旅人
ナコト・ドッカー…日本人男性。研究家。紅茶を飲まないとやる気が起きない。
本部長…日本人男性。アクション映画が好き。
日本人なのに名前が日本人では無いのはこいつらが偽名だから。
偽名と言うより、そう名乗っている。
ドッカーは、いつも通り小屋に篭って
操作盤のようなものを凝視しながら
紅茶をぬくぬくと啜っていた。
小屋は大体3・4畳前後の、
コンテナより小さな木造の建物だ。
木の良い香りがする。
埠頭に並んだ研究施設には似合わない。
おそらく趣味でこしらえたのだろう。
そこに、受信機のベルが煩く鳴り響いた。
「あぁうるさいなあ」
「こちらドッカー。用件はなんです?」
出たのは本部長だった。
「よく聞け。日本支部が何者かに爆破されたらしい。」
「爆破ぁ?誰がそんなことするんですかぁ全くもう」
「多数の死傷者が出たんだぞ
生き残りは3人のみだ」
「え?嘘…誰です?それ」
「日本支部長の津田とオペレーターの清水と
お前んとこの杉浦だ。」
杉浦は、何も持たなくて廃人のようだったドッカーを拾った、恩人だった。
「良かったなあ…で?」
「本部に奴らが来るらしいよ」
「本部長…どうせあんたが命令したんでしょ?違いますか?」
「バレたかぁ…」
「嫌だなあ…清水に紅茶全部飲まれちゃう」
「てめぇドッカー…金儲けたクセに呑気だなぁ」
「まあいいや、俺はA棟にいる」
「僕は小屋で寝てます」
「あんまり外の空気吸わねぇと肺炎になっちまうぞ!ハッハッハ」
「たまには外で昼寝も良いなあ…」
「風邪引くぞ。じゃあな」
ピッと電子音が鳴った。
その頃清水達は…
「警察が全くいないのが逆に怖いですね…」
「まだ朝10時だよ しかも神奈川の山奥だ」
「昨日あんだけ食べたんだから朝飯はいらねぇだろ」
「また太っちゃうなあ」
タクシーを見つけた。
清水が真っ先に手を上げた。
一行の前で止まると、ドアが開いた。
「どちらまで?」
「ええ…羽田空港まで」
「分かりました。」
「おい津田、料金どうすんだ」
「あの金庫の金使うんだよ
本部長が言ってたんだけどさ、
俺らにくれるらしいぞ」
「本当ですか!?」
「金に目が無いなぁ」
「パスポートはもう取ってある。
心配しなくて良いぞ」
「用意早いねぇ津田くん」
「おちょくってんのか!」
「まあまあ」
そう話していた一行の所に、着信音が鳴った。
おそらくメールだろう。
「多分俺だ。」
津田がスマートフォンを取りだし、
メールを見た。
「え…」
「from:docker
to:tsuda
GPSで居場所を把握しました。
逆五角形が彫られた
黒いUSBメモリーがありませんでした?
中身は見ないで下さい。
もしも見たのなら、
確認のため内容を教えて下さい。
もしも無いのなら、
今すぐに日本支部に戻り、
金庫の中にある
USBメモリーを取ってきて下さい。
そして、このメールは
見たらすぐに削除して下さい。」
「どういう事だ…」
「津田、そのメール俺にも見してくれ」
「このUSBは機密事項っぽいな。」
「何故空なんです?しかも鍵もかかっていませんでしたし」
「隠しファイルか…もしくは誰かに
消されたのか持ち去られたか……
それか…」
「なんだよ」
「一番検討がつくのが…
このUSB自体の存在が機密事項なのか」
「うわぁ…確かにありえる話だな。
そのメール消しとけ」
「分かった。」
清水と杉浦はすっかり爆睡していた。
「ええ…と
到着です」
「ありがとうございます」
「料金は12400円です」
「ああすみません…小銭が無くて…」
「いえ、良いですよ」
「お釣りは600円です」
ありがとうございます、と言われた。
ドアが開いたのに気づいたのか、
杉浦が起きて、清水を起こした。
津田は頭を抱えている。
「どうしたんですか?そんなに悩んで」
「いや…荷物検査の時にさ
こんな大金があったらどうよ」
「そりゃあ怪しまれますね」
「だからって手荷物として
持ち運ぶ訳にはいかんだろ」
「大丈夫だよそれくらい
チキンか!」
一行は改札機をくぐった。
ベンチに座っている黒いコートを着た女性が、
杉浦を睨んだ。
「あの人…どっかで見たことあるような」
「誰だってそんなことあるって」
「ノルウェー着の便がもうすぐ来ますよ」
「大丈夫だろうな」
「行くぞ」
「大丈夫かなぁ…あの人達」
ドッカーは、小屋の窓際の机で、
庭先を眺めながら頭を抱えていた。