秘密とFPS部
どの学校でも校長先生の話というものは、大層ありがたいお話なのだと痛感させられた。
「「「「「疲れたぁ〜〜〜」」」」」
もちろん皮肉である。端的に言えば、
「「「「「長かったぁ〜〜〜」」」」」
ということだ。
全く、皆だらしないもんだな。
「腰痛ぇ〜」
人のことを言えないのが残念だがな。
そんなこんなで、無事(でもないが)長い入学式を終えた。校長先生の話があそこまで退屈だとなにをしていいのか迷うもんだ。その代わりと言っては失礼だが、生徒代表の護の話はとても立派なもんだった。
まぁ、終わった後に月岡だけがスタンディングオーベーションしかけたのはびっくりしたがな。周りの女子数人でなんとか座らせたみたいで、クラスの女子もすでに月岡の扱いに慣れていた。俺としては月岡の扱いの負担が減るからとても助かる。早く男子もあれくらい慣れてほしいもんだな。
「コラコラ、君たち。あんまり大きな声で校長の悪口言うんじゃないぞ?」
初日だというのに、すでに緊張感のない様子に七瀬先生が苦笑いをしていた。
「文句ばっかり言ってると部活見学行くの遅れるぞ?」
しかし、騒がしかった教室はその一言で驚くほど静かになった。
ついこの間まで俺らも中学生だったので、こういう時だけは先生の言うことを聞くのだ。
要するに、まだまだ子供ということだ。
「よし。連絡事項言ったらさっさと行かせるから、ちゃんと大事なところはメモ取れよ」
そうして、七瀬先生から入学後によくある家庭調査の注意点や、提出しなければいけない書類の説明がなされた。
「じゃあ、以上だ。帰るときはくれぐれも気をつけること。あと調査票は来週までにちゃんと出せよ。はい、解散」
そう言われると、クラスメートのうち数人が飛ぶように教室をあとにした。よほど早く部活見学に行きたいらしい。先生もクラスメートもさすがに苦笑している。
「じゃあ、俺らも行くか?玄野、東雲」
振り返ると井口と橋本がいた。
「あー、そうだな」
「まずはゲーム部から行ってもいいか?」
「ん・・・分かったよ」
「周がいいなら俺もいいぜ」
俺と隣にいた柳も井口たちの案に賛成した。
そもそも、そんなに期待した目で言われたらなかなか料理研究部から行きたい、とは言いづらい。
・・・まぁ、ついて行くだけだしな。うん。
「よしっ!なら、さっさと行こうぜ!」
「ゲーム部は人気だから混むらしいしな!」
「分かった分かった・・・はぁ」
はしゃぎ過ぎな井口と橋本に苦笑いを隠せないものの、楽しそうにしてる様子はほんとに眩しく見える。
こうして、俺たち4人は教室を後にして、ゲーム部の見学場所であるパソコン室へと向かった。
ーーーーー
ゲーム部に行くのはなにも問題なかったが、
「なんでお前がいるんだ?紗羅」
「べ、別にいいじゃない。私もゲーム部興味あったのよ」
なぜか、途中から紗羅も付いてきていた。
「いや、初日くらいクラスの女子とつるめよ」
「何?私がいると何か不都合なの?」
誰もそんなこと言ってないじゃん・・・
はぁ〜。
「いいじゃん、玄野」
「そうだよ。それともお前らやっぱりデキてるんじゃないか?」
「だから、彼女じゃないって言ってんだろ」
そう言ったはずなのに井口も橋本もニヤニヤしている。
まったく・・・
「紗羅からも言ってやってくれよ」
「・・・」
「紗羅?」
あれ?いつもならここで反論されるところなんだけど。調子でも悪いのかな。
「大丈夫か?紗羅」
「え?、、、えー。そうよ!誰がこんな奴の彼女なんか!ただの幼馴染みなんだから!」
ようやくいつも通りの返しが出てきた。
心配ないみたいだな。
「白河さんがそう言うならそうなんだろうね。あっ、自己紹介まだだったね。俺、井口っていうんだ」
「俺は橋本。井口と同じ中学だったんだ」
「よろしくね。井口君、橋本君」
紗羅の笑顔に2人とも顔がヘロヘロになっている。まぁ聞いたところによると2人とも男子校だったらしいし、このくらいですでにキャパを超えてるみたいだな。
「そ、それにしても、白河さんがゲーム部興味あるなんてね」
「そ、それは俺も思った。白河さん普段ゲームするの?」
若干落ち着きがない様子で2人が紗羅に質問をした。
「うん。周と一緒に遊んだりするよ」
「へぇー、そうだったんだ」
「てか、玄野もゲームするんじゃん」
「いや、誰もゲームしないとは言ってないだろ」
最近はあんまりしてないけどさ。
「そっか。じゃあ東雲は?」
「俺?俺も周とよくやってたよ」
「過去形なんだな」
「まぁね・・・」
少し困ったように柳が微笑んだ。
ーーその原因は俺にあるので申し訳ない気分になる。
悪いな、柳。
「おっ?ここじゃないかな?パソコン室」
急に話を変えて柳が指さした先には、すでに騒がしさが外まで漏れている大きな教室があった。
「やー、ついにやってきたな!」
「早く行こうぜ!」
「あー、おい・・・って。行っちゃうし。はぁ〜」
まるで、小さな子供みたいに井口と橋本がパソコン室へと飛んで行った。
「まぁまぁ。それくらい楽しみなんだろうさ。俺らも行くぞ」
「ほら、周。早く」
ーーー唯一事情を知っている柳と紗羅が、俺の背中を押して一緒にパソコン室に入った。
中は想像より賑わっていた。あちこちに支部の名前が書いてある紙が貼ってあり、先輩と思われる生徒が大きな声で新入生の勧誘をしていた。
そして何よりパソコン室の広さに驚かされる。中学のそれとは比ではないほどで、そのパソコンも最新のものが揃っていた。
金使ってんなー、という小学生並みの感想しか出てこない。
「広いなこりゃ」
「そうね。お金使ってるんだねー」
隣を歩いていた2人が俺とまったく同じことを考えていて、内心フフッと笑ってしまった。
それにしても、
「あいつらどこ行った?」
先に入っていった井口と橋本の姿が見えない。
まったく、はしゃぎ過ぎだ。
「あ、あそこじゃない?」
紗羅の指差す先を見てみると、パソコン室の端の方に2人の姿が見えた。近くにはガラスの窓のついた個室があった。
あれはなんだろう。録音スタジオみたいなスペースか?
近づいてみると『FPS部βチーム』と言う紙が机に貼ってあった。βチームってことは・・・
「じゃあここに名前書いてくださいね」
落ち着いた声が聞こえてきた。声の方を見てみると、紙パックのジュースを片手に持ち、優しそうな顔立ちの男子生徒が座っていた。胸についている学生バッジの色からして3年生のようだ。首から下げた名札のところに『狭山 亜紀部長』と書かれている。
「挑戦するのはいいけど、次に挑戦できるのは大会後だけどいいのかい?あんたたち」
続いて聞こえてきたのは少しハスキーがかった声だった。狭山部長の隣に座っている、カールのかかった茶髪をしたいかにもやんちゃそうな女子生徒だった。こちらも3年生のようで、名札には『広部 由紀副部長』と書いてある。
「これでも僕だってかなりやり込んでますから!」
「そうですよ!どうせ戦うならさっさとやりたいってもんですよ!」
「井口、橋本。どうしたのさ?」
井口たちと部長たちの話がイマイチ読み込めない様子の柳が質問した。
まぁ多分だけど、
「入部が決まってスタメン争いに参加できるのか?」
「「え⁈」」
井口と橋本が驚きの表情に満ちている。
あれ?
「違ったのか?」
「いや、逆だよ。何も説明してないのによく分かったな。玄野」
「俺も思った。なんでだ?」
「いや、なんでだって言われても。今の会話聞いてたらなんとなく想像できるだろ」
と言っても、柳も紗羅も首をかしげてるだけだった。
そんなに難しいかな?まぁそんなことはどうでもいいんだよ。
「それより、こんなにすぐにスタメン賭けて勝負とかさせてもらえるんだな」
「君も入部希望者ですか?」
話を聞いていたであろう狭山部長に話しかけられた。
「え・・・いえ、僕はそんな」
「そうですか・・・。スタメン争いは大会が近いので希望者だけですが、誰でも勝負を挑めることにしています」
勝負?
「それはつまり今のスタメンの誰かと戦うってことですか?」
「その通り!いやぁ、キミ頭がいいねっ」
そう言うと広部副部長が身を乗り出して俺の頭をくしゃくしゃと撫でてきた。
「いや、ちょ。先輩っ」
「コラコラ、広部くん。玄野くんが困ってるだろ?」
アレ?もう名前覚えられてる・・・
部長ってなんかぼんやりしてそうだけど、記憶力いいんだな。
「あ、ごめんごめん。まぁつまりそう言うことだ。それじゃあ2人とも。うちのメンバーと戦ってもらうよ。準備はいいかい?」
「もちろんです!」
「いつでもオッケーです!」
広部副部長の問いに2人は即答した。
「よしっ!三景っ!」
「はーい!」
近くの録音スペースのような個室から聞こえてきたのは、可愛らしくも元気そうな声だった。
「君たちが次の挑戦者?南城 三景だよ。よろしくね」
出てきたのは見た目が中学生くらいの元気な女子生徒だった。
つまりどういうことかというと、
「ちっちゃ」
ピキッ
「今、小っちゃいって言ったの誰だコラー!」
そう言いながら、先ほどまで可愛らしい表情をしていた南城先輩が殴りかかってきた。
ーーーこの時はまだ気づきもしなかった。俺の秘密が秘密でなくなる1つの要因がこの南城先輩であることを・・・
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