#1048 イクスの結婚式
大勝利した後の土曜日の朝は素晴らしい気分で起きることが出来る。朝食を食べて、早速ゲームにログインする。リリーたちの分の朝食を食べ終えた後、今日の予定を話す。
「まず今日はイクスとノワの結婚式だな。イクスはこれからすぐでノワは夜の予定だ」
「イエス、マスター」
「…ん。準備万端」
この二人からは結婚式独特の緊張感が感じられないんだよな。ここでイクスから午前中は時間が欲しいと頼まれる。珍しいお願いだと思っているとイクスから予想外の言葉が返って来た。
「エクスマキナの仲間たちにウェディングドレス姿を見せに行きたいんです」
「そっか。それじゃあ、午前中はイクスに時間を使うか」
「…にぃ」
「分かっているよ。夜はノワの番な」
「…ん」
お昼の予定はハーベラスの進化クエストに俺が今、一番気になっている場所に行くことにする。
「え!? あの化け物がいる洞窟にまた行くんですか!?」
ヘーパイストスに驚かれる。まぁ、この反応は当然だろうな。だが、俺の狙いはもちろんテューポーンじゃない。
「テューポーンとは戦う予定はないよ。みんなは覚えているか? あの大きな猪が出て来た滝」
「もちろん覚えていていますがそれがどうかしたんですか?」
「あの時は確認出来なかったが滝の裏には確実に道がある。そうじゃないと出ては来れないからな」
「それじゃあ、あの怪物がいる所もいくつか道があるの? タクト」
「たぶんな」
ヘーパイストスのクエストに隠れされた謎の空間。お宝の匂いがどうしてもしてしまう。それなら調べるしかない。リリーたちにそのことを伝えるとやる気が急上昇した。お宝はいつの世も人を魅了する。この光景を見たヘーパイストスが呆れる。
「あんな目に会ったばかりなのに、やっぱりタクトさんたちは凄いですね。ボクには出来ませんよ」
「鉱石や結晶、宝石もあるだろうな。あのテューポーンがいる所にある鉱石なんてどんな鉱石なんだろうな?」
「う…お、お待ちしてます」
まぁ、来ないよな。あくまで素材集めは俺の仕事だ。頑張るとしよう。結婚式の前に聖杯タイムだ。今日は和狐でもう手に入れる物は決めている。
芭蕉扇:レア度10 扇 品質S+
重さ:5 耐久性:1500 攻撃力:800
効果:万物破壊、爆風波、暴風壁、旋風刃、大気波動、空振、神鎌鼬、熱波、浄炎、天雨、仙気、瀑布、気流支配、天候支配、神威解放
鉄扇公主が持つ芭蕉の葉の形をした巨大な鉄製の団扇。一度仰げば風を呼び、二度仰げば雲を呼び、三度仰げば雨が降る力があり、どんな炎も消す事が出来ると言われている。
和狐は手に入れた芭蕉扇を確かめる。
「金属なのに凄い軽いどす」
「仙人の武器の特徴らしいな。基本的には相手を近づけさせない武器らしいが相手に叩きつけても十分な火力があるらしい」
鉄製の巨大団扇で横からフルスイングされたら、普通は吹っ飛ぶだろう。まぁ、アマゾネスたちは腕で止めて、足を踏ん張ることで耐えたらしいけどね。アマゾネスはやはり武器の対応力が非常に高いことが昨日の戦闘で判明した。
それでも初見の武器にはどうしても対応出来ないから昨日攻略が出来ていなかったら、もっと難易度が上がっていたかもしれない。
気持ちを切り替えてイクスの結婚式に向かう。俺が着替えて待っているとシルフィ姫様がやって来た。明日のレヴィアタン戦に向けてみんなが大忙しなのにね。
「歴史的な結婚式ですからね。王女として関わらない訳には行きません」
「確かにそうかも知れませんがいつも来てるじゃないですか」
「皆さんの晴れ姿ですからね。これも王女の仕事なんですよ」
俺はみんなからの情報でシルフィ姫様が結婚式に現れるのは結構まちまちなのを知っている。召喚獣との結婚パターンとしてはアンリ姫様、アウラさん、ネフィさん、リーゼ、ガルーさん、エアティスさんが確認されている。
ガルーさん、エアティスさんはかなりレアでかなり付き合いがあって、セリアンビーストとホークマン、ハーピーがいると出て来てくれるそうだ。
サラ姫様とカインさんは残念ながら役割が固定されているらしい。誰か代わって挙げてもいいんじゃないかと思った。
またプレイヤーやNPCとの結婚も最近行われており、関わりが深いNPCが顔を出してくれるらしい。そんな話をしていると準備が整い、俺は結婚式の会場に向かった。すると神父役がグラン国王になっていて、ぎょっとした。
「ど、どうしてグラン国王が」
「今回のお主の結婚は獣魔ギルドとしてもこの国にとっても特別な結婚式となるからな。この結婚式だけは私が神父役として適任なのだ」
待っていると扉が開いて薄紫色の綺麗なウェディングドレス姿のイクスが入って来る。純白じゃないウェディングドレスは新鮮だな。そして何も失敗がないまま式が進んでいく。まぁ、イクスがドジをするとは俺も思っていない。
そしてグラン国王の誓いの言葉を聞き、お互いに誓い合うとマリッジリングを交換するとインフォが来る。
『イクスとマリッジが結ばれました』
『五人以上と結婚しました。称号『重婚の先駆者』が称号『ハーレムの先駆者』に進化しました』
称号『ハーレムの先駆者』
効果:結婚した相手との好感度上昇。
五人以上と結婚した者に贈られる称号。
ふ…いつかこんな称号が来るとは思っていたさ。それにしても重婚とハーレムは別なのか?どこからどこまでが重婚でハーレムとなるんだ?意味が分からない。
ハーレムの定義には詳しくないが二人だと三角関係になるし、三人以上でハーレムだと思っていた。まぁ、このゲームの場合は通常六人パーティーだからハーレムの定義が五人になっているんだろうな。それにしても結婚した後に好感度上昇と言われてもな。いや、円満な結婚生活を送る為には必要な称号なのかもしれない。ましてや複数と結婚しているからな。俺にとって、色々考えさせられる称号となった。
これでいつもなら終わるのだが、グラン国王さんが口を開く。
「二人とも、おめでとう。これでお主たちはこの星で初めて結婚した人間とエクスマキナの夫婦となった。フリーティアの国王として、夫婦としての新たな門出を祝福する。末永く幸せにな」
「「ありがとうございます」」
こうして結婚式が終わるとリリーたちが文句を言う。
「リリーも国王様が良かった~」
「イクスだけズルいですよね? これはもう一度、結婚式をやるしかないと思います!」
「お二人とも、また失敗をしたいんですか?」
「「次は失敗しないもん(しません)!」」
結局自分の結婚式をやり直したいだけだった。因みに恋火は反対した。あの緊張は二度と味わいたくないらしい。この辺りも性格が出るな。俺がカインさんを見ると落ち込んでいた。まぁ、普通凹むよな。正直な言葉は時に残酷なものだ。
その後、約束通りウェディングドレス姿のまま、エクスマキナの母星に行くと無重力でのウェディングドレスは予想外に大変なのを思い知ることになった。一方で起動したエクスマキナからは無表情の視線攻撃を浴びる事になる。それを見た俺は最初の頃のイクスを思い出した。廊下を進んでいるとアインシュタインさんと遭遇する。
「ついにお嬢ちゃんと結婚したようじゃな。おめでとう」
「「ありがとうございます」」
そこでエクスマキナの母星の現状を聞くとだいぶ機能が復活してきており、エクスマキナの最終兵器もエネルギーのチャージを開始しているそうだ。
「いよいよ決戦が近くなって来ましたね」
「まぁ、エクスマキナの起動を優先しておるからまだ準備を整えるまで時間が掛かると思うぞい」
「マスターアインシュタイン。マッサージのお時間です」
「すまんのぉ。お嬢さんたち。というわけじゃ。わしは失礼するぞい。ふぉっふぉっふぉ」
エクスマキナを二人連れて過ぎ去るアインシュタインさんに向けてイクスはデウススナイパーエネルギーライフルを構えたので俺は必死に止める事になった。そしてアポと面会する。
「そちらの星にはそんな文化があったのだな。確かに指輪を通じて二人が結びついているようだ。それにその武装も我々からすると奇怪でしょうがない」
「武装ではなく、ウェディングドレスです。あちらの星では服は戦う為だけにある物ではありません。相手を喜ばす為に着ることがあるんです」
「うん。否定できない所はあるけど、それだけじゃないからな」
エクスマキナたちの反応が理解出来たよ。エクスマキナたちにとって、服は戦う為の装備の一つという認識らしい。何の効果もないウェディングドレスを見た彼らはイクスはさぞ不思議なエクスマキナに見えたことだろう。
人間の文化を伝えて、理解して貰ったところでイクスがアポに要求する。
「わたしたちの星では、結婚には結婚祝いという物を贈る決まりがあります。よって、デストロイヤーユニットを要求します」
別に結婚祝いを贈る決まりは無いし、堂々と自分が一番欲しい物を要求したな。というかただこれを要求したいだけにここに来たんじゃないよな?もしそうなら俺の感動を返して欲しい。
「そうなのか…しかし流石に武装はあげることは出来ない。ただ贈り物はするとしよう」
マジで!?これはびっくりだ。するとアポはパネルを操作した。何をくれるんだ?
「今、お前たちのマザーシップに資源衛星のデータを送信した。行ってみるといい」
資源衛星ってこの場合は資源探査のための人工衛星の事じゃないよな。たぶん資源がある天然の衛星を資源衛星って呼んでいるんだろう。つまりアポは武器は上げれないけど、武器を作るのに必要な素材が沢山ある衛星を教えてくれたわけだ。これは嬉しい。
「「ありがとうございます。早速行ってみます」」
「あぁ。ふふ、息ぴったりだな。イクスのマスターよ。イクスを幸せにしてやってくれ。それがきっといずれ全エクスマキナの幸せに繋がることだろう」
「わたしもそうなることを願っています」
エクスマキナはずっと戦い続けて、幸せとはかけ離れ過ぎていたんだろう。それを一番悔やんでいるのはアポなんだとこの時、知った。俺もエクスマキナたちには戦闘以外の事をたくさん知って欲しいと思わずにはいられなかった。




