#1000 聖杯作製
素材を並べて、聖杯作製の準備が整った。
「改めて言いますけど、聖杯を作るって予想外にも程がありますよ」
「…それがこのゲームでの兄様」
ミライは褒めているつもりなのだろうか?疑問に思いつつ、説明通りに聖杯の作製を進めて、最後の仕上げをニックさんがする。
「金属配合!」
コーリ・イン・ダッダが虹色に輝くと姿を黄金の盃に変化する。鑑定してみる。
聖杯:レア度10 重要アイテム 品質S+
あらゆる願いを叶えてくれると言われている聖なる盃。聖遺物の一つで聖杯に水を入れると最高峰の聖水が作製出来る。この聖水はいかなる悪魔の能力を消し去る能力を有している。また食べ物や限定武器以外の武器など鑑定済みなら一日に一度、作り出す能力を有している。
ここで俺たちにインフォが来る。
『称号『聖杯の作製者』を獲得しました』
称号『聖杯の作製者』
効果:スキルポイント+20、ステータスポイント+20、聖杯の加護
聖杯の作製に関わった者に贈られる称号。
俺、ほとんど聖杯の作製に関わっていないんだけどな。恐らくコーリ・イン・ダッダの持ち主なのが影響しているんだろう。これで俺の残りスキルポイントは160ptとなり、ステータスは全て俊敏性に回した。俺がステータスを操作している一方でニックさんが申し訳なさそうにいる。
「なんか私が称号を頂いて良かったんですかね?」
「俺が依頼したんですから、良いんじゃないですか?」
「…うん。聖杯の作製依頼の権利があるのはクエストを進めていた兄様にある。その兄様が私たちを選んだんだから問題はないはず」
ミライの言う通りだろう。お互いにお礼を言い合い、聖杯の加護について調べると魔素の無効化と悪魔からの状態異常の無効化があることが叡智で判明した。
「…これは明らかにボス戦特化の加護だと思う」
「つまりニックさんはボス戦参加決定か」
「えぇ!?」
色々言い訳をして逃げようとするニックさんだが、ニックさんが強いことはみんな知っている。何せトーナメントの出場者だ。弱いはずがない。
ここでニックさんとは別れて、早速ミライが聖水を作っているとメルたちがぶーぶー文句を言ってくれる。
「私たちもミライちゃんのクエストを手伝ったんだよ!」
「そーだ! そーだ! 兄ちゃんはミライばかりいい思いさせすぎだよ!」
「仕方ないだろう? 称号を貰えなかった文句なら運営に言ってくれ」
「…きっとクエストクリアには関わったけど、製作には関わっていないと言われて終わりだと思う」
そういう事になるだろうな。まぁ、二人が言いたいことは結局のところ聖杯を使いたいだけだ。別にいいと思ったけど、ミライに止められた。
「…兄様が本当に使わない日が来たら、その時に使わせる感じでいいと思う」
二人はこれに喜んだけど、きっと当分メルたちが聖杯を使う日が来ることはない。俺に一体どれだけの召喚獣がいると思っているんだろう?ま、喜んでいるなら水を差すのは止めておこう。
聖杯の聖水が作製出来たことをお城に報告してグラン国王様に献上する。
「成し遂げてくれたか…至急兵士たちにこれを与えよ」
「は! お預かりします。タクト殿、ミライ殿」
ヒポクラテスさんに聖杯の聖水を渡し、牢に入れられているブラスさんたちに与えるその場には久々に見るサラ姫様がいた。流石にブラスさんたちがこんな姿になってしまった責任を感じているからだろう。ひとまず元気そうで良かった。
「聖杯の聖水よ! この者たちを元の人間の姿に戻したまえ!」
そしてブラスさんたちに聖杯の聖水を掛けると悪魔の部位が煙を挙げて、ブラスさんたちは人間の姿に戻った。
「ど、どうなりましたか?」
「元に戻ってますよ。良かったですね。サラ」
「あぁ…本当に良かった」
「「「「サラ姫様…」」」」
ここでヒポクラテスさんの提案で数日様子を見ることになり、念のためにサラ姫様にも聖杯の聖水治療を行うことになった。流石に初めての経験ばかりだから中々安心することは出来ないだろう。ましてやフリーティアはシルフィ姫様が悪魔に襲われる失態を経験しているからこの判断は妥当だと思う。
「ほら。サラ。タクト様に何か言うことがあるんじゃないですか?」
「わ、分かっている! その…なんだ? 騎士たちを助けてくれたことを感謝する」
「それは俺じゃなくてミライに言って上げてください」
「そ、そうだな。騎士団長として感謝するミライ殿。報酬は後日支払おう。ではな」
サラ姫様が逃げるようにその場から立ち去ろうとするとシルフィ姫様がテレポーテーションでサラ姫様を俺の前に転移させた。
「シ、シルフィ姉様…」
「タクト様に言いたいことがあるなら早めに言った方がいいですよ。これから魔王たちとの決戦が始まるんです。フリーティアの騎士団長と英雄がこんな調子では困るんですよ」
「く…正論。はぁ~…わかった。タクト、少し時間を貰えるか?」
「大丈夫です」
俺がサラ姫様の後をついて行くとサラ姫様は振り返る。
「覗いたりしたら、本気で容赦しないからな! シルフィ姉様! アンリ!」
「「残念です」」
覗く気満々だったみたいだ。こういうのが分かるって姉妹だなと思う。そしてお城の庭園で話すことになった。
「…その…この前の戦いでは迷惑を掛けてしまったな」
「俺はほとんど迷惑を掛けられていませんよ。まぁ、斬られそうにはなりましたけど」
「う…すまない」
「ベリアルのせいでしょ? サラ姫様が謝る必要なんてありませんよ。寧ろ無視してすみません」
「いや、それは助かったというか何というかな…」
まだ色々整理がついてない感じなのかな?するとサラ姫様が聞いてくる。
「お前はあの時の私を見て、どう思った?」
「へ? 格好良かったんじゃないですか? あ、捕まっている時の話でした?」
「そこじゃない! あれは忘れろ! 今すぐにだ!」
どうやら捕まっている所は地雷だったらしい。
「というか格好良かったってそれだけなのか?」
「はい。他に何かありました?」
「いや、ほら…色々言ったし…ん? もしかして何も聞いていないのか?」
「何がです?」
サラ姫様とシルフィ姫様も言い争いは俺に伝わってはいなかった。
「そ、それなら良いんだ。うん! 本当に良かった…しかし私の事は幻滅しているんじゃないか?」
「悪魔化というか堕天使化したからですか?」
「あぁ」
「俺の感想はさっきと変わりませんよ。悪魔になったとか堕天使化したとかそんなことで幻滅なんてしませんよ。だって、俺自身が悪魔や吸血鬼、魔王になっているんですからね」
今更闇落ちとかされても何とも思いはしない。しかしサラ姫様はそんな簡単に割り切れないみたいだ。
「そうかも知れないが私はベリアルに力を貰ってしまった女だ。もう人間なのかどうなのかもわからない」
「サラ姫様は人間ですよ。だって、今まさに悩んでいるじゃないですか」
サラ姫様が俺を見る。俺は続ける。
「ベリアルに力を貰ったからなんです? それをどう使うかはベリアルが決めることじゃない。サラ姫様が決めることなんじゃないですか? 俺だったら、ベリアルから貰った力であいつをぶった斬りますけどね」
敵に力を与えるほど間抜けな話はないと俺は思う。自分が負けたいとか理由があるなら話は別だけどね。
「ふふ。なんともタクトらしい結論だな」
「やっと笑いましたね」
「へ、変な事を急に言うな! 話は終わりだ! 早く帰れ!」
酷い追い出され方だ。おっと、サラ姫様にお願いがあるんだった。
「そういえばサラ姫様に一つお願いがあるんですけど」
「何だ?」
「騎乗戦闘を教えて欲しいんですよ」
「…それは今更必要な事なのか?」
完全に呆れられている。
「今だからこそしっかりとした騎乗戦闘を習いたいですよ。お願い出来ませんか?」
「私はこれから治療に専念することになるからその後ならいいぞ」
「では、もし予定が決まれば教えてください」
「あぁ…」
俺は庭園から離れようとした時、神瞳が隠れている二人の姫を見つけた。ここは姉妹喧嘩を回避するために見て見ぬふりをすることにした。ここで話したりして、アインシュタインさんたちの宇宙旅行の話がバレると面倒臭いからね。
お城から帰った俺は聖杯で折れたエクスカリバーを手に入れる。
折れたエクスカリバー:重要アイテム
折れてしまった聖剣エクスカリバー。聖剣エクスカリバーの素材の一つ。
最初はミライのつもりだったんだけど、ミライは俺の現状を聞いてきて、狙いを変えた。ミライが注目しているのは錬金術師の最高難易度クエストだ。これを俺がクリアしてから判断したいらしい。そういうわけで俺が最初に使うことになった。因みにニックさんからのお願いでクエストに挑むのは土曜日の昼となった。朝と夜には結婚式があるからそうなった。
時間を確認するとまだ余裕があるからミールにエンゲージリングを渡すとしよう。




