」
一方地面では九頭竜たちは攻撃の隙を伺っていた。すると地面に何かが自分たちに向けて向かっている事を感知する。だが九頭竜が感知するのは熱と大地の揺れ、魔力、危険のみだった。これで進んで来ているものの正体を当てるのは厳しい。
ここで九頭竜は上の地面全体から自分たちに向けて何かが向かってくるのを感知した。ここで九頭竜も自分たちに向かって来ているのは木の根であると理解した。
樹海支配は森全体の木全てを支配する。もちろんそれには木の根も含まれており、地面を掘り進んでいた。これはつまり自分たちが戦いたいフィールドがどんどん狭まっている事を意味していた。
その結果、九頭竜は打って出る。相手は所詮木だ。量はとんでもなく多いが噛み付けばあっさり破壊出来る代物である。しかも燃やせば木は一溜まりもない。そう九頭竜も考えて火ブレスを放つがミールの水樹の加護の効果で木は燃えなかった。
その代わりに雷に弱く、次々破壊されていく。しかし木の根はその間も地中を進み続けて九頭竜の下まで伸び、完全に九頭竜を捉えた。
「捉えました! いきます! 間欠泉!」
木の根から大量の水が放水される九頭竜の体全体を覆うほどの間欠泉が吹き出し、九頭竜を体ごと強制的に外に放り出される。
それを待っていたみんなの攻撃が九頭竜に入る。ここで九頭竜が超覚醒するとフィールド全体が霧に包まれる。
「領域技ね。ディアン」
「「「「シャー! シャ!?」」」」
ディアンが毒域を展開すると神鎌鼬が飛んで来てディアンの首が斬り落とされる。すると他の皆にも次々降って来る。
「この! 炎波動!」
狐子が炎波動を放つが外れる。
「うそ…あの方向から飛んで来ていたし、あいつはあそこにいたはず。ぐ!? 側面から!?」
人に化けている狐子の片腕が斬り落とされる。ここで狐子は九頭竜の領域技について推理する。
「天候支配! ダメね…完全に支配権を向こうに取られている。そもそもあのドラゴンは空を飛べるの? でも、いなかったし…いいえ。違うわ。あの状態では攻撃を躱せないからこの領域を使ったとしたら」
「シャー!」
霧の中から九頭竜が噛みつきに来るが狐子は躱す。
「狐技! ナインテイル!」
九頭竜に狐子の尻尾が襲い掛かるが九頭竜の体が消えてしまう。それを見た狐子は九頭竜の領域の効果を完全に把握した。
九頭竜の領域の効果は霧が発生している間、常時霊化状態になることでほぼ無敵状態になるという代物だった。更に霧に包まれている敵の魔法と支配系のスキルを封じる能力がある。
霊化状態ならもちろん空の移動は出来るし、この霧の中ならどこからでも攻撃することが可能だ。つまりこの霧を何とかしないと狐子たちに勝機はない。そんな状況だが、この領域にとって、最悪の相性のスキル持ちがこの編成にはいた。
「ディアン! 侵食毒よ! この霧、全部あなたの毒で侵して上げなさい!」
「「「「シャー!」」」」
ディアンが本気になろうとすると九頭竜は妨害に動いて来た。しかし狐子の声を聞いたミールが木の壁でディアンへの攻撃を阻止した。その結果、ハイドラが降臨し、九頭竜の領域が侵食毒に侵されていく。
これは九頭竜にとって、自分そのものが毒に侵されることを意味しており、領域を解除するしかなかった。この瞬間をミールは自動防御で待ち続けていた。
「神岩結界!」
「「「「シャ!? シャアアアアアー!?」」」」
九頭竜を囲むように隆起した岩が現れるとそこに文字が浮かび上がると九頭竜のスキルを封印する。その結果、九頭竜の超覚醒も封印され、元の姿に戻る。
『竜角!』
竜化したクリュスの角が九頭竜の体に突き刺さる。ここで九頭竜もクリュスに噛み付こうとするが空から落下して来たストラが首を踏みつけ、無事だった首に次々噛みつく。
それでも無事だった首はクリュスを狙う。
『来なさい! ディオメーデースの槍!』
「ゲイミストルティン!」
空から竜化する前にクリュスが投げておいたディオメーデースの槍が九頭竜の頭に突き刺さり、ミールが投げたゲイミストルティンは爆ぜると次々九頭竜に突き刺さる。
「「「「シャ…シャー!」」」」
スキルを封じられて、防御スキルも不死も使えない状態でまだ暴れている。敵ながら見事としか言いようがない。だがここで狐子とディアンも参戦したことで遂に力尽きたところでインフォが来る。
『九頭竜を倒しました。次の試練に進むことが出来ます。また扉の前のログアウト出来る場所と湧き水で回復と武器の修復をすることが出来ます』
みんなが元の状態に戻り、倒れ込む。強いとは思っていたが、ここまで狐子たちが本気の戦闘になるとは思ってなかった。この先の試練の難易度が恐ろしくなるな。
「お疲れ様」
「前言撤回するわ。一人じゃ、無理よ。こいつ」
「まぁ、山の神様ともされているドラゴンだからな」
「「「そういう事は戦う前に教えて!」」」
ディアンたちまで怒っていた。これは確かに俺が悪かったな。反省したところで解体する。
九頭竜の竜角:レア度10 素材 品質S+
黄金の竜の角。山の神の力が宿っており、非常に頑丈な素材として知られている。刀の鞘の素材としては最高峰の素材とされており、抜刀した斬撃は雷速を超えると桜花では伝わっている素材。
九頭竜の竜鱗:レア度10 素材 品質S+
黄金の虹色の竜の鱗。全属性が宿っている竜の鱗として知られており、山の神の力があることで非常に防御に特化している素材として有名。ただし霧が深い山奥でしか手に入れることが出来ない素材で取りに行くだけでも命懸けとされている。
進化素材来ないのかよ!いや、俺はもう九頭竜の未練を断ち切った男だから寧ろこの方がいいけどさ。もし九頭竜を選んでいたら、俺は絶叫していたに違いない。
それにしても都合よく鞘の素材が出て来たな。また新しい刀を作る時に使えと言っているような物だ。遠慮なく使わせて貰おう。
これで試練は一時中断。時間を確認すると少し時間があった。というわけで太宰府天満宮の参道の幻術を見ているときに残念そうにしていた恋火たちの為に平安の都で買い物をさせる事にした。
「残念そうにしていたわけやないのに」
「そっか。それじゃあ、頑張ったみんなへのご褒美だ」
「もう…強引なんやから。タクトはんは…ふふ。それじゃあ、楽しませて貰います」
俺の肩に和狐が顔を乗せてきた。一方恋火はリリーたちとお店に夢中でした。こうしてホームに帰ると俺はドアの奥に嫌な予感を感じた。
「どうしたの? タクト?」
「いや、嫌な予感が…転移で部屋に」
「そうはいきません!」
「ぐあ!?」
勢いよくシルフィ姫様が扉を開けて俺はぶっ飛ばされると恋火にぶつかり、倒れる。振り返った瞬間での不意打ち…完全に狙われていたとしか思えない。
「いってぇ…大丈夫か? 恋火」
「ひゃ…ひゃい」
完全に押し倒したような感じで恋火の顔が近い。そして恋火は顔を真っ赤にして、尻尾が激しく動く。
「「「「じー」」」」
リリーたちとシルフィ姫様からの視線攻撃を受けて、急いで起き上がる。そもそもシルフィ姫様のせいでこうなったのに睨まれる意味がわからん。ホームに入るとシルフィ姫様が訴えを聞く。
「また私に黙って、何かしてましたね? グレイさんたちの成長を私の召喚獣が感じているので、誤魔化しても無駄です!」
ここで成長させたから感知したんだな。相変わらずプライバシーがない。まぁ、守る法律が無いから犯罪ではないんだろうな。法律整備を頑張って貰いたいものだ。
「天使のミカエルから救援の依頼を受けていたんですよ」
「それならどうして私に言ってくれなかったんですか! 毎日レヴィアタンの被害のせいで判子を押してばかりいたんですよ! もう手が判子になっています」
「大丈夫ですよ。普通の手ですから」
「「「「うん」」」」
リリーたちが同意したので、俺の見間違いではない。そんなことを言うくらいなら幻術くらい仕込めばいいのに。いつものシルフィ姫様ならそれくらいの準備をしそうだ。
「た、例えですよ! それよりも詳しい事情を」
「聞く必要はないだろう。こうして無事でいるんだからな」
サラ姫様がドアから現れた。シルフィ姫様がいないとちゃんと玄関から入ってくれるサラ姫様である。勝手に侵入して家でくつろいでいたであろうシルフィ姫様とは天と地の差がある。家でくつろいでいた証拠は机に置かれていた紅茶とクッキーです。
「サ、サラ…でもですね。王女の仕事として詳しく聞かないと」
「王女の仕事はそれじゃなくて、貯まった書類の処理だ。ほら、休憩したんだから寝るまで仕事して貰うぞ」
「ひ、酷い! あ!? 掴まないでください! ここ最近、八時間しか寝れていないんですよ!?」
羨ましい。俺より寝ているじゃん。俺なんてテスト期間中に徹夜までしたよ。しかもこの言い方だといつもはもっと寝ているんだな。王族のこういう情報ってトップシークレットな気がする。もし知ったら、国民怒りそうだ。まぁ、フリーティアなら大丈夫な気がするけどね。
「十分睡眠はとれているから大丈夫だ! いつもすまないな。帰って来たのならこちらの状況を伝えたいのだが、後で城に来てくれるか?」
「分かりました。燎刃の結婚式が終わってから向かわせて貰います」
「結婚式! それは参加しないといけませんよね? サラ!」
「あ、あぁ…はぁ…どうして書類仕事にはそれだけのやる気を出してくれないんだ」
きっと書類仕事が嫌いなんだと思います。サラ姫様は理解しているだろうからあえて口には出さないでおく。頭を抱えているサラ姫様も最近見慣れて来たな。無事に帰って行った二人を見送って、夕飯の為にログアウトした。




