球は弾より強し
ちょうど、ヴォルフがミラーレオとの和解を果たした頃
グランファミリー管轄
世界最大のカジノ ホープにて
VIPブロアに賊が押し入っていた
「全員、動くな!」
男たちは、剣や銃を構え、そこにいる金持ちたちを脅すが、
客たちは一切、動じることなく笑い声すらフロアに響く
「さぁ、レイン・ルイン様のショーの始まりです」
挙句、そんなマイクの声と共に、賊の一人の胸にぽっかりと穴が空いた
「え…?」
かろうじて見えたのは、高速の銀色の線が男を貫くと、穴が空いたことだけ
賊たちは銀色の線が飛んできた方向を見る
そこには、
全身を黒と緑のストライプのスーツに包んだ不気味な男
年は三十過ぎだというのに、青年のような見た目
上がりすぎた口角は、まるで悪魔のような男
男は視線が集まったのを確認すると
これまた黒と緑のシルクハットを投げ捨て、丁寧に頭を下げる
「どうも
僕、レイン・ルインっていいます
どうぞよろしく」
男は奇抜な見た目とは裏腹に、真面目そうな挨拶をする
「撃てぇ!」
男たちは彼を視認してすぐに、銃を向けた
しかしレインはゆらりゆらりと揺れて弾を躱し、
流れ弾が他の客に当たりそうになれば、手に持っているフォークやナイフを投げて弾いてすらいる
そして、やがて、弾はなくなり、賊たちは剣を持つ
「かかれぇ!」
賊たちは連携は取れているようで、綺麗な列を作りレイン・ルインへと押し寄せる
レインは賊たちに近くにあったナイフを一本投げつける
ナイフは賊たちに一列まるごと穴を開け、壁すら突き抜ける
まるで、ナイフは銀色の線のようである
「今だっ!」
賊の頭領は、単身突っ込む
というのも、ついにレインの周りには一切の投げるものがなくなっていたからである
「うおぉおおお!」
「ごめんなさい
僕、弾切れってないんですよ」
レインはおもむろに宙で投げる素振りを見せる
当然、その手には何も握られていないが、何かを握っているように手のひらを広げ、指を曲げている
―嫌な予感がした
それを裏付けるように、風が異常な流れになるのを感じた
俺も賊として長い だから勘は鋭い方だ
とっさに、足を止めて、剣で守った
―でも無駄だった
轟音と共に
賊の頭の腹には、剣すらも突き抜けて、穴があいていた
さらに体中にかすり傷のような線が無数についている
「なんだよ、あれ 一体なに投げたんだよ!?」
残った手下たちは意味もわからず逃げ始める
「レイン様相手に逃げるなど、愚の骨頂 …雑魚では大したショーにならんな」
「当然でしょ 時雨先輩 あんなの見せられたら、そりゃあ慌てますって
大体、あの人がおかしいんすよ
『空気』を掴めるなんざぁ、人間のできることじゃないですよ」
「口を慎め ゴール
そろそろショーも終わる 司会に戻れ」
「へいへい」
レイン・ルイン直属幹部 時雨は短い黒髪であり、きっちりとダークスーツを着ている
同じく、ゴールは金色のネクタイに、着崩したスーツ
二人の服装はそれぞれの性格を反映するかのようである
「皆様、レイン様に拍手を」
ゴールが最後にマイクにそう告げると
VIPフロアは大歓声と拍手の渦に包まれた
「お疲れ様です レイン様」
「いいや、大したことじゃないさ
あぁ、そうそう 時雨君、ゴール君
僕は明日本部に行くから君たちもついてきてくれる?」
「その間ここは誰に任せるのですか?」
「たまたま空いているみたいだから
ジョージ君とナナキちゃんに任せるよ」
「…あいつらですか」
「不安そうだね」
「念のため、私かゴールのどちらかは残ったほうがよろしいかと」
「そう言うと思ってね クロウ君も来てくれることになったよ」
「わざわざクロウ先輩がいらっしゃるのですか
それなら安心です 喜んでお供します」
「えー、まじすか 俺、あそこ嫌いなんすよ
なんか完全にヴォルフ一派のホームって感じで、すげーアウェーなんですもん」
「仕方ないだろ 俺たちが賭場や飲食店や娼館の仕切りを任されているように
あいつらは本部の警備も仕事なんだ」
「まぁまぁ、ゴール君 そう言わずにドラウ君のお見舞いですから
一緒に行きましょうよ」
「え、ドラウの野郎 なんかあったんですか」
「実はですね…」