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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
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秘密と救援

「広部さん、戦況はどうですか?」


 南城先輩と朝絡まれた先輩が試合をしているパソコンの近くに行き、部長は先に来ていた副部長に様子を聞いた。


「あんまり良くないね。なんであんなにも調子悪くなるんだか」


 副部長が苦虫をかみつぶした表情で答えた。

 南城先輩のモニターを見てみると既にチケットの差が開けているのが見えた。

 だが、俺が気にしたのはそこではなかった。


「ん?なんでBFT2なんですか」


「坊やは本当に、よく知ってるんだな」


「坊やはやめてくださいって」


 相変わらず俺のことを坊や呼ばわりする副部長。困ったもんだ。

 だけど今はそんなことどうでもいい。


「奴がいつも指定するんだよ」


 そう言って副部長は南城先輩の対戦相手の方を睨んだ。

 向こうの先輩は既に余裕が出ているのか、顔には笑みが浮かんでいた。また、周りにいる後輩と思われる生徒たちも、先輩のプレイに魅了されているようにも見える。


「このゲームは南城さんがあの人と初めて戦った時のゲームですから、それで指定してくるのかもしれません」


「それってBFT3が発売されてからもですか?」


「その通りです」


 それは何かおかしい。このシリーズは2よりも3のほうが完成度が高いために、3を持っていないなんてことがない限り最新の方をプレイするはず。もしかして・・・

 淡々と答えてくれた部長もすぐに南城先輩のモニターに集中していた。


「あれ、先輩かなりまずくないか。橋本」


「井口もそう思うか」


 つい先ほどまで南城先輩と対戦していた2人も、明らかに焦りを感じている先輩のことが心配なようだ。

 しかし、そんな言葉も俺の耳には入っていなかった。南城先輩が負けた理由にある程度の予報がついた今、心の中にはただ怒りだけが渦巻いていた。


 ーーあの先輩は正々堂々戦っていない。


「・・・チッ」


「・・・どうしたの?周」


 無意識に舌打ちをした俺を紗羅が心配そうに覗き込んだ。

 しまった。聞かれてたか。


「あ・・・悪い。なんでもない」


 そう小さく答えて、俺は親指の爪を噛んだ。

 その様子を見た紗羅は不満そうな表情をしていたが、仕方なさそうに画面の方へと目を移した。


 ーー気にくわないことは確かだが、今の俺では南城先輩を助けるのは・・・


「βチームもやっぱり大したことないなっ!」


 考え込んでいると大きな声が聞こえてきた。

 どうやら勝敗が決まったようだ。まぁ、どちらが勝ったかは一目瞭然だ。


「えぐっ・・・」


 南城先輩が涙をこらえて顔を俯かせている。

 よほど負けたのが悔しいんだろうな。


「あ?泣いてもヘッドホンは返さねぇぞ?まぁせいぜい勝てるように練習しとくんだな」


「先輩!すごいっすね!」


「まあな。こんなもん大したことないな」


 後輩に自分が強いところを見せられて満足げに笑っていた。


「やっぱりαチームは強い人ばっかりなんだな!」


 αチーム?

 そういえば、さっきの机には『βチーム』って書いてあったけど。やっぱりアレって・・・


「進学クラスのαチームがそんなに偉いのか!」


 そこで反論したのは副部長だった。


「あ?なんだよ。副部長のくせに後輩に技術で負けてんのに、なんか文句でもあるのか?」


「なんだと!」


「広部さん。やめなさい」


 対戦していた進学クラスの先輩とβチームとの間に険悪なムードが漂い始め、南城先輩は泣きながら副部長に抱きしめられていた。


 話を聞いてだいたいわかった。どうやらFPS部は進学クラスと通常クラスで別れているようで、進学クラスの方がαチーム。通常クラスの方がβチームと呼ばれているようだ。

 ーーこんなところにも学校の2つのクラスが関わってるなんて・・・くだらない。


「うっぐ、、、、えぐ」


 睨み合いの中、南城先輩の嗚咽だけが響いて、なんとも言えない気分になる。

 助けたい。助けたいとは思うけど、どうしてもまだ・・・

 そんな何もできない自分のことを思うと自然と拳に力が入り、歯を軋ませていた。

 ただただ悔しい・・・


「くだらないスタメン争いなんて通常クラスのやることじゃねえ!」


 誰がそんなこと決めた・・・


「そもそもαチームのスタメンでもない奴に勝てないのに、よくまあ大会なんて考えるもんだな!」


 上を見て何が悪い・・・


「そもそも可愛い後輩助けられないなんてな。役に立たない先輩だな」


『役に立たない』


 俺はその一言に、昔の自分が言ったことを重ねた。



  ■ ■ ■



『よく考えりゃゲームなんてやる意味ないんだよ。こんなもの、、、役に立たない』


 心底疲れきって、クロにそんなことを言ったことがある。


『クロネコ。それは違うさ』


『じゃあ何ができるってんだよ!クロ!』


 聞こえるのはヘッドホンからのクロの声だけだったが、俺が怒っているのに微笑んでいるクロの様子がはっきりと目に浮かんだ。


『それは俺にも分からんさ。将来ゲーム(これ)を使って何ができるかはお前次第だ。ただなクロネコ。少なくとも今のお前は・・・』


 その時はわからなかったが、


「困ったゲーマーは救えるんじゃねえのか?」


 クロが微笑んだのは、ゲームでもできることがあると信じていたからかもしれないと思った。



  ■ ■ ■



 進学クラスの先輩の言葉にβチームからの反論はなかった。

 実力差があるから、何も言えない・・・とでも思っているんだろうか。

 気づけば握った拳は力を抜き、こわばった口も今は小さく微笑んでいるみたいだ。


「ほら。出番だぞ、周」

「困ってる人がいたらあれこれ考えずに助けるのが周でしょ?」


 いつの間にか2つの手が俺の背中に乗っていて、前へと押されていた。

 柳の力強い手と紗羅の柔らかい手。

 俺は2人に力をもらい大きな一歩を踏み出していた。ひた隠しにしていた秘密をこんなにあっさりとさらけ出せるのかと自分でも笑いながら、それでも久しぶりのこの感じが気持ちよかった。この身体はやはり【これ】を欲していたみたいだ。

 クロ。あの時あんたが言ったことがようやくわかった気がするよ。とりあえず目の前の同志(ゲーマー)を助けるとするよ。


「先輩」


「あ?なんだお前」


 十分満喫したのか、帰ろうとしていた先輩を見据えた。

 まさにこれが、


「俺と勝負しましょうよ」


 俺の高校生活の原点ともなった出来事の始まりだった。



 ーーー同士(ゲーマー)を助けるなら、過去の秘密なんてさらけ出す。やっと今、役に立てそうなんだ。

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