#1045 移動要塞と鬼神、月輝夜の初陣
夕飯を食べ終えた俺はガープ砦に向かい、移動要塞に入る。今回俺は蚊帳の外だ。俺がグレイたちをブラッシングしているとみんながやって来た。
「司令室に行かなくていいのかい?」
「これの技術提供はしましたけど、これを作ったのはエリクサーラピスですからね。一番これの事を知っている彼らに任せるのが一番ですよ」
「それもそうだな」
どうせ暇なので攻略の話や武器の見せあいをする。みんな聖杯やチケットの情報があるから武器の鑑定はかなり重要になって来ている。
「タクトさんは次は何処の攻略に動く予定ですか?」
「色々候補はあるけど、話に出ていた桜花の天照大神に会いに行くと思う」
「ということはスサノオの契約を狙うわけだね?」
「はい。後は戦力次第な感じですね」
オリハルコンの装備が整えばドラゴニックマウンテンに挑む事も可能になるし、ティル・ナ・ノーグに行くことも可能になるだろう。ただその前に俺は気になっている場所がある。それが火山島だ。
オリハルコンクエストでは色々余裕が無かったけど、色々な場所から敵が飛び出して来たということはそこには道があることを意味している。隠し通路にはお宝の臭いがすると言う物だ。だから一度本格的にあの火山島を調べるべきだと思っている。
そこでアナウンスが流れ、移動要塞が出撃するとみんなが外の様子を見る。
「すげー…本当に移動しているぞ」
「この中もちょっとした町ぐらいはあるし、本当に凄いな」
そして上で偵察していた人からアマゾネスたちが飛んできたところに到達したというアナウンスが流れると慌てた様子で矢の飛来を報告してきた。俺たちは外の様子を見るのを諦めて、完全防御態勢に移行する。
全ての窓が閉められ、大砲と機関銃が攻撃を開始した。
「俺たちは暇だな。タクト。タクト? 馬に乗ってどうしたんだ?」
「念のため。もし倒れたりした場合、空にいると影響を受けないだろう?」
それを聞いていたみんなはそれぞれの方法で空を飛ぶ。飛べない人は召喚獣の上に避難した。
俺は空間索敵で戦況も見ると最初は優勢に動いていたが、アマゾネスたちは作戦を変えた。移動要塞を囲むのではなく、一点突破を仕掛けて来た。すると大砲で吹き飛びながらも大砲の装填が間に合わず移動要塞に取り付くのを許してしまう。
それを知らせるように移動要塞の装甲から激しい音が次々聞こえて来る。
「お、おい…」
「大丈夫なんだよな?」
「彼らが大丈夫だと言っていたんだ。信じるしかないだろう。ただいつでも戦う準備だけはしておいた方がいい。ここはもう戦場なんだからな」
帝さんの言葉に全員が戦闘の緊張感が漂うが移動要塞はアマゾネスからの攻撃を耐え続けて、確実に前へと進んでいく。本当にレオナルドとエリクサーラピスの技術力は流石だよ。
そして城壁を攻撃範囲に収める所まで来たが肝心の大砲がアマゾネスたちが取り付いている状態のせいで動けない。ここで移動要塞攻略の為にサタナキアが仕掛けて来た。
空を飛ぶ魔女部隊が移動要塞の地面をスリップで凍らされてしまうとそこにアマゾネスの強烈な一撃が入ると移動要塞は回転しながらスリップした。
「タクトさんの読みは流石ですね」
「俺もこんなことになるとは思ってなかったけどな」
悲惨なのは司令室や砲撃手、運転手の人たちだよ。狭い場所や動けない場所でスリップするなんて最悪だ。きっと体をそこら中にぶつけている事だろう。すると今度は外から雷鳴や爆発音が聞こえて来た。
「魔法攻撃のようだな」
「移動要塞の装甲は魔法耐性、内部には遮断結界発生装置で守られていると言ってましたから大丈夫だと思いますが」
「アナウンスが聞こえなくなったところを見るとグロッキー状態の可能性が高いな。誰か見に行ってきてくれ。出来れば状況を伝えて欲しい」
「わかりました!」
それぞれが手分けをして、重要な部屋へと向かう。すると案の定部屋の中はボロボロ状態になっていた。家具など固定はしていなかったらしい。これはプレイヤー側のミスだな。
そしてアナウンスが現状の状態が伝えられるとまず移動要塞は現在キャタピラ付近が凍り付いていたらしい。その原因が新たな敵であるスネードロニンゲン。アンデルセンの童話のタイトルで日本語では雪の女王というタイトルで知られている。
その雪の女王が城壁の上にいるらしい。そのスネードロニンゲンは大砲を撃つために設置してあった門も凍らせており、移動要塞は攻撃手段を失ったただの要塞状態になっていることが判明した。
「これは出て行くしかないか?」
「ですね。ただ完全に包囲されてますけど」
「これって、もしかして」
「我々召喚師と猛獣使いが囮になるしかないですね。一番機動力がありますから」
これもいつもの流れだな。
「頼めるか?」
「はい。新戦力の力を試させて貰いますよ」
既に城門付近だ。月輝夜の実力を見るにはいい場面だと思う。するとギルドメンバーと上位ギルドから同行したいという意見が多数出て来る。召喚獣だけでは限界があるし、城内で暴れればここの守りも手薄になるだろう。
それぞれの部隊編成を決めて、最初に飛び出したのはワントワークで発見された楽園、桃源郷に初めて到達したプレイヤーの一人だった。その手には珍しい鉄扇があった。
「かかれー!」
アマゾネスたちは当然集まる。だからこそ彼が立候補した。
「爆風波!」
「「「「ぐぁあああ~!?」」」」
「まだ行くぜ! 浄炎!」
「「「「くぅううう~!?」」」」
鉄扇の一振りでアマゾネスたちは吹き飛ぶ。更にもう一度振ると今度は火炎が発生し、アマゾネスたちを苦しめる。彼が持つ鉄扇は西遊記に登場する牛魔王の妻、鉄扇公主が持つ鉄扇で名前は芭蕉扇という。
桃源郷で手に入れた物でここには西遊記、中国に関わる物が交換できるそうだ。呂布の方天画戟、項羽の戈、孫悟空の如意金箍棒などが見つかっている。
因みに桃源郷に行く方法は仙術の仙郷移動を覚えてからワントワークの王様に話すと仙人のコンパスを貰い、仙郷移動で桃源郷に向かう流れらしい。山越えをさせられる上に四神や東洋の龍に襲われて大変だったと教えて貰った。
芭蕉扇は雨を降らしたり、風で孫悟空を吹き飛ばすなど伝説があり、このゲームでは更に天候に関わる能力が追加されている。扇の伝説の武器は少ないから恐らくこれが扇の武器の中で最強の武器なため強化がされているのではないかとサバ缶さんたちは予想していた。
これで道は開けたので俺はダーレーと共に飛び出す。
「さぁ、進化したお前の力を見せつけてやれ! 来い! 月輝夜!」
「グォオオオオオ!」
「な、なんだこの化け物は!?」
「恐れるな! アマゾネスの戦士たちよ! 皆で襲い掛かれ!」
吹き飛ばされたアマゾネスたちが果敢に月輝夜へ襲い掛かるが月輝夜は拳の一振りでアマゾネスたちを城壁までぶっ飛ばした。ここで猛吹雪に空から無数の魔法が月輝夜に向かってくる。しかし月輝夜は魔霧を発生させて、魔法をガードすると城壁に向けて口から炎ブレスを吐く。それは氷の壁でガードされる。
スネードロニンゲンLv70
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
あれが雪の女王様か。中々強い敵らしいな。
「グォオオオオオ!」
月輝夜は顕明連を持ち、城壁に走り出した。下にいたアマゾネスたちは無残にも踏みつぶされている。ここで俺を守ってくれるのがいなくなったので、グレイたちを呼び出し、それぞれバラバラに動く。グレイたちももうアマゾネスたちとの戦い方は分かっており、遠距離攻撃をしていた。
みんなも外に出て、参戦する。月輝夜の登場でアマゾネスたちの優位性が完全に失われてしまった。この状況にアマゾネスたちは動きを止めてしまっていたからだ。
まさに天災を目の当たりにした人間のようだと思った。ただ城壁にいるアマゾネスたちは月輝夜の進軍を阻もうと強弓で必死の抵抗を見せていた。だが弓が刺さっても月輝夜は進軍を止めず、スネードロニンゲンに顕明連の覇撃が直撃した。あれは死んだな。城壁も木っ端微塵。中にある建物までぶっ壊す強烈な一撃だった。
「この!」
「よくも城壁を!」
アマゾネスたちは強弓を捨て、格闘戦を挑むが月輝夜はびくともしない。それどころが魔素の手でアマゾネスたちを捕まえると握りしめると建物や地面、無事な城壁に叩きつけてしまった。これが魔素解放と魔素支配そして物質化の三つの能力を組み合わせた月輝夜の能力だ。
更に月輝夜の腕も伸び、アマゾネスを潰すと元の腕の長さに戻る。月輝夜の伸縮はそうやって使うんだ。ここでアーレイが聞いて来る。
「お前の鬼はいつから悪魔の実を食べたんだ?」
「知るか」
他の皆も月輝夜を見て、同じネタを思い浮かべたようだ。
「あ、あの化け物を仕留めろ!」
「一斉攻撃よ! あ」
攻撃に出ようとした魔女たちを月輝夜が見ると目が赤くなり、それを見てしまった魔女たちは爆発する。更に目が紫色に変化すると目から死滅光線が放たれ、魔女の一人が消し飛ぶ。
「く…機動力で攻めるぞ!」
態勢を整えた魔女たちは月輝夜に接近する。すると月輝夜の角に稲妻が発生した。
「グォオオオ!」
「「「「きゃあああ!?」」」」
電弧放電で月輝夜に近付いた魔女たちは感電し、地面に落下し、踏みつぶされた。
「苦労した甲斐があったな」
これを見た他の魔女たちは月輝夜を警戒し、飛び回っていると召喚師と竜使いの部隊が魔女たちに襲い掛かった。更に騎乗している与一さんやシリウスさんたちがバズーカやロケットランチャーで町を攻撃する。
これで制空権も確保しただろう。俺は移動要塞で待機している残りの人たちにも安全を確保したことを伝えるとみんなが出て来ると猛吹雪が発生する。死んでなかったか。
城壁に巨大化したスネードロニンゲンが現れる。それを感じ取った月輝夜が振り返ると二人の手に魔力が集まる。
「アァアアアアア!」
「グォオオオオオ!」
スネードロニンゲンの極寒波動と月輝夜の冥波動がぶつかり合うと互角に終わる。
「アァアアアア!」
次にスネードロニンゲンは地面から氷の剣山が次々生えて月輝夜に襲い掛かる。月輝夜は煉獄を使い、無効化するとスネードロニンゲンはこれに対して氷獄を使用する。結果、月輝夜の周囲が灼熱地獄、スネードロニンゲンの周囲が極寒地獄となる。
もう誰かが乱入出来る状態じゃないな。ここで月輝夜はスネードロニンゲンに向けて走り出した。遠距離戦では埒が明かないと思ったらしいな。
ここで月輝夜の背後にある城から魔神波動が飛んで来る。
「絶対防御!」
俺が月輝夜の守りに入り、魔神波動を防いだ。
「やれやれ。月輝夜の戦いに横槍を指すなよ。月輝夜、あいつは俺たちが引き受ける。あの雪の女王様は任せるぞ」
「グォ!」
ここでグレイたちが俺の隣にやって来る。本当にグレイたちは優秀だよ。俺の気持ちを組んで集まってくれるんだからさ。俺たちとプレイヤーたちは城へと向かい、月輝夜はスネードロニンゲンとの勝負を続行する。スネードロニンゲンは時間が出来たためか魔法を使用しようとした瞬間、背後から無数の砲撃が命中し、魔法が不発する。
スネードロニンゲンが睨むとそこには移動要塞があった。そして移動要塞に向けて、極寒波動を放つ。するとこれをチェスが身体で止めた。チェスに氷属性は効かない。
そしてチェスは覇撃を使うと絶対防御でガードされてしまう。だが、これで絶対防御はもう使えない。月輝夜の前でよそ見をした上に絶対防御まで使ってしまうとは致命的なミスだ。スネードロニンゲンが振り返ったその時、月輝夜の腕が伸び、スネードロニンゲンの顔面にパンチが炸裂した。
更にもう一方の腕がスネードロニンゲンの首を掴むとそのまま引き寄せ、戻していた腕で渾身のパンチでぶっ飛ばした。雪の女王様に手加減なし。これが鬼神だな。
「グォオオオオ!」
「アァアアアア!?」
城壁に倒れ込んでいるスネードロニンゲンに月輝夜の獄炎が炸裂し、スネードロニンゲンはのたうち回っている間に月輝夜の拳に魔力が集まる。
「グォオオオオオ!」
月輝夜が拳を連打すると魔力の拳がスネードロニンゲンに殺到し、打撃と共に爆発が発生する。これが月輝夜の魔神技オーガラッシュだ。これをスネードロニンゲンは全てくらい、元の大きさに戻り、倒れたまま動くことは無かった。
「グォオオオオオ!」
月輝夜は勝利の雄叫びを上げて、俺たちが向かった城へと進軍を進めるのだった。




