#963 ハロウィンイベント会議
フリーティアに帰って来た俺たちは俺だけお城に向かい、預けていたドン・クアルンゲを連れてギルドに直行した。召喚獣じゃないから連れて歩くしかなかった。俺が作製中のギルドに入るとリープリッヒのウエイトレス姿のレギンがいた。
「お、お帰りなさいませ。ご主人様」
「帰って来たのはレギンのほうだろう? お帰り」
「あ、そうですね。ただいまです。タクトさん」
「さて、レギンにこんなことを言わせたのは誰だ?」
みんな別々の人を指差す。全員グルってことだな。そこでみんなが俺が連れている牛に目が行く。
「その巨大な牛も報酬ですか?」
「そうらしい。ギルドで飼うことになるだろうから、よろしくな」
「モ~」
絶妙なタイミングで鳴いたな。ここでユウナさんを発見し、お世話を頼んだ。そしてリリーたちを召喚する。
「「「「レギンだ~!」」」」
「きゃ~!? いたた。久しぶりだね。みんな。あれ? リアンちゃんは?」
「リアンは寝込んでいるよ。もうすぐ復活すると思うからここに来るように言っておくな」
レギンの相手はリリーたちに任せて俺は貰った武器を公開し、昨日の戦闘の話をした。
「マモンは悪魔版のギルガメシュみたいな能力だったんだな」
「そういえばそんなことを言っていたな」
「あぁ…俺たちがどれだけ捨てられた武器を欲しがったことか…」
「「「「うんうん」」」」
みんな苦労したようだ。ただ話を聞いていると人型状態ではギルガメシュのほうが遥かに強そうだと感じた。マモンはなんと言うか自分の宝を上手く使えていなかった印象を受けたからな。そしてやはり物が物だけに皆が聞いてくる。
「ゲイ・ルーンなどはバトルシップで生産可能っぽいですよね?」
「あぁ…見るからに使い捨ての武器だからな」
ここで本物のゲイ・ルーンを持っている人から忠告を受ける。
「ゲイ・ルーンは発火スキルのせいで手で持ったり、放置すると燃えてしまうのでエクスマキナの船で火事が発生するかも知れません」
「マスター」
イクスに聞かれていた。
「安心しろ。俺もバトルシップで火事を起こしたくはないさ。どう使っているんですか?」
「濡れタオルを巻いて使っています。そうすると濡れタオルのところだけ発火しなくなるんです」
「イクス。槍全体を濡れタオルに巻いたまま、タオルごと量産出来るか?」
「その濡れタオルと言うものが槍の一部なら可能です」
「そういう事なら可能なはずだ。槍の注文の中にはお洒落で布を付けられる奴がいてな。鑑定するとしっかり槍の一部になっていたぞ。ただ槍全体となるとどうなるか分からないな…こうなるとゲイ・ルーン専用の鞘を作るのが確実か?」
鍛冶師全員がクロウさんの意見に賛成した。そしてこれの担当はそのままクロウさんたちに決まった。しかしゲイ・ルーンの問題は量産の問題だけじゃない。
「こうなると電磁投射装置で撃ち出すのも問題が出そうだな」
「それです!」
サバ缶さんが急に声を上げた。そして詰め寄って来た。物凄く怖い!
「タクトさん! 我々にも電磁投射装置をください! 具体的にはマッカレルオンのために! どうか! どうかぁあああ!」
「わ、分かりましたから落ち着いてください。あ、でもあれは防具になってますよ」
「マッカレルオンのために改造するので心配無用です!」
「そ、そうですか…分かりましたから取り敢えず落ち着きましょう」
サバ缶さんを宥めるなんて珍しいことがあるものだ。話を報酬武器に戻す。
「マモングリモワールはタクト君にしか装備出来ないとして本当にこれら全てを手放すつもりなのかい?」
「嬉しいんやけど、流石に物が物だけにな」
「俺には神剣グラムがありますからね。どうしても皆が遠慮するならコーリ・イン・ダッダをください」
これに皆が賛同し、受け取ったのがこちら。
コーリ・イン・ダッダ:レア度10 重要アイテム 品質S+
ダーナ神族の四つの宝の一つ。豊穣の神ダグザが持っていた大釜で、無限に食材を出すと言われている。ただし自分が鑑定したものしか出すことが出来ない。
これで聖杯作りを俺が担当することとなった。
「…兄様、聖杯で何を狙っているの?」
ミライが聞いてくる。俺たちは叡智で聖杯のことを知っている。叡智によると聖杯には悪魔の力を無効化する聖水を作り出す能力と成就というチートスキルが存在する。これは限定品や神様のアイテム以外のアイテムを一日一回作り出す能力らしい。これが事実なら俺は是非とも手に入れたい物がある。
「聖杯で折れたエクスカリバーが手に入んじゃないかと思ってな」
「「「「ッ!?」」」」
折れたエクスカリバーをイベントで交換した全員が反応する。しかし既に手遅れだ。
「もう貰ったんだから撤回は受け付けないぞ」
「「「「ぐ…」」」」
他にも様々な物が手に入る可能性がある。ノーサンバスタードとか今回の報酬も対象のはずだ。夢が広がるね。するとしっかりしているミライが言う。
「…兄様、聖人の血の代わりに聖杯を使わせて欲しい」
「いいぞ。元々そういう条件を出すつもりでいたからな」
「えーっと…私たちは?」
「…どうして姉様たちが関わってくるのか意味不明」
ミライの言う通りだと思う。その後、それぞれ欲しい武器を立候補した人でくじ引き大会が開催される。その結果はクラウ・ヌアザはシフォンの手に渡り、残りはウィザードオーブのプレイヤーと生産職の手に渡った。
「大剣スキル、覚えてないのに…」
「シ、フォ、ン」
「分かっているよ。ミランダちゃん。その代わりに私の武器、手伝ってよ?」
「もちろんよ」
口を出す前にミランダに取られたアーレイである。一方リサは生産職の手に渡ったヌアザ・アガートラームを全財産をつぎ込んでゲットしていた。他の人たちもそれぞれ交渉している。ここで喜んでいるリサに聞く。
「食費とかどうするつもりなんだ?」
「え…兄ちゃん」
「お金なら貸さないぞ」
「私たちもだよ。リサちゃんが自分で使ったんだから、責任は自分で取ろうね」
ゲームの世界で社会勉強が出来て良かったと思う。これが現実なら借金生活になっていたことだろう。
「でも、後悔しない!」
そこはして欲しいところだ。将来が凄く不安になる。まぁ、現実で借金なんてしたら、義父さんたちが黙っていないだろうから安心ではあるけどね。
それにいい武器をゲットしたんだからその分、高難易度のクエストに挑めるだろう。問題はメルたちがそれに付き合わされることだ。聖人の血が遅れることになるかもしれないな。ま、まだマザーズレイクに到達していないし、気長に待つとしよう。重要なのはエクスカリバーが手に入ることだ。さて、次はみんなの話を聞く。まずはサバ缶さんからだ。
「魔炎の戦車の残骸は集まりました。太陽神のチャリオットと共にギルドで管理でいいですか?」
「「「「異議なし!」」」」
というわけでユグさんたちが作製することが決まった。次にイベントの議論をする。
「生産職のことが何も書いていないということは逆に言うと生産職の仕事があるということだと思うわ」
「戦闘も明記されていますから恐らく双方のクエストがあるイベントなんでしょう。ちょうど古の島と同じ感じだと思います」
あのイベントも生産職が活躍したイベントだったからな。俺たちからすると結構揉めたイベントだったけどね。とにかく難易度は最高で参加者は全員で決定した。後はハロウィンについて、お互いの知識を話し合う。
「ハロウィンといえば仮装だよね!」
「元々はケルト人が起源でしたっけ?」
「所説あるけどね。ケルト人はこの時期を冬の始まりの時期としていて、悪い精霊や魔女から身を守るために仮装したって話だったはずよ」
「他にも収穫祭としてのお祭りの側面もあったはずです。他のゲームではどちらも取り上げられていますね」
サバ缶さんの話では仮装して戦闘したり、カボチャを集めるのがセオリーらしい。
「このゲームではどう思いますか?」
「両方来る可能性が高いかと。カボチャを集めるのが生産職で仮装して戦闘するのが戦闘職に分かれる感じじゃないかと思ってます」
「その線が濃厚ね」
「ボスとかに心当たりはありますか?」
全員が考える。
「ジャック・オ・ランタン、ウィル・オー・ザ・ウィスプが有名だけど…」
「召喚獣にいるよ!」
一応ネタバレになることを話した上に話す。
「叡智でサウィンリッパーというのが第五進化でしたね」
「サウィンって?」
「サウィン祭のことでしょうね。さっき話題に出たハロウィンの原型の一つと考えられているケルト人のお祭りよ」
「死神、魔女、悪い精霊はハロウィンでは有名ですからね。他には狼男や吸血鬼が定番でしょうか?」
サバ缶さんの発言にアーレイが反応する。
「ナースやポリスは?」
「それは仮装の話です」
「サバ缶が上げなかったものだとゾンビ、ミイラ男、フランケンシュタインも有名ね」
「「「「ゾンビね…」」」」
ゾンビにはいい思い出がない俺たちである。ここでラスボスの可能性がある人物が俺の脳裏に過る。俺はセフォネに聞いてみる。
「あの女王が動くとはとても思えないのじゃ。そもそもお祭りなどするはずがないと思うぞ?」
「そう言われてみれば確かにお祭りとかするようには見えなかったな」
「うむ。ところで仮装とはなんじゃ?」
リリーたちは知らないか。説明すると全員の目が輝き、俺を見る。そして俺の予想通り、自分たちの姿の仮装を俺に要求してくる。ドラゴニュートは既に文化祭でしたから勘弁して欲しい。
話が完全に仮装の話に向かってしまったので、最後に俺たちが発起人となって進行している魔王討伐同盟の話をする。
「プレイヤーの有名ギルドはみんな参加してくれるわ」
「一部批判的な意見もありますけどね」
「あれはほとんどやっかみだろう?」
「まぁ、群れるのが苦手な人がいるのも事実ですからね。指摘された問題点はおいおい潰して行きましょう」
掲示板で色々な動きがあったみたいだ。まぁ、この辺は俺には関係がない。俺は明日開かれる国際会議で提案するだけだ。
最後にフィールド攻略会議だ。俺がまず狙うのはオリハルコンの鍛冶方法があると思われる火山の島の攻略。それとミカドシルクの調達だ。するとここでミュウさんから依頼を受ける。
「たぶんだけど、帝蚕蛾から卵か何かが手に入ると思うんだよね」
「卵ですか?」
「うん。ギルマスが手に入れてくれた桜花クヌギがあったでしょ? あれを使って養蚕が出来るみたいなんだよ」
あったね。あれで養蚕が出来るんだったら、ミカドシルクの安定供給が実現出来る。何よりわざわざ戦わなくて済むのは大きい。しかしそのためにはどうしても卵が必要になるそうだ。
「それで帝蚕蛾に当たりを付けたわけですか…」
「そういうこと。当然やってくれたら、ギルマスのウェディングドレス代は全部大幅に値引きするよ」
そういう事ならやるしかないな。というわけで引き受けた。
他のみんなは神様のクエストに挑んだり、マザーズレイクの攻略がメインだ。いつもの島の攻略ならチロルたちが参加するんだけど、今回は別行動となった。理由は火山島の攻略に必須と思われる防具が無いからだ。
これはリリーたちも同じだから何か対策を考えないといけないかも知れない。対策を講じてもあのスライムの群れはリリーたちも嫌がるだろうし、まずは一回偵察に行かないといけないだろうな。空間索敵などで分かることもたくさんあるだろう。
会議が終わると今度は叡智の質問タイム。皆がそれぞれ知りたいことが沢山あるらしく、俺に殺到する。
「カスバドの杖でも見れますよ」
「ちょ!?」
これの巻き添えを喰らったのがカスバドの杖を手に入れたレッカだ。こうしてレッカと俺で分かれて叡智を使う。そこで俺にとってもいい話を聞くことが出来た。
「白鳥が見つかったんですか!?」
「はい。天照大神のクエストで高天原に行ったプレイヤーが確認しています。ただ識別するとすぐに逃げてしまったらしいです。恐らくボーナスモンスターじゃないかと」
因幡の白兎の次は白鳥か。
「高天原ってもしかして桜花の天界ですか?」
「はい。伊勢神宮で天照大神と出会えるクエストがあって、そこからクエストを進めると行けるようになるそうです」
三重県まで行かないとダメか。まぁ、俺も天照大神様には用事がある。ちょうどいいかも知れないな。
用事というのは神召喚についてだ。残り二柱と契約することが出来るから俺はスサノオを狙っている。
しかし居場所が出雲しかわからない。出雲は島根県。俺たちがいるところからは距離がありすぎる。こうなると天照大神様を頼るのが普通だと思ったのだ。
ルインさんが入ってくれたおかげで叡智の質問タイムから解放された俺はミライにクエストに必要なアイテムを提供する。これぐらいのサポートはしないとね。そこから生産職たちはレギンとオイフェのために歓迎会の準備を進める。
その間に聖域の島で生産作業もといマモングリモワールを使ってみる。
「収集!」
『収集するアイテムを選択してください』
一覧が表示されるとアイテムの他に解体待ちのモンスターまで収集出来るみたいだ。凄く便利だな。時間の無駄が一気に無くなる気がする。
取り敢えず鉱石と宝石を選択し、実行ボタンを押す。するとマモングリモワールが開き、掃除機のような風が発生すると島にある鉱石や宝石を吸い込む。
吸い込み終わると収集したアイテムの一覧が表示された。なんという生産作業の時短だ!ただ問題点はこれをするとスキルのレベルが上がらない点だな。まぁ、そもそもこれだけで解決しているから今更スキルの話をされても問題有りなんだろうけどね。
それとユウェルたちががっかりしている。自分たちが集める作業を奪ったからな。これは当然だろう。その代わりに新しい宝石を見せると目の色が変わる。特にリオーネが俺の頭の上でネコパンチの連打だ。カーバンクルから進化しても宝石好きは変化しないらしい。後、物凄く痛かった。
次に修練の塔で菅原道真と一騎打ちをする。自分がどこまで強くなったのか知るのに彼ほどの適任者はいないだろう。
結果は俺の勝ち。正直目で見える景色がまるで違った。
「次元が違う程、強くなったのぅ」
「はい。ただまだ技では負けてますね」
菅原道真の技をはっきりと視認出来るようになったことで技術の高さを思い知った。どれだけレベルやステータスが上がっても個人の技量は簡単に上がるものではない。今回の一騎打ちで明確にこの課題が浮き彫りになった。
「ふ。強くなっても更に先を見据えるか。よい心掛けじゃな。技を磨きたいならたくさん経験を積むことじゃ。幸いお主には腕がある剣士が沢山おる。お互いに切磋琢磨と良いぞ?」
「そうですね。参考にさせて貰います」
ここで歓迎会の準備が整い、リアンも復活したことでみんなで騒ぐ。
「「「「もぐもぐもぐもぐ」」」」
一心不乱に料理を食べるリリーたちを見て、食費を無駄にした気分を味わった。
みんながオイフェとレギンに集まる中、俺は今後の予定を考えていると鉄心さんがやって来た。
「歓迎会の最中に考え事は関心しないな」
「そうですね…すみません」
「何か悩み事かい? 良ければ話を聞くが?」
「ありがとうございます。ちょっと予定とオリジナル技について、考えてまして」
「ほう。それは武器同士の必殺技コンボかい?」
鉄心さんでもオリジナル技には興味があるみたいだ。
「それもありますけど、魔法やスキルを上手く使った必殺技を考えてまして。そういえば鉄心さんは刀に炎を宿すことって出来ますか?」
「黒炎スキルとかのことかな?」
「はい」
「それは出来てるよ。元々は恋火君に教えて貰ったものだけどね」
どうやら恋火が炎を刀に宿しているのは有名だったらしい。
「つまりそれと同じように他のスキルも可能なんじゃないかと考えたわけだね」
「はい。それと必殺技を組み合わせたら、新しい技にならないかなと思いまして」
「面白い発想だが、掲示板を見る限りでは上手くいっていないようだよ。正確には出来はするが威力がいまいちらしい。結果タクト君もしているように武器で攻撃した後にスキルを使うほうが遥かにダメージが出る結論になっている」
どうやらオリジナル技を考えているのは俺だけではないらしい。当然といえば当然だけどね。
「やっぱりそうですか…でも、出来るなら何か方法が…ん?」
机の下から顔を出している恋火と目が合った。
「タクトお兄ちゃんばっかり独自の技を考えてずるいです!」
「いや、恋火たちの技についても考えているんだけどな」
スキルを使ったコンボは俺と言うより恋火たち向けだ。しかし恋火はジト目を向けて来る。
「本当ですか?」
「本当だって。明日帝蚕蛾と戦うから連携技と一緒に色々試してみよう」
「はい!」
「ほら。急がないとリリーたちにご飯を全部食べられるぞ」
「それには及びません! 確保済みです!」
俺の机にお皿一杯の料理を置く。恋火も成長したな。すると俺の膝の上でご飯を食べ出した。どうやらこれを狙っていたらしい。それをリリーたちは無言でこちらを見ながら食べている。これはこれで怖いぞ。
「ふふ。どうやらお邪魔なようだ。私も探っているからお互い成果があれば報告し合おう」
「はい」
今日はこれでログアウトすることにした。すると部屋に燎刃がやって来る。
「昨日一緒に寝れませんでしたから…その…いいでしょうか?」
「いいよ」
かなり遠慮している燎刃を微笑ましく思いながら眠りに落ちた。




