#1039 覚醒したパンドラとサタナキアの作戦
俺たちが帰ると神気を滾らせて、つっこんで来るパンドラが見えて、俺たちは一斉にヘーパイストスから距離を取る。するとヘーパイストスも神気を滾らせる。受け止める気だ。
「どーん!」
「ごはぁ!?」
ヘーパイストスがうちの門に光速でぶつかり、門が木っ端微塵になってしまった。
「お帰りなさい! おじ様達! 約束を守ってくれてありがとう!」
「あ、あぁ…約束を守れてよかったが生きているか? あれ」
すると瓦礫からヘーパイストスが顔を出す。
「な…なんで…」
そして倒れてしまった。オリュンポス十二神を倒すとは…やるな。パンドラ。そう思っているとキキがやって来た。
「これは何があったのでしょうか?」
「「「「ひ!?」」」」
全員が俺の後ろに隠れる。とにかくヘーパイストスを救出し、パンドラに門の修復を命じる。ここでヘーパイストスが言う。
「パンドラから僕の力の他にもう一つ別の力を感じます」
「それって、パンドラに使った神核アニマスフィアが原因か?」
「恐らくそうだと思います」
「終わったよ! おじ様!」
はや。門を見に行くと物凄く立派な門になっていた。ご丁寧にドラゴンの装飾までされている。
「…パンドラ?」
「折角だから作り直して見た!」
「いや、でも、どうやって?」
「こうだよ! 万物創造!」
家の周りの壁が門と同じ素材とデザインの物に変わった。これを見た俺は確信した。
「スプンタ・マンユの力が使えるようになったのか」
スプンタ・マンユはアンラ・マンユと共に創造神に位置している。パンドラに使った神核アニマスフィアがスプンタ・マンユの物なのか確信を得られなかったけど、間違いなさそうだ。ここで俺はついヘーパイストスを見ると真っ白になっていた。
ヘーパイストスはギリシャ神話では数多くの武器を作製した紛れもない天才だ。しかし鍛冶と炎の神であっても創造神が相手ではレベルの差は歴然である。何故なら鍛冶は金属があってこそ成り立つ。その金属や鍛冶道具、果ては炎まで全てを作り出すのが創造神だ。この力の差を見せつけられたヘーパイストスは膝から崩れ落ちる。
「神になっても僕は娘には勝てないのか…」
「まぁ、なんだ? 親なら子が自分を超えたことを喜ぶべきだと思うぞ? それにまだ鍛冶で負けたわけじゃないだろ?」
「そ、そうですね! あっという間に抜かれそうな気がしますが、頑張ります! というわけでタクトさん! 貯めに貯めたオリハルコンを下さい!」
「あぁ…ユウェル、オリハルコンを出してくれ」
「分かったぞ! でも、師匠が作ってくれる鍛冶のハンマーと交換だからな!」
ユウェルには暫くオリハルコンを生産して貰っていた。更にヴェルンドの指輪でも生産を続けていたのだ!全てはこの日の為にね。というわけでまずはオリハルコンの鍛冶に必要な鍛冶ハンマーを依頼する。すると問題となっていた鍛冶ハンマーだがどうやらパンドラは自分でこの鍛冶ハンマーを作れるそうだ。残念ながら自分の分ともう一つしか作れないみたいだけどね。
というわけでヘーパイストスにはユウェルの鍛冶ハンマーを頼み、パンドラにはクロウさんたち用の鍛冶ハンマーを作ってもらう事にした。
「にゃー…」
「はいはい。リオーネには使った分の宝石な」
「にゃ!」
それから島でリオーネの為の宝石を食べさせている間にファリーダの成長を実行することにした。実行するとファリーダの周囲の地面から炎が発生し、ファリーダの体内に入っていくと成長が終了した。
『ファリーダが成長をしました。流星、炎熱操作を取得しました』
『投擲操作が念動力に進化しました』
『擬似魔神化が魔神化に進化しました』
名前 ファリーダ 魔王Lv20
生命力 183→223
魔力 318→358
筋力 454→494
防御力 139→179
俊敏性 213→253
器用値 196→236
スキル
戦斧Lv40 魔拳Lv31 舞踊Lv10 強激突Lv10 無視Lv9 危険予知Lv10
魔力感知Lv9 投擲操作Lv18→念動力Lv18 空脚Lv34 荷重操作Lv34 魔王覇気Lv38
魔力飛行Lv21 紅炎Lv24 焼尽Lv2 陽炎Lv18 火炎装甲Lv21
炎魔法Lv16 暗黒魔法Lv15 爆魔法Lv38 時空魔法Lv37 集束Lv35
堕落Lv20 黒炎Lv12 物理破壊Lv38 防御無効Lv29 戦闘高揚Lv29
肉体活性Lv22 魔力支配Lv35 炎熱操作Lv1 引力操作Lv20 重力操作Lv26
焼失弾Lv30 魔王波動Lv24 炎波動Lv12 熱波Lv25 多連撃Lv30
多乱刃Lv34 流星Lv1 諸刃の一撃Lv7 魔王技Lv23 魔素解放Lv25
魔王魔法Lv6 妖精の輪Lv4 魔王の加護Lv22 破壊の加護Lv25 擬似魔神化Lv6→魔神化Lv6
ステータスの上がりが凄いな。そして遂に魔神化を覚えたか。
「どうだ? ファリーダ?」
「いよいよここまで来たかって感じね」
「次がたぶん進化だもんな」
「えぇ…ただその前にはお父様に勝たないといけないけどね」
火の対策は結構進んでいるからこのまま強くなっていけば何とかなる気がする。まぁ、相手がイフリートだから水の武器も考えた方がいいな。
俺はメールでみんなにオリハルコンクエストのクリアを報告し、ここで夕飯の為にログアウトした。そして再度ログインした時に改めて詳しい説明をする。
「それじゃあ、そのハンマーの一つは俺たちにも回せるわけだな?」
「はい」
「だけどよ。ただで貰う訳にも行かねーよな。俺たちが作ったオリハルコン装備もヘーパイストスには勝てないだろうしな。どうするよ?」
「オリハルコンの武器と釣り合う物は神の武器か封印石、神石辺りになって来るな」
「頑張って下さい」
クロウさんたちに睨まれる。だって、実際にそこが問題になっているんだもん。クロウさんたちには頑張って貰いたい。まぁ、ルインさんに頼んで冒険者達から集める事になるだろう。どんなものが集まるのか超期待だ。
そして話はサタナキアの砦の話となる。
「アマゾネスがいるのか…」
「他にもウィッチやレディデーモンというお色気たっぷりの悪魔が確認出来たでござるよ」
「「「「レディデーモンについて詳しく聞こうか」」」」
そこにすぐ飛びつくのは男の性なのだろうか?
「本来ならもっと喜ぶところなんだろうがアマゾネスはトラウマなんだよな」
アーレイは相変わらずだな。
「君たちが出会ったアマゾネスは援軍として呼べないのか?」
「例え呼べても敵になるだけじゃないですか? 帝さん」
「そうだったな…」
シリウスさんの言う通りで今回は男だけで攻略しないといけない。
「アマゾネスが何処まで強いかですよね…とにかく戦ってみますか。どんな結果になろうとも戦うことに意味があると思いますから」
今回の同時攻略戦はそもそもお互いに背後から奇襲を受けないようにするための作戦だ。だから戦う事自体に意味がある。
というわけで作戦開始時間になると俺たちはサタナキアの砦に向けて進軍を開始した。俺は回復させたグレイたちを召喚して、部隊の最後方に陣取る。みんなが順調に進んでいると最初に仕掛けられたのは俺たちだった。
『砦から巨大な矢が射出されました!』
『撃ち落としてください!』
召喚師たちが撃ち落とすと破壊された巨大な木の中からアマゾネスが現れて、召喚師たちに襲い掛かって来た。突然の奇襲に召喚師も召喚獣も対応出来ず、次々墜落させられる。その中には蒼穹とコーラルが含まれていた。
二人を落としたアマゾネスは一緒にいたジークに狙いを定める。
「キュ!?」
「メ~!」
突然のアマゾネスの襲来に驚くジークが棍棒で落とされそうになった所にロコモコが割って入るとロコモコにアマゾネス二人の棍棒の攻撃を受けた瞬間、衝撃吸収で棍棒の攻撃は威力を失ってしまった。ロコモコはやる時はやる奴なのだ。逆に雷放電を浴びせた所でヒクスとスピカが撃破した。
するとまた別のアマゾネスが襲い掛かって来ると地面に落とされて、怒った蒼穹とコーラルがアマゾネスたちに襲い掛かる。コーラルは炎分身をアマゾネスにぶつけて紅炎の効果で炎上させると蒼穹の気流操作でアマゾネスたちは燃えながら空を回転しながら落とさせた。
しかしアマゾネスも流石であの状態で体勢を整えて着地を決めた。そこにレイジさんたちが槍で襲い掛かるとアマゾネスは槍を掴むとそのままレイジさんを投げ飛ばした。目とか回っているはずだ。それを考えると戦闘の勘だけで攻撃を察知したと見るべきだな。
「嘘やろ!?」
「シールドタックル!」
満月さんの突進も素手で止められると盾ごと持ち上げられて投げ飛ばされる。そして二人は別のアマゾネスに背中から抱きかかえれると地面に頭から突き刺されられた。
本当にサタナキアに操られているんだろうか?連携が見事すぎるぞ。
「落ち着け! 無暗に飛び込むと死ぬぞ」
鉄心さんの声にアマゾネスから一先ず距離を取ろうとするが敵は甘くなった。次々木のアーバレストが飛んで来るのだ。しかも狙いは直接俺たちを狙う攻撃や全く違う方向を狙う矢があった。
「ディアン! ストラ! 撃ち落とせ!」
「レッカさんたちもお願いします! このままだとアマゾネスに囲まれてしまいます! 与一さん達はアマゾネスを狙ってください」
ここで第六感が空から発動する。なんだ?俺が疑問に思っていると飛んで来るアーバレストの矢から弓装備のアマゾネスたちが構えている状態で飛び出して来た。
「まずい! 覇撃だ!」
「与一さん! しまっ!?」
向かい打てる人を動かしたから迎撃が間に合いそうにない。
「虎徹、チェス、黒鉄、リオーネ! 覇撃だ!」
覇撃同士がぶつかり合い、撃ち落とすが相手のほうが数が多く、残った覇撃の矢が魔法使いの部隊に直撃する。
更には覇撃同士のぶつかり合いの隙にアーバレストの矢が俺たちの後方に抜けてしまった。そして地面に落下した巨大な矢にある扉が開いてアマゾネスたちが現れる。
恐らくモデルにしたのはトロイの木馬だな。巨大な木の馬の中に隠れて城の中に潜入したトロイア戦争の勝敗を決めた有名な作戦だ。それか戦争で使われた人間魚雷だろうか?
人間魚雷は魚雷そっくりに作られた潜航艇の事で先端に爆薬があり、自爆攻撃の手段として使用された。ほとんどは先端が取り外し可能になっているらしいけどね。残念ながら日本では自爆攻撃の手段として使用された歴史がある。
そんなことを考えていると出て来たアマゾネスたちはサーベルを構えて、向かって来た。
「ガァアアア!」
グレイが迎撃に動くがすぐにアマゾネスたちに幻狼があっさり倒される。そしてみんなも迎撃に動くが全員が押される。
優牙は噛み付こうとするとアマゾネスは牙を捕まえて、そのまま優牙をジャイアントスイングしてしまう。更にゲイルの雷速の動きにアマゾネスは棍棒装備のアマゾネスはカウンターを決めていた。黒鉄に至ってはあっさり倒され、次々踏み台にされてしまった。黒鉄のメンタルが心配だ。
虎徹は至っては四人のアマゾネスに襲われて、パワーで押し込まれている。これは間違いない。アマゾネスたちは大物殺しスキルを持っているな。
『アマゾネス相手に接近戦は不利だ! 接近戦は最後の手段として遠距離攻撃に切り替えろ』
俺がそう指示しても攻撃を受けても前に行くことを止めないアマゾネスたちにグレイたちは突破されてしまう。そして俺の背後に陣取っていたディアンにアマゾネスたちは襲い掛かる。
流石にディアンの毒域には入らないか跳びあがったアマゾネスたちがディアンに攻撃しようとした瞬間、斥力場で弾き飛ばされて、重力操作と水圧操作で毒域に落とした。自分たちが危険だと思って、避けた所に落とされたのだ。流石に詰んだだろう。そう思っているとディアンの斥力場を逆に利用し、空高く跳びあがり、夕凪に乗っている俺に襲い掛かって来る猛者がいた。
「やはり身体能力が抜群に高いな…だが、簡単には俺に挑めないぜ?」
アマゾネスたちに粘着糸が足に絡みつくと擬態と空虚で隠れていたぷよ助の身体の中に引きずり込まれる。それでもアマゾネスたちはぷよ助の体内で暴れる。大したものだが、アマゾネスたちが消滅していく。流石にどれだけ丈夫でもぷよ助の粒子分解からは逃げる事は出来なかった。
だが、ディアンの突破方法を見つけたアマゾネスたちが次々やって来て、ぷよ助の対処可能数を超えてしまった。
「くらえ!」
サーベルとくるくる回しながら斬りかかって来る。こういう剣術と戦うのは初めてだな。しかし彼女たちには決定的な弱点があった。
「遅い」
「な…に…?」
爺さんと戦ったばかりだからどうしても動きが隙だらけに見えてしまっていた。しかし腹に一撃を与えても、アマゾネスは反撃してくる。
「しゃ!」
「だから遅いって」
「この! 地」
「閃影。この間合いでスキルが使えるわけないだろう?」
しかし次々アマゾネスが夕凪の守護結界を壊して落ちて来る。その際に夕凪はダメージを受けてしまうが夕凪は耐えている。
「女神アテネの加護を受けた英雄!」
「勝負しろ!」
「大将の首を獲れ!」
狙われる理由が多すぎる俺だ。
「大人気だな」
「嬉しくない人気だけどな。悪いが手伝ってくれ。ダーレー」
「おう」
人化したダーレーが相手をするとアマゾネスを俺同様に圧倒する。やはりパワータイプな分、動きにかなりの無駄がある。そんな相手に負けるダーレーでは無かった。ダーレーは俺と同じ武器と格闘術を組み合わせて戦うタイプだからな。アマゾネスとの相性が良かった。
後は打撃や斬撃に強いに白夜も霊化を駆使して相性がいいらしい。他の召喚獣も打撃がそもそも聞かない幽霊系の召喚獣が圧倒的な有利性を誇っているようだ。これを見たグレイも霊化を駆使している。
「く…全員で一斉に襲い掛かれ!」
ご丁寧に教えてくれてありがとう。俺は夕凪から離れて地面に降りるとアマゾネスたちは後を追って来た。
『テレポート』
俺に放った攻撃が空振りするとアマゾネスたちは夕凪の渦潮に捕まった。夕凪を甘く見るからそうなるんだよ。このアマゾネスの始末は夕凪に任せよう。
「「「「はぁあああ!」」」」
空脚でアマゾネスたちが俺目掛けてやって来る。学習しないな。群がると広範囲攻撃の餌食だぜ。
『テレポート』
「今だ!」
下でアマゾネスが集まるのを待っていたレッカたち魔法使いの魔法がアマゾネスたちに炸裂する。
「よっと。状況はどうです?」
「被害は甚大ですね。召喚獣も数が減ってますし」
「た、大変です! ギルマス!」
「後ろ! 後ろ!」
俺が振り返るとストラとエアリーがアマゾネスたちに捕まり、こちらへ叩きつけられそうになっていた。ストラにも斥力場があるはずだ。どうやら何らかの方法で突破されたみたいだな。
「戻れ! エアリー! ストラ!」
召喚石に戻して、危機を回避する。不発したアマゾネスたちは棍棒を持って、俺に向かってくるが他のプレイヤーたちが対峙してくれた。そして二人を再召喚する。あの棍棒が斥力場を突破した要因っぽいな。ここでサバ缶さんと同じ研究員の人が話して来た。
「サバ缶さん、アスモデウスのほうに攻城兵器など行ってますから今の状況であの城壁を突破するのは難しくないですか?」
「そうですね…タクトさん、空間索敵をお願い出来ますか?」
「はい」
俺が空間索敵をするとサバ缶さんが作戦を指示する。
「サバ缶さん、ギルマスに似て来ましたね」
「いつもタクトさんの作戦を聞いているとこうなりますよ」
「それじゃあ、準備が整うまでもう少し、踏ん張りますか。俺は後ろでいいんですね?」
「はい。全体の指揮は任せて下さい。火影さんたちに連絡を」
俺はアーレイたちを集めて、後ろのアマゾネスの排除に動くとそれに合わせて、部隊が下がる。するとアーバレストの矢が届く限界の場所が判明し、後ろにアマゾネスを配置する手段を敵は失う。更に下がると左右への部隊の展開の出来なくなり、正面で睨み合う形になるとこちらが有利になる。
何故なら向こうの遠距離攻撃手段は強弓しかない。対してこちらは銃と大砲だ。それでも恐れず突っ込んで来る辺り、末恐ろしい所はあるが与一さんたちの格好の的となり、脅威には感じない。
ここで全軍撤退の合図の花火が上がる。そして俺たちが一斉に下がるとアマゾネスたちは追撃に動く。サバ缶さんの読み通り、アスモデウス方面に撤退したから追撃に動いたな。こうなると時間稼ぎの間に罠の準備に動いていた火影さんたちと狩人の部隊の地雷トラップの餌食だ。
「「「「あぁあああああ~!? よ…よくも卑怯な真似をぉおおお」」」」
「「「「えぇ……」」」」
罠設置した人達は何か言いたそうだ。気持ちは分かる。明らかに即死レベルの大爆発を起こしたからな。しかしこれも想定内。既に攻撃準備が整っている俺たちの一斉攻撃でなんとかアマゾネスの部隊を全滅させることに成功し、インフォが来る。
『ダーレーの格闘のレベルが15に到達しました。格闘【ボディブロー】を取得しました』
『ダーレーの槍のレベルが5に到達しました。槍【バックランサー】を取得しました』
取り敢えずこれで俺たちの戦いは終わったわけだが、サバ缶さんが言う。
「まぁ、明日になればまた増えるんですけどね」
「今は最低限の任務を果たすことが出来たと思いましょう」
「ここから動けませんし、今のうちにアマゾネスの作戦会議をしておきますか?」
「そうですね」
というわけで俺たちのサタナキア攻略は失敗に終わるのだった。




