#1001 ミールの告白
俺がミールを呼ぶとセチアとルーナが察した。
「やっときましたね。頑張ってください。ミール」
「応援してます!」
「ありがとうございます。では、行ってきます」
俺がミールとの告白の場所に選んだのはアクアスの町だ。
「私に告白する場所はここと決めていたんですか?」
「まぁね。それに一度夜のアクアスの町をここからゆっくり眺めたかった気持ちもある」
「ふふ。確かに綺麗ですね」
俺たちは町長のリーシャに許可を貰って、水樹からアクアスの町の夜景を見ている。
「ミールには戦闘もそうだけど、生産面で本当に世話になって来たな」
「木や植物を育ててきただけですよ」
「それが俺たちに欠かせない力となって来たんだよ」
料理もそうだし、ノアズ・スクナもミールの力が無ければ果たしてあの戦争中に作れたものか怪しい。そしてこれから始まる大きな戦いに置いてゴフェルの木は重要な役割を果たすだろう。
「タクト様にそう思って頂けているなんて光栄です」
「うーん。やっぱりミールってあまり我儘を言ってないよね?」
「そうでしょうか? 結構言っていると思いますけど?」
「木を植える位置とかは厳しいけど、これが欲しいとかあまり言って来なかった気がするんだよね。言ったとしてもみんなの意見に便乗しているっていうか」
いつもセチアと一緒にいるからそういう風に思ってしまうのかも知れないけどね。
「それでは我儘を一つ聞いて貰っていいですか?」
「お。何かな?」
「抱きしめて貰いたいです」
物じゃなくてそっちの我儘が来たか。
「言ったのはタクト様ですよ」
「分かっている。ほら、これでいいか?」
「うーん…もっとぎゅっとお願いします」
「こうか?」
完全に抱擁状態になり、暫くしてから体を離す。
「は、恥ずかしい物ですね…」
「ミールが言ったんだろう…」
「そうでした。タクト様、このまま指輪を頂けませんか?」
「そうだな」
俺は指輪を取り出す。
「俺は陰ながら支えてくれているミールの事が好きだ。これからも戦いだけじゃなくて生産でも俺を支え続けてくれるか?」
「もちろんです。大好きなタクト様を永遠に支え続ける事を誓います」
俺は差し出されたミールの手にエンゲージリングを付けるとインフォが来た。
『ミールとエンゲージが結ばれました』
今度はミールから抱き着いて来た。
「これからもよろしくお願」
空から俺たちに向けて滝のような水が落ちたか。
「…なんだ?」
「あ、水樹の精霊様」
ミールが見た方を見ると水樹の精霊が万歳していた。どうやら俺たちのエンゲージを祝ってくれているらしい。
「それじゃあ、さっきのは水祝いか?」
昔は婚礼の時に村人が花嫁に水をかけてお祝いする風習があったらしいけど、流石にこれはやりすぎだ。更に冷たい風が吹くと二人揃ってくしゃみをした。それが何か可笑しくて二人揃って笑ってしまった。
「帰るか」
「そうですね。タクト様」
「分かっているよ」
「「ありがとうございます。水樹の精霊様」」
俺たちは手を繋いで帰るとリリー達が疑問を言う。
「「「「なんで二人共濡れてるの?」」」」
「タクト様に濡らされてしまいました」
「それじゃあ、なんで俺まで濡れているんだよ」
「さぁ? 何ででしょうね? ふふ」
最近本当にこういうのが増えてきている気がする。俺を困らせて、どこが嬉しいのかさっぱり分からない。ここで余った時間で生産作業をすることにした。
それが終わると俺は獣魔ギルドに向かう。みんなの進化クエストの確認するためだ。
ギルドクエスト『ヘスペリデスの試練』:難易度SSS
報酬:百頭竜の宝珠
試練を乗り越えて、黄金の林檎を手に入れよ。
ギルドクエスト『鬼神の試練』:難易度SSS
報酬:鬼神の宝珠
悪逆無道の限りをつくしている鬼を討伐せよ。
ギルドクエスト『老練天狗の試練』:難易度SSS
報酬:仏道天狗の宝珠
烏天狗の王と一騎打ちで勝利せよ。
ギルドクエスト『エレボスの試練』:難易度SSS
報酬:地獄門番の宝珠
ハデスの死神と戦い、勝利せよ。
どれもルーナの試練と同じ難易度だ。あのモルガンと同じ難易度だと考えるとゾッとするよ。パッと見た感じだとストラの試練が戦闘を明記されていないから簡単そうではあるな。きっと罠があると思うけどね。
折角来たんだし、負けることを承知で挑んでみるか。偵察は大切だ。というわけで一番上のクエストを受けた。
転移した先は美しい草原だ。そして遠くに黄金の林檎の木が沢山見える。恐らくここはギリシャ神話に登場するヘスペリデスの園だと思う。女神ヘラの果樹園として知られている場所でゼウスとヘラの結婚祝いにガイアが贈った黄金の林檎を育てている場所だ。
何故ここで育てているのかというとゼウスがこの林檎を他の女神に贈ってしまうかららしい。女性への贈り物としては確かにいい物なんだろうけど、結婚祝いを他の女性に贈るというゼウスには呆気を通り越して、清々しさを感じてしまう話だ。
ストラを召喚して、戦闘準備を整えるとストラに乗って、黄金の林檎の果樹園を目指す。さて、何が来るかな?
恐らくここを守っているストラの進化先が現れると思っていた俺はストラと共に突然の眩しさに襲われる。ダメージはないが目を開けられない。すると俺の腹に拳が突き刺さるとストラと共にボコボコに殴られて地面に墜落して、クエストが終わった。
「なんじゃそりゃ」
偵察とは言ったけど、敵の正体も分からないまま一方的に負けてしまった。分かったことはあの眩しさをなんとかしないと勝ち目がない。もしくは眩しくとも戦闘が出来るようになるかだ。ただし、俺たちを襲って来た敵は光速激突持ちだと思う。とにかく攻撃が速かったからね。
それと敵の正体にも察しが付いた。恐らくヘスペリデスだと思う。ヘスペリデスの園の名前の由来となった精霊だ。このヘスペリデスは一般的には三姉妹として描かれているはずだけど、四人だったり、七人で描かれることもある。少なくとも今回は二人いたと思う。攻撃中もずっと眩しかったからね。
正直現状で一番勝率が高そうなのは千影のクエストだ。誤魔化しているけど、相手はほぼ確実に烏魔天狗だろう。俺はこの準備をずっとして来た。千影に指輪を渡したら、挑むつもりだ。
家に帰った俺はストラを慰めて、ミールを一緒に寝るとログアウトした。




