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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第3章 同盟
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同盟と遅刻

「ったく、遅いぞ」


 時間は朝の8時過ぎ。そろそろ家を出ないと学校に間に合わない時間だった。


「何やってんだよ、紗羅」


 そう悪態をつきながら振り向いて紗羅の部屋を見た。カーテンが開いているところを見ると、すでに起きているとは思うけど、、、

 俺と紗羅は余程のことがない限り朝は一緒に登校する。いつもならもう学校へと向かってる最中なんだが、今日はこんな時間なのに連絡すらよこさない。


「まぁ昨日の今日じゃ連絡はしづらいか」


 昨日は茶化して紗羅を傷つけてしまった。

 家に帰ると行く時とは違う俺の態度に、妹の恵美は少し心配していた。そのあとはひとしきり自己反省会。流石に言いすぎたと反省して、今日直接謝ろうと思って起きた。メールでも言えたが、やっぱり謝るのは直接の方がいいかと思い直した。

 のだが


「本人が出てこないとどうしようもないんだけどな」


 当の紗羅が家から出てこない。

 既に時間は8時15分を過ぎていて、今からだとダッシュじゃないと間に合わなくなってしまう。


「いや、流石にまずいだろ」


 俺は急いで玄関にかけより、インターホンを数回鳴らした。


「・・・」


 返事は何もない。

 まさかまだ寝てるなんてことはないだろうな。


「おーい、紗羅!起きてんのか!?」


 ドアを叩いてもさっきと同様返事がない。

 どうなってんだよ。


 ピロン!


 ちょうどその時ポケットのスマホが鳴った。

 ようやく返事書いたか、紗羅のやつ。


【周くん、遅刻?】


 だがメッセージは灰山からのものだった。拍子抜けはしたものの、心配をかけまいと返事を手短に打った。


【まだギリかな。紗羅のやつがまだ寝てるみたいで】


 メッセージを返信しつつも紗羅の家の方を気にしていた。すると灰山からすぐに返事が帰ってきた。内容は驚くべきものだった。


【え?紗羅ならもう教室にいるよ?】


 は?




  ■ ■ ■




 ガラガラっ!


「はぁ、、、はぁ、、、」


「ん?玄野か。遅かったな、遅刻だ」


「す、すいません、、、」


 全力ダッシュで学校へと走ったが、結局ギリギリ間に合わなかった。教室に入ると案の定というか、クラスメイトの笑い声が聞こえてきた。数人を除いては


「はぁ、、はぁ」


 息も絶え絶えな俺にまず話しかけてきたのは、前に座っていた柳だった。


「珍しいね、お前が遅刻なんて。ゲームのしすぎで寝坊か?」


 相変わらずニヤニヤした笑顔でこっちを見てきた。腹の立つやつだ、本当に。


「ちげぇよ。寝る時間くらい確保してるっての。バカにすんな」


「そ、そんな怒るなって。悪かったよ」


 自分ではそんなつもりはなかったが、相当態度悪く返事をしたのか、バツの悪そうな顔をして柳は前を向き直した。

 はぁ、調子が狂う。

 隣をちらりと見ると、七瀬先生の連絡事項を一心に聞いている紗羅の姿があった。

 少しはこっちの心配しろっての・・・。


「じゃあ、連絡はここまでだ。今日も1日頑張れよ」


 いつも通り必要なことだけを簡潔に言って、朝のHRは五分ほどで終わってしまった。

 先生が教室を後にすると、各々がおしゃべりを始めていた。

 さてと、俺もいうこと言わないとな。


「なぁ、紗羅、、、」


 あれ?

 隣を見るとさっきまで座っていた紗羅がいなかった。辺りを見渡すと教室を足早に後にする紗羅の姿があった。

 なんだ?俺、避けられてんのかな。

 それともただの用事でも思い出したのか。


「周くん、大変だったね」


 そんなことを考えていたら、今度は灰山が俺の机に来た。


「ん?あー、まぁな。紗羅のやつ、先に出てるなんて一言も言ってなかったからな」


「あはは、忘れてたんでしょ。私が来た時にはもう学校についてたみたいだし」


「そうなのか」


「うん、でも教室にはいなかったんだよね。どこにいたんだろうね」


 そんな朝っぱらから教室以外で何してたんだ?後で聞いてみるか。

 紗羅の謎は深まるばかりだった。


「まぁいいや。弁当渡すときにでも紗羅に聞いておくよ」


「うん、それがいいんじゃないかな」


 灰山はいつもの優しい笑顔で接してくれた。紗羅もこんだけ優しければな・・・

 ただその後も何度か紗羅にコンタクトを取ろうと話しかけたりしたが、事あるごとに今は忙しい、用事があるからと話し合える状況ではなかった。

 やっぱり避けられてるか・・・。でもここで諦めたらもっとひどいことになるからな。昼飯はないはずだから弁当を渡すときに素直に謝ろう。


 この時の俺は昼飯の時間が待ち遠しかった。




  ■ ■ ■




 キーンコーンカーンコーン


 3限目の授業が終わることを告げるチャイムが鳴った。待ちに待った昼飯の時間だ。


「なぁ、周。いっしょに飯どう?」


 前の席の柳が振り返って聞いてきた。


「あー、すまん。今それどころじゃないんだわ。また明日な」


「お、そうか」


 横を見るとまたも紗羅の姿が見当たらない。あたりを探してみても教室内にはいないみたいだ。


「何をしておるのじゃ、玄野」


 今度は可愛らしい弁当箱を持った御田が話しかけてきた。


「いや、紗羅見なかったか?」


「白河か?教室を急いで出て行ったのは見たがのお」


「そうか、サンキュー」


「あ、どこへ行くのじゃ」


「追いかけるんだよ。あいつ弁当ないし」


 御田の問いかけに急いで返事をして、紗羅の弁当を持って教室を飛び出した。まだそこまで遠くに行ってるはずないんだけどな。お昼時とあって廊下はいつもより人が多くてなかなか探すのに苦労する。


「どこだよ、あいつ」


 あたりを見回しながらしばらく歩くと、見慣れた後ろ姿が見えてきた。

 まったく、こんなところで何してんだか


「おーい、紗羅。お前弁当・・・」


 しかし、紗羅の手にはすでに弁当が握られていた。見たこともないかわいい柄の巾着に包まれて。

 よく見ると紗羅の前には料理研究部の霧島がいた。俺の声にそれまで笑顔で話していた2人がこちらを見た。少し居心地の悪そうな顔をする紗羅と、表情を特に崩さない霧島。


「どうしたんですか?玄野くん」


「え、いや・・・」


 そこそこ大きい声で紗羅を呼んだのか、周りの学生が俺と紗羅たちに注目していた。

 流石に恥ずかしい。と、そんなとき


「周くーん」


 後ろから息を切らした灰山の声が聞こえてきた。


「どうした、灰山」


「どうしたじゃないよ。お弁当渡してくれる約束でしょ?」


「え、なにそ、、、」


「早く行くよ!」


 そう言って灰山は俺の手を握り、教室の方へと連れて行った。

 振り返ると紗羅の表情がとてもこわばっていた。




 ーーーこれ以降しばらく紗羅の顔を見ることができなかった。

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