#1042 タクトの誕生日
今日は俺の誕生日。学校が終わると家に帰るとVRに必要な機材とソフトを持って、近衛家に向かう。もうゲーム内で何かを企んでいる事を隠す気ゼロ過ぎて笑ってしまったよ。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
「あれ? 佳代姉たちは? 車はあるみたいだけど」
「三人なら部屋で誕生日プレゼントの準備中よ」
何を企んでいるやら…まぁ、主役だし、何も考えないようにしよう。
しばらくすると三人が降りてきた。
「せい君!?」
「兄ちゃん!?」
「…兄様、お帰り」
「ただいま。義父さん、義母さん、三人が降りてきたよ」
「やれやれ。それじゃあ、誠吾君の誕生日を始めようか」
義父さんの様子から普段三人がどれだけ迷惑をかけているかわかってしまうな。
義母さんが大量に作ってくれた料理が並ぶ。
「…作りすぎじゃない? 母さん」
「大丈夫よ」
あ、俺が全部食べることが前提の大丈夫発言だ。すると父さんが言う。
「母親は久々に帰ってきた息子にはたくさん料理を作ってしまうものだよ」
あるあるみたいだな。これは頑張るしかない。
「…しんど」
「よく頑張ったね。母さんもご機嫌だよ」
「良かったよ」
俺が食べ過ぎていると佳代姉たちが俺の身体をゆすって来る。
「せい君、時間がないよ!」
「急がないと不味いんだよ! 兄ちゃん!」
「…早く」
俺は二階に連行されて、三人が急いでゲームのセッティングをする。三人が早すぎて出る幕ないよ。セッティングが終わると十分待つように言われる。こうしてゲームにログインした俺は自分の部屋で十分待つ。
『もういいか?』
『いいよ』
俺が下に降りると巨大なプレゼントボックスがあった。その近くにはメルたち以外にシフォンたちがいた。やはり共犯だよな。
「これが私たちからのプレゼントだよ」
「そうだよ! タクト!」
「「「「リリー(ちゃん、お姉様)!?」」」」
「あ」
リリーの声が思っきりプレゼントボックスから聞こえた。しかもイオンたちの声までしたぞ。まぁ、この中にみんなが隠れているのはバレバレだ。問題はリリーたちがプレゼントと言われても意味不明なんだよな。
「え、えーっと…これからが本番だから大丈夫! だよね?」
「まぁ、リリーたちが入っていることは何となくわかってたからな」
「ふ…驚くはずだぜ? タクト。何せ」
「あんたはネタバレしようとしない」
「あはは…それじゃあ、もう開けちゃおうか」
しまらないな。なんともシフォンたちらしい。ここで板に色を塗ったプレゼントボックスが開いてリリーたちが姿を見せる。
「「「「じゃーん! 誕生日おめでとう! タクト(さん、様、お兄ちゃん)!」」」」
登場したのは制服姿のリリーたちだった。それぞれ制服のデザインが違っていて、全員凄く似合っていた。そしてこの瞬間、俺の誕生日の仕掛け人にミュウさんが関わっていることが確定した。
「あ…あぁ…ありがとう。もしかして全員分の服を注文したのか?」
「まぁね。あ、お金の事は聞くのはタブーだよ」
制服は今まで聞いたことが無い。しかもリリーたちの為の特注品だ。かなりの金額が掛かったことが容易に想像できる。
「どう? どう? タクト? タクトが大好きな制服だよ!」
「…誰がリリーにこんなことをふきこんだんだ? イクスか? リビナか? アーレイか?」
全員がアーレイを指差す。よし、犯人確保だな。
「ちょ!? 待て! 制服が嫌いな男はいないだろうが! それともお前は嫌いだと言うのか?」
「まぁ、好き嫌いは分からないがリリーたちに似合っているのは事実だな。勘弁しといてやるか」
「因みに一人ずつどんな制服にするか熱弁していたのもアーレイよ」
「ちょ、おま!? あぁあああああ!?」
俺がアーレイにアイアンクローをしているとリリーがメルたちに聞く。
「もうタクトに抱き着いていい?」
「えーっと…その格好で抱き着くのは色々不味いかな?」
「私もそう思うよ。リリーちゃん」
「「「「えぇー」」」」
メルとシフォンは何やら大変な様子だ。確かに制服姿のリリーたちに抱き着かれるのは色々問題有りな気がする。ここで背後から声を掛けられた。
「お誕生日おめでとうございます。タクト様」
「ありがとうござ」
ここで振り向いた俺は思考が停止した。そこには制服姿のシルフィ姫様がいたからだ。俺はメルたちを見るとしてやったりの笑顔を浮かべている。リリーたちで完全に油断していたよ。
「ふふ。驚いてくれたみたいですね。サラとアンリ」
「ス、スカートが短すぎないか?」
「ほら。サラお姉様、女は度胸ですよ!」
制服姿のアンリ姫様に背を押されて、制服姿のサラ姫様が現れる。
「へ、変なら変だとそう言え!」
「いや、似合ってますよ? 凄く可愛いです」
「お、おだててももう二度と着ないからな!」
部屋へと戻ろうとするサラ姫様をシルフィ姫様は止めてしまう。
「ダメですよ。サラ。タクト様の誕生日が終わるまではこの格好でいる約束のはずです」
「く…」
どんな約束を妹としているんだ?いつもながらシルフィ姫様の謎の行動力には絶句してばかりいるな。
「あの…これ、ガルーさんから渡された手紙です」
「手紙?」
誕生日カードか何かだろうか?俺はアンリ姫様から受け取った手紙を見る。
『ありがとう。フリーティア城一同』
全然俺の誕生日とは関係が無かった。わざわざ一同とか書いているあたり、妙に生々しい。気になるのはここにグラン国王が入っているかどうかだ。俺は入っている気がするな。
それからどうしてこんなことになったのか説明を受ける。どうやらリリーたちに俺の誕生日を知らせたのはメルたちでミュウさんにサプライズの衣装がないか相談した結果、制服を提案されたそうだ。ミュウさん曰く、ずっと前から作れたそうだが、防具としての性能が無いからお蔵入りしていたらしい。
制服を着れることに喜んでいたリリーたちは遊びにやって来たシルフィ姫様たちにこのことを暴露して、シルフィ姫様が自分たちの分も注文して、サラ姫様とアンリ姫様を強制的に巻き込んだという流れらしい。
「結構前から企画していたんだな」
「色々準備をしていたからね。これもその一つだよ」
メルたちが誕生日ケーキを取り出す。ここまで来るとルインさん達も巻き込んでいるな。わざわざリリーたちのシュガークラフトを作っている所が物凄いな。
「「「「すごーい!」」」」
「ん? リリーたちは初めてみるのか?」
「「「「うん!」」」」
「先に見せると食べたいとか言い出しそうでね」
メルに言われて、気まずそうになるリリーたちであった。それを見た俺はメルの判断は正しかったと思った。それからリリーたちに順番に食べさせて貰っていると最後にシフォンが勇気を出して、アスモデウスとの戦利品であるアスモデウスグリモワールを使用する。
「じゃ、じゃあ、いくよ? 色欲門!」
シフォンがピンク色に発光すると俺たちが全く知らない制服姿にドラゴニュートの姿になったシフォンが現れた。なんだ?この能力は?
「えーっと…ど、どうかな? タクト君」
「どうと言われても服や見た目を変える能力なのか?」
「まぁ、そっちに感想が行くわよね。ただ女性としては夢の能力なのよ。自分が着たい服にお金もかけずにいつでも着替えることが出来るわけだからね。しかも種族の見た目の他に体格や髪の毛の色まで変更出来るのよ」
確かにミランダの言う通りかも知れないな。ただ見た目が変化するだけでドラゴニュートとしての能力を得る事は出来ないそうだ。更に最大の問題点をメルが指摘する。
「ただ色欲門なんてわざわざ言わないといけない所は問題ありだよね」
「わざわざ言わないでください!」
確かに口に出さないといけないのは問題ありだな。俺は強欲門で良かった。こんなことがあり、俺は皆に感謝を言うと誕生日会が終わった。その後、リビナに聖杯を使う。
「ボクもいいのが無いんだよねー」
「一応確認しておくがノワと一緒じゃ、嫌なんだよな?」
「それはそうでしょ」
「それならブリーシンガメンが一番良さそうだな。もしくは相対転移の指輪も面白そうではあるが、どうする?」
「ブリーシンガメンってあの豪華な首飾りだよね? ブリーシンガメンで!」
即答かよ。その理由が見た目なのはリビナらしい。まぁ、俺もいい選択だとは思う。接近戦をリビナは得意としていない。その接近戦で相手に距離を取らせるブリーシンガメンはかなり相性がいいと思うんだよね。
解散後、サラ姫様が伝えてくれる。
「そうだ。話が合った騎乗戦闘の件、いつでも教えられるぞ。後、私以外の悪魔にされた騎士たちも無事に人間に戻ったことが確認された」
「そうですか。良かったです。今は立て込んでいるので、騎乗戦闘の件は近い内に連絡させて頂きます」
「あぁ。ではな」
ここでシルフィ姫様が聞いて来る。
「私との勝負はいつにしますか? かなり力を付けているみたいですけど」
「せめてジークを進化させて挑ませてください。そう言えば詳しい内容って聞いてませんでしたよね?」
「そうでしたね。勝負の内容はまず召喚獣をお互いに一体ずつ同時に出す勝負が四試合。五試合目は召喚師を含めた七対七の勝負にしましょう」
六じゃないって事はシルフィ姫様のドラゴンのマリッジバーストを使う気満々だな。
「それって先に三勝をした方が勝ちってことですか?」
「そうなりますね。ただ勝っても試合全てはやって貰います。召喚獣がタクト様を認めるかどうかの試合ですからね」
シルフィ姫様との勝負は避けられないが結婚する条件は三勝すればいい訳だな。ただ全然楽じゃないんだよな。何を出して来るのか分からないし、手抜きなんてして勝てる相手だとは思えない。何よりシルフィ姫様の召喚獣が手抜きなんてする男を認めたりはしないだろう。
「分かりました」
「ふふ。絶対に負けませんからね」
「それはこちらも同じですよ。な? リリー」
「うん!」
これで解散となり、今日はみんなと一緒に寝ることになった。そこでみんなから伝えられる。
「「「「生まれて来てくれて、ありがとう」」」」
「俺の方こそ、俺と出会ってくれて、ありがとうな。みんな」
「「「「えへへー」」」」
みんなの笑顔を見ながらログアウトした俺は現実のベッドで呟く。
「この幸せを守らないとな」
誓いを新たなにして眠りに落ちるのだった。




