#1080 ファリーダの結婚式
翌日、海斗からティアマトの話を聞くことが出来た。
「蘇生とか無かったんだけどよ。ハロウィンイベントで登場した奴よりも強いティアマトのモンスターが後からどんどん出て来て、港町は襲うし、ティアマトは守って来るしで大変だったんだぞ」
「でも、連絡が来なかったから勝ったんだろ?」
「勝ったけどよ。でも本当に強かったんだぞ? ティアマトのモンスターは無限に出て来るしよ」
戦闘の話を行くと俺の予想よりも相当苦労したようだ。恐らくティアマトはセフォネが使っている生物創造でティアマトのモンスターを作り出してきたみたいだね。しかも無限魔力持ち。流石はメソポタミア神話の原初の女神といったところだ。
倒してもすぐに増えるなら下手に切り札は切れない。それなのにこのことを知らないみんなは何人も切り札を使ってしまったらしい。ただほっといても増えるので、倒すことが全くの無駄にはならない。
攻略のポイントはティアマトへの攻撃だ。その為には敵を引き付ける役とティアマトに攻撃する役が必要になる。結果的に大型の召喚獣を複数使ったティアマトへの特攻をした後にプレイヤーがそれぞれ役割に分かれて、攻略した。
ただティアマトは生命力が異常に多く、再生速度もかなりあった。しかもフィールド効果でじわじわと追い込まれたらしい。しかしティアマトは最初の方は攻撃して来ず、生命力を半分削ってからティアマトは逆鱗を発動されて地獄が始まったそうだ。
ティアマトは無限に上級魔法を乱発し、陸を一閃する光線を放つと光線を浴びたところが消し飛んだそうだ。更に拡散光線も使ってきて、変光と乱反射で空一面で不規則に動き回る必殺級の光線が飛び交う戦場と化したらしい。他にも雷轟に弱化竜鱗という触れただけで弱体毒になるスキルに加えて、永遠毒で蘇生してもデバフが解けない状況となった。これでまたプレイヤーが死ぬと呪殺撃で全プレイヤーにダメージが来るんだからたまらない。
そして最後の方には蘇生や復活まで封じられて、デスペナを受ける事になったプレイヤーが続出した上に武器を失った人もたくさんいるらしい。桜花の被害も洒落になっていない。支援物資を送る必要があるのだろう。イベント前だけど、やって挙げないと可哀想だし、桜花が魔王討伐同盟から抜けられると困る。こういうのは一度誰かが抜けるとそれに追随する国が出て来るものだからな。
今日一日、ティアマト戦の愚痴を聞いて終わった俺は家に帰ると勉強をする。そしてテスト期間のルーティンを済ませて、ゲームにログインした。
目を覚ました俺は起き上げるとセフォネが首からずり落ちる。そして首が濡れている気がする。
「まさか血…」
手で確認すると色は透明だった。
「涎じゃねーか!」
ずり落ちたセフォネを見ると涎を流して幸せそうな寝顔をしていた。どんな夢を見ているやら。
セフォネを起こして、朝一で血を吸われてから下に降りる。するとみんながノワを囲い込むように寝ている叢雲の姿を見ていた。写真で撮影しておこう。
「大丈夫? タクト?」
「あぁ…今日は手巻き寿司を教えてあげるな」
「「「「手巻き寿司?」」」」
酢飯を作って、後は手巻き用の海苔と具材を用意すればオッケー。そしてみんなに手巻き寿司のやり方を教える。みんな、それぞれ好きな具材を使うから中々に面白い。リリーのハンバーグとドラゴンフルーツの組み合わせは試したいとは思わないな。
「ん!」
親指を立てているから本人は美味しいらしい。ただ手巻き寿司の弱点が露呈した。手巻きに使う食材が偏ったのだ。こればっかりはしょうがない。
「タクトー、ハンバーグが足りないよー」
「この後、ウェディングケーキも食べるんだからそのぐらいがちょうどいいんだよ。よし、こんなもんかな?」
俺は昨日約束したバハムートの寿司を握った。
バハムートの寿司:レア度10 料理 品質S+
効果:満腹度10%回復、一時間水泳速度アップ(究)、1時間俊敏性アップ(究)、一時間筋力アップ(究)、竜気、潜水、物理無効、水属性無効、火属性無効、原初の加護
握った酢飯にバハムートの刺身を乗せた料理。最高級寿司屋でも滅多に出て来ない幻の寿司ネタの一つに数えられている。
何も付けずに味見してみる。醤油は味が濃いから味見する時は何も付けずにしろと店長が言っていた。
「うま! 大トロと中トロのいい所どりした感じ!」
自分でも何を言っているのか分からないが食べた瞬間に思った感想がこれだった。脂の濃厚さは大トロなのだが、旨味は中トロって感じだ。こんなものをよく開発したな。運営。
「「あーん」」
「はいはい」
「ぎー…」
「お…叢雲は魚派だったのか?」
口を開けて、待っていたイオンとリアンにあげると幸せそうな顔をした。それを羨ましそうにしている叢雲にも上げると食べた後に顔を背けたが尻尾がパタパタ動いている。
「…こっちから顔が丸見え」
「ぎ!?」
ノワに指摘された叢雲は逆方向を見る。
「…叢雲は素直じゃない。にぃ、叢雲は目を輝かせてた」
「ぎー!」
そんな顔していないと否定しているようだが、ノワが言っていることが事実だろう。
今日の聖杯はアリナだ。神剣ハルパーや昨日悩んだトールの装備など色々悩むところだが、やはりアリナは短剣がいいだろう。というわけで即決する。
フラガラッハ:レア度 短剣 品質S+
重さ:30 耐久値:1000 攻撃力:400
効果:神気、帰還、万物切断、防御無効、自動追尾、回復不能、無限のルーン、神威解放、光神の加護
光の神ルーが使う短剣。空を自在に飛び回り、相手を勝手に追尾して倒れるまで斬り裂き続ける短剣で斬られた傷は癒えることが無いと言われている。
一度は諦めただけにどうしても欲しかった武器だ。短剣の装備の中でも現時点で最強クラスの武器だったりする。というのも敵が強くなってきて、瞬間再生などの回復スキル持ちが多くなってきたことでフラガラッハの回復不能が大注目されているのだ。
実際に昨日のティアマト戦でもティアマトの回復魔法と回復スキルを封じたことが攻略の糸口の一つになったらしい。ゲットしておいて損はないはずだ。
今日は先に生産作業をしてからファリーダの結婚式に挑む。やはり神父はグラン国王様だった。ここでファリーダが純白のウェディングドレス姿で登場した。凄く意外だが、褐色の肌に純白のウェディングドレスが意外に合うのだと認識した。
「意外だったかしら?」
「それはそうだろう。どうしてこのウェディングドレスにしたんだ?」
「折角外に出たのよ? 砂漠では着れない服で結婚式を挙げたいじゃない」
なんか分かるな。海外で結婚式を挙げる時の気持ちに似ているのかも知れない。
「因みにリリーたちと違う所がちゃんとあるわよ」
「あ、ベールの長さか?」
「流石ね」
リリーたちは腰ぐらいの長さだったがファリーダは足ぐらいの長さがある。ファリーダがそうしているせいかも知れないけど、踊り子っぽく見えるな。
「ふふ。さぁ、連れて行ってちょうだい。魔王様」
「魔王様とか呼ぶなよ」
魔王と結婚するんだから洒落に聞こえない。その後は順調に式が進んでマリッジリングを交換する。
『ファリーダとマリッジが結ばれました』
これで俺は未来の魔神と無限属性のヴァンパイア、異星のエクスマキナと三種類の上位召喚獣と結婚したことになる。この三体のマリッジバーストはどうなるんだろうね?間違いなくやばいことになるな。
その後、ファリーダの結婚をお祝いしているとミュウさんがユウェルとアリナのウェディングドレス、ナオさんがルミのエンゲージリングと二人のマリッジリングを持って来てくれた。
「わざわざすみません」
「ルイン姉に連れて来るように頼まれたついでだから問題ないよ」
「昨日のことですね?」
「そゆこと」
俺がギルドに顔を出すとルインさんから緊急の案件が伝えられる。昨日の戦いで全力戦闘をしたみんなはダウンしているらしい。中にはソーマ酒を貯め込んでいる人もいて、回復出来た人もいるようだけど、事態は深刻だ。
「一応こんなのはあるんですけどね」
俺はネクタルをルインさんに見せる。
「これはどこで手に入れたのかしら?」
「火山島の宝箱の中からです」
「ネクタルの神話からすると手に入るのは水瓶座の試練かしら? でも、手に入った情報はないわね」
「そうなんですね」
水瓶座は流石にクリアされているか。だが、もう一つの試練があるはずだ。その場所はまだ見つかっていない。アトランティスにありそうだけど、無かったそうだ。流石にオリュンポス山にはないだろうな。あるとするなら火山島の先かまだ満足に捜索していないアルカディアだ。個人的にはアルカディアの可能性が高く感じる。あそこは羊人間は何か作物を採取していたからな。
「オリュンポス山にディオニュソスの試練ってあったのかしら?」
「ありましたね。そこならネクタルは手に入るでしょうが」
「行ける人はいないわよね…」
星天の鍵が手に入るのはアトランティスと火山島と断言されているからね。すると俺はある神話を思い出した。
「確かテューポーンの神話で神様たちが酒宴している時に現れて、逃げるって話がありましたよね?」
「えぇ…驚いて、色々な動物に姿を変えて、逃げ出した話よ」
「ならテューポーンが封印されている所にネクタルがあったのって、偶然なんでしょうか?」
「タクト君は火山島が酒宴の舞台だったって言うの? いくら何でもそれは無いわよ」
まぁ、変か。どちらかと言うとアルカディアが酒宴の舞台のほうがしっくり来るもんな。だとするならネクタルはアドラノスが飲んでいた物だった可能性が高いな。それをルインさんに伝えるとルインさんがぼやく。
「はぁ…アドラノスが酒神ならたくさんありそうなのに、流石にそんな伝説は聞かないわね。このままじゃあ、運営イベントに支障が出るわよ。運営は馬鹿なのかしら?」
思いっきり本音がタダ漏れだ。すると俺はとんでもない解決策を思いついた。いや、たぶんミライは気付いているな。でも、自分がダウンするから言いたくないんだろう。俺が思いついたのはケリュケイオンの必殺技を使う方法だ。あの必殺技は全員のダウン状態をも解消していたからな。きっと行けるはずだ。
ミライが危惧しているところはネクタルを飲ませればいいだろう。というわけでルインさんに伝えて、みんなを集めて貰う。動けないみんなを集めるのは重労働だったみたいだ。アーレイなんて荷車に乗せられてやって来た。
「扱い酷すぎだと思わないか?」
「豚の丸焼きのように運ばれるよりましだろ?」
アーレイのそんな姿を想像したのかシフォンたちが笑っていた。因みにシフォンたちは念動力で運ばれている。随分な扱いに差が出たものだ。全員が揃う前に俺は約束の寿司を上げる事にした。だが、ここで召喚師たちはその場で食べ出した。それは致命的なミスだと俺は知っている。
「うま!」
「寿司屋も行けますよ! ギルマス」
「喜んでもらえて何よりだが、じっと見ているぞ」
「「あ…」」
彼らにもドラゴニュートや他の亜人がおり、睨んでいた。この瞬間、俺の寿司は瞬殺が確定した。召喚獣に運んで貰ったのが彼らの運の尽きだったな。大切な所で使いたかっただろうに…これを機に召喚獣の前でご飯を食べると言う事は無くなるだろう。
俺は菅原道真と戦いが終わって戻るとみんなが集まっていた。召喚獣までいるのは当然だが、腕とコックピットがないタロスはなんだろうか?
「これで全員ですか?」
「今、集まれるのはこれが全てね。これだけの人数を直して貰えれば後はなんとかしてみせるわ。それとこれは回復依頼の報酬よ」
ルインさんから宝珠を貰う。
原初海女神の宝珠:レア度10 重要アイテム 品質S+
原初の海の女神の力が封じ込められている宝珠。デルピュネーが進化するために必要なアイテム。
これは貰ったら、いけない奴だろう!?
「ちょっと。これって」
「安心して。みんなから許可は取ってあるわ。ケリュケイオンの必殺技は武器も直しちゃうし、ネクタルを使わせちゃうからね。それに今までタクト君たちが頑張って来た事はみんな知っているのよ。だからこれはそれも含めたお礼よ」
「お、おおぅ…」
そんなことを言われたら、貰うしかないじゃん。なんか恥ずかしいのでさっさと終わらせよう。ネクタルを一口飲んで復活したミライがケリュケイオンの必殺技を使うとみんなは回復し、武器も修復されるとミライはダウンする。そのミライにもう一回、ネクタルを一口飲ませて復活した。
これで復活したみんなは早速それぞれの攻略に動いた。さて、俺も残った時間でジークの進化クエストに挑むことにした。




