#966 太刀とルーナの告白
ギルドに顔を出すとナオさんからルーナのエンゲージリンクを受け取った。ルーナのエンゲージリンクは黄金の妖精がダイヤを大切に握っている指輪だった。相変わらず凄いな。
そして次の指輪を注文する。千影の試練の前にエンゲージリンクを渡したいけど、やはりここは順番を優先して、伊雪とミールの指輪を注文した。
ここで時間を確認してルーナに渡す前にユウェルとヘーパイストス、パンドラと刀好きの恋火と燎刃を連れて桜花の安綱さんに太刀の事を聞きに向かうことにした。
「遂にお前たちも太刀に挑戦するか…立派になったじゃねーか」
「そうでしょうか?」
「太刀は刀鍛冶の間では一人前になった証拠みたいなもんだからな。ただ一言で太刀といっても二種類ある。先に太刀の説明をしたほうがいいな。ちょっと待ってろ」
安綱さんが参考になる太刀を持って来てくれた。
「わぁ!」
「どれも見事な刀ですね!」
「ありがとよ。まずは刀よりも刀身が長いこいつだ。桜花では太刀と言えばまずこれをイメージする。元々は騎乗戦で使う武器でな。刀身が長い分、刀よりは先に攻撃が届く。更に力も太刀の方が伝わりやすいのが利点だな。逆に欠点は大振りする分、隙が生じやすい」
両立する武器は中々無いからな。次に安綱さんが手に取ったのは刀身の長く、また太さがある太刀だ。
「こいつは元々鬼などの妖怪をぶった斬るために作られた太刀だ。区別するために桜花では大太刀とか呼ばれている。見た目通り、さっきの太刀より頑丈で破壊力がある」
「その分、隙も生じやすいですか」
「そういうこった。後、こいつは大きすぎるから背中に背負う武器になる。当然速さに影響が出るからそこらへんも考えた上で注文するようにな」
「はい」
恋火と燎刃の様子を伺うと二人とも欲しい太刀は既に決まっているようだ。目を輝かせて、太刀をじっと見ている。この丸わかりの反応は安綱さんにも伝わる。
「その様子だと両方作り方を教えた方が良さそうだな」
「「「よろしくお願いします!」」」
こうしてヘーパイストスたちは安綱さんの太刀の鍛冶方法を教えて貰うことになった。どうやら素材は刀と変わらないようで、量だけ多くなった。予想通りではある。そしてすっかり顔を真っ赤にして、縮こまってしまった二人を連れて、ホームに帰る。
そしてホームに帰った俺はルーナと出かける。
「「「「あぁ~…行ってらっしゃい」」」」
リリーたちは全てを察した様子だ。それにしても遂にルーナまでエンゲージリンクを渡しちゃうか的な空気を出さないで欲しい。
これが告白場所に選んだのはエルフの森の精霊界。どんな感じなのか確認することも出来て丁度いいと思ったのだ。
「ここがエルフの森の精霊界なんだな」
「流石にここにはモンスターはいないようですね。パパ」
「みたいだな。で、問題はあれか…」
精霊界にもユグドラシルは存在するとこは当然として、元の世界と違っている点はユグドラシルの根本部分が空洞となっており、下に降りれるようになっていた。恐らくこちらのルートは北欧神話の冥界ヘルヘイムに行く道だろう。
恐らく上のルートがオーディンたちがいる天界アースガルズに続いていると思われる。しかしオーディンが言っていた簡単に辿り着けないという意味が空にあった。
フレースヴェルグ?
? ? ?
ヴェズルフェルニル?
? ? ?
フレースヴェルグという巨大な鷲とフレースヴェルグより小さいと思われるヴェズルフェルニルという鷹がたくさん飛び回っていた。どちらも北欧神話に登場する鳥で風に関わりがある鳥だ。恐らく空を飛んでアースガルズに行こうとすると地獄を見るだろう。かと言って登っても襲われると思うけどな。
「ユグドラシル様を登るのは大変そうです」
「下にもたぶん何かいるだろうしな。ま、今日の所は難しそうと分かっただけで良しとしておこう」
「はい! パパ!」
「それでなんだが…ルーナ? 顔が近いぞ」
エンゲージリンクを取り出して顔を上げるとルーナの顔がドアップだった。
「す、すみません! いよいよ私にも番が来たと思うと我慢出来なくて」
「…言わないでくれよ」
「あ…」
告白する前にこれから告白される宣言されると物凄く言い辛い。俺は時間を確認してからルーナに話しかける。
「…今までの旅の事をゆっくり話でもするか。考えてみるとしたこと無かったからさ」
「そういえばそうですね!」
俺とルーナは木の根を椅子にして、今までの旅を話し合った。
「考えてみると私はいつもパパや皆さんに守られていましたね」
「俺たちもいつもルーナのサポートに助けられていたな」
いつも当たり前に戦って来たけど、俺たちのステータスを上げてくれているルーナのサポートは敵へのダメージ増加や敵からのダメージの軽減など見えないところで俺たちを救っている。
「思い出したように言われるとちょっとショックです…パパ。戦いたいのを我慢しているのに…」
「ごめんごめん。改めてルーナに助けて貰っていたことを再認識したんだよ、それに最近は結構前に出ているだろ?」
「う…仕方ないんです。私はパパの召喚獣なんですから」
そこを言われると辛いところだ。するとルーナが俺の前に回る。
「そろそろ時間がないんじゃないですか?」
「そうだな。それじゃあ…んん! 俺は小さい体でいつも一生懸命なルーナが好きだ。これからも俺の事を音楽でも踊りでも戦いでも支えてくれないか?」
「はい! 私も私の事をいつも大切に思ってくれているパパが大好きです! 指輪を受け取る前にパパに特別な踊りを捧げます。妖精が大好きな人に捧げる踊りです。どうかご覧ください」
俺はルーナの美しい踊りに見惚れる。
「パパ?」
「あ…終わっちゃったのか?」
「はい! ふふ。新しいパパ発見です」
「ぐ…リリーたちには秘密にしてくれ」
ダンス大会が開催されて、一人一人感想を言うことになるに決まっている。
「もちろんです。二人だけの秘密ですね。それじゃあ、パパ」
「あぁ…」
ルーナが手を差し出して、俺はルーナの指にエンゲージリンクをはめた。そしてインフォが来る。
『ルーナとエンゲージが結ばれました』
俺たちが見つめ合っていると何処からともなく老若男女の声が聞こえてきた。
「「「「おめでとう!」」」」
「な、なんだ?」
「…妖精や精霊たちです。どうやら私たちのことを覗き見していたみたいですね」
一瞬で空気をぶち壊してくれるよ。でも、祝福されて悪い気はしないな。俺とルーナの視線が合う。どうやら思っていることは一緒みたいだ。
「「ありがとう」」
こうして俺とルーナはホームに帰り、一緒に寝ることになった。




