3 邂逅
先週バタバタしてて更新できませんでした……すみません。
懸念していた『神々の愛娘』の証である瞳の色を変えていただけた……それは、コソコソ隠れて行動する必要がなくなった事を意味する。
私がいる魔王城の最奥の間を改めて見回すと、玉座の、真後ろに扉があった。
「……何あれ」
扉の奥にあるのは何なのだろうか? 魔王が持つ財産? 禍々しい魔道具の山?
私は興味を引かれた。もし何かあっても裏切り以上酷い目にはそうそう遭わないだろう。それに、復讐の役に立つものがあるかもしれない。そう思い、重厚感のある扉に歩み寄った。
意を決して開けた扉の向こう側。そこには、十歳くらいの見た目をした、少女がいた。
黒に見紛う程濃い紫の髪は長く、緩く二つに結われている。髪と同色のまつげも長く、たれ目がちな銀の瞳は大きい。小さくすっと通った鼻筋、形の良い唇、顔を構成するすべてが黄金比で配置されている。身に纏うドレスは質がいい事がひと目でわかる代物だ。しかし、彼女の両手足に嵌められている無骨な枷、枷と鎖でつながれている重りだけが、異様な存在感を放っていた。
少女は緩慢な動きでこちらを見た。そして、はっと目を見張ると、枷と重りを感じさせない軽い動きで私の方へ駆け寄ってくる。
何故か、魔王城の最奥である場所に、隠されるようにいた少女。種族は何なのか、そもそも生き物なのかさえ分からない、得体の知れない存在。
何故軽率に行動を起こしたのだろうか。私は扉を開けた事を後悔した。
そんな、力が未知数である相手が駆け寄ってきた。私は思わず身構える。
謎の少女は、私をじっと見つめて言った。
「君、座って」
少女の脇に現れたブラックホールに手を突っ込みながら、である。そこから、椅子が少女によって取り出される。
「…………、…………はあ!?」
「え? だから座ってって」
「いやいやいや、この椅子どこから出した!?」
「……? アイテムボックスだけど」
「……えっと?」
「うん。で、座ってくれない?」
何がうん、なのか。しかし、いろいろと私のキャパシティを超えている。今はひとまず考える事を放棄した。
少女にいわれるままに座る。そして、彼女曰く“アイテムボックス”らしいブラックホールから、今度は包帯を取り出す。
アイテムボックスというのは、普通、冒険者用に売られているポーチの形状をした道具を指す。だから、少女のやっている事はいろいろと規格外なのである。
少女は。傷の多さと、手当が中途半端である事にぶつぶつと文句をこぼす。だけれども、手際良く包帯を巻いていく。
「随分、慣れてるなあ」
ぽつりとつぶやくと、少女は何故か寂しげに目を伏せた。
体全体に傷を負っていたため、素肌が露出している箇所が極端に少なくなった。一番重症だった右目は、頭部のかすり傷と共に眼帯にするかのように、ぐるぐる巻かれた。結果、まるでミイラのような有様である。
「……ところで、君は何者かな? 魔族とは魔力の質が違うし、特徴と言える特徴もない。となると……人間?」
「その通り、だね。……魔王を倒したのは、仲間だった奴だし」
そう言うと、少女は息を呑む。震えた声で、私に尋ねる。
「……、父様を、殺したの、は……君なの……?」
その問いで、彼女が魔王の娘であると知った。
少女は更に言葉を連ねる。
「……リーチェ姉様は……? もういないの……? 君がここにいるって事は……、そうなの……?」
「……一部を除けば、間違ってない……っ!?」
言い終わる寸前、思わず身を引くと、わたしのいた場所を刃が一閃した。少女が剣を振るったのだ。
瞳を怒りの色に染め、少女は私を睨む。
「じゃあ、傷だらけなのは父様と戦ったから」
「それは違う」
断定されそうになり、遮るように否定する。
復讐の誓いを勝手に戦いの勲章にしないでほしい。虫唾が走る。
「この傷は、仲間だったクズ共に、殺されかけた時のモノ。私は、復讐するって誓った。……だから、あんたに殺される訳にはいかないの……!!」
私は思い切り、睨み返す。
「大体、ここにいたあんたは何者なの」
誰何の声をあげると、少女は名乗った。
「ボクは、今代魔王が第二子、セツィーリア・ジィヤボール。勝手に入ってきた癖に、偉そうだね」
少女ーーーーセツィーリアの冷たい目と私の隻眼が交差する。先に目をそらしたのは、私だった。
「……それは、悪かったけど……。出ていけばいいんでしょ、さよなら」
「ちょっと待ちなよ」
私は顔をしかめて、首だけ振り向いた。いきなり傷の手当をしてきたり、殺そうとしてきたり……。このセツィーリアという少女の行動は予測ができない。
一方、セツィーリアはというと、例のアイテムボックスから、机と椅子を出している。私と向かい合うように座って、言った。
「……取引しない?」
とうとうセツィーリア登場です。
読んでいただきありがとうございます。