始まり
津田…男性。清水と仲が良さげだが、清水の上司というわけでは無い。
清水…この部では主人公。女性。
杉浦…男性。結構歳がいっていると思われる
薄暗かった。
そこには瓦礫と壁、割れた天井が見え、
天井に空いた穴から青い空が見えた。
穴から差し込む光が眩しい。
それまでの記憶が蘇った。
爆発だ…
事が起きたのは昨晩だった。
いきなり1階から悲鳴が聞こえた。
それから床の下にある1階で爆発が起きた。
私は慌てて
崩れ落ちる床から逃れようとするも、
無理だったみたいだ。
瓦礫の中から男が出てきた。
男は周囲の状況を確認して、階段の方へと歩いて行った。
私は何故か付いて行った。
一人でいるのが不安だったのか。
男は非常階段で2階に上がり、
テレビのチューナーのような機械の電源を入れた。
男はヘッドホンを取った。
それからケーブルをアンテナに繋ぎ、
大きなホッチキスのような機械を何度も往復させた。
「ピピーッ ピピーピーッ」
モールス信号だろうか。
電子音が鳴り響いていた。
「こちらは日本支部です」
声でその男は津田だと分かった。
私の上司ではないが、よくつるんでいた。
私は女だが、よく彼と一緒にラーメン屋で世間話をしていた。世間話が好きだったのだ。
津田の会話は終わったようだ。
「津田さん大丈夫ですか?」
「おお清水!生きてたのか!」
「昨晩、一体何があったのか教えて下さい」
「それを今本部に聞いたら本部長が出てね」
「『残念だが、それは説明出来ない』って言われた」
「何なんですかね…」
「あいつの事だからなんかあるんだろう」
「何だか不安ですね」
「取り合えず生き残った奴全員で本部に来いってさ」
「資金の方は?」
「資金より人だろう」
「資金を確保しないと不安なんです」
「そこにごっつい金庫あるだろ?」
津田が指さした先に、黒い鉄メッキの箱があった。日光で黒光りしていて、眩しい。
「ええと…鍵は?」
「俺の机は瓦礫の中だ」
「男女一人じゃ厳しいですよ…これは」
その時、何かが動いた。
瓦礫の中から、音がした。
「キンッキンッ」
男の声も。
「こっちだよぉ!」
顔を出していたのは杉浦だった。
瓦礫の下敷きになり、動けない様子だ。
津田が杉浦の上の瓦礫の下に入り、
重いそれを持ち上げた。
「ふぅ」
「おぉ!ありがとう…死ぬかと思ったよ」
「怪我は?」
「すまん…尾てい骨とか仙骨の辺りをやっちまって…」
「動けるなら骨折は無いだろう」
「だが一応たすきで固定しておく」
「おお…ありがとう」
杉浦は、辺りを見回した。
「なんだ…?」
私は答えた。
「昨日…爆発があったみたいなんです」
「なんでだ…」
津田が低い声で言った。
「他の奴ら……ダメだった…」
「そうか…クソッ……小澤…」
小澤──杉浦の部下だ。杉浦が一番信頼していたらしい。
「ダメだ金庫開かねえ…」
「おい津田、ドライバーで金具んとこ押さえろ」
「んで清水、ぶっ叩け」
私は椅子でドライバーを叩いた。
そして津田は金庫の中身を
全部袋に入れたあと、
驚いた顔をした。
「なんだこれ……」
「なんだそれ?USB?」
「見てみましょうよ」
「機密だったらどうする」
「まあ津田、そこは3人の秘密ってことで」
清水は瓦礫をどかし、
パソコンが破壊されていないことを
確認すると、
電源を入れ、小さなそれを挿した。
「何も入ってませんよ」
「え?」
津田は低い声で言った。
「このUSBに彫られた変な紋章見ろ…」
「ドッカーさんの紋…ですね」
「って事はそれドッカーの奴じゃねえのか?」
「なんでここにあるんだよ」
ドッカー…この物語の主人公であり、
これから起こる世界を賭けた戦争の一番の被害者だろう。
だがそんなこと、私達はまだ知らない。
「返しに行くのも含めて戻ろうぜ
本部によ」
「あの離島に行くのか?」
「離島じゃなくて埠頭だ」
「嫌だなあ…あそこ寒いじゃないですか
なんたって誰がノルウェー海上に作ったんだか」
「準備できたよな、行くぞ」
私達は、瓦礫の塊を後にした。