#997 燎刃の大太刀と火山島攻略開始
昨日の夜に未希から連絡が来て、無事にクエストを突破出来たそうだ。これで今日の夜には聖杯を作ることが出来るだろう。学校が終わり、ゲームにログインすると俺の部屋の炬燵にアテナ様がいた。
「いや~。これはいい物だね~…プロメテウスが人間に火を与えたくなる気持ちが分かった気がするよ~」
「それは少し違う気がしますよ。だって、それは火を使ってませんから」
「あぁ~…そうだね~」
ダメだこりゃ。炬燵の魔力は女神すらダメにしてしまうと言うのか!そう思いながら下に降りると九尾が炬燵でいびきをかきながら寝ていた。その反対側ではキキが寝ている。
「空前の炬燵ブームだな」
「は! あ、すみません。私ったら、うたた寝を」
「あぁ…気にしなくていいよ。俺も眠くなるからさ」
「この炬燵は危険ですね…そうと分かっていても入りたくなる謎の力を感じます」
本当に炬燵を最初に作った人は偉大だよ。因みに炬燵は誰が最初に作ったかは不明。日本では室町時代からあったもので世界各地で似た物は存在している。
キキと二人で料理をしていると匂いに釣られてリリーたちが炬燵に潜ったままやって来た。電気じゃないからそりゃ出来るけど、これは褒められたことじゃない。
「炬燵を部屋に置いて来ないとご飯は抜きだ」
「「「「そんな~」」」」
「そんな顔をしてもダメな物はダメ。最悪炬燵を没収するぞ」
「「「「置いて来る!」」」」
余程気に入ったんだな。まぁ、個人部屋には暖房器具が無いからその気持ちはとても分かる。そしてご飯を食べながら今後の話をする。まずヘーパイストスとパンドラから報告だ。
「パンドラと二人で二種類の太刀を作って見ました。恋火さんのは少し待ってくださいね」
「は、はい!」
因みに今回の太刀はそこまで強くはない。神石なども無いからあくまで太刀の作製をテストして貰うのが狙いだ。そしてこうなると神石や竜石などを集めないといけない。ここで色々な選択肢が出て来る。
「間違いなく手に入るのはドラゴニックマウンテンのクエストなんだよな」
「リリーたちならきっと行けるよ! タクト!」
「リリーはそう思いますよねー…私と違って鎧が無事なんですから」
「イ、イオンちゃん…大丈夫?」
すっかりイオンが落ち込みモードだ。まぁ、これはしょうがないだろうな。
「イオンの鎧の事もそうだけど、たぶんまだ戦力が足りていない。あのシルフィ姫様でも制覇出来なかった山だからな」
「それじゃあ、ディアンたちの進化を優先する感じかしら?」
「そうしたいんだけど、今日から狙うのはこの前行った火山にしようと思う。恐らくそこにはオリハルコンの鍛冶に繋がる何かがあるはずなんだ」
「それなら優先する気持ちは分かります。私たちの全員の武器や防具のレベルが上がると思いますから。もちろんイオンお姉様の新しい鎧も作製出来ますからね」
リアンに言われて尻尾が反応するイオン。しかしイオンはすねた様子で言う。
「…どうせ最初はリリーなんですよね?」
「えぇーっと…イオンちゃんが最初でいいよ?」
「言いましたね? リリー」
完全にイオンの演技にやられたな。そこでリリーも気が付いた。
「あぁ~! い、今の無し」
「ダメです~。皆、聞きましたよね?」
「「「「はいはい」」」」
この二人のやり取りに慣れてきている俺たちである。というわけでまず燎刃の太刀を確認する。
「わぁ~! 見事な大太刀ですね!」
「ありがとうございます」
燎刃はやはり大太刀で恋火が太刀を注文している。パワー特化の燎刃に向いているのは誰が見ても大太刀だった。そして燎刃が外で大太刀を振ると物凄い風切り音がした。
「凄いです! ヘーパイストス殿! パンドラ殿!」
「僕からするとあれを操れる燎刃さんが凄いんですけどね」
「え? あれぐらい普通に出来るよ? お父さん」
「あぁ~…うん。パンドラは出来るよね」
ヘーパイストスの苦労が伝わって来る。娘に力で負けるって結構辛いところがあるんだな。さて、俺は名前を付けて鑑定してみる。
秋月:レア度8 大太刀 品質A
重さ:250 耐久値:300 攻撃力:400
効果:大物殺し、火属性アップ(究)、紅炎、溶断、物理破壊、衝撃波
溶性石で作製された大太刀。二メートルはある長さと刀身の分厚さが合わさり、かなりの重さを誇っている。並みの人では持ち上げることすら難しく扱うだけでもかなり難しい武器。
名前の由来は十一月は秋だからだ。それを知らない燎刃は気に入ってしまっている。ちょっと心苦しい。
ステータスを見ると分かるが重さに対して耐久値と攻撃力がそこまで伸びていない。これが本気じゃない証拠だな。
「タクト殿! 今から向かうのは火山の島なんですよね?」
「あぁ…」
秋月を持ったまま向かって来られると凄い迫力だな。
「是非! 是非とも連れて行ってください! 役に立ちますから!」
「もちろんそのつもりだから落ち着け。庭とかで秋月を引きずったりするとキキに怒られるぞ」
庭がえぐられる光景を見たキキの姿を思い浮かべるとゾッとする。それは燎刃も同じだったようだ。
「あ…そうですね。すみません」
燎刃が秋月を背中にしまうとやはり身長を越えており、抜くのも大変そうだ。ここで改めて依頼の確認をする。パンドラはセチアと魔法杖、ユウェルは伊雪の錫杖、和狐たちにはウガルルムの毛皮を使った靴を作れるだけ注文した。火山フィールドでは役立つアイテムだからね。ヘーパイストスは現在作成中のタロスに向かわせた。本当にオリハルコンの鍛冶方法が見つかるならヘーパイストスの出番はその後にするべきだからね。
「武器はどうするのじゃ? タクト」
「そうだね。決めておこうか。サウィンデスサイズはセフォネ、ハロウィンの杖はセチアで行こうと思う。ユウェルはセチアの注文が終わったら、自分用の鎖鎌を作っていいから我慢してくれ」
「そういう事ならいいぞ! 約束だからな! タク!」
「あぁ」
それじゃあ、火山島の編成を決める。向かうのは燎刃、ゲイル、ロコモコ、ヒクス、コーラルを選んだ。太陽の加護持ち編成だね。これならたぶん行けるはず。ロコモコは心配だけどね。ダメそうだな変えればいい。
「最初からたぶんメルトスライムだらけだ。相手にせず、島の探索を優先するぞ」
「はい!」
みんなが返事をし、火山島に転移する。
「なんで某たちばかり狙ってくるんですか! ヒクス殿!」
ヒクスに乗った燎刃がメルトスライムたちに狙われていた。これに対して俺たちは平和とは言い辛い。
「ギャオオオオオ!」
「また来るぞ! ゲイル! コーラル!」
火山が噴火し、火山雷が俺たちに向かって来た。火山雷はゲイルがガードし、コーラルに乗っている俺たちは火山弾を躱す。
「ロコモコ、大丈夫か?」
「メェ~…」
完全にコーラルの背中で怯えてしまっている。さっきの声が聞こえてからこんな様子だ。まぁ、この声の正体を考えると怯えない方が可笑しい。ましてやロコモコはゼウスの関係者というゲームの設定だ。恐らく声の正体の敵に目の敵にされていても不思議じゃない。
ここでメルトスライム以外の敵が火山口から現れた。
メルトキメラ?
? ? ?
キメラの進化にこんな奴はいないはずだ。亜種って感じか。叡智で確認すると破壊の加護を持っていた。面倒臭い敵が初戦の相手になったものだ。地味に同じ数で相手が空を飛んでいるからここは迎え撃つ選択をした。
「やるぞ! 相手は破壊の加護を持っているが行けるな? 燎刃」
「は、はい! 秋月の初陣、飾って見せます!」
いい気合いだ。俺はパラス・アテナの槍を構える。そしてぶつかり合う。メルトキメラは名前から分かる通り、火属性のキメラだった。しかし火属性の欠点である機動力で俺たちは有利になる。特にヒクスは圧倒的だ。
ヒクスは光分身を使うことで破壊の加護を避けつつ、荷電爪でメルトキメラをボコボコにしている。そしてとどめは燎刃が刺す。
「強閃!」
「ガ!?」
メルトキメラの頭に秋月が命中し、地面にメルトキメラが墜落すると土煙と共にクレーターが出来ていた。
「凄い威力だな…」
「ギャオオオオ!」
ここで火山がまた噴火し、火山雷が俺たちに向かって来た。ゲイルは戦闘中だ。なら向かい打ってやると思っていたら、一緒にコーラルに乗っていたロコモコが動いた。
「メェーーーー!」
火山雷とロコモコの万雷がぶつかり合う。押されてしまうが回避の時間はこれで十分だ。
「メェー!」
ロコモコが見たか!この野郎!と言っている気がする。
「ギャオオオオオオ!」
「メ…メェ~…」
ロコモコ、先程より大きな声でトーンダウン。挙句の果てに俺の背後に待機する。
「よしよし。ビビることは無いからサポート頼むな? ロコモコ」
「メ!」
「よし! 俺たちも行くぞ! コーラル!」
「ピィ!」
コーラルの超連携が発動し、溶岩と海水の竜巻が空を上下にうねり、残りのメルトキメラたちを残らず貫き、呑み込んだ。しかしメルトキメラたちはこれで死ぬことはなく、ゲイルとヒクスは止めに動くと巨大な火山雷が二匹と襲い掛かり、追撃を断念して回避する。現れたのはこちら。
メルトネメア?
? ? ?
今度はネメアの亜種だ。一言でいうならウェルシュゴールドのネメアと言った感じだ。明らかに強敵だな。しかも二匹…これは逃げれそうにない。
『タクト殿! こいつらは某たちにお任せください!』
『あぁ…分かっていると思うがこいつらも破壊の加護持ちの強敵だ。気を付けろよ』
『は!』
俺たちが会話している間にメルトスライムたちが俺たちを覆って来た。
「海流操作!」
パラス・アテナの槍から海水が吹き出し、メルトスライムたちを吹き飛ばす。するとメルトキメラたちが放射熱線を放ってきた。
「空間歪曲!」
「ピィ!」
「メ!」
俺の空間歪曲は躱されるが瞬時に俺の攻撃の意図を理解したコーラルとロコモコが放射熱線と雷霆で攻撃する。攻撃を受けたメルトキメラがこちらを向くとパラス・アテナの槍が貫いた。これで一匹目!
「戻れ! パラス・アテナの槍!」
ここでメルトキメラたちが魔方陣を展開する。この時を待っていた!
「魔法阻害!」
メルトキメラたちの魔方陣が消える。やっと使えた!強い敵とか魔法特化の敵には中々使えないんだよね。このスキル。大体阻害無効とか持っているから。悲しい現実だ。
「ピィ!」
この隙にコーラルが距離が詰める。そしてメルトキメラが向かい打つ体制になったことを確認した俺は転瞬でメルトキメラに不意打ちした。
「生憎乗っているだけの騎手じゃないんだよ…たっぷり味わえ。神波動!」
これで二匹。すると空にいる俺にメルトキメラたちが襲い掛かって来た。俺はメルトキメラたちの攻撃を転瞬で掻い潜り、メルトキメラたちの上を取る。
「群がったことを後悔しやがれ! 巨大化! 水圧切断!」
メルトキメラたちはパラス・アテナの槍の強激突の効果で避けることは出来ず、空から落ちて来る極限にまで圧縮された水圧が宿っている巨大な槍に対して障壁でなんとかしようとしたが仲良く潰されることとなった。
「ふぅー…」
「ピィ!」
「おっと。ありがとうな。コーラル。戻れ! パラス・アテナの槍! さて、メルトネメアは…おぉ~…白熱しているな」
空で雷と赤雷が激しくぶつかり合っており、もう一方ではブレスが飛び交っている。状況から見ると燎刃の秋月は破壊の加護のせいで限界を迎えたっぽいな。それでもヒクスのおかげで優勢は揺るがっていない。雷化を使ってもヒクスに当たりそうになると逃げられている。メルトネメアに同情してしまうな。
こうなるとどちらかと言うと危ないのはゲイルのような気がするな。俺たちがそれぞれの攻撃を見守っていると何度も火山の攻撃が飛んで来る。
「あの火口塞げないかな?」
「メ!」
「ん? あぁ…巨大化したパラス・アテナの槍なら塞げそうか…でもアテナはきっと怒るだろうな。親友の槍を蓋に使うような物だから」
「メ~…」
ロコモコは残念そうだ。
「ガァ!」
「神障壁。そんな奇襲が通用するはず無いだろうが! 星震!」
ゲイルと戦っていたメルトネメアが狙いを俺たちに変えて来た。ここでゲイルが俺の所に来る。
「ガゥ」
「お前がそういうなら手を貸すよ。行くぞ! ゲイル! 俺たちの必殺技を見せてやろう!」
「ガァアア!」
訓練で発見したゲイルとの必殺技がメルトネメアに炸裂する。それでも生きていたメルトネメアの上からゲイルがのしかかり、地面に叩きつけると雷放電を浴びせて倒した。まるで自分が倒した感じだ。いや、そうなんだけどね?
「そこ! ドラゴンブレス!」
「ピィーーー!」
雷化が解除された時を狙い、二人の渾身のブレスを浴びせて勝負ありだったようだ。
「お疲れ様」
「ヒクス殿がいなかれば竜化を使う所でした」
「へー」
「な、なんですか? タクト殿」
「いや、冷静に戦闘を分析しているから感心しているんだよ。秋月もギリギリ無事だったみたいだしな」
秋月はボロボロになってしまっているが無事だ。すると燎刃が言う。
「いきなりボロボロにしてしまって、ヘーパイストス殿たちに申し訳ないです」
「しっかり使った結果だろう? 今回は相手が悪かったんだし、しょうがないさ。寧ろ壊さなかったことを評価したいぐらいだよ。リリーなら壊していそうだしな」
全員が頷き、燎刃は苦笑いだ。
「それであれはどうしますか?」
下にはメルトスライムたちが倒したモンスターたちに群がっていた。酷い解体対策だな。パラス・アテナの槍の海竜操作でメルトスライムたちを流して、解体した。
メルトキメラの毛皮:レア度9 素材 品質A+
火山地帯に生息しているキメラの毛皮。溶岩を浴びてもびくともしないほど、熱に強い毛皮で火山地帯を探索する冒険者に非常に人気が高い防具素材。
メルトネメアの毛皮:レア度10 素材 品質S
火山地帯に生息しているネメアの毛皮。見た目の高級感、炎攻撃を完全防御する性能から冒険者に絶大な人気を誇っている。その性能は上級の火竜素材にも匹敵するとも言われており火属性の毛皮の中でも上位に君臨している素材。
うん。今日の解体スキルは調子が良さそうだ。メルトネメアの毛皮は二つゲットし、メルトキメラの毛皮は四つゲットした。さて、探索を続けるとしよう。




