4 取引?
忙しくて遅れてしまいました、すみません。
「取引……?」
セツィーリアは頷く。
「君は復讐したいのでしょ? ……でもさ、それはボクだって、同じ気持ち」
セツィーリアの銀の瞳の奥に、炎が燃え盛っている。私に宿る、憎しみと同じものがそこにあった。
「父様は、殺された。残る唯一の身内であるリーチェ姉様は、魔力を感じられないほど弱っているか死んでいるか……。魔王だから、魔族だから。何もしていないのに、それだけの理由で! すべてを奪われたの!! ……それをした人間共を許しておくつもりは毛頭ないよ」
だから、復讐に協力させろ。そういう事か。
「ぜっっったい、嫌。大体、あいつらは私の獲物。誰か譲るもんか」
私の返答に、セツィーリアは目を細める。何か思うところでもあるのか。
「あのさあ。為す術なく君はいたぶられたワケでしょ。そのまま復讐しに行ったって、どう考えても返り討ちにあうよ」
私は言葉に詰まった。実際、彼女の言う通りなのだ。私ができることと言えば、光属性魔法の治癒と浄化に関わるものくらいだ。魔石と素材があれば魔道具も一応作れるが、攻撃に適したものは教わっていない。つまり、復讐の役には立たない。
セツィーリアは言葉を続ける。
「この辺りは魔物も人間の国なんて比じゃないくらいうろついてるし、君なんてあっという間に襲われちゃうよ? その点、ボクは魔王の血筋だから、ある程度は制御できる。あと、ボクも力はつけたいんだ。どう? 利害、一致してない?」
私は顔をしかめた。理屈の上ではそうした方が良いのだろう。頭では分かる。しかし、理屈と感情は違うのだ。
雰囲気で理屈では突破できないと踏んだのだろうか。セツィーリアは、上目遣いでこちらをじっと見つめてくる。
「……嫌だって」
「えー? お願いお願〜い、ねっ?」
今度はおねだり攻撃をしてきた。
その一連の行動が、故郷にいる妹を思い出させた。四つ年下で妹なのに私よりしっかりしていて。石頭で、理屈っぽい。でも、末っ子らしく甘え上手で、ちゃっかりしてたりする。要領が良くて、頭もいい、自慢の妹。
一度、似ていると思うと、もうダメだった。セツィーリアと妹が、どうしても重なってしまう。だからか、気づけば頷いていた。
「おや。いいの? もっと渋ると、思ってた」
「……妹に、似てるせいっ……! そんなの、ずるいよ……」
残った右目から涙がこぼれる。妹に会いたい。たわいない会話をしたい。今までの事が、すべて夢なら良かったのに……!
「え、ちょっ……! 泣かないでよ、年下なかせるとか……!」
「え」
何か今。衝撃的な事を言わなかっただろうか? 驚いて、涙も引っ込んだ。年下? 私が? セツィーリアよりも? つまり、セツィーリアは年上……!?
「ええええぇぇぇっ!?」
嘘でしょう!? こんな幼い見た目の癖して!? 私の頭の中は大パニックである。
彼女の説明によると、もうすぐ百歳らしい。魔族は、人間の十分の一の、早さで歳を取るのだそう。寿命は九百から千くらい。精神面は五分の一程の早さで成長すると言われているらしく、ほぼ私と大差ないと思っている、と言った。それでも、年下を泣かせたというのはキツいようだ。
「しっかりしてるの、納得した……。理屈っぽいのら年寄りだから……?」
「魔族の中じゃまだ子どもだよ!! 年寄り扱いしないでくれる!?」
閑話休題。
なんだかんだで、私とセツィーリアは共に復讐をする事になった。
「改めて、自己紹介しようよ」
そう言えば、セツィーリアは名乗ったけど、私はしてない……!それどころじゃなかった状況ではあった。しかし、セツィーリアはきちんと名乗ったのだ。そんな相手に名乗り返さないのは失礼だろう。だから、私から自己紹介させてもらう事になった。
「私は、吉野真奈。この世界だと、マナ・ヨシノ。十九歳。よろしく」
「ボクも改めて。セツィーリア・ジィヤボール。リアって呼んでいいよ。百歳だけど年寄りじゃないから! よろしくね、マーニャ」
マーニャ? マナという名前はこの地域だとそう聞こえるのだろうか? そう思い、訂正して、正しく発音させようとした。しかし、いくら繰り返しても改善しない。仕方がないので諦める。どうせなら、弱くて甘い自分と共に名前も捨ててしまえ。
「……リア。これでいい?」
恐る恐る、彼女の略称を口にする。
セツィーリアーーーーリアは、頬をほころばせ、頷いた。
きゅっと手を握り合う。リアの手はあたたかかった。今まで、あいつらに言われた事を鵜呑みにして、魔族は化け物と思い込んでいた。でも、そんな事はなかった。普通に、同じ感情を持つ、生き物だ。
リアは復讐の共犯者。復讐を遂げるまで、彼女が裏切らない事を願う。
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