表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2 脱殻

思った以上の方が読んでくださっているようで嬉しいです、ありがとうございます!

一週間に1回くらいの頻度で更新していきたいと思ってます、よろしくお願いします。

『今、癒してあげるわ。愛しい子』


 そう聞こえたと同時に、仄白い光が集まってくる。


 声の主は、旅の道中に、数え切れないくらい力を貸していただいた光を司る神、イシック様だ。神の名を呼ぶ事を、『神々の愛娘』は特別に許されている。


 嫌だ! 反射的に私はそれを拒否した。何故なのか。自問自答すると、すぐ答えは見つかった。


『嫌なの? 愛しい子、このままじゃ死んじゃうのよ?』


 死にたいわけがない。復讐がすべて終わるその時まで、死んでなどやるものか!! 私は、傷痕が綺麗さっぱりなくなってしまうのが嫌なのだ。この黒く燃え上がる感情をこの身に刻み、この屈辱を何倍にもして返すまで、忘れないために! 復讐を誓った証明として!


『あなたの我がままはとても珍しいし、叶えてあげたいけれど……。あれも嫌、これも嫌。そう言われちゃったら、(わたくし)、何も出来ないわ、愛しい子』


 イシック様は、困ったように(こと)()を響かせる。


 それならば、焼けて爛れた喉だけを、癒してくださいませんか。せっかくのイシック様の厚意を、無下にするつもりはありません。この願いを聞いてください。他の傷は、私自身が対処したいのです。


 声が出せないため、心の中で願った。


 すると、仄白い光は喉だけを正確に照らし、ずっと主張し続けていた痛みは、あっという間に引いていく。


「……ありがとう、ございます。……【治癒】(ヒール)


 久しぶりに、自分の声を聞いた気がした。長いこと、話せなかったかのように。実際は、裏切りからそんなに経っていない。


 私は、受けた傷の一つひとつに【治癒】(ヒール)をかけていった。傷はまだ完全には塞がらず、痛々しさが残る。


 【治癒】(ヒール)は、光属性の下級魔法である。本来は軽傷に使う魔法で、今の私にある重症の傷に使っても、血が止まる程度の効果しかない。しかし、それでいい。使用する魔力量も少なく、傷痕を残したまま、かつ生きる最低限の処置をするには、うってつけの魔法だ。


『それで、いいの?』


 おそらくイシック様は、復讐をすると決めた事、下級魔法の【治癒】(ヒール)で体全体に及ぶ傷の処置を済ませた事、両方を尋ねていらっしゃるのだと思う。


 私の、答えは、決まっている。


「いいのです。それと」


 仄白い光の球体。光を司る神であらせられる、イシック様の、仮初めの姿を見据え、私はこう言った。


「私は、もう、神々に力を借りる事は、致しません」


 これまで裏切った奴らの言うままに、世界を救うためという定義を掲げ、神々の力を、人間の都合の良いように使ってきた。今思えば、しなくてもよかった事ーーーー例えば、“勇者”、“賢者”、“剣聖”という職を、生業の神、ヤセイッス・セナイッシ様の力を借りて与えたーーーーまで行っていたのは、恥ずかしい限りだ。挙句の果てに、利用され尽くされて、捨てられた。これほどまでに愚かな『神々の愛娘』は探しても私だけに違いない。


「私は今後、復讐のためだけに生きます。“聖女”の職も返上させていただきます。私個人の、勝手な理由で神々の力を借りよう、なんて、傲慢以外の何物でもありません。ここにいらっしゃらない数多(あまた)の神々に、神々の力を今後一切借りない、という事を伝えていただきたい。これが、私の最後の願いです」


 いつまでも、温かな(まゆ)にくるまって、さなぎの中に閉じこもるーーーーそれでは駄目なのだ。


 言い切った私に、イシック様はぽつりと言葉をこぼされた。


『愛しい子、裏切りがあなたを変えたのかしら。さっきも言ったけれど、私達は、あなたのためなら、どんな理由であれど、いくらでも力を貸したいと思うのに』


 私は、笑顔を浮かべた。できるだけ、綺麗に見えるように。でも、綺麗に笑えているかは、分からない。


「そう思っていただけて、幸せです。……しかし、人は変わっていく生き物なのです。……私が変わるのは残念ですか?」


 その問いに答えたのは、イシック様ではなかった。


『そうだな……。人に、世界に干渉し過ぎれば、世界の均衡が崩れ、滅びてしまう。故に、手が出せなかった。済まない、許せ』


 壮年の男性の声。聞いた事はないはずなのに、私は、その神様の名が分かった。


「始まりの神、八百万の神々の父ーーーーバスランギック様……」


『いかにも。……愛し子よ、そなたの願い、聞き届けよう。脱殻の時が、来たのだろうよ。そして、一つ。最後に贈り物(ギフト)を与える。残った左目は、何色が良いのだ?』


 金の瞳は、『神々の愛娘』である限り、変わらないのだと思っていたのだけれど、違うのか? それとも『神々の愛娘』である事をやめられる?


『愛し子、そなたの事を我をはじめ、すべての神が愛しく思うのは変わらぬよ。永遠に』


 悩んだ末、クズ共と被らない、紫を選ぶ。感謝を捧げ、二柱の神々の気配が完全になくなるまで、頭を垂れ続けた。


「私なんかを、愛してくださってありがとうございます……」


 紫に変化しただろう左目から、涙が一筋伝った。


読んでくださってありがとうございます。


〇主人公を裏切った人たちの小設定


・テトル王国第三王子アレクシス

金髪、蒼の瞳。外見は優しい王子様そのもの。王太子になりたい。


・マリアンヌ・フォン・カストリア公爵令嬢

ストロベリーブロンド、エメラルドグリーンの瞳。淑女の鏡と言われている。アレクシスが好き。


・レオン・フォン・ウォルター辺境伯子息

白髪、赤い瞳のアルビノ。アルビノを初めて恐れず話しかけ、側近にしてくれたアレクシスを盲信している。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ