#955 ウィザードオーブ城壁突破作戦
悪魔を蹴散らしながら、順調に進軍を進めると遂にタスラムの射程範囲に入った。
「行くわよ!」
トリスタンさんが放つと予想通り結界に阻まれた。
「トリスタンさんが他に何か言わないから」
「私に何を求めているのよ…」
「アーレイの事はほっといてください。自分が撃つ時に何か決め台詞を言いたいだけですから」
俺たちが教室でタスラムのことで雑談していたのをミランダは聞いていたんだな。これは恥ずかしい。
ベリアルは俺のことを知っていたし、今回の敵の動きはこちらの手札をある程度、知っているかのように動いていた。だからタスラム対策は取られていることはなんとなく想像がつく。それでもタスラムの余波を喰らった敵は消し飛んだところは流石の威力だ。
「ダメだったわね」
「ですね。それじゃあ、行きますか。ミライ、サポート頼む」
「…任せて。兄様」
俺は千魔悪龍の封印杖を取り出す。恐らくアジ・ダハーカだけは知っていても対策不可能だと思うんだよね。
「随分待たせたな」
『別に構わん。暴れ甲斐があるいい戦場を用意してくれたのだからな! ここは一つ我らが召喚主が神と正式契約をしたことを祝おうではないか!』
気合十分だね。ウィザードオーブの騎士たちに同情してしまう。では、行ってみよう!
「封印石召喚! 来い! アジ・ダハーカ!」
アジ・ダハーカが降臨する。そしてすぐさまミライに魔力を回復して貰った。ケツァルコアトルを召喚するより早くアジ・ダハーカが口を開いた。
「我らが名は千魔悪龍アジ・ダハーカ! 貴様らが侮辱した我らが主神より生まれし、悪である! 今こそその罪、償って貰うぞ!」
あぁ…この戦争が始まった時に俺が魔神を倒せるなら俺も倒せるとか言っていた奴がいたな。あの言葉を聞いていたんだね。そりゃあ、怒るわ。これは事実上の彼らへの死刑宣告だ。ケツァルコアトルを召喚するまでもないな。
俺の判断は正しくアジ・ダハーカがウィザードオーブの首都上空に青い巨大な魔方陣を展開する。俺はその魔方陣の正体を叡智で理解してしまう。
氷魔法の禁呪アブソリュートゼロ。範囲内にいる全ての敵のスキルを封殺し、バフの解除、全ての耐久値と生命力を無くすというとんでもない禁呪だった。しかしその威力故に今までの禁呪より詠唱時間はかなり掛かるようだ。
「さぁ、世界終焉のカウントダウンだ。命が惜しければ我らを止めてみよ!」
アジ・ダハーカの言葉にウィザードオーブの騎士たちは動きが悪い。どうやらアジ・ダハーカの言葉を信じていないようだ。しかしフィンや大賢者たちは魔方陣を見て、俺と同様に理解してしまう。
大賢者たちが一斉に魔法破壊に動くが魔方陣はびくともしない。
「ははははは! 我らはちゃんと言ったはずだぞ? 命が惜しければ我らを止めてみよと!」
つまり最初から魔法を破壊させる気がアジ・ダハーカには無かったと言う事だ。
「く! 全軍突撃せよ! なんとしてもあのドラゴンを殺せ!」
ウィザードオーブの防衛部隊が一斉に向かって来た。可哀想に…防衛する気満々だったのが、一瞬で攻めるしか無くなるこの状況には同情してしまう。
フィンが使っている魔槍は常時こちらへダメージを与えることが確認されている。これは防衛には非常に向いている能力だ。今となっては回復手段は沢山あるけど、持久戦になればこちらのアイテムの消費は避けられない。
だから最初の作戦では短期決戦を狙っていたわけだが、向こうが攻めてくれるならかなり楽になった。ルインさんから陣形の変更が伝えられ、満月さんたちが最前線となる防御陣形にシフトする。その間に後衛部隊の連続攻撃が始まる。
「弓兵第一部隊! 攻撃開始!」
「魔法第一部隊! 攻撃開始!」
「砲撃第一部隊! 攻撃開始!」
「召喚獣第一部隊! ブレス攻撃開始!」
敵の突撃に対して、攻撃準備が整っていた遠距離部隊が連携して、立てず攻撃が敵部隊に襲い掛かる。一生懸命盾のルーンでガードしているのが見えているけど、盾のルーンではこの波状攻撃を防げはしない。
しかし敵部隊もやられっぱなしというわけでもなく遅延魔法でストックしていた魔法を使って来た。突撃する側にとっては遅延魔法は有効だと勉強になった。最もその魔法はレッカたちと召喚獣の手で防がれる。
その隙を逃さず、敵部隊はアクセラレーションで一気にこちらに詰め寄って来た。いい判断だ。しかし陣形のシフトは完了している。
「来るぞ! 誰一人通すなよ!」
「ロケットパンチ部隊! 放て!」
ゴーレムたちのロケットパンチを避けて、最前線にいる満月さんの部隊とぶつかるがここでウィザードオーブ部隊の動きが止まる。これを待っていたのがエルフたちだ。
「全軍撃て!」
足が止まったウィザードオーブに宝石の矢が降り注ぎ、これをウィザードオーブ軍は防ぐが地面に刺さった矢が起爆し、次々消し飛ぶ。そんな彼らの側面からレイジさんが指揮している騎兵部隊が襲い掛かる。
「全部喰らいつくすで! 超連携!」
「「「「おぉ!」」」」
「前線を押し上げる! 全軍、前へ!」
「「「「おぉ!」」」」
ボロボロの敵部隊に騎兵部隊が襲い掛かり、轢き逃げされたような状況を確認した満月さんたちが前に出て、長槍で止めを刺していく。
これが攻め手と守り手の差。攻め手は最初に守り手の防御を崩さないと格好の的になってしまう。その為、地上戦では守り手の方が有利になることが多い。現代では兵器が発展しすぎて、この理論は崩壊しているけどね。
しかし俺たちもアジ・ダハーカの巨体を完全に守ることは不可能だった。最もウィザードオーブの騎士たちや悪魔たちの攻撃はアジ・ダハーカの障壁によって全く効いていないけどね。
「デジャブだな」
「だね。魔法の国なのに魔法を使うことが出来ない時点で詰んでいるでしょ。これ」
「良かった…向こう側に付かなくて本当に良かった」
俺とレッカの会話にウィザードオーブの魔法使いがみんなして、向こう側に付かなくて良かったと言う。そして一緒にいるシルフィ姫様とスカアハ師匠が疑問を言う。
「この状況なのにベリアルが出て来ませんね」
「オイフェもな。大方出て来てもあの禁呪の餌食になるだけだから結界の中で様子見していると言ったところか」
「それはウィザードオーブ軍を見捨てているということか?」
ディアドラ姫の指摘に俺たちは頷くしかない。この状況を見れば、明らかだからだ。それでも彼らはアジ・ダハーカと戦うしかない。国の脅威を排除するのが、騎士団の役目だからだ。
そして唯一アジ・ダハーカを倒せる可能性があるフィンがアジ・ダハーカに挑もうとする。馬と共にありえない程、ジャンプすると背にある剣を抜く。その刀身は蒼く発光していた。明らかに普通の剣じゃない。
「斬り裂け! マック・ア・ルイン!」
マック・ア・ルインは剣の名前で登場か。フィンの武器として有名だが、剣か槍か所説ある武器だ。一つだけ確かなことは巨人の首を斬り裂く程の切れ味を誇っているということだ。
そしてマック・ア・ルインが剣で登場したと言うことはダメージを与えていた槍の正体は炎の息のアイレンを討伐する時に使った槍の可能性が高い。俺がそう思っているとディルムットが双剣を構え、フィンに襲い掛かった。
「ディルムット!?」
「フィン団長! 目を覚ましてください!」
「黙れ! この裏切り者が!」
偽物とか言わないんだ。まぁ、二人の伝説の事を考えると偽物より裏切り者とした方がフィンは本気を出すかもしれない。俺の危惧は正解でフィンは本気で殺しに掛かっている。
「く!? 何故です! フィン団長!」
「我々はもう後には引けないのだ! ぐぉおおお!」
フィンの背から悪魔の翼が生え、尻尾と角も現れる。それを見ていた和狐が言う。
「タクトはん。あれはもう悪魔と完全に融合しております。あれではもう救うことは無理どす」
和狐がそういうと次々、ウィザードオーブの騎士たちが悪魔に変貌する。
「馬鹿者どもが…」
「ディアドラ…」
「こうなってしまっては最早救い出せぬ。せめてこれ以上、罪が増えぬようにをするのが妾の役目じゃ」
ディアドラ姫は立派だな。この光景を見て、一番悲しんでいるのは彼女だろうに…するとノイシュさんが俺にお願いしてくる。
「タクト。済まないが彼らを眠らせてやってくれ」
「いいんですね?」
「あぁ。私も王になると言うなら決断するべきだと思う」
本当にこの二人はいい恋人だよ。ディアドラ姫が言えないことをノイシュさんは代わりに言ったんだからね。ならその気持ちを酌むのが俺の役目だ。アジ・ダハーカに範囲を敵全てにするように伝える。これで後は禁呪が発動されば終わりだ。
ディルムットとフィンの勝負はディルムットが押される。上司と部下の関係なんだ。いくら俺の強化が追加されても、こればっかりは仕方がない。ディルムットが抜かれ、アジ・ダハーカに襲い掛かろうとするフィンだが、満月さんたちの大気壁に潰される。
「く…!」
「悪いが、アジ・ダハーカには手出しさせん」
「はぁああ!」
抜かれたディルムットが再び攻撃を加える。
「ち! しつこいぞ! ディルムット! 騎士ならば潔く負けを認めよ!」
「私が知るフィン団長は決してそのようなことは言わなかった! 負けてもなお勝つことを考え続けよ。最後に立っていた者こそ勝者だと言った言葉は偽りでしたか!」
「…あぁ。そうだ」
「っ! そうか…よくわかった」
ディルムットが双剣をしまい、双槍を構える。
「お前は既にフィン団長ではない。フィン団長の部下としてこれ以上、その体で悪さすること、決して許さぬ! 魔槍解放! 魔槍技! ゲイ・ダナー!」
「お前に私を越えられるか? マック・ア・ルイン! 伝説解放! 精霊剣技! グロー・サーバ!」
赤と黄色の魔槍のオーラが合わさり、橙色のオーラを纏ったディルムットが美しい夜空のような黒いオーラを宿したフィンの斬撃がぶつかる。
「「おぉおおお!」」
結果は無情にもディルムットの負け。ディルムットはフィンの斬撃を受けて、吹っ飛ばれる。
「ぐ…がは!?」
「まだ息があるか…ならばこれで止め」
「ふふ…私の負けです。しかしどうやらこの戦いの勝者は私のようだ」
「何? しまった!?」
フィンはディルムットに夢中になりすぎた。フィンが上を見るとアジ・ダハーカの禁呪が発動する。
「禁呪! アブソリュートゼロ!」
魔方陣が無くなり、蒼い光の雫が落ちて来る。それがウィザードオーブ首都の結界に触れた瞬間、蒼い世界が広がる。俺たちは眩さに目を閉じ、目を開けるとそこには敵部隊の全てが凍り付いていた。そして凍り付いた敵が静かに光となって消滅する。
「「「「綺麗…」」」」
メルたちが言ってしまうのも無理はない。まるで一瞬のうちに誰もいない白銀の世界に迷い込んだような錯覚され感じてしまう魔法だった。
「ディル…ムット」
「フィン団…ぐぅうう!? …長!」
ディルムットは傷を抑えながら、フィンを見る。
「ウィザードオーブを…頼む」
そういうとフィンもまた消滅した。
「はい! このディルムット! フィン団長の最後の指示、確かに聞き届けました!」
これがこのゲームでのフィンとディルムットの結末か。個人的にはフィンの指揮を間近で見てみたかった。
ただこの状況でもウィザードオーブの首都は無傷。しかし覆っていた結界は綺麗に消滅してしまっている。
「我らが役目はこれで果たした。後はお前たちの戦いを見させてもらうぞ」
「あぁ。ありがとう。アジ・ダハーカ」
アジ・ダハーカが消えるとフェグルスとガルーさんが号令を出す。
「全軍突撃! これよりウィザードオーブの首都の城壁を破るぞ!」
「ウィザードオーブの騎士団に遅れをとるんじゃねーぞ! お前ら! 全軍突撃!」
「「「「おぉ~!」」」」
一斉に部隊が動き出す。しかしその動きは妙で真正面の部隊は動いていなかった。これには訳がある。一つは揺さぶり。もう一つは敵の注意を左右に行かせるためだ。そして俺は作戦を発動される。
『準備はいいか?』
『こっちは何時でもいいよ!』
『よし。なら行くぞ! サフィ! 行け!』
サフィが巨大化するのを合図にケートスたちが一斉に巨大化するとメルたちが一緒に乗り込む。
「何をする気だ? 奴ら」
「ま…まさか…う、撃ち落とせ! あの鯨たちを」
気付いたのは素晴らしいが遅かった。
「「「「ぼえ~!」」」」
一斉にケートスたちが城壁に星角体当たりをお見舞いする。その衝撃は城壁の上で守っていた騎士たちが倒れ込むほどだ。更にケートスの背から飛び上がったメルたちが城内に侵入する。
自分たちの馬や走って攻め込むより、こちらの方が遥かに速く最終クラスチェンジしている人は城壁ぐらいほとんどの人は飛びこえる手段を持っているからこの作戦を採用した。しかしこのままではメルたちが孤立してしまう。
「くそ! 侵入した者を殺せ! 城に行かせるな!」
「「「「お…おぉ! ん?」」」」
彼らが城壁に迫る足音に気付き、振り返るとそこには城壁にダッシュしていた月輝夜たちオーガロードと巨人たちが武器の投擲態勢になっていた。
この奇襲を成立されるためには前に人間がいると出来ないんだよね。踏みつぶすといけないから月輝夜たちは全力ダッシュが出来ないんだ。因みに月輝夜が装備しているのは魔剣メガロリュカオンだ。
「「「「グオォオオオオオ!」」」」
「「「「ウォオオオオオオ!」」」」
「「「「逃げろー!」」」」
これで先手は完全にこちらが取った。すかさずユグさんが命令を下す。
「撃てーーー!」
「「「「行きまーーーす!」」」」
連続の奇襲で完全に乱れた敵はカタパルトとアーバレストに対応できず城壁に直撃した。これでもまだ崩れないか。どれだけ丈夫な城壁を作ったんだよ。
これで完全に流れはこっちに来たと思ったのだが、敵も新たな悪魔を大量に召喚して、戦力を集めて必死に抵抗をして来た。
このままでは城壁に取り付くことに成功し、暴れている月輝夜たちと中にいるメルたちが不味いので、アルさんたちとエアティスたちが動く。
「安全装置解除!」
「ライラプスの槍! 装填よし!」
「「「「雷の槍を喰らえぇええ!」」」」
電磁射出装置に安全装置はたぶんあるんだろうけど、解除しないで欲しいな。憧れの武器の使用でテンションがハイになっている所には俺は何も言えない。空から降り注ぐ雷の槍が敵を追尾し、貫くと整備された地面に穴が開く。
あんなもので空から攻撃されたら、たまらないな。いつの日か現実でも起こるかも知れない光景かと思うとぞっとする。
しかし敵も危険な敵は優先して攻撃してくる。そこで俺の空間索敵に反応があり、反対側の空を見る。
「タイミング、ドンピシャだな」
俺たちが攻め込んでいる方向とは別方向の空から無数の魔導砲弾が城壁に降り注ぎ、城壁が崩れる。空にはノアズ・スクナが飛んでいた。ノアズ・スクナは城壁の周囲を回り出し、次々魔導砲弾が城壁に撃ち込まれるとどんどん崩壊していく。
「なんだ!? あれは!?」
「船が空を飛んでいるだと!? まさかエクスマキナの船か!?」
これにウィザードオーブの騎士と悪魔も混乱する。その隙をみんなが逃すはずがない。
「今だ! 魔法第一部隊! 攻撃開始! ニュークリアエクスプロージョン!」
レッカが爆魔法の上級魔法を使用する。すると超大爆発が発生し、キノコ雲が発生する。ニュークリアエクスプロージョンは核爆発という意味だ。これで禁呪じゃないのは問題ありな気がするがビックバンと比べると流石に超えることは出来ないだろう。
因みにニュークリアエクスプロージョンは爆発の威力が凄まじいだけの魔法となっている。放射能や黒雨が降ることはない。何とも安全な核爆発だが、単純な威力では宇宙魔法などの特殊な魔法を除き、魔法の中では一番のダメージを与える魔法らしい。
他の上級魔法も降り注ぎ、更にユグさんたちが再びカタパルトとアーバレストを連射すると遂に城壁が崩れた。ここでサバ缶さんから通信が来る。
『お待たせしました』
『完璧でしたよ。おかげでこちらの城壁を壊すことに成功しました』
『それは良かったです。では、我々はこちら側から攻撃を続けますね』
『お願いします』
俺は状況を確認してからルーナたちと共に夕凪から降りる。そして俺の指示を待っているグレイたちに言う。
「待たせたな。半分人間の悪魔はメルたちに任せてくれ。それ以外の敵は倒していい」
「「「「ガウ!」」」」
「指揮はグレイとルーナに任せる」
「はい! 行きますよ! 皆さん!」
ルーナがグレイ、伊雪がスピカ、ミールがロコモコ、ルミが優牙、千影がジーク、アラネアがストラに乗る。
「よし。暴れてこい!」
グレイたちは嬉々として城壁に突撃する。
「行くでありますよ! ジーク殿! 伸びよ! 如意金剛錫杖!」
「魔素分身! 鋼索! 高熱切断!」
千影が如意金剛錫杖を横に伸ばし、ジークが突撃すると悪魔たちが如意金剛錫杖に次々ぶつかる。如意金剛錫杖を上手く使っているな。流石千影だ。
アラネアがストラのそれぞれの首に魔素分身を作ると真っ赤なワイヤーを両手で振るいストラが突撃していくと次々悪魔たちがワイヤーに当たり、消えていく。それぞれの戦い方に感心していると背後に気配を感じた。
「タクト」
「リリーたちはまだダメ」
「「「「そんな~」」」」
これは約束事だからな。リリーたちは城攻め担当。それまではなるべくリリーたちを戦闘に参加させない約束だ。ま、俺としても全開でボスに挑めるのはありがたい。ということで俺たちは夕凪に乗って、ゴーレム部隊と共に城壁へと向かうのだった。




