#1032 エクスカリバークエスト
俺たちは進んでいくとやはりセチアとルーナは落ち着きがない。
「さっきから首が動いてばかりだぞ」
「落ち着きがないセチアというのは珍しいですね」
「なんか変な感じがするんです」
「はい…何というか誰かに見られているような…でも嫌じゃなくて…そうは言っても視線が気になって…うぅ~…上手く説明出来ません」
セチアはルーナの言葉が理解できるようだ。残念ながら俺とイオン、リアン、リオーネには分からない。すると案内してくれているモーガン・ル・フェイが教えてくれる。
「この島は星の願いが集う場所です。星から生まれる妖精や精霊にとっては星の願いがどうしても気になってしまうでしょうね。私たちは馴れてますけど」
「星の願いが集う場所?」
「はい。皆さんの目的であるエクスカリバーも星の願いから生まれました。昔にここに来たアーサーという人は星から勝たせてあげたいという願いを受けて、勝利の加護があるエクスカリバーが生まれました」
星から勝たせてあげたいと思われるってどんだけだ。いや、ちょっと待てよ。その説明だと嫌な予感がする。
「その説明だと俺が作ろうとしているエクスカリバーは勝利の加護がないエクスカリバーにならないか?」
「それは無いですね。皆さんがお持ちのエクスカリバーの欠片には勝利の加護が宿ってますから。そこから更に追加されると思ってください。ただし星の願いは人それぞれなのでどんなエクスカリバーが誕生するから私にも分かりません」
これでエクスカリバークエストの全容が判明した。つまり俺の神剣グラムとよく似た流れでオリジナルのエクスカリバーを作るクエストがこのクエストなわけだ。
道理でヘルメスのチケットでエクスカリバーが手に入る訳だよ。アーサー王のエクスカリバーに能力が加算されるなら確実にこのクエストで作るエクスカリバーのほうが上になる。しかしそんな事をしていいのだろうか?アーサー王が泣いちゃうよ。いや、たくさん武器持っているし、泣きはしないか。
そして俺たちはアヴァロンにある塔の屋上に行く。そこには机で足を組んでいるモルガンがいた。
「来たわね。ようこそアヴァロンへ。お茶でもいかがかしら?」
「頂きます」
お茶を誘われたからには受けないと失礼だ。時間も大丈夫だし、お茶を頂くことにした。するとイオンたちがモルガンのように足を組んで座る。こういうのを真似したがる年頃なのかな?そして当然馴れない足を組んでの座りを見たモルガンに笑われる。
「ふふ。あなた達にはまだこの座り方は早いわよ。でも学ぶことは悪い事ではないわ。気になるなら毎日練習しなさい。そうすれば私のように自然に座れるようになるわ」
「「「「はい!」」」」
「いい返事じゃな。さぁ、召し上がれ」
「「「「頂きます」」」」
俺はまず匂いを味わう。
「香りが強いですね」
「ほう? ちゃんと紅茶の違いが分かるか」
「最近紅茶にはまりまして」
キキがいい紅茶を入れてくれるからコーヒー派の俺がぶれつつある。
「それはいい事じゃな。あなたたちも紅茶を飲むときはいきなり飲まないようにするといい。女性としての品が下がってしまうぞ」
一気に飲んでしまったイオンたちはぐうの音も出ない。それを見ていた俺は出された紅茶を飲む。
「では…ふぅ…美味しい。色々な味があって、優しい口当たりですね」
「ふふ。流石にずっとこの子たちの世話をして来ただけあるわね。どっかの夢魔の魔術師に今のあなたの姿を見せてやりたいものじゃ」
「それって、マーリンのことですよね?」
「そうよ。あいつとアーサーがここに来た時なんて最悪だったわ。マザーズレイクは透明の魔術で苦労せず超えて来るし、私に会ったら、紅茶の誘いに乗りもしないで急いでいるから早くエクスカリバーを作ってくれないかな?なんて言って来たのよ」
空気読まないな。マーリンらしいといえばらしいのかも知れないけどね。それにしてもモンスター除けのアイテムを使えば楽にマザーズレイクを越えれたのか…盲点だった。更にモルガンの愚痴は止まらない。
「それに二回目来た時もアーサーがエクスカリバーを折られたから新しいのを急いで作ってとか言って来たのよ。流石に頭に来て戦うとエクスカリバーを勝手に作って、島から出たの…今、思い出しただけでもあの悪戯が成功した時の笑顔は忘れないわ」
酷すぎる。というかモルガンと戦いながらエクスカリバーを作るなんてことをしたのか…恐らく幻術か何かで時間を稼いだんだろうな。俺には絶対に出来ないことだ。勿論するつもりはない。
「ふぅ…ごめんなさいね。あなたに関係がない話をしてしまって」
「いいえ。話を聞けて良かったですよ」
「ふふ。あなた達は本当にいい男と契約したわね。さて、混みあって来そうだし、行きましょうか」
モルガンが指を鳴らすと俺たちは転移する。そこはアヴァロンの塔の屋上だった。
「まずエクスカリバーの欠片を貰うわね」
「どうぞ」
俺がモルガンにエクスカリバーの欠片を渡すとモルガンの手からエクスカリバーの欠片が光となって、モルガンの手から零れ落ちる。
「これでいいわ。後はあなたのこれまでに歩んで来た道のりをこの星が判断する。きっととんでもない聖剣が生まれるでしょうね。アーサーがここに来たのはまだ実績がそこまでない時だったから。ふふ。楽しみだわ」
モルガンがそう言うと俺の身体が輝き、俺のステータス画面が勝手に開くとそこから今まで獲得したスキルや称号が飛び出すとそれが合わさり、黄金の光を作り出す。
「タクトさん、大丈夫ですか!?」
「お怪我は!?」
「痛くないですか!?」
「あぁ…大丈夫だよ」
ここで黄金の光が黒色に染まる。しかしその黒は中には美しい輝きを感じた。
「やっぱり主神クラスの魔神と神を倒している人間が作るエクスカリバーは格が違うわね」
光が落ちて来ると剣の形となり、俺のエクスカリバーが姿を見せる。
「「「「漆黒の聖剣?」」」」
イオンたちが絶句する。一見すると魔剣に見えるからしょうがないけど、魔剣のような禍々しさを感じない。寧ろ刀身が真っ黒ではなくまるで星空のように光を放っていた。ここでモルガンがとんでもないことを言う。
「そのエクスカリバーは無限属性の聖剣よ」
「え…確か無限属性ってウロボロスが持っているというあの属性ですか?」
「そうよ。この世界でも最強の属性の一つ。あなたの事だから全属性のエクスカリバーになるかも知れないとは思っていたけど、流石にアンラ・マンユを倒していたから、全属性という枠を超えて来たわね。これは嬉しい誤算だわ。これであなたはアーサーが持つエクスカリバーを越えたことは確定したわ。遠慮なくアーサーとマーリンをこれで倒してきなさい。私が許可するわ」
悪魔の囁きだ!?これは俺がモルドレッドになる流れなのか?とにかく手に持つと凄くしっくり来た。
「凄く握りやすい」
「あなたの為に作られたエクスカリバーなんだからそれくらいは当然よ」
そうか…このエクスカリバーは俺の全てのデータを解析して作られた俺専用の剣なんだ。俺の手の形や握り癖まで解析されているなら握りやすいのは当然だ。
許可を貰って、一回だけ振る。するとはっきりとヤバさを感じた。それはみんなも同様だった。
「神剣グラムとは全く違うヤバさを感じます」
「これが無限属性の力…たった一回振ったのをだけで呑み込まれそうでした」
「私はイオンお姉様が神剣グラムに感じている物をひしひし感じます」
「無限の力は神にとって最も忌む力だから当然だな。ただいくら神と契約したからと言っても無限の力は人間には重すぎる。そうだな…この聖剣だと5分以上使うのは危険だろうな」
制限時間ありか…まぁ、強い物には制限を付けるのがこのゲームだからな。それじゃあ、鑑定してみよう。
インフィニットエクスカリバー:レア度10 専用装備 品質S+
重さ:なし 耐久値:なし 攻撃力:10000
効果:神殺し、魔神殺し、大物殺し、灰燼、無詠唱、無限魔力、無限詠唱、譲渡、無波動、時空切断、魔力切断、次元震、未来予知、時間停止、絶対防御、無限乱刃、無限連撃、無限のルーン、復活、不死身、全反射、天候無効、加護無効、支配無効、封印無効、聖剣解放、伝説解放、勝利の加護、星の加護
制限時間:5分
星から無限の力を授かり、新たに生まれ変わったエクスカリバー。強さでは主神クラスを滅ぼす能力を有しており、神に忌み嫌われている聖剣となった。一方で星の最終兵器という役割を持ち、鞘には不死身となる力が宿っており、神々の武器を超越した最強の聖剣。ただし無限の力は人間には強すぎるために5分経過すると持ち主は死んでしまうので、制限時間には要注意。
魔法剣と同じように使えるんだな。ここで溜息をつくのがセチアだ。
「これを越えないといけないんですか…」
「別に越えなくてもいいぞ。この聖剣には制限時間があるからな。俺としては強くて制限時間がない長く使える武器がいいよ。それに簡単に勝ったら、つまらないしな」
最初から勝つことが決まっている勝負程、つまらない物はない。そもそも勝負として成立していないと思うんだよね。これを聞いたセチアは喜ぶ。
「なるほど…分かりました! 任せて下さい!」
やる気満々だな。さて、これを手に入れたという事はあのウロボロスと戦う地平に立ったことを意味している。最も五分だけ戦える感じだけどね。しかし二人が無限の力を持っていたら、勝負は付かないと思う。どんな勝負になるかは想像したくないな。いずれにしてもあいつに挑むとしたら、やることが無くなった最後だろう。
ここで帰ろうとするとモルガンに言われる。
「そうそう。この島の下にティル・ナ・ノーグがあるから行ってみるといいわ。もし行けたら、あなたにも私達と同じ目が貰えるはずじゃ。魔力の流れが細かく感じ取れて便利じゃぞ」
「ありがとうございます」
どうやら精霊眼を貰えるみたいだな。後、魔力の流れが分かるスキルなのか。前の戦闘でナーイアスたちに魔法が使われる時には青い魔力が集まっているように見えていたけど、あれが精霊眼の力だったんだな。
空虚は現在確認させている姿を消すスキルの中で最強のスキルだが、それが発動するのは使った本人だけだ。流れている魔力は空虚の対象にはならないからキャスパリーグを捉えることが出来たんだな。
お礼を言ったけど、これって、マザーズレイクを潜れってことだよね。きっつ。そう思いながら帰ると寝る事にした。




