#1106 リースの訓練
ダウンした俺は会議でリリーたちの戦う様子を聞く事が出来た。まずグレイたちは空虚スキルなどを使った透明による狩りをしていたそうだ。虎徹に至ってはお前は既に斬られている状態だったらしい。俺の指示から離れるとグレイたちは自由な狩りをさせることになる訳だからこういう狩りになるんだなと知れて、いい勉強になった。
一方、リリーたちは自分たちでしっかり指示を出し合い、俺以外のプレイヤーの指示も聞いたり、意見も言って来たらしい。
「正直驚いた」
「あぁ。まさかゲームのキャラクターに論破される日が来るとは思って無かったぜ」
これは自分たちが出来る事と出来ない事を理解している証拠だ。俺としては複雑な所があるがこれは確実にリリーたちの成長に繋がることだと思う。俺も作戦とか考えるうえで自分の考えが全て正解だとは思っていない。
だから俺とは違う指示を受けたことはリリーたちの更なる成長に繋がっていくことになると思う。色々な人と意見を言い合い、よりよい未来に繋げていくことで人は成長して来たからだ。
「俺と一緒に戦う事も少なくなっていくかもしれないな」
この俺は独り言をいいながら、サフィに部屋まで運んでもらい、拠点に戻ると全員が頬を膨らませていた。
「タクトはリリーたちが一緒にいないとダメなんだから、離れたらダメだよ!」
「リリーの言う通りです! そうした方がいいときは離れて戦うしかありませんがその必要がないとか絶対に私たちはタクトさんの傍を離れません!」
どうやら俺の独り言をアリナが拾い、リリーたちに伝えたらしい。
「…にぃ、謝って」
「あ、あぁ…ごめんなさい」
アリナを見るとしてやったりの顔をしていた。まぁ、これはリリーたちの気持ちを無下にした俺が悪い。
「あ、あの!」
「ん? どうした? リース」
「疲れていることは分かっているんですけど、少しだけ手合わせをお願いしていいですか?」
これは驚いた。するとブランが言ってくる。
「どうやら力不足を感じているらしく、リースから私たちがどうやって強くなったのか聞かれました。そこで主との訓練の話をしたんです」
なるほど。そういう事か。それなら今から訓練をしたほうがいいな。明日からイベントも後半だ。どんどん訓練に使う時間は無くなっていくだろう。俺がクッキーで回復するとリリーたちが手を差し出して来た。しょうがないので、普通のクッキーをあげた。
リースとの訓練の前にリアンたちを成長させる。
『リアンの成長が完了しました。間欠泉、冷凍光線、人魚技【チャームソング】を取得しました』
『リアンの海波動が大海波動に進化しました』
『和狐の成長が完了しました。空間支配、気力融合、神岩結界、火砕流を取得しました』
『ブランの成長が完了しました。拡散光線、日光、変光を取得しました』
『ブランの浄火が浄炎に進化しました』
『ミールの成長が完了しました。種子棘、木牢、無我、海波動を取得しました』
『リオーネの成長が完了しました。金属創造、疫病、精霊門、妖精の輪を取得しました』
『リオーネの疾駆スキルが神速スキルに進化しました』
これでよし。リアンが覚えた人魚技【チャームソング】は歌を聞いた敵を魅了にする技だ。歌が聞こえる範囲だから結構な効果範囲を持つ。逆に聞こえないと効果が発動しないわけだが、耳を手で塞けば当然隙だらけになる。
「ボクほどじゃないけど、便利な技だよね。これからはリアンに魅了された敵から吸収しようかな? 淫獄使うの勿体ないし」
「…それはいい考え。堕落を使うの面倒臭い」
「そんな理由で…先輩」
「ノワもリビナも自分たちでやろうな」
こうは言ったけど、きっと影で魅了吸収を使うんだろうな。二人からちゃんと返事は返って来たけど、そんな気がした。そしてリオーネは金属創造を覚えた。これでまたオリハルコンなどが増えるぜ。
その一方で新スキルである疫病は相手を感染症の状態異常にするスキルだ。災禍の獣として外せないスキルなんだろう。さて、初めてのリースと決闘をするとしよう。俺の武器は近衛だ。
「どこからでも来ていいぞ」
「い、行きます! 光輝!」
いきなり目くらましか。いい判断だ。リリーたちはこういう事はしてこないからな。面白い。
「はぁああ!」
「いい攻めだが、甘いぞ!」
「っ!? 危なかった…」
目を瞑った状態でリースの攻撃を止めた俺だったが反撃の攻撃は盾で防がれてしまった。そしてリースは距離を取ると今度は接近戦になる。
剣と盾を使うリースの戦闘は非常に安定している。やはり接近戦では剣と盾の装備が一番安定した装備だと実感してしまった。
「はぁ!」
「く…!? や…や!」
俺の攻撃にもしっかり対応できているのだが、致命的な問題点に気が付いた。更に訓練を続けているといくつも問題点が見つかる。そこで俺はリースを挑発していた。
「こんな戦闘をしていたら、敵には勝てないぞ? リース。本気で来い」
「は…はぁあああ!」
動きは多少良くなった。だが、まだまだリースは何かを抱えている。それを知るために俺は本気になる事にした。
「そろそろ俺も本気で行くぞ!」
「っ!?」
俺の剣戟をリースは必死に凌ぐが俺は剣を弾き飛ばした。するとリースは盾を構えて、守りを固める。
「そこまでです」
イオンのコールで訓練が終わる。これでリースが抱えている問題がはっきりわかった。
「ど、どうだったでしょうか?」
「悪くはない。特に最初の目くらましによる奇襲は見事な作戦だったぞ。それに俺たちの中で一番接近戦が安定していた気がする」
リリーたちがショックを受けて、リリーが一番安定していると主張して来た。これには一同絶句だ。これまでにどれだけ危ない戦闘があったと思っているんだよ。
「では、何故弱いのでしょうか? 主様も全然余裕がありました」
「うん。それは危険をそこまで感じなかったからだな」
「え?」
「特に前半の戦闘がそうだったが、俺に遠慮か何かしていただろ? 攻撃の動きは遅くなっていたぞ」
リースが驚いた顔をする。自覚はあって、ホッとした。リースは攻撃をもちろんしてきたが攻撃していいか判断してしまっていた。こうなると当然攻撃のテンポが一テンポ遅くなる。戦闘においてこれがまず致命的で一テンポ遅れると防げない攻撃が防げてしまうのだ。それが俺の戦闘での余裕に繋がった。
「ほ、他に問題点はありませんか?」
「間違っていたら、言って欲しいんだが、リースは死ぬのが怖いんじゃないか?」
「え…」
「俺が攻撃に出た時、反撃出来る隙があっただろ? それに剣を弾かれた時、迷った後に守りを固める動きをしていた。俺にはリースの目に戦闘に対しての怯えがあるように見えたんだ」
リースが考え込むと答える。
「確かに反撃を喰らうかも知れないと考えていました。それに守らないといけないという意識が強い気がします。ですがそれはいけない事なのでしょうか?」
「いいや。守りに重きをおく戦闘は確かにあるし、それをダメとは言わない。だけどな、限度と言うものがある。特に命を賭けた戦闘では、攻めないと勝てない。それを俺やリリーたちはみんな知っているんだ」
俺が皆を見るとリースがリリーたちに質問する。
「皆さんは反撃や死が怖くないんですか?」
「怖いよ。死ぬと痛いし、最後までタクトと一緒に戦えないことは凄く辛い」
「えぇ…きっと誰でも怖いと思ってますよ。それでも負けたくないという気持ちが最後には勝っています」
「いいですか? リース。誰でも失敗はします。主も私も失敗をいくつもして、今の強さがあるんです。ですから恐れないで下さい。リースの周りには頼りになる仲間がこんなにもたくさんいるんですから」
やはりブランの言葉が一番効くな。リースの目が少しだけ変わった気がする。
「それじゃあ、もう一回やってみるか。今度は最初から本気で行くぞ。訓練だから死ぬことはない。本気で来い」
「は、はい!」
まだぎこちなさと自分の戦闘の変化に対応出来ていなかったが、結構いい攻撃を受けてしまった。やはり剣と盾だとまず接近戦を挑まないと勝負にならない。その判断の遅さが無くなった事は大きな一歩だ。
そしてリースが警戒をしているカウンターもしてみたが盾で上手くガードされた。これを時々混ぜさせて貰ったが全部しっかりガードが出来た。
「うん。やっぱりしっかり反撃に対応出来たな」
「はぁ…はぁ…どうして…主様は…息切れ…していないん…ですか…」
「主との訓練はこんな感じですよ。気にしたら、ダメです」
こうしてリースの訓練が終わるとリースに俺たちの本気の訓練を見せる事にした。きっとリースのいい刺激になると思ったからだ。
「本気で戦いながら笑ってます…それに綺麗」
お互いに死力を尽くして戦うことは時に芸術の域に入り、人々を熱狂させ、感動される。スポーツを見ているとそういうシーンが沢山ある。リースが見ている訓練も同じ感じをリースに与えたようだ。
「いつかあんな風になりたいです」
「リースならきっとなれますよ。リースも主の召喚獣なのですから」
「はい!」
訓練が終わり、今日はリースと寝る訳だが、本人の希望でブランも一緒に寝る事になった。
「ふふ。まるでパパとママと一緒に寝ているみたいです」
リースも無邪気な言葉に俺とブランは視線が合うとブランの顔が赤くなっていく。
「どうかしましたか?」
「な、なんでもありませんよ。さ、主も疲れているでしょうから、もう寝ましょう」
「はーい。おやすみなさい」
「あぁ。お休み。リース、ブラン」
ちょっとブランの様子が気になって、寝たふりをしてみた。
『主、早く寝て下さい』
バレてしまったので、大人しくログアウトすることにした。無念だ。




