#995 タクトVSギルガメシュ
俺は一人でギルガメシュに挑むことにした。どうせ挑むなら一人で挑みたい。修練の塔を実行すると黄金の光と共に古代メソポタミアの伝説の王が降臨した。姿は上半身は裸で鍛え抜かれた肉体を黄金のアクセサリーを装備している。下は黄金の巻布姿で髪の毛は真っ赤な短髪姿だ。
「まさかエレシュキガルにこんなことをお願いされるとはな。有名すぎるのも考えものよ。そうは思わぬ…ほう。お前は神と契約しているのか?」
「はい。未熟者ですがお手合わせをして頂けないでしょうか?」
「くくく。王に対する礼儀はなっているが神や魔神を殺しておいて今更隠す物でもあるまい? 今の我はお前たちを徹底的に鍛える装置でしかない。思いっきりぶつかって来るがいい! 生前の我の力を見せてやろう!」
あぁ、そういう設定なわけね。道理で強い訳だよ。俺は近衛を構える。神威解放は使えないがこれでどこまで戦えるか見てみたい。ギルガメシュは巨大な斧だ。
「こい」
「行きます!」
俺は攻撃した瞬間、ぶっ飛ばされる。近衛の抜刀を初見でしかもあんな巨大な斧で止められた挙句、再度攻撃を仕掛けるより速く蹴りが飛んできた。
「防御の認識が甘い。その武器はそんな使い方をする武器ではあるまい? 本気で来ないならばすぐ死ぬぞ。英雄技! カ・ディミラ!」
空間から無数の黄金の短剣が飛んできた。それを転がって回避すると短剣が刺さった衝撃波で吹っ飛ばされる。まるで隕石だ。それが次々飛んで来る。
「空間歪曲!」
「ほう…空間を操るか。しかし甘いな」
俺の空間歪曲から黄金の短剣がギルガメシュに殺到するが同じ黄金の短剣に撃ち落とされる。しかしそれぐらいは想定内だ。これで黄金の短剣の攻撃は俺に向いていない!
俺は距離を一瞬で詰めて、斬撃を放つがまたしてもガードされる。しかし次に放たれる蹴りは後ろに下がって躱すと近衛を構え直して首を狙うが斧を少し動かしただけで止められる。ここまで戦えばギルガメシュの戦闘スタイルが否応でも分かる。
テクニックも相当あるけど、特出しているのがパワーだ。本来なら近衛の斬撃で多少は押し込めたりするものだが、ギルガメシュの斧は全く動いていない。これは圧倒的に力負けしている証拠だ。巨人の加護があってもこの差…流石半神半人の英雄と言われるだけはある。
しかもギルガメシュのシュメールの最高神アヌ、主神エンリル、水と知恵の神エンキから加護を受けているはずだ。アテナのみの俺と比べると差は明らかだろう。しかしアテナの為にもここで諦めると言う選択肢はない。
「はぁああああ!」
「いい! 実に良い動きをしているぞ!」
俺は連続で斬りかかり、特に背後や左右に回り込み、襲い掛かるが悉く防がれ、回避される。俺はスピードで勝負するしかなかったがそれでこの結果は悪夢のような感じだが、攻め続けていると決定的な隙が生まれた。
「(入る!)」
俺がそう思った瞬間、第六感が発動する。危険だと分かっていても行くしかない!このチャンスを逃したら、最悪攻撃すら当てずに終わる可能性がある。そんなことになるくらいなら危険に飛び込んでやる!
「はぁあああ!」
俺の近衛の攻撃はギルガメシュの肉体を傷付けた。そして追撃が発動するがその状態でギルガメシュは斧を始めて振りかぶっていた。
「絶対防御!」
ここでギルガメシュが斧を止める。すると俺の背後から黄金の短剣が飛んで来て、絶対防御が解除された。ここで念動力!?やばい!力を溜められた!
「王撃!」
「神障壁!」
俺は近衛を引いて神障壁を発動させて何とか攻撃を止めようとしたが問答無用で壁に激突された。そして体が痺れて動けない。ここで目にしたのがギルガメシュが巨大な黄金の弓を取り出し、黄金の矢を構える姿だった。
「全盛期の我に傷をつけたことを誇るがいい。そして危険と分かっていながら勝負に出た勇気は称賛に値する。これはその褒美だ。受け取るがいい! 英雄技! エンリル・メラム!」
一瞬で俺の心臓に矢が刺さると後から矢が通ったであろう射線上の地面が激しくえぐられ、俺は体が軟体動物になったような感覚に襲われて倒れる。
「戦友よ。ここでは死ぬことは無い。何時でも挑んで来るがいい」
最後にギルガメシュの顔を見ると何故か涙を流していた。その理由が分からないまま俺は修練の塔の外に転移した。
「「「「どうだった?」」」」
「化け物だった…」
アーレイたちが言っていた色々な武器の投擲攻撃は無かったけど、それは本気を出していないことを意味している。恐らく英雄技ももっとあるはずだし、そもそも俺はギルガメシュを立ち位置をほぼ動かせていない。誰がどう見ても完敗だ。それでもムカつきとか無いのはギルガメシュの堂々とした戦闘故だろう。まるで俺のいる強さの領域まで上がってこいと激励をされている感じだった。
その後、皆がそれぞれ全盛期の英雄たちと戦闘をした。アーレイは俺の指示でヘラクレスと戦闘をした結果、ボロ雑巾にされたそうだ。
鉄心さんはヤマトタケルノミコトと戦闘したが初撃で即死されられたらしい。
「つまらん。出直して来いとだけ言われてしまったよ」
「心眼とか使わなかったんですか?」
「使ったけど、英雄技で斬られてしまった。何か特殊な英雄技なんだろうけど、正体が分からずすまない」
鉄心さんでも分からないならきっと俺でも分からない。心眼の最初の発動は確定回避だ。それを無視して斬るなんてどんな仕組みの英雄技なんだか…気にはなるが挑みません。
一番可能性が高いフィンとの勝負もレイジさんが挑み、惨敗した。
「戦ったフィンと違いすぎやろ…」
フィンはテクニックタイプでレイジさんの攻撃を全て防がれたそうだ。
「トロイア・プライドを槍に盾のルーンを使ってちょい当てで弾くなんて異常やわ」
更に魔導書まで持ち出して、魔法と槍を巧みに操るフィンが敵だったらしい。槍の先生として戦ってみたいところだ。こんな感じで難易度エクストラは神様と最低二つは契約を結んでどうにか戦いになるレベルだという結論に至った。
ここでギルドに戻るとボロボロ状態の研究員と銀たちがいた。どうやらベイカーの町に偵察に行って来たらしい。
「何があったんですか?」
「町の外が森に変化していて、森に入ったら、エディンムっていう悪霊に襲われたんだよん」
「「「「エディンム?」」」」
「…確か古代バビロニアの悪霊の名前です」
みんなが知らない中、霰ちゃんが教えてくれた。サバ缶さんが聞く。
「エディンムはそんなに強かったんですか?」
「足止め特化の敵だったね…そしたらいきなり絶叫と共に変な巨人が現れて、つぶされたんだよ」
「…識別出来ましたか?」
「体が動けなくて出来なかったよん…でも姿ははっきり確認出来た。ベースはゴリラで顔が獅子、黄金の鎧を着て、黄金の角まであったよん」
古代バビロニアの悪霊、森、巨人と来ると敵の正体は予想しやすい。特に俺はギルガメシュと戦ったばかりだからね。尚更名前が出やすい。
「フンババか?」
「恐らくそうでしょうね。ギルガメシュとエンキドゥに討伐された森の番人。巨人とされたり、容姿は曖昧ですが自然神にもされている存在です。いきなり襲われて対処できる敵ではないでしょうね」
あのギルガメシュでも戦う事にビビってしまうほどの敵だからな。誰も銀たちを責めれない。取り敢えず分かったことはベイカーの町は使えるけど、外に出るとフンババに襲われるということだ。
「本当にここの運営は簡単に進ませてくれませんね」
「取り敢えずベイカーの町に行ってくるわ。無人の町なんて怪しすぎるもの」
ベイカーの町の調査にはルインさんが当たることになった。そして俺は生産職たちから生産状況の報告を受ける。まずミュウさんは無事に養蚕に成功し、近いうちにウェディングドレスの発注がプレイヤー全員にすることが可能となるそうだ。俺は手伝った特典でミュウさんが優先的にウェディングドレスを作ってくれることとなった。
「セチアちゃんたちのウェディングドレスだけど、遅くとも金曜日には完成するよ」
「それじゃあ、土曜日の午前中と夜に予約を入れておきますね」
「りょーかい。ついでに他の子たちの分も作っちゃおうか?」
「そうですね…では、イクスとノワの分をお願いします」
宝石類と木も順調に生産が進み、本格的に他国プレイヤーへの武器やアクセサリーの売買が本格化する準備も整いつつある。その証拠を受け取ることが出来た。
ロイヤルオークの寄生木:レア度10 素材 品質S
暗黒の力を宿した寄生木。主に矢や槍として使用され、その硬さから剣も作ることが出来る。矢の素材としては最高クラスの木材。
これを矢にすると北欧神話の光の神バルドルを殺した矢ミストルティンとなる。木から剣が作れるという理由は触ると分かる。
「カッチカチだな。まるで金属みたいだ」
「音が完全に金属だからな。だが、俺たち鍛冶師はこいつを剣には出来ないらしい。ま、木材だから当然なんだけどよ」
「残念だったね。英雄フロームンドの剣は私たちの管轄だよ」
「へいへい」
英雄フロームンドはミストルティンという剣を使っていたデンマークの英雄だ。剣にするとこちらの武器になるとユグさんは予想しているみたいだな。ま、俺は矢の素材として使わせて貰うとしよう。ここでクロウさんたちからお願いがされた。
「悪いんだけどよ。火山の島の攻略を優先してくれないか?」
「オリハルコンですね?」
「あぁ。このゲームで鍛冶する武器で最高峰は間違いなくオリハルコンだ。それをレヴィアタン戦前に出来ればプレイヤーに供給したい。頼めるか?」
「元々優先するつもりでしたよ」
「まぁ、お前ならそうするだろうな」
次に俺はナオさんからミールの指輪を受け取る。実は最終日に完成していたのだが、今日受け取ることにした。あの町では伊雪に告白したからね。
「次の指輪はどうしますか?」
「クリュスと千影のエンゲージリングをお願いします」
「分かりました」
これで用事が終わったから俺は手紙を受け取ったからニュートンさんの所に行くとした。
ギルガメシュ戦をリクエストされたので、書いてみました。
ギルガメシュについて調べていると実は物凄いパワーファイターであることが分かりました。しかも意外に涙もろかったそうです。最後の涙のシーンはそこを反映してみました。どうしても有名なゲームのギルガメッシュがちらつきながら書くことになりましたが少し違うギルガメシュ王を感じて頂けると幸いです。




