#1031 妖精島アヴァロン
メルたちの案内で船を貸してくれるお店へとやって来た俺たちは一応、他の船を使えないか聞いてみた。
「別に普通の船でもいいと思いますが」
「ばっかもーん! トネリコの木から作った船でなければマザーズレイクは認めはせんぞ」
「はいはい。分かっているよ。爺ちゃん」
どうやらトネリコの木を使った船じゃないとマザーズレイクは越えられないらしい。それにしても船を見ると不安になるな。一言でいうなら三十人がギリギリ乗れる木製のボートだ。そこは良いんだが、水面からの高さが無い。これだとナーイアスたちから的にされるぞ。
俺が不安になっているとメルが教えてくれる。
「不安になる気持ちは分かるけど、ナーイアスたちからは襲われないんだよ。さっきのお爺ちゃんの話に関わって来るところだと思うけどね」
「え? でも、霧の中で襲われた話をしてなかったか?」
「そうだよ。いつも襲ってくる謎の敵は湖関係の敵じゃないと考えているね。明らかに獣の攻撃だったし」
「アーサー王関係で獣だとすると俺は二匹しか思い浮かばないぞ」
クエスティングビーストとキャスパリーグだ。そしてみんなは敵の正体に当たりを付けているらしい。
「声が聞こえず、いきなり襲われているからキャスパリーグじゃないかと思ってるだよ」
「つまり全員ネコパンチにやられているわけか」
「これからタクト君たちも味わうことになるんだからね」
キャスパリーグが相手となると厄介だな。するとクリュスが辞退する。
「リオーネを連れて行きたいなら私が引くわ。私だとこの船には合わないし、一度この湖に入っているしね」
「悪いな」
更にブランからヴィーザルサンダルを借りる。これで対策は良いだろう。他のみんなも準備を完了させて、船を出す。
「予想はしていたけど、みんなタクト君にべったりだね」
「仕方ないですよ。メルさん」
今回一緒に向かうのはメル、シフォン、アーレイ、カイなどの騎士や勇者メンバーに加えてちゃっかりエクスカリバーの欠片を交換していたルークと裂空さんがヴィヴィアンを連れて参加している。因みにリサとミライはメルに巻き込まれての参加だ。すると事前の情報通り霧が出て来た。
しかし俺たちの船は灯台の光に照らされると視界が開ける。
「これなら奇襲を受けずに済みそうだね」
「いや。どうやらそうでもないらしい」
「ふぅー!」
リオーネが威嚇する。その方向を見たルーナが視認する。
「はい…獣の形をした魔力が近づいて来てます!」
二人に共通しているのは精霊眼だな。神瞳が一番強いスキルだと思っていたけど、精霊眼には精霊眼特有の能力があるみたいだ。
全員が戦闘態勢になる。俺はルーナにシンクロビジョンを使って、敵の姿を取らえる。
「やっぱりキャスパリーグだ! 俺が最初に相手をする! みんなは援護を! ルーナ、敵から視線を逸らさないでくれ」
「はい!」
俺は船から飛び降りて、接近するとキャスパリーグが実体化し、爪が現れる。俺はそれを蹴りで迎え撃つ。
「くぅぅ…重い…」
「しゃー!」
キャスパリーグはすぐさまぶつかり合っている手を引くと一回転する。
「回し…く!?」
俺も回し蹴りで迎え撃とうとしたが嫌な予感を感じて片足で空に飛び上がる。するとキャスパリーグは魔素化で姿を消す。危なかった…あそこで武技を使っていたら、一撃食らってた。するとキャスパリーグは俺ではなく、援護に動いていたみんなを狙う。
「しゃー!」
「みんな、危ない!」
「しゃー!」
シフォンが警告するとリオーネとキャスパリーグのネコパンチがぶつかり合うとリオーネがぶっ飛ばされる。そこではっきりと識別が出来た。
キャスパリーグ?
? ? ?
恐らくリオーネよりレベルが高いんだろうな。
「シフォンちゃんはあいつが見えるの?」
「はい。私も精霊眼を持っていますから。皆は見えない?」
「残念ながらね」
「来るぞ!」
アーレイが警告するとキャスパリーグは雄叫びを上げると近くにいた全員が魔力を失う。魔力枯渇だ。これでルークたちのエンゲージバーストなどは強制解除された。このキャスパリーグ…かなり賢い。そして爪を大きく振りかぶると力が集まる。
「不味い! 覇撃だ!」
「止めろ!」
「にゃー!」
みんな攻撃に出る一方でリオーネが叫ぶと今度はキャスパリーグの魔力を失う。その結果、メルたちの攻撃が当たる。
「硬い!?」
「重力操作! 荷重操作!」
イオンはそのまま斬り込まず上に飛び上がっており、メテオハルパーを振りかぶって、キャスパリーグの頭に重い一撃を与える。
「シャー!」
「あ」
「踵落とし!」
俺がもう一発頭に一撃を与えようとしたがここで逃げられる。その逃げた所で船に残っていたリアンが狙っていた。
「人魚魔法! ブルーホール!」
「にゃ!?」
完全にブルーホールが決まった。
「畳みかけるよ! みんな!」
俺たちが一斉に襲い掛かろうとするとブルーホールが解除され、メルたちがキャスパリーグの攻撃を受けて、大きく後退する。
「な…どうして」
「皆さん! 下です!」
メルたちが足を掴まれると水中に引きずり込まれる。ずっと水上戦闘をしていたからナーイアスたちが寄って来たんだ。ここで俺たちとキャスパリーグが睨み合う。
「うぅ…しゃ!」
「引いた?」
「私たちに勝てないと思ったんでしょうか?」
「いや、それならここで引く意味が分からない」
すると水中から無数の魔法を飛んできた。
「これを嫌がったのか…船に戻るぞ。イオンはメルたちを頼む」
「はい!」
俺達が船に着くと攻撃は受けない。メルたちの予想通りこの船にはナーイアスたちは攻撃しないみたいだな。そしてイオンたちがメルたちを救出する。
「念のために人魚の雫を装備しておいてよかった…」
「溺れ死んでましたよ…」
「怖い系の人魚は本気で怖いと今日学んだ…」
「あ! またキャスパリーグが来ます!」
逃げ出したんじゃなくて襲うタイミングを計っていたのか。これはうざったい。キャスパリーグの迎撃に出るとナーイアスたちが来るし、迎撃に出ないと船がやられる。もし船が無くなるとそこでもう終わりだ。
「迎撃は俺たちとシフォンがする。他のみんなは援護ととにかく船を先に進めてくれ」
「え!? 私達も戦えるよ!」
「そんなことは分かってる! でも光吸収があるキャスパリーグは光線系や光属性の攻撃をすると回復させられる。攻撃が制限されるならとにかく船を進めた方がいい!」
「う…正論。確かにこのまま船を進めないでいると消耗戦になっちゃう…ミライちゃん、タクト君たちのフォローをお願い。みんな急いで漕ぐよ!」
しかしメルたちは息が合わず、中々船のスピードが出ない。その間も俺達はキャスパリーグとナーイアスたちと戦う。
「くそ! ほとんど一騎打ちをしてこないな」
「先輩! 人魚魔法が来ます!」
俺は空にいる。ブルーホールが喰らうはずがない。という事は俺が知らない人魚魔法が来る!?
水中から無数の水の手が襲い掛かって来た。バエルイベントで見たブルーマンみたいだな。しかし斬っても俺達を捕まえようとしてくる。ここでシフォンが武技を使う。
「タクト君たち、動かないで! シュトルムランページ!」
全方位への無数の鎌鼬で水の手が斬られる。しかも上手く俺たちを避けたな。しかし元に戻ろうとする。厄介な魔法だな。
「魔法破壊!」
セチアの魔法破壊で謎の人魚魔法は消え去る。
「シフォンさん!」
「シャー!」
「く!?」
シフォンを狙ったキャスパリーグの攻撃をイオンが止める。
「あ、大気波動! 大丈夫? イオンちゃん?」
「これくらい…全然平気です」
ここで俺は船に集まる魔素を見る。
『メル! 背後に絶対防御!』
「え? 絶対防御。きゃ!?」
「しゃー!」
「二体目!? この! 私が相手をしてあげるよ!」
灯台の灯りが無かったら、今のは終わってた攻撃だった。更にリサに襲い掛かる影がいた。
「リサちゃん! 横!」
「え? うわ!?」
「ガァー!」
「うぎぎ~…この! 相手をするとは言ったけど、二対一で来いとは言ってないよ!」
襲い掛かって来たのはクエスティングビーストだ。
「なんだ…この絶望的な状況…」
「そんなこと言っている場合じゃないよ! 私がクエスティングビーストの相手をするからとにかくみんなは急いで!」
しかしまだ試練は続く。
「聖剣解放が来ます!」
「ヴィヴィアンか! 迎え撃つぞ! ルーク!」
「分かっています!」
ルークと裂空さんのヴィヴィアンが迎え撃ち、阻止した。間違いなくマザーズレイクの難易度は頭が可笑しいんじゃないかと思える難易度だ。
「うおお! とにかく漕げー!」
「いいや! ボートはちゃんと息を合わせて漕がないと意味がない。俺が声を出すからそれに合わせて漕いでくれ。いいか一でこう。二でこうだ」
「「「「分かった!」」」」
カイがボートの漕ぎ方を伝えて、オールを漕ぎながら声出し役をするとボートはどんどんスピードが上がり出した。それを俺たちは護衛する。
「く! ダメ! 誰か代わって!」
「俺が相手をしてやるぜ!」
「ガァアア~。アアア~」
「「「「耳がぁあああ!?」」」」
クエスティングビーストの超低周波を食らいながらメルとアーレイが入れ替わる。更にリサとは三人で入れ替わる。俺たちも変わって欲しい所だが、ボート漕ぎには向かないと我ながら思う。するとここでチャンスを迎える。リオーネがヴィヴィアンの聖剣解放で魔力を回復したのだ。
「こうなったら、切り札を使うしかないな! リオーネ! お前の力を見せてやれ!」
「なー!」
リオーネの全身から七色の膨大な魔力が膨れ上がる。これには流石に他のモンスターたちは危機感を持つ。
「おっと。行かせるか」
「氷牢! そこで大人しくしていてください!」
「行かせねーよ! 強行!」
「魔法は使わせません!」
全員がリオーネの守りに入り、リオーネの切り札アレキサンドライトの宝石解放が炸裂する。
一瞬でフィールド全体が七色の光に包まれ、キャスパリーグたちは吹っ飛んだ。ナーイアスたちは上手く海底に逃れたみたいだな。
「にゃー…」
「よっと。お疲れ様。ほら。約束のアレキサンドライト二個だ」
「にゃ!」
御馳走を前に元気になるのはリオーネも一緒だ。するとここでキャスパリーグたちは逃げ出した。
「解体から逃げやがった…」
「あぁ~…生命力が少なくなると逃げ出すモンスターって結構いるからな。こっちは無駄に生命力や魔力を使うパターンだ」
「はぁ…ま、追い払えたなら無駄じゃないだろう」
「そうだな」
本当にしたたかというか何というか。厄介な敵だった。こっちの油断とか見逃さないし、速い上に硬さもある。リオーネの強さを再認識する戦闘だった。
「一! 二! あ! あれ! 島じゃないか?」
霧の向こうに影が見えた。どうやら何とか目的に辿り着いたようだ。そして上陸するとそこは黄色い霧に覆われ、色とりどりの光の粒が小麦色の地面から湧き上がっている不思議な島だった。
「ここがアヴァロン…」
俺たちが美しい景色に息を吞んでいると声が聞こえて来た。
「はい。ここが全ての妖精のふるさと。妖精島アヴァロンです。最も今となっては私達しかいない島ですけどね」
妖精の羽を持った魔女っ娘が現れた。
モーガン・ル・フェイ?
? ? ?
モーガン・ル・フェイはルーナの試練で戦ったモルガンの名前の一つだったはずだけど、このゲームじゃあ、別人扱いなのか。
「早速ですがそこのあなた達を除いた皆さんにはアヴァロンに足を踏み入れる資格があるのか試させて貰います」
「「「「へ?」」」」
みんなが霧に包まれるといなくなった。見事なマジックショーだ。
「あれ? 俺たちはいいのか?」
「はい。お母様から許可が出ています。どうぞ。あのアヴァロン塔へお進みください。お母様がそこで待っております」
ルーナの時に戦ったからフリーパスになったのか。つまりみんなはモルガンと戦っているという事か?こわ。俺は皆に同情しながら先に進ませて貰うことにした。




