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大団円と陰謀

「わー、ごめんごめん ヴォルフ

でも、それなら、そうと言ってよね!」


ルルは刀を向けてきたヴォルフに両手をあげて、弁明を叫ぶ


「そりゃあ、こっちとしてはただの脱走者だからさ

仕方ない、というか 致し方ない、というか」


「……はぁ」

ヴォルフはため息を一つ吐いて、刀を収めた

そして、自らの失態を後悔するように右手一本で頭を抱えた


「…確定してから言うつもりだった ドクの検査結果は昨日わかったんだ

間違いない ミラーレオは私の子だ」


「ミラーレオ?」


「本当の名だ」


「ふーん

まぁ、何はともあれ

ヴォルフが早く教えてくれていればこうはならなかったんだから

お互い、不問ということで

早く医務室に行ってあげなよ ドクが言うには意識も戻ったそうじゃないか」


「……私のせいであの子を傷つけた

もう会わせる顔がない」


「はぁ? 十七年もネグレクトして、さらに放置するつもりなの

なにを今更って感じじゃない?

いいから行ってきな」


「しかし…」


「あー、もー、うっさい!

いいから行け!

こういう時だけ饒舌になんな!」


「………あぁ」









医務室には実に、十三人もの幹部が集まっていた

ベッドで寝ているドラウも合わせれば十四だが、

その十三人は、どれもヴォルフ直属の幹部たちである


「お嬢 具合はどうですか」

「何か欲しいもんありませんか」

「おい、コラ お嬢が困ってんだろ 順番に話せよ」

「なんだ 点数稼ぎかよ」

「んだとぉ!?」


レオことミラーレオを囲むように十三人はずっとこんな調子である


「こんにちは レオちゃん

いいえ、ミラーレオお嬢様」


その中には、シズカもおり、深く一礼してくる

彼女に先日のような敵意はまるでなく、むしろ、どこか好意のようなものすら感じる


「なぁ、そんな急に手のひら返すほど、あいつの娘ってのはすごいのか?」


「うーん、そうですね まぁ、確かに偉いですよ 後ろ盾ハンパないですからね

でも、そういうんじゃないんです 私たちはヴォルフ様に拾われたも同然の弟子たちですから

ミラーレオお嬢様は、妹のようなものですかね」


「…妹ねぇ」


「妹とはいえ礼は尽くせよ シズカ」


ミラーレオが声の方を見ると、口元だけをマスクで覆った変人がいた


「失礼、お嬢 私、ヴォルフ様直属幹部 八雲といいます

どうぞお見知りおきを」


「おう、存分に敬え」


「あんまり調子に乗らないの」

「いてっ!」


見かねたドクがミラーレオの頭を軽く叩く


「医者がけが人を叩くなよ」


「そろそろ、馬鹿どもを返しなさい

ヴォルフ様がいらっしゃるわ」


「…ちっ」

ミラーレオはどんな顔をしていいかわからず、気分が曇る


「別に大したことをする必要はないわ

たった一言『お父さん』と呼んであげなさい」


「けっ、なんで俺がそんなことを…」


「命、助けてもらったんでしょ?」


「ぐ…」


「そういうことならばドク、

申し訳ありませんが私たちはここを去るわけにはいきません」

シズカが皆を代表して、一歩前に出る


「私たちヴォルフ様直属幹部はヴォルフ様の家族も同然

ことの成り行きを見守る権利があります」


「…あ、そう」

ドクは余りにもシズカたちがまっすぐこちらを見るので、

思わず生返事で了解してしまう



ちょうどよくガラリと扉が開き、

ヴォルフが入ってくる


「………」

ヴォルフは黙ったまま部屋をぐるりと見渡し、ミラーレオを見つけると

そこに一直線に歩いていく


「すまなかった」

そして、何かを言う前に、深く深く頭を下げた


「な、何がだよ あんたは俺の命を助けて…」


「違う 私があらかじめ言っておけば、こうはならなかった

私がもっと早くお前を見つけていたらこうはならなかった

十七年間もみつけてやれず、挙句お前を傷つけた」


ヴォルフの声が震える

鉄仮面の男のここまでの激情を誰も見たことがなかった


「すまなかった!」


「……気にしてねえよ

お…、すぅー…はぁー…、お、親父」


顔をあげたヴォルフは目を見開き、口をポカンと開け、

驚愕の表情をしているが、すぐにそれは優しい笑みへと変わった



「…初めてみた」

シズカが雰囲気を邪魔しないように、小声で呟く

「ヴォルフ様ってあんな風に笑うのね」


「あぁ」

八雲もマスクで見えないが、きっと笑っているのだろう


「あなたらしくもない 泣いてるの」


「お前も、ではないか」

ヴォルフ直属幹部十三人は、全員涙を流していた

また、寝たふりをしていたドラウの頬にも冷たい線が出来ていた


「…ホント、不器用な二人ね」

ドクはそっと部屋の外へと出て行き、廊下を突き進む








「来ると思っていたわ」


ドクが対峙している者は、奇妙な仮面をつけている


「流石だ よくこの私に気づいたな」

変声機か何かによって変わっている機械音のような声が響く


「レオを部屋から逃がしたのはあなたね」


「どうかな?」


「そして、ボスをあの子の方へ向かわせたのも

フェンリルをたまたまあそこの場所にいさせたのも、あなたの仕業」


「あぁ、あれは失敗だった

念には念を入れて、フェンリルまで用意したというのに、裏目に出てしまった」


「そう 失敗だった 何より、あなたは証拠を残してしまった

ちょうど良かったわ 私もずっとあなたが誰なのか知りたかったの」


「………」

男は急にしゃべるのを止めて、ナイフを懐から出す


「あなたが欲しいのは、これでしょう」


ドクの手の上には、一本の木


「フェンリルをあの場所まで連れてくるのに使った香木

あなたはこれを回収できなかった

なぜならミラーレオがあなたの思惑よりずっと速く着いたから」


「…やはりおまえの仕業か

一週間も拘束されていれば、筋肉は衰え、まともに動けないと思っていたのだがな」


「えぇ、私が調整していたわ あの子の身体能力はこの一週間でむしろ上昇してる」


「…やはりお前は厄介だ 殺しておくとしよう」


「無駄よ」

ドクがタンと、短くタップする

すると、影よりフェンリルが仮面の者を襲う

仮面の者はそれを寸でのところで躱し、そのまま逃げていく


「クソッ…!」


フェンリルはすぐにその後を追おうとするが「やめましょ フェンリル」

ドクがフェンリルをなだめる


「深追いする必要はないわ

それに、二対一でも勝てるかどうか微妙な相手よ

正直、退いてくれた助かったわ」


ドクは少し香木を見つめたあと、それを抱えて医務室へと戻る


「…やっと手にいれたわ ヴォルフ様の妻を、レオちゃんの母を、私の親友を殺した男の手がかりを」


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