#1058 騎乗訓練とリアンの結婚式
俺がサラ姫様に教えて貰っていると退屈なリリーたちはガルーさんたちと対戦をしたいと言い出した。負けっぱなしだからな。
「魔王との戦い前にすることじゃないだろ…」
「準備運動が出来て良かったな」
「姫さん…ってなんて剣を取り出しているんだ!?」
「え? 神剣アルカディオンだよ!」
「そんなもん使うな!」
ガルーさんは大変そうだ。そしてそれよりも大変なのが悪魔から復帰したブラスさんだ。
「なんですか? その鎧は?」
「セチアのエルフの技術と神の技術から作った現時点では俺たちの中で最強の鎧ですね」
「それを装備して私と戦うんですか?」
「当然です。これが私の全力の姿ですからね!」
俺とサラ姫様は平和に終わったがガルーさんとブラスさんはボロボロだ。
「生きているって素晴らしいな…ブラス」
「そうですね…」
リリーの大剣二刀流を受け続けたガルーさんとイオンに全くダメージを与えられず、斬り刻まれたブラスが黄昏ていた。
「情けない。これはもっと訓練を厳しくするしかないな」
「「「「いぃ!?」」」」
二人の騎士団長の敗北の被害は騎士団全体に広がるのだった。するとサラ姫様が感想を言う。
「リリーたちは随分強くなったな。武器の性能の高さもあるし、シルフィ姫様のドラゴンたちといい勝負が出来ると思うぞ」
「でしょうね。でも、なるべく完勝したいんです」
「内容は聞いているんだろう? 別に完勝に拘る必要はないと思うが」
「そうですね…でも、かっこ悪いじゃないですか」
これを聞いたサラ姫様はきょとんとした顔をした後、大笑いした。
「そこまで笑いますか…」
「いや、すまない。まさかそんなことを考えているとは思ってなくてな」
「まぁ、結婚が決まる勝負だ。これで花嫁さんに負けたら、確かにかっこ悪いわな」
「シルフィ姫様の事ですからずっとそのことを言いそうですしね」
それは俺が勝っても言い続けられそうな気がする。勝っても負けても同じなら俺は勝って男のメンツを保ちたい。
その後、俺はリアンの結婚式に向かう。みんな忙しい中、シルフィ姫様たちはしっかり出席しており、この後のレヴィアタン戦が心配になる。
「大丈夫ですよ。ガルーたちがしっかりやってくれていますから。それにこれはこれでレヴィアタンと戦う上で重要な事ですからね。だからタクト様も戦う前に結婚式を挙げてるんですよね?」
「確かにそうですけど、そう聞くと嫌ですね。この後、死にそうで」
なんか戦争やドラマとかで結婚してから死ぬことって結構多い気がする。するとシルフィ姫様が注意してくる。
「そんなことは言うものじゃないですよ。大丈夫です。各国が総力を挙げて戦うんですよ? 負けるはずありません」
「そうですね」
励まされちゃったな。俺が気合いを入れるとシルフィ姫様が聞いて来る。
「タクト様はどのくらい切り札がありますか?」
「正直かなりあります。どのくらいレヴィアタンに通用するのか分かりませんが出し惜しみはしないつもりですよ」
「やる気満々ですね。私も負けないように頑張ります。ただ神召喚はどうやら使わないほうがいいみたいですね」
「それは自分も聞いています」
アテナ曰く、レヴィアタンと相性が良くないらしい。呼ばれれば戦ってくれるそうだけど、呼んでも勝つとは思わないで欲しいと言われてしまった。レヴィアタンはサタン、ベルゼブブの次に強い悪魔と言われている程の実力者だ。そこまでになると例え神でも絶対の勝利とまで言えなくなるんだな。
「アテナ様もですか…それでも私は負けませんよ」
シルフィ姫様がシャドーボクシングをしていると結婚式に呼ばれる。呼びに来た男の人の何とも言えない顔に笑ってしまうとシルフィ姫様につねられることになった。自分がしたことなのに酷すぎる。
式場で待っているとリアンがやって来た。プリンセス風の純白のウェディングドレスにピンクのリボンがある可愛らしいウェディングドレスだった。リアンが俺の前でドレスをつまんで礼をする。
「お、お待たせしました…お、王子様」
滅茶苦茶緊張していた。やる気満々だったのに空回りしちゃった感じだな。リアンが顔を真っ赤にしていることが分かる。ここは乗っかるべきなんだろうな。
「あぁ。お手をお姫様」
「は、はいぃ~」
なんとも情けない声で返された。負の連鎖は止まらないな。カインさんが話している間も深呼吸を繰り返していた。カインさんに続けていいのか視線で訴えられるが気にせず進めて貰った。そのほうがリアンの為だと思った。
深呼吸の甲斐があったのか誓いの言葉はしっかり返すことが出来て、指輪の交換は普通に出来たところでインフォが来る。
『リアンとマリッジが結ばれました』
これで結婚式を終えた俺たちはリープリッヒでパーティーをする。
「リアンちゃんもリリーたちの仲間入りだね!」
「ささ。こっちですよ。リアン」
「さ、誘わないでください! ギリギリセーフだったはずです!」
それを聞いたリリーたちはリアンの深呼吸の真似をするとリアンが怒る。その隙にアリナが俺に耳打ちをして来る。
「お兄様お兄様。リアンはシルフィ姫様の真似をしようとしたの」
「ここでそれを先輩に言いますか!? アリナさん!」
何となくそんな気はしていた。本人がいたことも緊張に影響したんだろうな。そしてご飯を食べているとリアンは連行される。
「ほ、本当にあれに着替えるんですか? 結婚したばかりなんですけど…」
「だからこそです。アラネアさん」
「えぇ。ほら、行きますよ」
「わざわざ糸で拘束しますか!?」
どうやらリアンの衣装をここで披露するようだ。リアンがドアから顔だけ出す。
「や、やっぱりやめた方が」
「皆さん、手伝ってください」
「「「「おぉー!」」」」
伊雪の要請を受けてリリーたちが強制的にリアンを連れ出す。ブランや和狐は参加しなかった。自分たちの身に何が起きるのか分からないからな。そして俺たちの前に現れたのは黄色のアイドル衣装のリアンだった。
アリエスのアイドルワンピース:レア度10 防具 品質S+
重さ:10 耐久値:2000 防御力:800
効果:衝撃無効、妨害無効、寒無効、星気、神気、烈日、後光、陽光、全滑走、黄金障壁、英雄障壁、太陽の加護、神の加護
ゴッドウールのみで作られたワンピース。空や水中でも飛ぶように行動することが出来き、あらゆる衝撃と寒さから守ってくれる。見た目の可愛さでアイドルに人気がある。
間近でこういう服を見たことがない俺は思考が停止した。
「えっと…もうやけです! この衣装で先輩をメロメロにする歌を歌っちゃいますよ!」
「頑張れー! リアンちゃん!」
「ファイトですよ!」
こうして突如アイドルリアンのコンサートが開かれることになり、こんなことをさせたリリーたちにもリアンが反撃し、リリーたちまで歌を披露することになった。
「え…えっと…タ、タ、タクト~。タ、タ、タクト~。タクトのタは楽しいのタ~」
リリーの独特の歌に俺は絶句する。クはクッキーでトは得意で楽しくクッキーを作るのが得意と言いたかったらしい。意外にまともな回答で全員がびっくりした。
ここでアイドル衣装のリアンにどうしてこうなったのか聞くとオリハルコンの鎧を今後作るなら他のマーメイドで流行っているこの衣装にリアンも参加させる話になったようだ。プレイヤーの悪ノリの被害をリアンは受けたってことだな。
「わ、私はサフィさんに乗るので、この服で戦いに参加しなくてもいいですよね?」
「いや、今日は今までで一番大きな戦いになるから歌って貰うぞ。夕凪に乗って、歌って貰う予定だ」
「で、でも! マリッジした場合、タクト様がこの服になる可能性もありますよ! それでいいんですか!」
「「「「それはそれでありかも」」」」
ないよ。少なくとも女性物になることは絶対にないはずだ。男性のアイドル衣装に勝手に変えられることは起こるかも知れない。それにしてもリアンは必死だな。ただ防具の強さから見て、選択肢は無かった。
結婚式が終わった俺は夕飯の為にログアウトした。いよいよ最大の海戦が始まろうとしていた。




