刺客
フェンリルは牙をむき出しにしてこちらに走ってくる
その速さは凄まじく、横に逃げただけではとても逃げきれなかった
結果、鋭い歯で砕かれる…はずだった
フェンリルはレオを咥えて自分の背中へと放り投げた
「え?」
そして、あろうことか、低く唸って
ルルに対して威嚇をしたのだ
「なんの真似だい フェンリル」
ルルは少しばかり驚いたようだが、すぐに平静を取り戻し、
身の丈に合わない剣を握る
「ヴォルフのペットを殺すのは忍びない、けれど
まぁ、一匹も二匹も変わらないか」
ルルが動き出そうと、一歩ゆっくりと前に出す
フェンリルは素早くそれに反応し、
一気に体勢を翻して走った
フェンリルもまた、野生の勘で悟ったのだ
『勝てない』と
「ふー…、仕方ないね
流石に僕でも全速力のフェンリルには追いつけないし」
ルルはポケットより黒色の宝石を取り出す
『全幹部に告ぐ ヴォルフが捕縛していた少女 レオがフェンリルを連れて逃走
両者共に討伐せよ 方角は本部より南西 手が空いている者は全員向かえ』
宝石に告げられた言葉は、本部中に響き渡り、すぐに幹部たちが用意をはじめた
「なぁ、なんでお前
俺を助けてくれたんだ」
レオはフェンリルの首に捕まっている
フェンリルは景色が線になるほど速く走っていた
「くー…」
帰ってきたのは、か細く情けない鳴き声だけだった
ビュッ!
嫌な音が耳に響いて、レオはすぐに体勢を起こす
フェンリルは突然、体勢を崩し、地面に転がった
「フェンリル!」
なんとか起き上がったレオが見ると、フェンリルの足に矢が刺さっていた
「命中したか」
茂みより、弓と矢を持ったスキンヘッドの肌の黒い男が出てくる
「弓矢使いが出てくるとは、随分余裕じゃねえか」
「お前相手に隠れる必要などあるまい
それに悪いが、私一人を倒したところで何も変わらんぞ」
男が手を上げると、そこらじゅうの茂みから音がする
「レイン・ルイン様直属幹部 ドラウ
そして、私が率いる弓隊だ
死んでから恨むなら、覚えておくといい」
「ご丁寧にどうもよ」
「射ろ!」
ドラウの声によって全方位より到底、数え切れない矢がとんでくる
―あぁ、不味い