#991 ヘカテーリベンジ戦
今までと同じ演出でヘカテーが現れる。
「…また来たんだ。いい加減、眠らせて欲しい」
「それは悪いがこちらも君があの町の人々を呪っている限り、引く訳には行かない」
「…呪っている? それは間違い。私はあの人たちを救っている。寧ろ私を倒すとあの町の人たちの不死が解けて、みんな死ぬことになる。どちらが正しいかは明白」
この事はダーウィンさんから聞いているから俺たちの覚悟は決まっている。
「生死の話をするなら確かに君は町の人たちを救っているんだろうね」
「だけど、俺たちは知っているんだよ。あんたらが町の人たちをずっと苦しめ続けて来た事をな。神様ならその声が聞こえていたんじゃないのか?」
カイの返答にヘカテーが答える。
「…聞こえていた。でもそれは仕方ないの事。彼らは不死を望み、彼女は永遠の苦しみを頼んだ。私は両方の望みを叶えただけ。望みを叶えてから今度は助けて欲しいなんて余りにも身勝手すぎる。神は願えば何でも叶えてくれる便利な道具じゃない」
神社で神頼みをしている日本人にとっては耳が痛い話だ。
「…確かにあなたの言う通り、神様はそんな存在じゃないよね。私にとって神様は不安や悲しい事、辛いことから助けて欲しいと願いを聞いてくれる存在だと思う」
雫ちゃんの言う通りだと思う。俺もそうだったけど、何か不幸なことが起きた時に人間は怒りや悲しみをぶつけられないといられない生き物だ。何処かにこの感情をぶつけないと本当に壊れそうになる。そしてそれらを乗り越えた時に人間は神様に感謝するんだ。結局神様は何もしていないかも知れないけど、感謝せずにはいられないのも人間なんだよね。
「そうね~。それが人間を苦しめて信仰される悲しいことだわ~。本来のあなたは純粋な願いを聞いてくれる神様なのにね~」
今回はハロウィンの女神として登場しているからヘカテーは悪者側となっているが本来ヘカテーは日本の神様と同じような神様だ。安産祈願やあらゆる分野での成功を他の神様と一緒にヘカテーに祈ると御利益が増すとされている。だからこそワイフさんは残念に思わずにはいられないのだろう。
「…懐かしい。でも、私はこの地で信仰されている女神として譲るつもりはない」
「それならお前に勝って、俺たちは彼らを解放する!」
「前回のようには行きませんよ? 女神ヘカテー。ギルマスに任されたんです。ここで決着を付けさせて貰います!」
満月さんと与一さんの言葉を合図に全員が武器を構える。これにヘカテーも答える。
「…やれるものならやってみるといい。冥波動!」
「英雄波動!」
「…フライト!」
カイが英雄波動でヘカテーの冥波動を相殺すると雫ちゃんが空を飛び、ヘカテーに空中戦を挑む。
「…消滅弾」
「…神弾!」
「…死滅光線」
「…石化光線!」
魔力の球は魔力支配で操作しあい、お互いにぶつかり、爆発すると今度は光線を撃ち合う形となった。因みに雫ちゃんが使っている石化光線は魔導書から放たれている。雫ちゃんの魔導書はエンゼルファミーユと同じ素材で作られている魔導書だ。すると雫ちゃんはヘカテーに接近していく。
「…はぁあああ!」
「…私と杖で勝負するつもり?」
ヘカテーが杖を振りかぶる。この瞬間を雫ちゃんは待っていた。
「…シフトチェンジ!」
「私、参上!」
「…爆心」
雫ちゃんと入れ替わったユグさんがヘカテーの杖の一撃を受けて、爆発と一緒にぶっ飛ばされる。
「ここが私の関ケ原だ! いっけーーー! アーバレスト!」
身代わり人形カイン君を使って、生き延びたユグさんは空で手持ち版のアーバレストを構えて放った。わざわざこの為にアーバレストを解体して、作り直したものだ。ただどうしても大きくなって、筋力が必要となった結果、アーバレストに荷重操作を持たせるためにクロウさんは荷重操作効果持ちの武器を壊して、アーバレストの金属に使うなど生産職の苦労が詰まった作品となっている。
そしてヘカテーは自ら発生された爆煙で高速で向かって来ているバイデントのレプリカに気が付かなかった。
「…かは!? これって…きゃあああああ!?」
バイデントのレプリカから赤雷が発生し、ヘカテーがとんでもなく弱体化する。ここでバイデントのレプリカは消滅する。するとヘカテーは気付く。
「…バイデントのレプリカを持っている者なんてペルセポネぐらいしかいないはず。なるほど…あの人が手を貸しているってこと。ならもう容赦しない!」
ヘカテーは杖の他に松明を取り出した。するとカイとアーレイの攻撃を止める。
「…煉獄!」
塔の屋上が灼熱地獄となる。至近距離からこれを受けた二人は隙が生じて、杖と松明が触れた瞬間、爆発と同時に吹っ飛ばされる。しかしプレイヤーたちの攻撃は止まらない。
「「カラミティカリバー!」」
「…何度やっても無駄! っ!?」
斬りかかったユーコとミランダに対応しようとしたヘカテーが危険を感じ取り、身体を捻ると爆煙から飛んで来た剣を躱す。その結果、二人のカラミティカリバーがヘカテーに決まる。
「ち! 外したか! だが、まだだぜ! フラガラッハ! 伝説解放! ルグ・ハイクロス!」
フラガラッハを手に入れた勇者がそう言うとフラガラッハは光速で落下しているヘカテーに襲い掛かる。フラガラッハはヘカテーを中心に光のケルト十字架を描くとヘカテーに大ダメージが入る。そして与一さんがタスラムを放ち、ヘカテーに直撃し、タスラムの爆発はヘカテーを呑み込んだ。
「…決まったか?」
「間違いなく決まりました。ただこれで終わるはずが無いですね」
「あぁ…一気に畳みかけて来るはずだ。全員気を緩めるな」
爆発が収まりヘカテーが現れる。
「…与一?」
「タスラムのダメージが入ってなくないか?」
「そんなバカな…確かに決まったはず。あ」
ヘカテーの下で何かが落下していた。それはイタチだった。
「…ありがとう。ガランティス。神魔法! トレイタ・ペイン!」
ヘカテーの反撃を身代わり人形カイン君が受ける。そして鉄心さんが斬りかかるがやはり止められる。
「…あなたたちにもガランティスがいるんだ」
「…可愛いイタチとこんな人形を一緒にしないで欲しい」
雫ちゃんの容赦がない言葉にカインさんが人形を作ったのはアインシュタインさんだと言う魂の抗議の声が聞こえた気がする。ガランティスはヘラクレスの母親の出産を助けた侍女でヘラクレスの出産を阻止していた女神を騙して、それを笑ってしまったことでイタチの姿に変えられてしまった人だ。
ヘカテーはこれを憐れんでガランティスを召使の聖獣にしている。このゲームでは身代わりのスキルを持っているモンスターとして登場したらしい。
鉄心さんが弾かれるとヘカテーがここで本気になる。
「…ガランティスは冥府に返っただけだけど、やられた分は返させてもらう。神威解放!」
ヘカテーの姿が少女から大人の女性に変化した。星空に浮かぶその姿は美しいが全員はその美しさよりも冷たい目にぞっとする。そしてヘカテーは杖を夜空に掲げる。
「…月食」
全員が月食の効果で暴走状態になる。完全に体が言うことを効かなくなった皆に本気となったヘカテーが襲い掛かる。
「…星矢」
ヘカテーが杖を振り下ろしてそう言うと空から無数の星矢が皆に殺到する。何とかしようとみんながもがくが暴走状態ではスキルも技も使用することが出来ず、回避と防御も出来ず、星矢が次々が命中する。
すると星矢の一本一本がとんでもない威力で次々武器や防具が壊されて、全員が身代わり人形カイン君の身代わり効果を消費して、一度死ぬが今回は蘇生系のスキルが発動する。バイデントのレプリカの弱体化で蘇生スキルを無効化していたのが無くなっていたいたんだろう。そして一度死んだことで暴走効果は解除される。
「…しぶとい。星矢!」
「ワイフ!?」
「あ…」
回復役のワイフさんが狙われる。完全に間に合わない攻撃を満月さんが体で止めた。
「ぐぅうう! 後は頼んだぞ? 諸刃の一撃! おぉおおおお! 乾坤一擲!」
満月さんが渾身の投槍を放つ。
「…そんな攻撃、当たるはずがない」
ヘカテーは投槍を念動力で止めようとするが投槍は止まらず、そのまま向かって来たことで槍を弾こうとする。しかし杖の攻撃が空振りし、投槍がヘカテーに刺さるとそのまま塔の屋上にあった柱に突き刺さった。
「…何?」
ヘカテーには何が起きたか分からないだろう。乾坤一擲は自分が死んだ際に相手から受けたダメージを槍に加算し、必中攻撃を放つ技だ。ヘカテーは威力の高さから破壊や止めることを優先したがそれが判断ミスだった。
なぜなら乾坤一擲の必中攻撃は普通の必ず当たる必中攻撃とは異なり、運よく必ず攻撃が当たると言う攻撃だからだ。破壊に動くとヘカテーのように運悪く攻撃が外れて攻撃が当たると言う現象が起きる。だからこれは防がないといけない攻撃なのだ。ここで満月さんは力尽きる。
「満月、感謝する! 宝刀解放! 神刀解放!」
鉄心さんが神息と無窮の力を解放する。その間に全員が攻撃を交互にヘカテーに浴びせて時間を稼ぐ。そして鉄心さんの必殺コンボが発動する。
「タクト君に教えて貰ったオリジナル技だ。たっぷり味わうといい…神刀技! 剣御魂! そして永劫回帰!」
鉄心さんが槍が刺さって動けないヘカテーを斬り裂くと空から光の刀が降り注ぎ、それが止まると鉄心さんが斬り裂く。それをヘカテーが死ぬまで繰り返される。
「おぉおおおおお! これで終わりだ!」
最後に鉄心さんの斬撃が決まり、ヘカテーの生命力が尽きる。全員が蘇生などを警戒するがどうやらバイデントのレプリカの弱体化はヘカテーの蘇生にも影響しているらしく、ヘカテーは体が紫色の光となって消えた。そして念願のインフォが来た。
『おめでとうございます! 特殊イベント『ハロウィンの塔』をクリア致しました』
『町の呪いの全てが解除されました。運営イベント『収穫祭と呪われし都』をクリアです。引き続きエンディングをお楽しみください』
このインフォが来るとギルドの全員が塔の屋上に転移させられて、ボロボロ状態の皆を俺たちは労った。特にユグさんはもう二度とこんなことはしたくないらしい。
「何言ってやがる。折角そんなの作ったんだぞ。これからも最前線で戦って貰わないと困る」
「他人事だと思って!」
二人が騒いでいると空から光を降って来て、人の姿になる。それを見たユグさんが言う。
「ペルセポネ様」
「彼女を解放してくださり感謝します。人間の英雄たちよ。彼女がしてしまった罪の償いというわけではありませんが町の人たちとの触れ合いを許可しましょう」
ペルセポネ様がそう言うと塔に町の人たちが現れる。みんな、透明になっているから幽霊状態なんだろう。するとそれぞれのプレイヤーは関わった人たちから感謝の礼をされる。俺も子供とダーウィンさんから礼を言われる。
「助けてくれてありがとう。強いお兄ちゃんたち」
「私もやっと人生を終えることが出来た。本当に感謝する。結局幽霊モンスターの謎は解明出来なかったがそれでも不思議と清々しいものだな。君たちに一つ教えておこう。君たちがこれから挑む魔王たちはどれも強い魔王たちとなるだろう。その魔王たちに勝つためには神様との契約や天界と冥界に行くことが重要となって来るはずだ。諦めず挑戦して欲しい」
「「「「はい」」」」
町の人たちが天に上がっていく。
「諦めず進み続けた結果、何も得ることが出来ず、死ぬことになったとしてもその人の人生は輝いている物だと思う。君たちが暗黒大陸を解放する日を死後の世界で見守らせて貰うよ」
「「「「本当にありがとう!」」」」
そして町の人たちは空へと上がっていき、消えた。最後にペルセポネ様が言う。
「それとあなたたちが所有する修練の塔に死んでしまった英雄たちと戦えるように各冥府の女神たちに掛け合っておきましょう。より一層修練を積み、世界を救う日が来ることを冥府より祈っていますね」
そういうとペルセポネ様は消えて、これでイベントは終了となった。後はイベント終了までそれぞれ自由時間を過ごすことになる。俺は折角なので誰もいなくなってしまったベイカーの町をみんなと回り、ここでの思い出をしっかり刻み込んでイベントを終えるのことにした。




