#1071 オリジナル料理研究とハデスの鎌
今日から学校では期末テストの期間に入った。俺も自分の将来を決めたから、その未来のためにしっかり勉強しようと思う。
「休み時間でもテスト勉強かよ」
「少しでもゲームしたいからな」
「お前もすっかりゲーマーだな。ま、真のゲーマーは俺のようにテスト勉強なんてしないけどな!」
勉強しているゲーマーの皆さんに海斗は謝罪するべきだと思った。学校から帰って来た俺は先にテスト勉強をする。夜に攻略会議と今回得た報酬で交換出来るものは交換しようという話があったのだ。和狐との結婚式を挙げるためにも完成しているウェディングドレスを受け取らないといけない。
そして勉強を終えた俺は夕飯を食べてからゲームにログインすると尻に違和感を感じた。見るとリビナの尻尾が刺さっていた。
「何やっているんだ!」
「ひゃあああ!? ちょっと! タクト! 尻尾を強く握りすぎ! 新婚さんのお茶目な悪戯じゃん!」
そんな新婚さん聞いたことないわ!
「ところでリアンはいつまで寝たふりをしているのかな?」
「リビナお姉様!? しーです」
そこでリアンの狙いが分かってしまった。サフィを召喚する。
「サフィ、二人をベッドから運ぶから運ぶの手伝ってくれ」
「しまったー!?」
「ほら、バレちゃったじゃないですか…折角先輩のベッドを独占出来そうだったのに」
「…ていうかリアンもそういう事を考えるようになったんだね」
「け、結婚しましたから…なんですか? その目は?」
こんな考えをするのに結婚は関係無いだろ。まぁ、指摘しないでおくか。廊下に出ると早速お腹を空かしたみんなの声が聞こえて来た。しかしリリーたちは昨日の全力戦闘でダウンしている。
そんなわけで準備していたオリジナル料理を作り始めようとするとパンドラがリリーたちの定位置に陣取り、料理を見て来た。
「わ!? 鍋から火が出た!?」
俺が作っているのは、ハヤシライスソース。ビーフを使うが今回はパイアの肉を使い、臭みが出るので、ソーマ酒でフランベした。これでリリーたちも復活出来るはずだ。更に隠し味にエアリーの生クリームを加える。
「いい匂い~」
ハヤシライスソースの濃厚な匂いが漂い始めると二階からリリーたちが暴れている音が聞こえて来た。動けないのによくやるよ。そう思っているとキキが二階に行くと静かになって、降りて来た。キキの笑顔が怖い。
「あれ? もう一つ料理を作るの?」
「いや、一つだよ」
ロコモコのバターでご飯を炒めて、ご飯を盛り付けるとその上から半熟のオムレツを乗せて、開く。
「わぁ!」
「ここにこのハヤシライスソースを入れて、溶かしたエアリーのチーズで絵を書いて…完成。ほい、完成」
「すごーい! パンドラの顔だ!」
これが俺なりに考えたオリジナル料理の試作品だ。
リープリングのオムハヤシ:レア度10 料理 品質S+
効果:満腹度全回復、強激突、三十分筋力二倍、生命力全回復、魔力全回復、二時間状態異常無効、二時間生命力回復(究)、二時間魔力回復(究)、三時間全ステータス上昇(究)、三時間英気、二時間寒無効、二時間黄金の加護、全状態異常解除、一時間不死、一時間神の加護、デメリット解消
パイアの肉を使った極上のなめらかなハヤシライスソースに極上のバターオムライスを加えた料理。溶かしたチーズで似顔絵も描かれており、美味しさと遊び心が詰まった料理。
最初にキキ、ヘーパイストス、パンドラに味見して貰う。
「今までで一番美味しい料理ですね」
「使っている素材が素材だからな。う~ん…想像以上に味が濃厚なハヤシライスソースになったか。パイアの肉のせいだな。ちょっと改良の余地あり」
「き、厳しいですね」
「ヘーパイストスも最高の武器を作ったつもりでも後から改善点とか出て来るんじゃないかな?」
「それはまぁ、ありますね」
あるんだ。妙に人間的なんだよな。お陰で親しみやすいんだけどね。さて、静かになっているリリーたちにも料理を持っていくとベッドで震えていた。何があったのか気になるが聞けないな。ただそれは暴れていた人たちだけで大人しいセチアたちは怒っていた。
そんな状態でもご飯を食べさせてあげるとすぐに元通りになる。料理の力は偉大だと感じた瞬間だった。
ご飯を食べているリリーたちの裏でグレイに昨日約束したパイアの肉のステーキを上げてから他の皆にもお疲れ様という意味で満腹コースの料理をあげた。これで全員、フル状態だ。するとアンリ姫様がやって来た。
「えっと…シルフィお姉様のお使いでやって来ました」
「…大変だね」
「お姉様たちや騎士団の皆さんには守って頂きましたから。これくらいはしないとバチが当たってしまいます」
昨日の戦いの裏では各国の騎士団の守り合いが発生していた。どの国も自国の騎士を死なせたくない思いは一緒だ。正直、レヴィアタンは数なんてものともしない魔王だった。それでも各国が騎士の派遣を決めたのは参加した国の騎士のレベルが上がるのを危惧したせいだと思う。
表向きは仲良くを演じているが裏ではお互いに牽制し合っているわけだ。それを俺たちやリーゼたちも理解して、彼らを戦いに巻き込ませてもらった。もちろん各国の軍師たちは気付いている。そもそも彼らの裏をかくことはかなり難しい。それなら分かっていても動かなければならない状況を作ることが正解だとプレイヤーの会議で結論付けている。
「そんなことはないと思うけどね。安全にレヴィアタンの海域まで艦隊を運ぶことが出来たのはアンリ姫様たち、魔法使いのお陰なんですから。というわけでこれは俺からのお礼の気持ちです」
俺がクッキーをあげるとアンリ姫様は受け取る。
「はぁ…こういうことはシルフィお姉様にしてあげた方がいいですよ」
「そうかも知れませんが召喚獣の料理を用意するのがどれだけ大変か知ってます?」
出前の料理を用意するだけでシルフィ姫様のご褒美は十分だと思う俺であった。その大変な作業を俺が作った料理を全部食べてしまったリリーたちにやらせる。
「リリーたちだけじゃないのに~」
「アテナ様や九尾様、空天狐様も食べて行きはりました」
俺がグレイたちに料理を上げている隙を付かれたか。
「今日、結婚式が終わってから持って行こうと思っていたけど、それは無しだな」
俺の言葉に和狐が反応する。
「今日、するんどす!?」
「あぁ。たぶん一日置きに結婚式を挙げる事になると思うぞ」
「「「「ちょっと待ったー!」」」」
リリーたちが異議ありな様子だ。その原因は寝る順番である。今までは結婚式を挙げた日は二人で寝ていた。しかし二人やらない今日は自然と和狐と二人っきりで寝る事になる。それが気に入らないのだ。
「言い分は分かったが明日二人の結婚式をやると連続になる。それは避けたい。寝る決まりも今更変えないほうがいいだろうな」
「「うち(私)は別に」」
「二人はもっと我儘でいいような」
和狐とブランの悪い癖だ。いい所でもあるんだけどな。こういう場面では我儘を言って欲しい。後々、後悔するのは自分たちになるんだからな。結果、リリーたちにはみんなの結婚後が終わった後に二人で寝る事を決めて、和狐の順番が来たら、二人で寝る事にした。これで一応は回数では一緒になる。
リリーたちに納得して貰った所で先にセフォネに聖杯を使おうと思う。俺は気になっている武器があり、それをセフォネに伝えたところ、欲しがったので、決まった。それがこちら。
プルートデスサイズ:レア度10 鎌 品質S+
重さ:50 耐久値:2000 攻撃力:3000
効果:人間特攻(究)、アンデッド特攻(究)、不死殺し、暗黒属性アップ(究)、氷属性アップ(究)、万物切断、多乱刃、虚空切断、魔法破壊、引力支配、重力支配、呪殺撃、即死、死風、防御無効、加護無効、耐性無効、氷獄、黒星、惑星魔法【プルート】、ハデスの加護
冥府神ハデスの力が宿っている大鎌。上位の死神に与えられる大鎌で地上で生きている全ての命ある物を冥府に送る役割を持っている。冥府に送った命の数だけ全ステータスが上昇する特殊な効果がある。
冥府に送った命の数だけ全ステータスが上昇する効果はハデスの加護の効果によるものだな。ここに不死身の効果と神の加護の効果がセットになっている。
どこで見かけたのかと言うとハーベラスの進化クエストの時にタナトスが使っていた鎌がこれだ。これだけ軽いなら二刀流も可能だろう。
悩んだのがやはり神剣ハルパーだったが神剣ハルパーにはクロノスの加護がないために除外した。代わりにヘルメスの加護があるらしい。不死殺しの剣で武器破壊もあるから優秀な武器ではあるんだけどね。ヘーパイストスなら神剣ハルパーを超える物を作れるだろう。そんなわけでヘーパイストスに依頼しよう。
「ヘーパイストは巨人たちと一緒にオリハルコンを使った不死殺しの鎌を作ってくれないか?」
「分かりました」
「パンドラはこの素材を使って、リアンと同じ槍を作ってくれ」
オリハルコンはもちろんこっち持ちである。
「わかった!」
ユウェルは自分が使うガントレットの作り方を二人から聞く。次は防具だ。
「星海竜の鱗を使った鎧を作って欲しいんだ」
「宇宙で行動出来るようになるんですよね?」
「あぁ…アザトースとの決戦も近いからな。頼めるか?」
「はいな」
アラネアにはレヴィアタンティアーズのブレスレットをお願いした。ネックレスや指輪とか悩んだんだけど、イオンはブレスレットが無いから今回はブレスレットにした。
その後、俺は生産作業をして、攻略会議に参加する。するとやはり昨日の作戦の激闘で英雄たちもプレイヤーも参加率が悪い。みんな全力戦闘したことが分かる。そんな中、生産職を中心に話を決めて行く。
「まず各国から報奨金と一人一枚のギルドの交換チケットが出ているわ。約束通り、各ギルドにお金を割り当てるわね。その金をどうするかは各ギルドで決めてちょうだい」
やっと消費したのにまた貰ってしまった。どうするかな?この交換チケット。配当が終わり、攻略会議を始めると暗黒大陸の次の攻略目標が決まった。
それがアスタロトの領域だ。既に面しているので、プレイヤーたちはすぐにでも攻略に向かえるが現状かなりの人数がダウン状態なので、攻略にはもう少し時間が掛かる。
俺は自力で回復させて貰ったけど、流石に全員となるとソーマ酒が全然足りない。俺と同じで料理に使用する方法を使ってはいるが昨日の回復でソーマ酒が尽きたそうだ。一応ネクタルや桃源郷で確認された仙酒などの代用品が手に入っている。これらを手に入れるためには生産職をそこまで連れて行かないといけない。この任務は既に攻略をしたことがある人たちが担当することになった。
ここでブルーフリーダムのリーダーが暗黒大陸の西側の海を解放する話が出て来た。そこで俺は疑問を口にする。
「ちょっと待ってくれ。暗黒大陸の海はレヴィアタンが支配している話だったはずだぞ?」
「僕たちもそう思っていたんですけど、桜花で確認した所、海の変色を確認しました。レヴィアタン前には無かった現象です」
「つまり別の敵が現れたってことか」
「恐らくは」
ここで変色した海について質問が来たので、ブルーフリーダムのリーダーが答える。
「試しに海に入るとダメージと呪いを確認しました」
「やっぱり状態異常があるフィールドか…厄介だな」
ゲームではお馴染みの現象らしい。
「僕の未来予知には無かった現象だ。恐らく敵はかなり上位の魔神だね」
マーリンの一言でみんなは確信した。レヴィアタンがいなくなった後に現れる魔神って一柱しか思いつかいない。メソポタミア神話のティアマトだ。ハロウィンイベントではその子供たちが登場したから本人が登場しても不思議じゃないし、レヴィアタンとティアマトを同一視する説もあるからたぶん正解だろう。
そして俺はその攻略を辞退した。だって、テスト期間で攻略に参加出来そうに無い。ましてや攻略は夜になるだろう。その頃、俺はきっと誰かの結婚式をしているに違いない。ティアマトが待ってくれるなら攻略に参加することも可能だが、この変色した海はだんだん桜花に迫ってきているらしい。完全に到達してからだと手遅れになるという意見も出たことで辞退を決意した。
それにレヴィアタンとの戦いでプレイヤー全体の底上げと水中戦力もだいぶ増える事になったはずだ。それに相手がティアマトなら恐らくレヴィアタンのように何回も姿を変える事はないと思う。ネタがレヴィアタンで尽きたと思われるからだ。その代わりにティアマトの子供たちが現れると俺たちは予想した。
ここで俺が攻略を辞退したことで逆に俺への依頼が来た。それが混世魔王の領域の先で確認されているアスラが出て来る領域の攻略だ。みんなの話では恐らくインド神話の領域ではないかと噂されているらしい。
ソーマ酒もインド神話に登場する酒だからここで手に入る可能性が高いとルインさんたちは予想したみたいだ。でも、インド神話って数ある神話の中でもかなりやばい神様が多い神話なんだよね。
ただ我儘を聞いて貰ったし、その先がルシファーに続いていることが判明している。母さんとの再会を果たす意味でも避けては通れない道なら押し通らせて貰うとしよう。そして他のルートの攻略も決まっていく。
現在、戦力は東に集まっている状態だ。北と南の攻略にも当然動ける。一度別の領地からの奇襲を受けているだけに領地から動けなくさせる為に同時攻略していくのが有効だろう。そもそも強そうな悪魔は結構今まで出てしまっている。その結果、同時攻略しても問題はないと結論付けた。
こうして会議が終わり、俺はルインさんに原初鳥の羽の羽ペンを依頼した。狙いは原初の加護がある魔導書だ。そしてミュウさんから和狐とブランのウェディングドレスを受け取ると更に俺の分の服も渡される。
「これからするなら見学させて。初の試みだから」
「それはそうでしょうね…というか西洋の教会でこれを着るんですか?」
俺の手には紋服という和服があった。ご丁寧に家紋ではなく、俺たちのエンブレムがある立派な服だ。そしてこの服装は和装の結婚式で着られる服の代表的な服でもある。つまりミュウさんは和装の結婚式にチャレンジしたわけだ。
「もちろん! 出来れば神社が理想的なんだけど、教会で和装の結婚式を挙げる人もいるんだよ」
そうなんだ。それじゃあ、そこまで変にはならないかな?俺としても和装の結婚式に興味がないとは言えない。やっぱり日本人だし、一つの選択肢ではあると思うんだよね。ただ女性のウェディングドレスの憧れを潰してしまうのがいけない所ではある。ミュウさんはちゃんと和狐に許可を取ってるみたいだし、和狐もみんなと全く違う服での結婚式に興味があるようだ。ミュウさんにそそのかされただけかも知れないけどね。
そんなわけで人生初の和装結婚式に挑むとしよう。




