#996 ニュートンとの交渉と炬燵の魔力
俺は久々にエリクサーラピスへやって来た。そして錬金術ギルドに向かう。
「すみません。手紙を貰ったリープリングのタクトです。ニュートンさんはいますか?」
「少々お待ちください」
俺は受付に人に案内されて、ギルドマスターの部屋に通された。
「リープリングのタクトです」
「入ってくれ」
「失礼します」
俺がニュートンさんの部屋に入る。
「よく来てくれたね。今からアインシュタインを呼ぶから少しだけ待っててくれ」
アインシュタインさんが来るまで雑談をして、アインシュタインさんが入って来た。そして本題に入る。
「詳しい話はアインシュタインから聞いている。率直に言うと我々はアインシュタインが作ったマナ発生装置の開発に手を貸してね。協力した報酬が欲しい」
そんな話だと思ったよ。
「一緒にエクスマキナの母星に連れて行けばいいんですか?」
「いや、我々は君が持っている鍵が欲しいんだよ」
そう来たか。確か錬金術師の最高難易度のクエストに必要な鍵だったっけ?とにかく言いたいことがあるな。
「一人で作れなかったんですか? 天才のアインシュタインさんともあろうお方が」
「一人で作ったわい! じゃがな…必要な素材だけは錬金術ギルドで買うしかなかったんじゃよ。それで買っていたら、こいつが横槍を入れて来たんじゃ」
これに対してニュートンさんは否定をしない。
「我々も必死なのだよ」
「はぁ~…分かりました。それで手を打ちます。それじゃあ、アインシュタインだけをエクスマキナの母星に連れて行くということでいいですね?」
「いや、それは…」
「儂は構わん。お主も鍵かエクスマキナの母星かどちらか選ぶしかないことぐらいわかっておるじゃろ。両方取るというのは虫が良すぎる話じゃぞ」
アインシュタインさんの言う通りだ。するとニュートンが予想外の提案をして来る。
「では、第三の鍵で手に入る物は君に譲ろう。その代わりに私もエクスマキナの母星に行かせてくれないかい?」
「それは嬉しい提案ですけど、そんなことを言って大丈夫ですか?」
「我々と国が欲しているのは賢者の石とエリクサーだからね。第一の鍵が賢者の石、第二の鍵がエリクサーであることは分かっている。第三はそこまで重要じゃないのさ。その代わり、全ての扉が開かれた後の事は我々に任せて欲しい」
「分かりました。俺も錬金術にそこまで関わるつもりはありません。その提案をお受けします」
「欲があるのか無いのかわからん奴じゃのう。まぁ、エクスマキナの母星に行けるなら儂は問題ないわい」
アインシュタインさんはぶれないな。これで俺はマナ発生装置を受け取り、どうやってエクスマキナの母星に行くか話し合うととんでもない方法を言われる。
まず、マザーシップに乗る方法だが、イクスが許可してくれるはずもないことからマザーシップからワイヤーを伸ばして二人がこっそり作っていたカプセルタイプの小型宇宙船で行くと言うのだ。
「なんですか? その宇宙船…」
「エクスマキナの船の素材を拝借して作った物じゃ。宇宙を航行してきた船の素材じゃがら安全面に問題ないはずじゃからわしらのことはそこまで気にせんでいい」
錬金術ギルドが保管しているエクスマキナの船をばらしたわけだな。これを知ったら、イクスが怒らないか心配だけど、自分の船じゃないからセーフっぽいな。
更に二人は宇宙服まで準備していた。デザインの元はアポロ11号で有名なアームストロング船長の宇宙服っぽい。
「準備万端じゃないですか…」
「まぁの。正直使う前にこの世を去るものだと思っておったが作っておいて良かったわい」
「全くだね。さて、タクト君。後は君の召喚獣の力を借りたいのだが、宇宙空間で動ける召喚獣はいるかな?」
「えーっと…五体いますね。その内、乗れるのは恐らく二体です」
ヒクス、スピカ、サフィが星間行動スキルを持っているから最有力。ただ二人を乗せるとなるとスピカはまず拒否だろうから二体にした。残りの二体は宇宙空間で普通に動けるイクスと黒鉄だ。
「流石じゃのう」
「それだけいるなら問題はないね。では、マザーシップを宇宙空間で待機させて、君の召喚獣に我々を運んで貰うとしよう。ここで乗り込むと色々面倒なことになるからね」
「間違いなくエジソンや他の技術者たちは騒ぐことになるじゃろうからな。それに他の国から何か言われるのは面倒じゃ」
確かに行きたがる人は続出するだろうな。シルフィ姫様とか間違いなく行きたがる。それにエクスマキナの母星に沢山の人を関わらせるのは危険だと思うんだよね。だからここは黙っていくに限る。
「さて、では早速エクスマキナの母星に行くとするかの!」
「あぁ~…明後日じゃダメですか?」
「なぜじゃ!?」
「彼は妻持ちなんだよ? 他にもたくさんの妻候補がいるんだ。私も早く行きたい気持ちはあるが優先順位を間違えちゃいけない。ここはタクト君の意見を尊重しよう」
「そ、そうじゃな…うむ。奥さんは怒らせてはいかんな」
この二人が言うとなんか生々しくて嫌だ!確かに今日はこれからリリーたちのために時間を使うつもりだけど、明日の夜は魔王同盟の会議がエステルで予定されている。この会議で早速侵攻の話が出るはずだ。ミールの告白もあるし、そんなわけで明後日の夜に予約を入れた。
これが終わると錬金術師で最も仲がいいニックさんに会いに行く。彼にどうしても依頼しないといけないことがあるのだ。それが聖杯の作製。錬金スキルのカンストで使えるようになる金属配合という技が聖杯の作製に必要らしいのだ。なんでも金属と金属ではない物を組み合わせて新たな金属を作り出すスキルらしい。俺が頑張って今から上げることも出来なくはないのだが、時間が掛かるから専門家に依頼することにしたわけだ。
「聖杯の作製を手伝ってくれませんか?」
「すみません。話がぶっ飛びすぎて意味不明です」
一から説明するとニックさんはため息をする。
「本当にどんどん強くなっていきますね…聖杯を作るなんて前代未聞ですよ」
確かに願い事が叶う聖杯を作るなんて神様の所業だろうな。
「まだ素材が集まっていないんですけど、早ければ今日にでも集まりそうなんです。手を貸してくれませんか? 報酬は聖杯の一回の使用でどうですか?」
「三回で手を打ちましょう」
「決まりですね。素材が手に入り次第連絡します。あ、それと錬金術師の最高難易度のクエストに俺も関わることになったので、その時はよろしくお願いします」
「あぁ…鍵を持っているんでしたっけ? タクトさんが関わってくれるなら鬼に金棒ですよ」
そこまで期待されても俺は第三の鍵を担当するだけだしな。まぁ、アドバイスぐらいはしよう。第一と第二の鍵が使われないと第三まで行けないだろうからな。
俺は聖域の島のマザーシップに向かうとまだ皆が修理していた。頑張っている皆に魔力を与えて、エクスマキナの母星に行けるか聞いてみる。
「宇宙航行には問題有りませんが宇宙戦闘においては問題あります」
「思いっきりやり合ったからな。何か対策はあるか?」
「バトルシップの修理は完了しましたので、マザーシップにバトルシップを搭載し、戦闘時に出撃させれば戦闘に問題は無いと思われます」
あ、バトルシップってマザーシップの中に入れれるんだ。知らなかった。しかしそうなると問題点が出て来る。
「マザーシップの操縦はイクス姉様しか出来ませんから我々がバトルシップを操ることになります。その場合にマザーシップが手薄になるでしょう。いかがしますか? マスター」
「うーん…増員は出来ないしな~。まぁ、ヒクスたちを待機されておくよ。バトルシップを出撃されることが出来るなら同じところからヒクスたちも外で出れるだろう」
「そうですね。それでバトルシップはいかがしますか?」
「何が起きるか分からないから一応搭載させていこうか。バトルシップも故郷に帰してあげたいからさ」
「イエス、マスター」
俺たちはマザーシップにバトルシップを搭載し、家に帰るとリリーたちに暖房器具を与えた。すると予想通りの光景となる。
「「「「あったか~い…」」」」
全員がご満悦な様子だ。俺も炬燵を出すとセチアとイクスが俺の隣に座って来る。
「「失礼します」」
「「「「あ! あぁ~…」」」」
それを見ていたリリーたちは炬燵から抜け出そうとするが炬燵の魔力に勝つことが出来ず、炬燵から顔だけ出してこっちを見て来る。
「いや、部屋の中はあったかいし、来たいなら来ればいいだろう?」
「抗えない何かがあるんですよ」
猫は炬燵に勝てないようなノリで言われた。まぁ、リリーたちの様子がそのように見えているからかも知れないな。はっきり言えることはみんなを炬燵から出すのは困難を極めることだけは確実だと思う。特にノワは炬燵にすっこんで顔すら出さない。そう思っていると足に何かが触れた。
「バレているぞ。ノワ」
炬燵布団からノワが顔を出す。
「…この中ならどこでも移動可能」
「何アピールなのか全く分からない」
「…にぃならこの上にお菓子を置くに違いない」
つまりお菓子を置かれても炬燵から出ずにここにやって来れるとアピールしたかったみたいだな。
「残念ながら今日は無しだ。というかみんなは何かしないのか? 一応みんなのために時間を取ったんだぞ」
「「「「今回は家でのんびりしよ~」」」」
俺は炬燵の力に戦慄を覚えて、リリーたちと平和でのんびりした時間を過ごしているとミライからメールが来て、無事にクエストをクリアしたようだ。ニックさんに連絡を入れて、明日の会議後に聖杯を作ることが決まった。やることは全部やったので、ここでログアウトすることにした。




