#953 ウィザードオーブのワルキューレ
スコグルはどんどん速度を上げ、悪魔たちと戦っている最前線の部隊に突撃する。
「天使たちをいじめる悪い奴らはこの槍で串刺しにしてやるっすよ! はぁあああ!」
「キャッスルガード!」
「うわぁあああ!」
満月さんのキャッスルガードに正面衝突して、スコグルは馬からぶっ飛ばされるが空中で回転し、見事に地面に着地すると槍を構える。
「私のゲイルスコグルを止めるとは、中々やるっすね。何者でやすか」
「フリーティアのギルド『リープリング』所属。防御部隊隊長、満月だ。悪いが君の突撃は防がせて貰う」
「そう言われるとやりたくなるっすね! ゲイルスコグル! 旋風刃!」
再び重装近衛騎士となった満月さんにスコグルが突撃を仕掛けるが再び弾かれる。
「硬いっすね。む!」
ウィザードオーブの魔法剣士のプレイヤーたちがスコグルを囲んだ。
「スコグルちゃん、君を傷つけたくはない。大人しく投降してくれ」
「誰っすか? 勝手に人の名前を呼ばないで欲しいっす」
「…」
一生懸命アピールしてきたプレイヤーにこの一言は残酷だ。
「気持ちは分かるが、しっかりしろ! 折角助けるチャンスを貰ったんだぞ!」
「そ、そうだな。わりぃ」
気を取り直して、武器を構えるとスコグルも本気になる。
「なんだか知らないっすけど、これで私を止められると思ったら、大間違いっすよ! はぁあああ! 空振!」
「「ハイパースペース!」」
槍を回転しながら、振るうと全方向に空振が発動するがウィザードオーブのプレイヤーたちはハイパースペースでスコグルを取り囲む。その結果、一枚のハイパースペースは壊れたが、もう一枚でスコグルを捕られた。
「な!? この! ここから出せっす!」
「暴れるスコグルちゃん、可愛い」
「重症だな。お前。ん? 魔方陣! 追加の敵が来るぞ」
「君たちは彼女を! 我々が壁になる!」
満月さんたちがすかさず前に出て、敵を警戒する。
デーモンドラグーンLv50
通常モンスター 討伐対象 討伐対象
デーモンアーマードラゴンLv55
通常モンスター 討伐対象 討伐対象
デーモンフレアワイバーンLv58
通常モンスター 討伐対象 討伐対象
これを見た満月さんは驚く。
「騎兵部隊!?」
デーモンドラグーンは悪魔の姿に漆黒の鎧と槍と盾を装備している敵で背中の翼と尻尾はドラゴンの物になっている敵だった。こいつらがデーモンアーマードラゴンとデーモンフレアワイバーンに乗っている。
デーモンアーマードラゴンは以前ドラゴンの試練で見たアーマードラゴンの悪魔バージョン。ただしこちらのほうがかなり大きい。
デーモンフレアワイバーンはエステルのイベントで見たヘル・フレアドラゴンより大きさは劣っているが昨日の戦闘でもこいつらはいて、ヘル・フレアドラゴンより機動力があることが判明している。
こいつらが大群で突撃を仕掛けて来る。
「く!」
『満月さん、タクトです。シグルドさんが動きます。竜騎士部隊と竜騎兵部隊も向かいますので、時間稼ぎをお願いします』
『助かる!』
「シグルドたちが来る! それまでこいつらを止めるぞ! 絶対に後ろに通すな!」
「「「「おぉ!」」」」
満月さんたちがデーモンアーマードラゴンたちの突撃を止めるが次々突進してくる敵に押され始める。巨人の加護を得た満月さんたちでこれだ。やはり騎兵は脅威だな。押せ押せムードの敵に突如悪夢が襲い掛かる。
「爆風波!」
空から攻めて来ていたデーモンフレアワイバーンたちが直線の衝撃波を受けて空に散る。そして満月さんの前に神剣グラムを構えたシグルドさんが降り立つと一閃。その瞬間、硬いアーマードラゴンたちが紙のようにバラバラになる。
「済まない。少し遅れてしまったな」
これを見たリリーたちは身震いする。
「あの剣、タクトの物になるんだよね?」
「そうなるな」
「「「「決闘に使うの禁止!」」」」
余程あの剣が苦手らしい。
「あの剣は全スキルを使っても止めれる気がしないぞ…」
「…ん。生き残れる感じがしない」
「恐らく神竜クラスのドラゴンでも恐怖を感じる剣だと思います」
防御に絶対の自信があるユウェルとしぶとさに絶対の自信があるノワの評価が神剣グラムの強さを物語っている。
「まるで亡き父と共に戦っているような感覚だ…ふふ。たまらないな! さぁ、悪魔の竜騎士たちよ。私と神剣グラムが相手となろう。行くぞ!」
「シグルドさんに続け!」
「急がねーとあの人が全滅させちまうぞ!」
「押せ押せ! こっちにはチート武器装備のシグルドさんがいるんだ!」
「負ける気がしねーよ!」
竜騎士たちもノリノリだ。更に相手がドラゴンということでアスカロンを持っているメルも最前線で暴れ出した。
「みるみる敵が減っていくな」
「マスター。村から敵の増援を確認しました。どうやら敵の本隊のようです」
「まぁ、動いて来るよな。全員に通達を。敵は地上を走るアーマードラゴンを中心にした竜騎士部隊と魔法使い、少数だが弓もいる」
「「「「はい!」」」」
しかしワルキューレの姿がない。妙だな。普通ならこの中に格闘タイプのフロストがいるはずだ。何故来ない?そういえば星震の使い手だったな。なら敵の狙いは星震による奇襲か。
『リサ。そろそろフロストが来ると思う。イクスが出現場所を見つけるからこっちに合流してくれ』
『りょーかい!』
俺なら騎兵部隊の突撃直前に左右のどちらかから星震を使って、守りを崩しに掛かる。そうすれば騎兵部隊の突撃が成功するからだ。流石にこれだけの大部隊相手に後ろからの星震じゃあ、最前線まで届かないと思う。そして俺の予想は的中する。
「マスター! 部隊の右より魔力反応!」
「頑張れよ。リサ」
「うん!」
「テレポート!」
フロストに少し遅れてリサが現れる。
「転移を読まれた!?」
「はぁあああ!」
「く!」
二人が格闘戦をする。最初はリサの奇襲に対応が遅れたフロストだったが、持ち直し、互角の勝負となる。
「強いね。君…悪魔と手を組んでいなかったら、友達になれたかも。本当に残念だよ!」
「それはこっちの台詞だよ! 悪いけど、少し痛い目を見て、悪夢から目覚めさせてあげる!」
「言ってる意味が分からないよ!」
フロストがリサとの戦いに夢中になったことで敵の騎兵部隊は援護がないまま突撃する。
「「「「ランパードバウンス!」」」」
城壁を展開した満月さんたちにぶつかった敵はまるで城壁がこんにゃくになると元の形になるために反動で敵を纏めて吹き飛ばす。
「「「「うわぁあああ!?」」」」
吹っ飛んだ結果、後ろの味方も次々ぶつかり、落馬していく。この場合は落竜か。
「今だ!」
「見事な守りだな。掛かれ!」
「「「「おぉ!」」」」
フェルグス団長とガルーさんの部隊が襲い掛かった。これでもう敵の部隊はほぼ総崩れ状態だ。すると村からディートリヒが現れた。
「我が名はウィザードオーブ第三騎士団団長ディートリヒ! シグルドに一騎打ちを申し込む! 勝てばこの国から出て行って貰う!」
「その勝負受けて立とう。私が勝てば、ブリュンヒルデの妹たちを解放して貰うぞ」
「あぁ。約束しよう」
こうして二人の竜騎士の一騎打ちが始まる。前回はディートリヒが持つエッケザックスの巨人の加護に押されていたシグルドだが、今回は真逆の結果となっている。何せシグルドにも巨人の加護が与えられている上に剣の差が圧倒的過ぎた。
「く!? なんだ!? その剣は!」
「神剣グラムだ」
「神剣!? しかもグラムだと!? 馬鹿な! グラムは魔剣だったはずだ!」
「お前が知るグラムはそうだったな。しかし、よき持ち主の手に渡り、こうしてグラムは真の姿を取り戻したのだ!」
神剣グラムを一撃を受けたディートリヒは嫌な笑みを浮かべる。
「お前との一騎打ちは私の負けになるだろうが貴様らの命は私が頂く!」
村の中から一気に魔力が膨れ上がり、俺たちの周囲に魔方陣が描かれる。
「神杖技! ムスペルヘイム!」
「伝説解放! 魔法を打ち消せ! 魔槍技! ルーンアンガス!」
戦いを見守っていたディルムットが赤い槍を空に投げると周囲に展開された魔方陣が砕け散る。これがディルムットが持っているどんな魔法もきかない槍ゲイ・ジャルグ。このゲームでは俺が持っている魔術殺しの魔導書と同じ効果を持っている槍のようだ。
一騎打ちを見守るとどうしても部隊は立ち止まることになる。そうなると大魔法の格好の的だ。まだゴンドゥルが登場していないから負けてから狙ってくると思ったけど、まさかの一騎打ちの最中での攻撃だった。
しかし事前にディルムットには話をしたので、対応出来た。こうして攻撃を受けた以上は手加減無用だ。ウィザードオーブのプレイヤーたちが村に入り、ゴンドゥルに魔力を譲渡して、倒れている魔法使いたちと大魔法の使用で倒れているゴンドゥルを確保する。
「な!? 何をしている! ディルムット!」
「それは私がお前に言いたい言葉だな。ディートリヒ。第三騎士団団長ともあろう者が何をしているのだ?」
「黙れ! シグルド! どんな手段を使ってでも国に勝利をもたらすのが私の使命だ!」
どんなに汚い手段を使ってでも勝利をもぎ取りに行くことを俺は否定しない。ただそういうのは英雄ではなくそれをサポートする軍師が行うべきものだと思うけどね。するとディートリヒが最後の手段を使う。
「もはやここまで! しかし生き恥はさらさん! お前たちを一人でも多くヘルヘイムに送ってやろう! 悪魔のルーン!」
「やめろ! ディートリヒ! く!」
ディートリヒがエッケザックスまで取り込み変貌すると決闘フィールドが砕ける。かつてグズルーンが使用したルーンだ。
英雄邪竜ディートリヒ?
? ? ?
ディートリヒは悪魔の角に翼がある巨大な邪竜の姿となった。体中から禍々しい刃が生まれ、魔素が体中から噴き出している。
「力が…溢れる! 死ね…死ね死ね死ね! 死ねぇえええ!」
英雄の最後が死ねとしか言えなくなるとは悲しいものだ。ディートリヒから無数の刃と体中から死滅光線が放たれ、俺たちに襲い掛かって来るがブリュンヒルデさんが盾を構える。
「私の盾は愛する者しか壊すこと敵わず…スキャルドメール!」
光の盾が現れると刃は弾かれ、死滅光線は霧散する。
「シグルド!」
「あぁ。これ以上のお前の醜態は見てられない。これで終わりにさせて貰うぞ! ディートリヒ! 神剣グラム! 神剣解放!」
神剣グラム(神剣解放):レア度10 剣 品質S+
重さ:150 耐久値:5000 攻撃力:6000
効果:神剣技【シグ・ヴォルスング】、魔王殺し、竜殺し、人特攻(究)、全属性アップ(究)、魔力吸収、多乱刃、神聖属性ダメージ(究)、白熱刃、空振、爆風波、神波動、神障壁、暴風壁、後光、神気、英気、天言、時空切断、時空支配、無限のルーン、神威解放、巨人の加護、勝利の加護、王の加護、神の加護
英雄シグムントがオーディンの試練の果てに手に入れた常勝不敗の神剣。ノルン三女神の加護も宿っており、どんなものでも斬り裂く切れ味を誇る。魔剣グラムの力も受け継ぎ、シグムントが使っていた時よりも強くなっている。
神剣グラムから緑と青の光が放たれ、シグルドさんも同じく光を放つ。
「「「「あわわわわわ」」」」
俺から見ると綺麗な光景だけど、リリーたちには恐怖映像のようだ。
「戦友よ。安らかに眠れ。神剣技! シグ・ヴォルスング!」
緑と青の閃光が一瞬でディートリヒを包み込んだ。
「ぎゃあああああ!? シ、シグルドォオオオ!?」
ディートリヒは元の姿に戻り、倒れて動かなくなった。そんなディートリヒにシグルドが歩み寄る。
「私は…そうか。思い出したぞ…どうしても君にもう一度勝ちたくて…悪魔に」
「そうか…なら私もウィザードオーブに残っていれば君と同じ道を歩んだかも知れないな」
「それはどうだろうな。案外お前なら…はは。どうやら話す時間もないらしい。シグルド」
「なんだ?」
「この国を…頼…む」
そういうとディートリヒが消えた。それを見届けていた俺たちだったが村から悪魔に襲われているウィザードオーブのプレイヤーたちが現れる。俺と鉄心さんたちが悪魔を消し飛ばす。
「ライバルとの別れだ。少しは空気を読んでもらおうか」
「全くだな」
「わいらが相手したるわ」
「シグルドさんには手出しさせない!」
俺たちは悪魔を蹴散らし、無事に村を取り返したところでインフォが来た。
『アイリッシュ村を解放しました』
ここからは生産職の仕事でルインさんがテキパキ指示を出す。
他の皆はシグルドさんから渡されたディートリヒの剣エッケザックスを巡って、希望者でくじ引き中。片手剣だから希望者はかなり多い。俺は神剣グラムがあるからこれを辞退したわけだけど、その結果飛び出したことをリリーたちに怒られている。
「私たちに散々飛び出すなと言っていたのは誰ですか? タクトさん?」
「いや、あれは動かないとダメな所と言うか」
「そこを我慢するのが指揮官ではないんですか? タクト様」
セチアの指摘に何も言い返せない。ここでファリーダがとんでもない案を出す。
「こうなったら、全員の体をロープでくっつけたら、どうかしら?」
「「「「それだ!」」」」
「いや、それをするときっと俺たちはリリーに引っ張られて、とんでもないことになるぞ」
「「「「…却下で」」」」
全員がリリーに振り回される同じ光景を思い浮かべたんだろう。この案は却下された。別の所では捕虜として捕まえたワルキューレたちとブリュンヒルデさんがウィザードオーブのプレイヤーたちに見守られていた。
「女の子をロープで縛るとか悪魔の所業っす!」
「(こくこく)」
「あぁ…あのガントレットの拳でくらくらする~」
リサとフロストは完全に二人だけで殴り合いを続けており、少し前に決着した所だった。
「みんなして放置するなんてひっどーい!」
「星震を打ち合っている所にいつまでもいたら、危ないでしょ?」
「…うん。それに一騎打ちを望んだのはリサだよ」
「う…でも放置していいとは言っていないし」
ここで三人を調べていたブリュンヒルデさんが話す。
「どうやら悪魔の力を取り込んではいないようですね」
「そうなんですか? でも、それなら何で戦って…洗脳ですか?」
「えぇ。どうやら悪魔を入れることが出来なかったのでしょう。しかし戦力として使いたいから洗脳することにしたといったところだと思います。今から解除しますね」
「「「「お願いします!」」」」
ブリュンヒルデさんが洗脳を解除しようとするとスコグルたちが文句を言う。
「私らに何するつもりっすか! このおばさん!」
「動けない私たちに術を掛けるとか…これだから年は取りたくないよね」
「(こくこく)」
彼女たちは地雷を踏んだな。そして洗脳が解かれるとインフォが来る。
『スコグル、フロスト、ゴンドゥルが仲間に加わりました』
三人が目を開ける。
「ん…あれ? ブリュンヒルデお姉様」
「えぇ…お姉様ですよ。ちょっと三人とも、私と教会の中でお話をしましょうか?」
ブリュンヒルデさんの様子に三人は敏感に危険を察知する。
「へ? ちょっと待って欲しいっす! なんで怒っているんっすか!?」
「ていうかロープで縛られて逃げられないんだけど!?」
「…助けて」
無口のゴンドゥルの声にウィザードオーブのプレイヤーたちが動くがブリュンヒルデさんが笑顔に動きが止まる。
「これからワルキューレ同士で大事な話し合いをしてきますから失礼しますね」
「「「「…はい」」」」
その後、教会からワルキューレたちの悲鳴が暫く続くのだった。因みにエッケザックスはウィザードオーブの魔法双剣士の手に渡り、物凄く喜んでいた。




