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三話 ご令嬢×ロボット=大暴走

 具体的にロボットの操縦というものがどういうものなのかは、実際にやってみないとわからないことだった。

 ロボットのパイロット、この世界においては騎士という名で呼ばれるが、それになる為には当然覚えなければいけないものだ。

 それゆえに、ノーザはまだ自分が幼く、そしてお転婆娘であるという評判を盾に、真夜中にこっそりと屋敷のすぐそばに併設されたハイメタルガーデン専用の格納庫へと忍び込んでいた。


 それは、アイランディ家が所有し、兄であるジークが駆る愛機だった。ストーレンと呼ばれる機体だった。見た目はあまりかっこいいものではない。この世界においてはどういう理由でそのような作りになったのかは知らないが、ノーザの前世の記憶、つまりはゲームでの設定では『量産型』だからというなんともな理由だった。


 ストーレンは全体的にずんぐりとしていて、丸みを帯びているのが特徴的だった。というより、基本的に丸いパーツが合わさったような見た目をしているのだ。肩から手までを構築するのは丸、股下から爪先にかけても丸、胴体は若干間延びした長丸の形状。それならそれでもっとデザインの幅はあるだろうと突っ込みたくなるが、ともかくストーレンは丸かった。


「相変わらずぶっさいくねぇ……」


 ロボットは見た目が重要だ。純粋にかっこよさを求めるのか、はたまたダサいと言われつつもそこに無骨さを見出すのかによる違いはあるが、このストーレンのデザインは手抜きと言い様がない。

 一番腹が立つのは頭部の顔だ。つるりとした団子型の頭、その中央に意味もなくはいった十字のスリット、そこにモノアイセンサーでもあるかと思えばそうではなく、四つに分けられた隙間に取り敢えず開けられたような穴、これがカメラアイだ。

 これは酷い。十字スリット内部でモノアイがぐりぐり動くのであれば、まだ無骨さなりマシーンっぽさは演出も出来ただろうに。


「これで王様を護衛する近衛師団の正式採用機って嘘でしょ。もっと頑張れよデザイナー」


 しかし、これは我慢だ。

 ストーレンはその後、旧式となり、一般兵士用のやられメカとして格下げされる。その後、一体全体どういう技術革新があったのかは知らないが、ハイメタルガーデンのデザインが何とも今風なものへと変化していく。

 角ばった装甲に細い手足と腰といった具合だ。とはいえ、それは本編開始時間になるまでは出てこない。今はまだ絶賛開発途中だろう。

 だから、ぶさいくなロボットで我慢するしかなかった。


「コクピットは確か背中から乗るはず……」


 ノーザは誰もいない格納庫内部、機体を安置するハンガーに設置された階段を上った。警備するものがいないのは何とも不用心だ。いくら、領地内だからといって、これはどうなんだ。


「ま、そのおかげで忍び込めるんだけどねぇ……さて……開閉装置は、と」


 この日の為にノーザは兄にせがんだりしてハイメタルガーデンの事を聞いたり、書籍を漁っては色々と調べておいた。それだけで操縦方法が理解できるわけはないのだが、ノーザとしてはつい、我慢できなくなったのだ。

 夢にまで見たロボット、その実物がすぐ近くにある。むしろよく我慢した方だと自分をほめてあげたいくらいだ。


 ストーレンの背部を操作し、これまた円形状のハッチが開閉する。ノーザはするりとそこに入り込むと、一瞬にして広がる機械の光景にハッとなった。

 今は光を帯びておらず、透明なままのメインモニター。それはガラスではなくクリスタルだった。それを薄く切り出し、ガラスの代わりにしているのだ。そのすぐ横にはメモリが刻まれた計器類、むき出しのチューブやパイプがどこかレトロな雰囲気を醸し出す。


 そして、なんと言っても操縦桿だ。スティックタイプではなく、籠手の中に腕を入れるタイプだった。規格は大人用故にまだ小柄なノーザでは精いっぱいに腕を伸ばしてやっと届くかどうかのものだった。

 内部の構造はわからないが、何か握るものがあり、それぞれが五本の指で引くことができるようだ。

 本来ならゆったりと腰を掛けられるはずの座席には乗れない。立つ形となる。

 だが、それで機体の脚部分を動かすフットペダルに届いた。メインモニターもまぁ見れないことはないぐらいだ。


「へぇ、可動範囲は結構あるのね」


 動力が入っていない為に機体は動かないが、操縦桿やフットペダルはある程度の稼働を許していた。脚の動作はさておき、腕を動かす操縦桿はかなり自由度の高い範囲だ。


「とはいえ、流石に車と同じってわけにはいかないわね……そもそもギアとかあるのかしらこれ」


 ハンドル操作だけで動くロボットなんてアニメの中だけだ。自分はゲームの世界にいるのだけれど。


「右側のフットペダルで前進、左がブレーキ……のはずよね。ガーデンは魔力で多少の駆動はオートでしてくれるみたいだけど、どのぐらいまでやってくれるんだ?」


 この世界にはファンタジーの肝でもある魔法の存在がある。当然、火を出したり、水を出したり、風を操ることも可能だ。特に戦いの場においてはこの魔法はかなり重要となる……という設定のはずだが、ゲームの方では肝心の戦闘シーンが端折られてるせいで、よくわからない。大量の術者をつかって天候を操作したり、それを防ぐとかをやっていたらしいが、結局その部分を細かく描写されることはなかった。


「絶対、思い付きよねあれ……」


 そんなゲームの感想はさておき、ノーザはそろそろコクピットから出ておかないとマズイと考えた。真夜中だし、緊急でもなければ自分の部屋に入り込んでくるものはいないが、それでも用心に越したことはない。

 ばれてもお転婆娘のいたずらということで処理されるだろうが、それはそれで面倒臭いことになる。ばれない方がいいに決まっているのだ。


「よい、っしょ……と!」


 操縦桿から手を引き抜こうとした瞬間であった。


「うわ!」


 ノーザは自分の体が小さいことを自覚はしていたが、感覚として慣れていなかった。大人だった頃の前世の勢いのまま体を動かした瞬間、大きくバランスを崩してしまったのだ。

 座席のクッションのおかげで大して体に痛みはなかったが、その際に足だか腕をコクピットのどこかにぶつけてしまったようだった。


 その瞬間、ぼぅっとコクピットに光が灯る。次いで、細かな振動音……ハイメタルガーデンの動力が駆動したという証拠だ。


「えぇ! なんでよ!」


 どこだ、どこに起動装置があるんだ!

 ノーザは小刻みに震えるコクピットの中で焦った。きょろきょろと周りを見渡してみても、どれがどのボタン、スイッチなのかさっぱりわからない。こういう時、あちこち適当に押してしまうのは危険だ。

 だが、止めないいけないのも事実だ。


「えーと、えーと……おぉ!?」


 焦りは無意識のうちにノーザの体を突き動かしていた。立ち上がろうとした瞬間、ノーザは足を滑らせた。不注意だった。

 問題なのはその勢いで、前進用のフットペダルを勢いよく押し込んでしまったのだった。

 固定用のハンガー、昇降用の階段を引きちぎり、崩しながら、ストーレンの巨体が大きく前進する。勢いよく押し込まれる形となったフットペダルに合わせるように、ストーレンは歩行ではなく、走行を始めたのだ。

 力加減もなく踏み出された足が床を踏み抜き、そのまま突き進む。


「や、やっば~」


 唖然とするノーザ。そんな彼女のことなど無視するようにストーレンは遂に格納庫の扉を打ち破り、とうとう外にまで出てしまう。

 既に物音で屋敷の者たちも目が覚めていたのか、使用人たちが何事かという風に窓からこちらを覗いているのがクリスタルモニターから見えた。

 そして使用人たちをかき分けるように父と母、そして兄が血相を変えてやってくる。

 全員が、目を見開き、驚愕の顔を浮かべていた。


「と、とにかく止めないとぉぉぉぉ!」


 その時のノーザは気が付いていなかった。

 スピーカーの機能がオンになっていること、自分の叫び声が盛大に漏れていることに。

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