狼と上司
―妙に嫌な予感がした
ほんの手洗いに行っている間だけだったけれども
医務室に縛り付けてあるはずの少女の気配がなくなっていた
「レオ?」
医務室に帰って、部屋を見渡すと
極太の鎖が綺麗に斬られ、肝心の少女はどこにもいなかった
「………馬鹿な子ね、ホント」
教えられたとおりの道を進むと、確かに誰にも会わずに出口までたどり着けた
「しっかし、なんであいつは助けてくれたんだ?」
あいつの言葉を全て信用した訳ではない
そもそも私を救けるメリットってなんだ
「考えてもわからねえな」
ならば仕方ないと、とりあえず外に出る
すると、そこには大きな狼のような獣が一匹
こっちをじろりと睨んでいた
「…フェンリル!」
再び、まみえる絶対に勝てない敵
ただ、あの時と違うのは
逃げる、という選択肢がある
―なんとか、するしかない
「こんにちは お姉さん」
誰もいるはずのない後ろから声がかかる
だって、扉はさっき私が閉めて、開く音すら…
「そんな不思議そうにしなくても、ただ一緒に扉から出ただけ、だよ
ボクの名前はルル 遊んで お姉さん」
最悪の少女がこちらを見て笑っていた
「はっ…! 俺が敵の大将の顔を知らねえとでも
子供の真似はよせよ この化物」
「ふふふふ ヴォルフは後で叱っとかないとね
結局、調教は失敗したみたいだ まぁ、ただの野良犬じゃ仕方ない
ウチで飼うには、あまりに君は育ちが悪い」
少女の肩書きは
グランファミリー ボス
ルル・ジーク・C・グリムノート
レオは悟っていた
「やっぱり、罠だったか」