#979 終焉龍王の試練
土曜日、朝食を食べて、早速ログインすると早速塔に向かうとノストラさんと一階攻略メンバーがいた。どうやら失敗したみたいだな。
話を聞いてみるとアクティベーション・ゾンビはノストラさんの活躍で蹂躙することが出来たらしい。
「もしかするとノストラさんがギルドで一番強くなったかも知れませんよ」
「フェンリルやウェルシュドラゴンとか化け物を次々召喚してましたから」
シルフィ姫様たちの召喚獣を識別しているからな。しかしそうなると敗北原因が分からない。
「ボスがジャイアント・ゾンビっていう巨人のゾンビでして」
「召喚したフェンリルを腕で吹っ飛ばされて、踏みつけられて死に戻ったわ」
「ノストラさんが書くまでの時間稼ぎが出来れば恐らく一階は攻略可能です」
「俺らの頑張り次第ってことだな」
ここで他の皆も集まり出した。そこで掲示板の情報を教えられた。現在最高難易度では、三階まで攻略が進んでいるそうだ。夜攻略組は凄いね。
「二階は遺跡のフィールドで雑魚にミイラ男、ボスがギルタブリル。三階は夜の森のフィールドで雑魚にウリディンム、ボスがウガルルムか」
「予想通りティアマトの怪物ラッシュだね」
ギルタブリルは蠍人間。このゲームでは尻尾から神魔毒や死針を放って来る敵で武器は槍と盾。とにかく守りが硬い敵らしく、これに加えて人間の口からは放射熱線。更に蠍の鋏は自在に伸びて溶断で挟んで来るらしい。これを聞いた俺は黒鉄と戦わせたいと思った。さぞかし派手な戦闘になることだろう。
次のウリディンムは狂犬。このゲームでは漆黒の体に赤い目の敵として登場するらしい。とにかく攻撃を受けても怯まず死ぬまで襲い掛かって来る敵なのだそうだ。しかも常闇でこちらの灯りを潰して来る敵らしい。数も多く、噛まれると感染症と神魔毒になるそうだ。
最後にボスとして登場するウガルルムは巨大な獅子の怪物。ネメアが雷属性の獅子ならウガルルムは炎属性の獅子らしい。ウリディンムと一緒に戦うことになるらしく本人は破壊の加護を持ち、ウリディンムに破壊の加護を付与する能力があるそうだ。これのせいで攻略に挑んだプレイヤーは武器や防具に大ダメージを受ける結果となった。
これらの情報を元に俺たちはノストラさんたちが攻略するまでに編成を考える。
「二階は侍と鎚持ちの重戦士、格闘家とかが有効みたいだね。厄介な盾を鎚持ちの重戦士が弾いて、その隙に侍が腕や鋏、尻尾を斬りおとす戦法で攻略したみたいだよ」
「格闘家に防御は無意味!」
「はいはい…それで編成はどうする? メルたちが挑むのか?」
「メルさんたちを二階で使うのは惜しいです。ここは銀たちに任せましょう」
予想外の人選したな。サバ缶さん。しかしそれは考えがあっての事だった。まず、ミイラ男たちは包帯で拘束しようとしてくるがスピードがないらしい。だから銀たちならまず余裕で突破出来る。
次にボス戦だが、相性が悪く見える銀たちだが、爆弾などのアイテムがある。これを用いれば十分攻略可能という判断だ。ただアイテムにも限りがあるから掲示板通りの編成で挑むこともあるだろう。
次に三階の攻略だが、これは召喚師に白羽の矢が立つ。フィールドが夜の森なら当然の判断と言える。そして相手が獣なら当然こちらも獣がいいだろう。ということでチロル、コゼット、ララの獣専門の召喚師で挑むことが決まった。この三人なら連携の心配はないだろうしね。
話し合いが終わり、俺は燎刃の試練に挑む。
「準備はいいか?」
「はい!」
うーん…緊張しているな。
「エンゲージリングもあるんだ。大丈夫だよ」
「そ…そうですね。ふぅ…大丈夫です」
「うん。いい顔になった。それじゃあ、行くぞ」
俺が試練を実行すると燎刃から赤い光が放たれて、試練のフィールドに転移した。そのフィールドは火口の中心に決闘場があるフィールドだった。そして火口から終焉龍王アポカリプスドラゴンが現れる。
「遂にここまで来たか。面倒臭いが決まりだからな…一応聞くがお前は最強のドラゴンの道とただのドラゴニュートの道、どちらを選ぶ?」
「ドラゴニュートの道を選びます」
「何故だ? 人間と恋をしたからか?」
「そ、そういうわけではありません」
はっきり否定された。ちょっとショック。
「あ、いえ、もちろんその理由もありますよ!? ただ某はこの姿で最強の道に進みたいんです。某はずっと弱さを味わって来ました。だからこそ弱さを知っているこの姿で最強の道を進みたいのです」
リリーたちとはまた違った理由だな。これは武道の考え方だ。人は弱い生き物だからこそ何処まで強くなれるか知りたくなる。これを聞いた終焉龍王様は笑う。
「ははははは! いい! 実に良い理由だぞ! 愛だの恋のためだの言っている奴らよりもずっと我々らしい理由だ! ならばお前たちに相応しい試練を用意してやろう!」
終焉龍王様がそう言うと俺たちとは反対側に火柱が発生すると燎刃そっくり完全武装したドラゴニュートが現れた。このパターンを俺は知っている。リリーの時に経験した奴だ。終焉龍王様が説明する。
「あれはお前が進化した姿だ。試練の内容はあいつを殺せば試練をクリアとする。お前らの強さを合わせて、勝って見せろ。特別にエンゲージバーストの制限時間は無しにしてやるよ」
そんなことを言うと言うことはかなりの強さみたいだな。武装は身の丈程ある巨大な太刀が一本のみ。そのせいか佇む姿だけで相当な迫力がある。
「ど、どうしましょうか? タクト殿」
「制限時間が無いなら遠慮は無用だろう。悪いが本気で行かせて貰おう」
神剣グラムとエンゼルファミーユを取り出し、エンゲージバーストする。炎の竜騎士となった俺たちを見た相手の燎刃は笑みを浮かべて、太刀を構える。神剣グラムを前にして、戦うことに笑みを浮かべるか…この瞬間、俺もスイッチが入る。手加減して勝てる優しい相手ではないと理解したからだ。
「くく。いい殺気のぶつかり合いだ。これだから殺し合いはいい。では、試練開始だ!」
最初に仕掛けて来たのは相手の燎刃だ。縮地で姿を消してからの溶断の横薙ぎ攻撃が来た。これを俺たちは飛んで回避し、思いっきり神剣グラムを振り下ろす。
これを相手の燎刃は下がって回避するが多乱刃の効果は受ける。すると傷口から炎が発生し、生命力を回復する。今まで見たことがない再生スキルだ。叡智で調べると再生の炎となっていた。恐らくフェニックスが覚えているスキルだ。瞬間再生レベルと思っておいた方がいいだろうな。
また相手の燎刃が攻めて来た。しっかり足を踏み込んでの巨大な太刀での攻撃は迫力満点で回避すると今度は俺たちが多乱刃を受けた。今度は俺たちがエンゼルファミーユで回復する。それを見た相手の燎刃は笑みを浮かべると目付きが変化する。本気で来る!
「兜割り!」
俺のように真っ直ぐ振り下ろされた斬撃を俺は横に躱す。すると地面に叩きつけた太刀からとんでもない衝撃波が発生した。そのせいで一瞬怯んでしまった俺だが、すぐに斬撃を放った瞬間、下から危険を察知し、引く。
「爆心!」
相手の燎刃が地面を足で踏むと地面が爆発した。自爆と違い、自分へのダメージは無いらしい。これで相手の燎刃が太刀装備の理由がよく分かった。大振り攻撃が弱点となる太刀の特性をこれでカバーしているわけだ。至近距離からあんな爆発をされてしまったら、接近戦は厳しいだろうからな。
そう思っていると相手の燎刃はガンガン前に出て来て、地面を爆発させる。
「とんでもない爆弾魔になって、ちょっと将来心配だな」
『何を言っているんですか! タクト殿!?』
俺は距離を取って、神剣グラムを構える。これに対して相手の燎刃は足を大きく上げる。
「爆風波!」
「火砕流!」
相手の燎刃が地面を強く踏むと地面から灰色の煙のようなものが発生し、爆風波を呑み込んでこちらに迫って来た。俺たちはこれを空に飛んで回避する。
火砕流は火山で発生する災害の一つだ。火山灰や火山ガスなどが流れ下って来る現象で火山災害の中で最も危険な災害だと言われている。恐らく火山灰の上位スキルだな。
ここからは遠距離戦になる。日光に焼失弾、焼尽、大噴火、マグマの波動技である溶波動を確認したが、遠距離戦が苦手なのは否めないな。恐らくこのまま遠距離戦をすれば俺たちの勝ちだ。
俺は花火ちゃんで炎のドラゴニュートの弱点をよく知っている。それは魔力切れと防御スキルの無さと速さだ。防御スキルの無さは再生の炎でカバーしているが魔力切れはどうしようもない。魔力が無くなれば再生の炎も使えなくなるだろう。ただ魔力が無くなってもある程度戦えるのが火のドラゴニュートのいいところだ。ただし速さが無いからいつも攻撃を食らってボロボロになるのが難点だとタクマが頭を抱えていた。
「危険だと思うが真っ向勝負を挑んでいいか? 燎刃」
『もちろんです! 勉強させて貰います!』
俺たちが敢えて接近戦を挑んだ。すると予想外の裏切りにあう。
「炎分身!」
相手の燎刃が増えて攻撃してきた。それならこちらも手加減無しだ。
『『『『アクセラレーション』』』』
「速さのルーン」
大振りで隙だらけの腹に神剣グラムの柄頭をお見舞いし、更に蹴りとパンチでぶっ飛ばすと本体に戦いを挑む。
「剣のルーン!」
「白熱刃!」
互いの剣がぶつかり合うと剣のルーンが砕ける。やはり破壊竜の加護を持っているよな。これは破壊の加護と同じスキルだ。こうなると真っ向勝負は危険となる。俺は大振り攻撃の隙を付くカウンタースタイルで相手の燎刃に確実にダメージを与えていく。そんな中でも相手の燎刃は俺の攻撃に何度も対応して見せた。この辺りは花火ちゃんと違う所だな。確か花火ちゃんには心眼が無かったはずだ。
俺が嬉しく感じていると急に相手の燎刃は片手持ちに変更した。そして回転して斬撃を放ってきた。完全に誘っている攻撃だ。ならその誘いに乗ってあげよう!
俺が躱して踏み込んで神剣グラムの斬撃を放つと相手の燎刃は空いた拳で神剣グラムの刃を殴って攻撃を外すと俺たちを掴んで来た。
「爆心!」
俺たちは爆発に巻き込まれた。
「へぇー…手でも出来たのか」
「っ!?」
危険を察知した相手の燎刃は太刀で斬ろうとするが遅すぎた。
「星震! 爆風波!」
俺は爆発の時に挙げていた拳を振り下ろすと星震が相手の燎刃を地面に押し潰し、俺の振りぬいた神剣グラムの爆風波で相手の燎刃をぶっ飛ばした。
「ふぅ…色々勉強になるな」
『はい! 進化したら、こんなにも強くなるんですね!』
今のうちに遅延魔法である魔法をストックする。
『タ、タクト殿…その魔法はあんまりではないですか?』
「これも勉強だよ。来るぞ」
起死回生で生き延びた燎刃が竜化を発動させる。
ビックバンドラゴン・デストロイヤー?
? ? ?
ウェルシュドラゴンに匹敵する大きさ炎のドラゴンが現れた。ただこちらのほうがスリムだな。
『スリム…』
嬉しそうな燎刃である。すると再生の炎を燃やし、逆鱗を発動させる。最後の勝負をするならそう来るよな。
そして空に上がるとリリーの光球とは異なる実物の太陽のような巨大な炎の球を作り出した。
「グォオオオ!」
「悪いが実験されてくれ」
新しく覚えた暗黒魔法エクリプスが発動し、全バフが強制解除される。この結果、逆鱗と今までダメージを与えて来たことで発生していた筋力アップが無くなってしまった。
「竜化は対象じゃないんだな」
『でも、竜化によるステータス強化は無くなっているようです』
つまり燎刃のステータスのままドラゴンになっている訳だな。まぁ、ドラゴンの状態のスキルが使えるだけまだマシか。ビックバンドラゴン・デストロイヤーが俺たちに向けて太陽を落とそうと大きく手を振りかぶる。
「神剣解放! 転瞬!」
俺たちは一瞬でビックバンドラゴン・デストロイヤーのお腹の前に移動した。
「神剣技! シグ・ヴォルスング!」
神剣グラムの緑と青の閃光がビックバンドラゴン・デストロイヤーのお腹に直撃し、太陽を持ったままぶっ飛ばれるとドラゴン状態が解除され、太陽も無くなると相手の燎刃は墜落する。流石に可哀想なので助けて上げた。
「勝負ありだな。試練のクリアを認め、お前を進化されてやろう」
それを聞いた俺たちはエンゲージバーストを解除する。そして終焉龍王様が話す。
「いいか? 俺たち火のドラゴンは悪だ! 全てを破壊し、焼き払う。それは命を奪うということだが、必要悪でもある。破壊無くして創造は無いからだ。お前が最強の道を選ぶと言うならその必要悪をも許せる心を持って見せろ! 今日からお前はドラゴニュート・プルガトリオだ!」
燎刃に火口のマグマが集まるとマグマの中から真紅の光を放ち、燎刃が進化する。
『燎刃がドラゴニュート・プルガトリオに進化しました。太刀【千磨百煉】を取得しました』
『指揮、天言、竜気、他心通、堅固、強激突、時空切断、多乱刃、獄炎、再生の炎、竜鱗装甲、防御無効、爆心、空振、重圧、熱波、炎熱操作、白熱刃、日光、放射熱線、煉獄、炎分身、炎化、捨て身の一撃、覇撃、惑星魔法、破壊竜の加護を獲得しました』
『惑星魔法【マーズ】を取得しました』
『竜化のデメリットが一日となりました』
名前 燎刃 ドラゴニュート・イグジラレイトLv30→ドラゴニュート・プルガトリオLv1
生命力 185→235
魔力 233→283
筋力 473→563
防御力 146→176
俊敏性 223→253
器用値 264→314
スキル
炎拳Lv6→爆拳Lv6 飛翔Lv20 刀Lv24 太刀Lv1 指揮Lv1
灼熱Lv17→紅炎Lv17 危険予知Lv20→第六感Lv20 天言Lv1 錬気Lv23→神気Lv23 竜気Lv1
超感覚Lv20→神感覚Lv20 竜眼Lv21→天竜眼Lv21 他心通Lv1 見切りLv13→心眼Lv13 堅固Lv1
強激突Lv1 縮地Lv15→空脚Lv15 物理破壊Lv19→万物破壊Lv19 魔力切断Lv16 熱切断Lv18→溶断Lv18
時空切断Lv1 連撃Lv19→多連撃Lv19 多乱刃Lv1 獄炎Lv1 再生の炎Lv1
竜鱗装甲Lv1 防御無効Lv1 爆心Lv1 空振Lv1 重圧Lv1
炎輪Lv9 火弾Lv6→焼失弾Lv6 噴火Lv2→大噴火Lv2 熱波Lv1 炎熱操作Lv1
白熱刃Lv1 火魔法Lv21 爆魔法Lv35 炎波動Lv8→溶波動Lv8 火山灰Lv3→火砕流Lv3
日光Lv1 放射熱線Lv1 集束Lv4→超集束Lv4 火雨Lv6→焼尽Lv6 戦闘高揚Lv19
肉体活性Lv17 煉獄Lv1 炎分身Lv1 炎化Lv1 逆鱗Lv2
捨て身の一撃Lv1 覇撃Lv1 竜技Lv20 竜化Lv2 ドラゴンブレスLv9
起死回生Lv1 竜魔法Lv4 惑星魔法Lv1 破壊竜の加護Lv1 太陽竜の加護Lv16
さっき進化した燎刃を見たから見た目に感動はない。ただステータスがえぐいことになっている。防御力と俊敏性が低い代わりに筋力が90も上がってしまっている。スキルから見ても第二のリリーが誕生したような気がする。
プルガトリオはスキルにある煉獄の事だ。このゲームでは炎の地獄に変えるスキルだが、現実では煉獄は死後に小さな罪を清める場所とされている。これは生きているなら小さな罪はどうしても犯してしまうからそれを救う措置として用意されている場所だ。だから終焉龍王様はあんなことを言ったわけだね。
「試練は終わりだ。とっとと帰れ」
「終焉龍王様はもっと空気を読むべきだと思います!」
燎刃が何か言う前に俺たちは転移されられた。
「ふん。悪が空気を読んでどうするんだ? お前もそう思うよな? サタン」
「まぁね。否定はしない」
「それでどうだった? 戦闘はよ」
「やはり本気は出していなかったね。でも、この目で元気に楽しく遊んでいる姿を見れたのは良かった。これで戦う日がもっと楽しみになったよ」
「おー。怖い怖い。叩き潰す気満々じゃねーか。まぁ、俺はお前らの戦いを楽しみに見させてもらうよ」
終焉龍王様がそう言うとサタンは姿を消すのだった。




