#1084 ユウェルの結婚式
式場にやって来た今後の予定を考えていると背後に気配を感じて、紙を隠す。
「何故隠すんですか?」
「いや、別に何でもありませんよ」
「む…また何か楽しい事を隠してしますね。タクト様がドラゴンを召喚したことは分かっているんですよ」
「前々から思ってましたけど、シルフィ姫様との決闘って俺が不利過ぎませんか? 情報駄々洩れじゃないですか」
「もう外に出て、冒険してもいいはずなのに国に閉じ込められている私と外に出歩いてばかりいるタクト様との勝負なのですよ? 少しぐらいハンデを貰わないとダメです。後、レヴィアタンとの戦いで使った時間停止は反則なので使用禁止とします」
意味が分からない!横暴だ!
「シルフィ姫様なら時間停止ぐらい来るとわかっていれば対応出来るでしょう」
「ダメです。女性の時間を止めるなんて倫理違反だとは思いませんか?」
まぁ、リリーたちでも嫌がったぐらいだからな。気持ちは分かる。最も自分たちが嫌がったのに俺には使う気満々なんだけどね。
「では、男性の時間を止めるのも倫理違反ですよね?」
「む…それは…問題ないんじゃないですか?」
「大ありです!」
こんなもん納得いくはずがない!男性差別だ!そんな言い争いをしているとユウェルの結婚式に呼ばれる。
ユウェルが式場に登場するとブイネックの純白のウエディングドレスで登場した。頭には白の花飾りまでしている。俺の所までやって来たユウェルはつい聞いてしまう。
「タ、タク…汗の臭いとか大丈夫か?」
鍛冶をしているとそう言うのを気にしてしまうんだろうな。だが、結婚式の最中に言うべき言葉じゃない。みんなもあーあーって感じのリアクションだ。
「な、何か変な事をしたか!?」
「大丈夫だよ。ほら、いこ」
「う、うん…」
いつもよりだいぶしおらしさが大めになった。どうやらユウェルは緊張すると静かになるタイプだったようだ。そのおかげという訳じゃないが順調に結婚式は進み、指輪の交換になる。
「ん?」
ユウェルは石化していた。案外いつも丸くなっている時にはこんな風になっていたのかもしれない。これにはカインさんも苦笑いだ。ユウェルに指輪を付けて貰わないとマリッジも成立しない上に結婚式も終わらない。
「…おーい」
返事がない。ダメだ。こりゃ。困った顔でみんなを見るとみんなも苦笑いをしていた。
「ちょっとすみません。裏技を使っていいですか?」
「式が進んでくれるならいいよ」
「すみません。ダマスカスワイヤーを今度はユウェルに」
「本当か! タク!」
リリーが肉ならユウェルは武器だ。しかし結婚式でする会話じゃない。
「その前に指輪を付けてくれ」
「分かった! これでいいか?」
ここでインフォが来る。
『ユウェルとマリッジが結ばれました』
指輪の交換が終わった事をカインさんが確認する。
「うん。いいよ。それじゃあ、結婚式を終わらそうか」
「あ…」
またユウェルが石になったが何もかも手遅れだ。式が終わっても動かないユウェルはリリーたちが運ぶ。
「ユウェルちゃん…動いてー」
「なんで私たちが…ノワ、力を入れてますか?」
「…もちろんしている」
俺の目にはノワはユウェルのウエディングドレスの端を掴んでいるようにしか見えない。そしてウエディングケーキを前にしたところでユウェルは正気に戻るがとうとう丸くなってしまった。ウエディングドレスでこのポーズはレアだろうな。
「ウエディングドレスでそれをやっちゃいけないってあれほど言ったのにどうしてするのかしら?」
「話しかけれないでくれ…」
「その状態じゃ、ケーキは食べれないぞ」
ユウェルは丸まった状態で手を差し出して来た。
「そんな状態で食べるつもりなら怒るぞ。ほら、椅子に座る」
ユウェルをお腹から抱きかかえて、座らせる。
「何をするんだ!? タク!? あぅ…くぅ~」
「私たちを睨んでも意味ないですよ」
「こ、こうなったら、もうやけだー!」
「あぁ~!? 何しているの!? ユウェルちゃん!」
ユウェルがウエディングケーキを手掴みで食べるという暴挙に出た。それを見たリリーたちは我先に手掴みで食べ出す。
「下品ですね…」
「最悪よ。これ…」
「どうするつもりどす? タクトはん。ひ!?」
「…これは流石にお仕置きだな」
俺が机を叩く音に反応してウエディングケーキの生クリームだらけになっているリリーたちの目に激怒している俺の姿が映った。
「「「「あわわわ」」」」
このウエディングケーキはルインさんたちが毎回俺たちの為に用意してくれている代物だ。それをこんな風に見るも無残な姿にしたことは許し難い。
「ア、アリナは知らな」
「食べただろう? 逃げても無駄だ。ノワ。今日は長いお仕置きになるから覚悟しろ。素手でケーキを食べた者はここに正座だ」
「「「「は、はい…」」」」
この日、世にも珍しい結婚式後のお説教が実施された。そして激怒した俺がどれだけ怖いかリリーたちが再認識したことは言うまでもない。
罰として今日のスキルとレベル上げにはリリーたちを参加させない事にした。生産作業をしてから先に菅原道真を相手にして瞬殺する。
「時間停止を使うのは反則じゃろ…」
「天國を使ってきたあなたに言われたくありません」
あれも時間停止のようなものだったからな。これで叱った分の時間を少しは取り戻せただろう。ここでルインさんからメールが届いた。どうやら結合召喚に必要な素材が揃ったらしい。早速貰いにいくとしよう。




