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不器用でタイミングのいい男

「ヴォルフ様!?」

シズカは慌てて、柄から手を離し、

真っ先にヴォルフのもとへ駆け寄る


「このようなところにおいでになるなんて

お怪我でもなされたのですか!」


「このようなところって…

まぁ、いいけど

ヴォルフ様もあんたと一緒よ

ここんとこ毎日来るんだから」


「なんの用だ! ヴォルフガング」


「…………」

ヴォルフガングはいつもどおり、レオを見つめるだけである


「あ、ケーキ三つしかないわ」


「俺は食わねえぞ」

レオがすぐに断りを入れる


「そう? じゃあ、はい」

ドクがケーキをお茶をそれぞれの近くに置いていく


「ヴォルフ様もどうぞ ちょうどシズカがケーキを差し入れてくれたんですよ」


「…あぁ」


ヴォルフはそれを受け取って、しばらくそれを見つめて、

ふと、顔を上げ、レオを見つめる


「…」

ヴォルフは上のいちごを外して

フォークでケーキを一口大の大きさに分けていく


「口を開けろ」


「あ? 何する…」

レオが悪態をつこうとすると、すぐにレオの口の中にケーキを差したフォークがねじ込まれた


「へ?」

「ひゃははははは!」


その光景を見て、一番驚いたのはシズカであった

そして、その横ではドクが大笑いしていた


「何すん…!」


飲み込み、文句を言おうとすると、またすぐにケーキが口に入れられる


それを何回か繰り返し、最後には、綺麗にヘタだけ取られたいちごを詰められたのだった


レオがしまいに丸々一個食べ終わると、ヴォルフガングは持ってきていた大きな荷物をドクに手渡した


「何ですか? それ」


シズカが不思議そうに訊ねる


「この子の衣類よ ずっと私のお古しか着せてないけど、

そろそろ限界だから、ヴォルフ様に用意してもらったの」


「要らねえ」


「はいはい、そう言わないの

ヴォルフ様にお礼は?」


「………」

レオは黙って、ヴォルフガングの顔を睨み

「死ね 変態」


と悪態をついた


「貴様っ…!」

シズカが再び、刀の柄に手をかけると同時、シズカは動けなくなった


ヴォルフがシズカを、見たことがない形相で睨んでいたからである

殺気、とまでは言わないものの、確かにそれは敵意であり、『威圧』であった


「………また来る」


ヴォルフはそのまま部屋を出ていく


「二度とくんな!」


「……はっ」

やっと動けるようになったシズカは、体中から嫌な汗が吹き出るのを感じていた


「凄い迫力だったわね もう四十一だってのに

衰えないわねー」


「あ? なんの話だ」


ヴォルフの背中しか見えていなかったレオは何も分かっていない

「…レオちゃん、あなたは一体、何者なの?」


「知らねえ ただのあの、変態のお気に入りってだけだろ」


「やめたほうがいいわよ レオ

ヴォルフ様直属幹部の多くは、ヴォルフ様の弟子たち

ヴォルフ様のことを『師』として崇めているわ

あまり、ヴォルフ様の悪口は言わないことね」


「…次はないよ レオちゃん」


「…ちっ」


「ドク、私も行くね」


「ええ、美味しいケーキをありがと」


「ううん、気にしないで」

シズカは思いつめた顔でそのまま部屋から出ていった


「…気をつけなさいよ あの女は怖いわよ」


「あぁ、

ここに来て、初めてあんな直接的な殺気をぶつけられた」


「…ねえ、レオ 本当にヴォルフ様となんのつながりもないの」


「本当にない 倒されたとき、初めて会ったんだ」


「…そう」


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