#100 誠吾と侍じいさん
祝、本編100達成です。いつも読んでくださり、ありがとうございます。これからも毎日更新していきますので、よろしくお願いいたします。
過去話で、流れをとめたくないので、今日は2話更新いたします。
俺があの人と出会ったのは俺が最も心が荒んでいた時期だ。佳代姉たちの家に行く前の話だ。
交通事故で両親を亡くした俺は最初に父方の親戚に引き取られることになった。そこで出会ったのが御劔刀侍。俺の本当の祖父に当たる人だ。
「せい君の旧姓が御劔なのは知っているけど、その人がせい君に戦い方を教えた人なの?」
「そうだよ。とんでもない爺さんだったな」
御劔家は代々人殺しの剣術を受け継いできた。俺の先祖はいくつかの戦争を生き残り、武勲を上げた家系なのだが、それを支えたのが御劔の剣術だったという話を爺さんから聞かされた。本当かどうかは知らない。やけにかっこいい逸話を自慢げに語られたのは覚えている。
確か戦闘機が燃料切れで墜落して、敵軍基地を一人で壊滅させて、戦闘機奪って逃げたという話とか聞かされたな。絶対嘘だと思う。
そんな嘘かどうかは知らないが御劔の剣術が受け継がれてきたことは事実らしい。俺は全然知らなかったが、本当の親父もこの剣術を会得していたらしい。
そして爺さんは昔、VRゲームで大暴れしていて、その際ゲームでチームを組んでいたのが小柳さんの父親だったらしい。因みにその時の異名が『現代の土方歳三』だったと聞いた。
おかげで俺は爺さんにVRゲームでもボコられることになる。その際にVRゲームの戦闘知識だけ教えて貰った。他の知識は教わらなかった。ただ剣を持たされて殺されただけだったな。
しかしそのおかげで痛みで動きが鈍くなるのも知っていたし、金的が有効なのも知っていた。だからこそアーサーたちにはあんな戦闘が出来た。
因みにこの事は俺しか知らないはずだ。爺さんが言いふらすとは思えないからな。佳代姉が聞いている。
「強い理由はわかったけど、どうしてそんなことをしていたの? 危ないでしょ?」
「そうなんだけどね…俺は爺さんに救われたと思っているよ」
『え?』
三人が意味がわからないと言いたげな表情する。
「当時の俺は両親を亡くして、心が本当に荒んでいた。目に映る人間全てがゴミに見えて、どうしてゴミのような人間が生きていて、なぜ俺の両親は死んだんだろう? 死ぬべきはゴミのような人間のほうじゃないのかって思っていたよ」
「せい君…」
「そしていつしかこんな世界に生きていても意味がないと考えるようになった。それをあの爺さんは気付いたんだろうな…塞ぎ込んでいた俺を道場まで連れて行ってただ一言、ワシと戦えって言ってきた。何故かその態度が気に入らなくて竹刀を持ってがむしゃらに戦いを挑んだ。結果は惨敗だったけど、不思議と気持ちは晴れていたな」
「それはストレスを発散したからかな?」
「わからない。でも体が動かなくなって倒れたまま見えた景色はとても綺麗に見えたのは、覚えているよ」
「そっか。じゃあ、私たちはせい君のお爺ちゃんには感謝しないといけないかな? 私たちとせい君を出会わせてくれた人ってことだからね」
そこまで大袈裟じゃないと思うがここで水を差すのはダメだな。すると理恋が疑問を口にする。
「でもさそれっておかしくない? だって、この話ってここで終わりだよね?」
うん、普通なら確かにいい話で終わるところだろうけど、残念ながらあの爺さんは普通じゃなかったんだよな。
「話には続きがある。俺が倒れているとあの爺さんは『お前には才能が有る。これからワシの教えを受けよ』って言ってきたんだよ」
『はい?』
三人が何それ的な顔をする。当時の俺も何言ってるの?この爺さんと思ったからな。
「で、宣言通り毎日俺を捕まえては剣道の基礎を徹底的に教えられた。しばらくして俺に基礎が出来上がって来たと判断したら次はこれから毎日ワシと戦えって言ってきて、ボコボコにされる毎日さ。動けなくなったら、VRゲームでまたボコボコにされる毎日をおくっていたよ。その後、爺さんが満足したから数日後に俺は近衛家に来たって感じだね」
「な、なんていうか…パワフルなお爺ちゃんだったんだね」
「パワフルすぎだったよ。俺が石投げてもそれを喜ぶし、俺が爺さんの技を盗むともっと喜ぶし…本当に困った爺さんだった」
今でもよく覚えている。
「よいぞ! 誠吾よ! そうじゃ! 勝つためにはなんでも使え! それでこそ御劔じゃ!」
「考えることをやめるでない! ワシを殺すことを毎日考えよ! そして見事ワシを殺して見せよ!」
あー、嫌なこと思い出した…なんで俺、あんな戦闘狂爺さんと暮らしていたんだろ?
俺が嫌な過去を思い出していると未希が言ってくる。
「でも兄様、笑ってる…初めてみる笑顔」
「ん? 笑ってたか?」
「凄い優しい笑顔してたよ。まだ隠し事あるでしょ? せい君」
隠し事ではないんだけどな。
「隠し事ではないけど、俺は爺さんに沢山酷い目にあったけど、同時に爺さんから色々大切なことを学んだからさ。俺の中で爺さんは目標であり、また尊敬している人物でもあり、恩人でもある感じかな」
理恋が聞いてくる。
「どんなこと教わったの?」
「それは秘密かな」
『えー!』
三人は不満そうに言うがこればっかりは教えられないかな?俺は爺さんに言われたことを思い出す。
「誠吾よ…人はいつか死ぬ生き物じゃ。辛いじゃろうが生きている人間はその辛さを味わわねばならん」
「どうして?」
「死んだ人の意思…思いを受け継ぐためじゃ」
「受け継ぐためには辛い思いしないとダメなの?」
「真に思いを受け継ぐためには避けては通れぬ道じゃ。逆に言うと誠吾は父親と母親の意思を今、受け継ごうとしておる」
「父さんと母さんの意思を…僕が受け継ぐ…」
「さよう。お主が味わっておる辛さ、見事に乗り越えて見せよ。そうすれば天国におる二人も安心することじゃろう」
「お爺ちゃん…僕…」
あの時、俺は決意した。両親に誇れる大人になろうと思った。その思いは今も変わらない。因みに爺さんは俺が高校生になる前に他界した。俺は爺さんが死んだとき、泣かなかった。それは爺さんからの遺言を受け取ったからだ。
『わしの剣、お主に託す。あの世で戦える日を楽しみにしておるぞ』
なんともあの爺さんらしくて、笑ってしまったな。
EOならあの爺さんに勝てるかな?不思議とそんな気持ちになったが、勝てないだろうな。いつか胸を張って、爺さんより俺のほうが強いといいたいもんだ。
「兄様…何か思い出してる…」
おっと、未希に察知された。
「とりあえず俺からの説明はこれで終わりだ。閉廷」
「あ、待って! まだ他に聞かないといけないことがあるの!」
ん?他に何かあったか?
「そうだった! こっちが本題だった!」
「超重要」
佳代姉に続いて二人もそう言ってくる。いや、本当に心当たりがないぞ?
『どうして私たちより先に他のプレイヤーたちに攻略情報教えたの!』
……あ~
その夜は三人に色々説明し、イベントの話をする。
どうやら三人もフリーティアに来るらしい。明日申請して、火曜日か水曜日に到着するのを目指しているそうだ。俺も負けていられないね。
誠吾の過去話でした。100話になったのは、偶然です。
誠吾のおじいちゃんは無茶苦茶な設定だと自分でも思います。