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来夏(らいか)  作者: 三千
6/10

キミとトモダチ

「ふふ、本当に突然過ぎて、びっくりしたあ」


はなちゃんはそう言って、俺にコーヒーを淹れてくれた。一緒にミルクと砂糖も差し出してくれる。


「だって、桐谷さんが来るってことも信じられなかったしね。菅くんに聞いてはいたけど、驚いた」


華ちゃん、漢字間違えていない?、と思うだろう。けれど、この目の前にいる「はなちゃん」は、「華」の方だった。二人は双子で、本当にうり二つで、あまりの激似ぶりにこっちが慄く。


「本当に似てるね、っていうか名前も漢字は違うけど一緒だなんて。ご両親のセンスが凄いね」


「親はもう居ないけどね」


さらっと言ったので、え、と返すのが一瞬遅れてしまった。


「去年事故で死んじゃったの。で、この写真館が残った。営業はしてないけどね。私も花も、写真なんて撮れないから」


「でも俺、撮ってもらったよ」


「あれはあ、趣味趣味。で、写真やる人がいないから、ここを喫茶店にしちゃったってわけ」


喫茶店だったのか、どうりでテーブルとイスが写真館にしては多いはずだと、今にして思う。

名前は確か、めがね写真館。喫茶店とは思うまい。


「お客さんは少ないけどね。それより本当に桐谷さんだあ。写真撮っても良い?」


俺は苦笑し、花ちゃんの姉妹だし良いよ、と言った。いそいそとスマホを出して、顔を近づけて一緒になって撮る。


「花ちゃんは、」


華ちゃんは今撮った写真を保存しようとして、スマホを弄りながら言う。


「うん、今出掛けてる。ねえ、キスしたって本当?」


俺は色々に複雑な思いで、あああ、と頭を抱えたい気持ちになったけれど、


「俺が勝手に。悪いことをした」


それが反省の色に見えたのか、華ちゃんが気の毒そうな顔をしてから、言った。


「あはは、そんなの気にしなくて良いよ。花も嬉しいんじゃないかな」


「花ちゃんって、彼氏って、」


「いないよ、いつも作らないから」


俺は、ここでほっと胸を撫で下ろした。さっきの華ちゃんの件があって、少しビビっていたからだ。


「いつ、帰ってくるかな」


「そうだね、今日は十一時には戻ると思う。桐谷さん、良かったらそのまま、お昼ご飯食べていって。菅くんも呼んで良い?彼、この前桐谷さんに会った時も、すっげカッコ良かったって興奮してたからあ」


菅くんが華ちゃんの彼氏で良かった。心底そう思う。


「うん、ありがとう。お言葉に甘えます」


華ちゃんはよく喋る子だ。花ちゃんとは正反対。俺も花ちゃんより気兼ねなく話すことが出来ている。比べると、花ちゃんの方が地味で暗い印象。けれど、そんな事は俺にはどうでも良いことだ。俺は花ちゃんの方にやられちゃったんだからな。


コーヒーを啜りながら、再度頭の中でロールプレイングを繰り広げる。


まずは、この前キスした謝罪だろ。彼氏はいないって分かったから、それは省略。あとは東京に戻ってからも、連絡をしても良いか了承を取る。出来れば、俺にそのチャンスが巡ってきたら、付き合って欲しいと言う。


ごちゃごちゃと考えていると、ドアがカランと鳴って開いた。


「ただ、いま」


俺と眼が合い、その瞳が開かれる。俺は中腰で立ち上がり、花ちゃん、と声を掛けた。


「こ、この前はごめん。それが言いたくて、来たんだ」


「ううん、気にしてないから」


ぐるぐるのマフラーを解いていく。細い首、俺が近づこうとした時、


「花、早くこっち!」


華ちゃんの少し強めの言葉が投げられた。


俺の横をすいっと過ぎると、カウンターの中へ入り、二人で何かをやっている。カウンターの後ろには、多分シンクやら料理台があるはずだけれど。


花ちゃんの表情が少し歪む。眉根を寄せて、何かをじっと我慢しているようだ。


俺がカウンターに近づこうとすると、今まで伏せられていた花ちゃんの眼が開けられた。


「携帯、使い方教えて貰った」


ニコッと微笑む。俺がうん、と頷くと、


「先生に教えて貰ったの?またそんな事聞いてえ。私が教えてあげるって言ったじゃん。先生だって忙しいんだからダメだよ、そんな関係ないこと聞いちゃあ」


華ちゃんが冷蔵庫を開けて、何かの食材を取り出す。


「先生はあ、花に甘いんだからなあ」


その言葉。


(先生って、誰なのかな)


もうそれだけで、俺は「先生」の存在が気になって仕方が無い。けれど、彼氏はいないって言ってたし、それは確認済みだし。


花ちゃんもカウンターの裏で何かをやっているようだったので、俺は席に戻って座った。


「お昼ご飯、誘ったよ。桐谷さん、食べてってくれるって」


手をタオルで拭きながら、花ちゃんが頷く。


「そう、」


素っ気ない返事。やっぱりまだ怒っているのかな。


花ちゃんは、まだ下を見て、何かをやっている。カウンターの下で、コツコツと小さな音が聞こえてくる。俺はもうほんの一口しか残っていないコーヒーを口に流し込むと、カップを見つめた。迷惑だったのだろうか、先にメールで来ることを連絡した方が良かったのか。


すると、ポケットでブーブーとスマホが振動した。メールだ。けれど俺は、今はそれどころじゃない、そう思って無視した。


花ちゃんが顔を上げる。俺をじっと見つめている。俺も花ちゃんを見つめた。大体女の子というものは、俺がじっと見つめると、照れたような顔をして、ふいっと直ぐに顔を背けてしまうけど、花ちゃんはじっと見つめてくる。


俺を、じっと。好きになってくれたのだろうか、そんな風に自分に都合の良い解釈をしていて、はっと気付く。


ポケットからスマホを取り出して、見る。メール着信 、となっているではないか。再度花ちゃんを見る。すると、ニコッと笑ってから奥の部屋へと入ってしまった。


俺は少しどきどきしながら、メールを開いた。


これで ともだちに なれるね


そうなんだよ、俺が友達になって欲しいと言ったんだ。

俺はこの辿々しいメールを見て、がっくりと肩を落とすと、返信のタグをタップして文章を打ち入れた。


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