#978 ハロウィンの塔と一階偵察
ネタバレになりますがゾンビが登場するので、苦手な人はご注意ください。
復活したタイミングで再度ログインすると呪いを受けた俺を見て、リリーたちがからかってくる。
「タクト、おでこを見せて」
「…ん。見たい」
「タクトのかっこいいおでこが見たいな~」
「お兄様にはおでこを見せる義務があります」
自分たちは恥ずかしがっていたのに…そっちがそう来るならこっちは開き直ってやる。
「ふ…いいだろう。刮目して見るがいい! これが数多の魔王を屠りし者に与えられた魔方陣だ!」
「ぬぐ…そう聞くとかっこいい。ずるいぞ! タクトよ! なぜ妾の時にその言葉を教えてくれなかったのじゃ!」
「…タクト? 大丈夫?」
「薬を作りましょうか? どんな薬を作ればいいか分かりませんけど」
セフォネには受けたがリリーたちには物凄く心配された。なれない中二病モードは済むものじゃないな。
ホテルから出て、地下にいる皆と合流する。どうやら無事に結界の解除に成功し、塔に登れるようになったようだ。
そして塔の攻略には特別のルールがあったらしい。纏めると以下の通りだ。
特殊イベント『ハロウィンの塔』
・一階ごとに攻略を進めていくイベントです。報酬はイベント終了時点でいる階層で決定します。
・階ごとに挑める人の上限は30人。プレイヤーは最低三人以上で挑んでください。
・一つの階層に挑んだ人は別の階層に挑むことは出来ません。また一度選んだ編成は変更することは出来ません。
・階層のボスを倒すと安全エリアがあります。
・階層攻略に失敗すると攻略に挑んだ全員が魔女の呪いを受けて最初からやり直しとなります。またそれまでに獲得した経験値はリセットされるので、ご注意ください。
・経験値は攻略した階層分しか入りません。別の攻略した階層分は入りませんので、ご注意ください。
・ギブアップは可能です。その場合は失敗と同じ扱いとなります。その際にデスペナは発生しません。
・六階以上の階層をクリアすると魔女の儀式や町の様子に変化が発生します。また五階、八階、十階をクリアするとボーナスアイテムを手に入れることが出来ます。これらは一度でもクリアすると手に入れることが出来ます。
・イベント報酬は終了時点で攻略済みの階層までの報酬をお送りいたします。
これは中々酷いクエストを運営は用意したな。アーレイが聞いてくる。
「つまりどういうことだ? タクト」
「つまりイベント終了間近でラスボスに挑んで負けるとボーナス以外のこの塔のイベントでの報酬は無しになるってことだな」
「説明を追加するとそれまでに獲得した経験値も無しになるってことだね」
「…マジかよ」
アーレイの気持ちはここにいる全員がよくわかる。するとサバ缶さんが話す。
「この塔イベントは運営からの挑戦状ですね」
「挑戦状ですか?」
「はい。本来塔タイプのイベントはこういうことはしません。階を攻略した時点で報酬を貰い、次の階を失敗しても下がることはないです。その一般的な方式を捨てて今回の方式を選んだ理由は我々を試しているとしか思えませんよ」
「この方式はゲームというよりクイズ番組で見られる方式だからそういう風に見えるよね」
レッカの言う通りでクイズで正解することで上がっていき、失敗すると最初からやり直しの方式に似ているな。
「そうね。違う所は途中で諦めること可能な所かしら? 一番いい報酬が欲しいならかなりのリスクを背負うことになる。その度胸が私たちにあるのか試してるってことね」
「そういう風に見えますね。もしかして今回のカボチャ集めがスキル上げに向いていたのは途中で諦めた人にスキル上げをさせるためだったりするのかな?」
メルの予測は案外当たっているのかも知れない。このゲームは攻略も大事だけどスキル上げがかなり大切な要素だからな。
更に上位プレイヤーとのレベル差を縮める意図もあるという意見が出た。何故なら塔に掛かりっきりになると塔に挑んでいる人の経験値はずっと貰えないことになるからだ。この辺りのバランスはルインさんが考えてくれることになった。
「取り敢えず今から見に行ってみましょうか?」
「「「「賛成」」」」
というわけでみんなで塔にやって来た。そして誰がどの階を担当するか決める。
「召喚師や猛獣使いが多いところは今回のイベントはかなり有利だね」
「最大人数で挑めるもんね!」
「だが、プレイヤーを最低三人まで入れるってことは召喚師は最低三人は入ることになるって事だろ? これって、タクト封じじゃないか?」
「タクトさんの召喚獣オールスターで攻略が出来ないってことですもんね」
「そこまで悲観することじゃないだろ? みんなも第五進化の召喚獣が揃って来てるんだからさ」
俺としては問題となるのは召喚師同士の連携な気がする。恐らく数が多くなるほど、敵の数が増えることは変わっていないはずだ。そうなると召喚師が一人死に戻ると一気に召喚獣の数が減って攻略が一気に不利になる。ここだけは気を付けないといけないところだ。
取り敢えず塔は十階までで最初と安全エリアでメンバーを決める方式になっているらしい。最初は探りということで一階の攻略にルインさんたち生産職が名乗りを上げた。
「偵察ぐらいの役には立たせて貰うわよ」
俺たちの最初の塔攻略が始まった。登録したメンバーが塔の一階に転移する。そして生産職たちの視界に広がった光景は墓地だった。これを見た全員の顔が引きつる。
「なぁ…ルイン」
「今すぐギブアップするべきだと思うよ? ルイン姉」
「絶対ゾンビが出て来ますよ。これ」
「私たちの任務は偵察よ! 今更ゾンビが何? 私たちもタクト君たちのお陰でクラスチェンジをさせて貰って来たのよ? ここでギブアップなんて出来るもんですか!」
「おぉ~! ルイン姉がいつになく燃えている」
というわけで攻略が始まったわけだが、期待を裏切らず地面からゾンビが出て来る。ただし最高難易度なので当然普通のゾンビのはずがなかった。
アクティベーション・ゾンビLv50
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
意味的には活性化したゾンビと言ったところだろう。このゾンビの恐怖を生産職たちは身をもって証明することになる。
「オートマトン部隊を展開しますよ!」
「「「「おう! ゾンビたちを倒すんだ!」」」」
サバ缶さんたち研究者たちが銃器を装備したオートマトンを展開し、一斉に銃で攻撃を開始する。すると現れたアクティベーション・ゾンビたちが一斉に生産職たちのほうを見ると銃撃を食らいながらオートマトン目掛けてダッシュし、人間ではあり得ない大ジャンプするとオートマトンたちに噛みついた。
「ちょっと待てよ…これはゾンビゲームの中でもかなりやばめのゾンビじゃねーか!?」
「大丈夫です! 機械がゾンビ化するはずありません!」
それは確かにそうなのだが、オートマトンたちから怪しげな煙が発生する。
「不味い! 腐蝕だ!」
「引かせ」
「引かせたら、ゾンビまで連れて来るじゃん! 取り敢えずゾンビをオートマトンから離さないと!」
魔法で攻撃を加えると今度は当然狙いを生産職たちに変える。ここでサバ缶さんが切り札を出す。
「いでよ! リープリング最強兵器マッカレルオン!」
急いで乗り込むとマッカレルオンの体にある銃器が一斉に火を噴き、アクティベーション・ゾンビたちを倒す。
「今だ! オートマトンたちは引かせろ!」
ここで生産職たちに異変が起きる。
「けほ!? 何? 感染症の状態異常!?」
「全員なっているぞ!? あ…原因はそいつらか!」
オートマトンに感染症の状態異常が発生していた。通常の病気ならオートマトンは無効化するのだが、この感染症は無効化することが出来なかった。接触感染が適応されているのか分からないが機械が病気になるのはゲームならではだろう。
感染症の状態異常は病気の状態異常と同じだが、一番違う点は近くにいる正常な人を感染症の状態異常にし、どんどん広がっていくところにある。更に悲劇が続く。
「皆さん!? ひ!?」
「「「「アァー!」」」」
マッカレルオンに次々アクティベーション・ゾンビたちが飛びつき、力任せに攻撃を加える。しかしマッカレルオンには取りつかれた時のための攻撃がサバ缶さんたちは用意していた。
「食らいなさい! 雷放電!」
「「「「「アァ…アァアアアアアー!」」」」」
感電したアクティベーション・ゾンビだったから死ぬことはなく、代わりに狂戦士化を使用した。その結果、マッカレルオンのボディが凹み、中にはパーツを力任せに引き千切るアクティベーション・ゾンビまで出現した。
「ひぃいい!? やめてください! やめろー! マッカレルオォオオン!」
「不味いって! ルイン姉!」
「全然先に進めてないがこのままじゃあ、俺たちは物凄い損害を受けるぞ! ルイン!」
「く…」
ルインさんがギブアップをして、全員が帰って来た。
「「「「だ、大丈夫?」」」」
「「「「全然大丈夫じゃない…」」」」
ルインさんたちから恐怖体験を聞き、俺たちは労った。そして対策を話し合う。まず感染症対策はブレスレインなどの広範囲状態異常回復で対処可能。感染症はなっている人がいなければ当然感染が広がることはない。
そして俺たちが一番注目したのはアクティベーション・ゾンビの俊敏性だ。パワーも厄介だけどこれが一番厄介だろう。集団で群がられると完全に詰む。その証拠にマッカレルオンはボロボロになっており、サバ缶さんが泣いている。
攻略を話し合っていると一階は上限三十人で挑むのは得策じゃないという結論に至る。少しでも数を減らした方が一階は楽になるという判断だ。
攻略方法としてはいくつか案が出た。まず壁役が時間を稼いで大魔法で一掃する作戦。一番シンプルだが、マッカレルオンの状態を見ると壁役がどれだけ持ちこたえられるかがポイントになる。
次はアクティベーション・ゾンビを相手にしない攻略法。ボスの所まで行けばアクティベーション・ゾンビたちを相手にしなくてもいいという考え方だ。経験値を完全に無視する方策だが、銀たちなら恐らく出来るだろう。
最後はノストラさんが戦う方法。これは本人が物凄くやる気だ。
「流石にボス戦がどんなのか分からないけど、ゾンビたちなら封じ込める自信があるわ。何と言っても私にはこれがあるからね」
ノストラさんが取り出したのは魔導書。名前はアルフ・ライラ・ワ・ライラ。アラビアンナイトの魔導書だ。ノストラさんがシェヘラザードから助けて貰ったお礼に渡されたものらしい。
この魔導書は通常の魔導書と異なる変わった能力がある。それは魔導書に書いたものを召喚することが出来る能力だ。
これでノストラさんは強いモンスターを召喚し放題となった。ただし自分が識別しないと召喚は成立しないらしいのだが、逆に言うと識別済みなら召喚可能だ。
欠点は分身のように攻撃を受けると消えてしまう所にある。しかしそれが今回は有利に働く。攻撃を受けて消えるなら感染症の状態異常になるはずがないからだ。
俺たちにしか出来ない攻略法であるため、今回はノストラさんに護衛を付ける形で一階を攻略することに決定した。そして塔全体の攻略方法も決める。
「とにかく早めに各階の特性を把握するのがいいと思います。敵やボスが分かればさっきの様に誰がどの階を担当するべきか見えて来るでしょうから」
「そうね。土曜日はまず探ることに集中しましょう。とにかく新しい階にどんどん強い人たちを投入して探っていく感じになると思うわ」
しかしこれから攻略するのは流石に時間的に無理ということで今日はここまでということになった。俺たちは呪いを解除してから寝ることにした。




