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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
4/41

秘密と部活

「それでね、それでね!まーくんったら、ほっぺたにソースつけちゃってたりね。顔はすごくかっこいいんだけど、可愛い一面もあってね!でねでね・・・」


初めて高校のクラスメートと会う今日。周りの奴がどんな人なのか偵察するくらいの気持ちでやってきたつもりだったんだが・・・


「まーくんがね『絢音の作った料理は、誰の料理よりも美味しいですね』って言ってくれてね。もう、私舞い上がっちゃってね。そのあとにはね・・・」


・・・どうしてこうなった。


ひとまず状況を整理しよう。護の頼みで月岡の面倒を最低限みることになったんだが、なぜか護の代わりにハグして欲しいなんて言われ、拒否したはずなんだが『じゃあ、お話だけでも聞いてー』と言われ現在に至る。

つまり、女子側のど真ん中の席の月岡の席の隣で、強制的に惚気話を聞かされているということだ。

月岡の口からは絶えず護の話が飛び出ていて、ことあるごとに「キャー」と黄色い声をあげて、顔に手をやり1人で悶絶している。

大事なことだから2回言おう。どうしてこうなった。


「もうまーくんったら本当に恥ずかしくなるようなこと言うんだよね」


「そうか・・・」


今の月岡ほど恥ずかしい奴はいないと思うけどな。言わないけどさ。

そしてさらに不可解なことに、


「で、そろそろ席に戻りたいんだけど」


「えーー、なんで?まーくんは玄野くんに甘えろって」


自席への帰還を要求してもこれだ。護との約束の事を言われると簡単には引き下がれない。まぁ、月岡だけならなんとかなるんだが・・・

問題はそれだけじゃない。


「そうだよ。もう少し月岡さんの話聞こうよ」


「もっと玄野くんの話も聞きたいなぁ」


なぜか周りの女子も俺が自分の席に戻るのを引き止めている。

な、なんでだ。


「いや、さすがにそろそろ戻らないと・・・」


「いいじゃん。私たちは気にしないよ?」


うん、俺が気にしてんのな。

まったく・・・


そもそもの話、俺が自分の席に戻りたいのには2つの理由がある。1つは言わずもがな、初対面の女子と話すのが苦手っていうことだ。こちらはまぁ、適当に相槌を打てばいいだけだからそれほど問題ではない。

問題は2つ目だ。


そう思って、先ほどから何度かチラ見をしていた窓側の方を見る。

ーーー目。目。目。

男子の羨望と憎悪の視線が先ほどから俺の体に突き刺さっている。

あの・・・そろそろ俺の原型がなくなるほど視線刺さってるんで、やめてもらっていいですかね。特に柳の視線は群を抜いて鋭いな。

もちろん、俺の願いなんて通じないのは分かってるが、こうまで見られていると念じたくなる。


「玄野くんの話も聞きたいー」


「え!いや、俺の話は・・・」


男子の方を見ていたからか、隣にいた女子が腕を掴んで揺すって話しかけてきた。

まぁ、自分の席に戻りたいって言っても、女子にこう言われるととどまってしまうのは仕方ないよな。男だもんな。


「何1人で納得してんのよ、バカ」


バシッ!


「痛って・・・て、紗羅かよ」


急に紗羅に後頭部を思いっきり叩かれた。

いったい俺が何をした・・・


「紗羅かよ、じゃないわよ!なに女の子に囲まれてデレデレしてんのよ!」


「なっ、デレデレなんてしてるわけねぇだろうが」


ヤバい・・・バレてる。俺が女子に囲まれて多少浮かれてたのがバレてる。

これはかなりマズイ。


「うるさい!周はっ、さっさとっ、自分の席にっ、戻りなさいっ!」


そう言いながら、紗羅は無理やり俺を立たせて、背中を押して柳を中心に集まっていた男子の塊の方へと押しやった。

なるほど、これ以上紗羅に殴られるのはどうやら回避できたようだが・・・


「「「「「じーーーーー」」」」」


どうやら男子のヘイトは存分に稼いでしまっていたようだ・・・。はぁ〜。

そもそも、俺たちが教室に入ったのはまだ早い時間で、あとから来たやつはなんで俺が女子の席に座っているのか見当もつかなかったはずだ。


「えと・・・」


男子たちが考えてるのはおそらく『新学期早々お前だけいい思いしやがって』という感じだろう。


「新学期早々周だけいい思いしやがって」


柳に至ってはすでに口から出てるしな。


「なんでだ、周!お前には紗羅さんという素晴らしい彼女がいるのに!」


「「「「「なんだと?」」」」」


柳のその言葉に俺を除く男子全員と、なぜか女子数人が反応した。

さすがは思春期か・・・。って、黄昏てる場合じゃなかった。


「紗羅は彼女じゃないっての」


「でも、僕朝に2人で仲良く登校してるの見ました」


恐る恐る手を上げながら、少しおびえた様子で背の低い男子生徒が答えた。

あぁー。ここに俺の味方は1人もいないのかよ。


「被告人、答えよ」


「いつから裁判になってんだよ」


それと、なんでお前が仕切ってんだ、柳。


「だから、ただの幼馴染みだっての。家も近いし一緒に登校しただけだ」


「じゃあさじゃあさ」


今度は、明らかに高校デビューで髪を染めたであろうチャラそうなやつが手を上げた。


「幼馴染みってことは、毎朝窓から入って起こしてくれたりするの?」


どこのラブコメだよ!


「そんなわけないだろうが」


「なぁんだ」

「そんなもんなのかぁ」

「面白くないなぁ」


お前ら一体、幼馴染みになにを期待してんだよ。全員が全員落ち込むな。


「さて!周の誤解も解けたことだし、お互い仲良くやろうぜ」


まったく。柳は抜け目がないっていうか、掴みがうまいよな。相変わらず。

1人の敵を作って味方を募り、その敵を最後に味方にすれば全員仲間。流石としか言いようがない。

そもそも、新学期早々敵対心むき出しの人なんてそうそういないわけだし、その後は自己紹介などもすぐに済ませた。

変化嫌いの俺にしては珍しく、気づけば初日から話をするくらいは簡単にできていた。


ガラガラっ


「おっ?なんだ。えらく賑やかかと思ったら、ずいぶん楽しそうだな」


しばらく周りの奴らと話をしていると、1人の女性が教室に入ってきた。


「はいはい、とりあえず席につけ・・・と言うわけで、今年一年君たちの担任をすることになった七瀬ななせ 愛菜まなだ。よろしく」


可愛らしい名前とは裏腹にえらくサバサバした性格だな、というのが第一印象か。

身長は低めで、色の薄い茶髪は1つに縛られていて、四角いメガネをかけている。

なんかメガネのせいでえらくクールに見えるな。仕事のできる女弁護士みたいな。


「最初は自己紹介をしようと思っていたが、その感じだともうお互い済ませてるようだな。それじゃあこれからの予定だけ話して、そのあとは自由時間にするから。とりあえずこの後15分後くらいに廊下に整列して、体育館で入学式だ。そこでは私が君たちの名前呼ぶから、返事くらいはしてくれ。それが終われば部活動見学だ。楽しみにしとけよ。以上。トイレとかは先に済ませとくこと」


そう言って七瀬先生は教室を後にした。

その瞬間クラス全員がまたおしゃべりタイムだ。話題はもちろん部活動見学。


「なぁ、周」


クラスが一緒になったのはまだいいが、席が前後になるのはもはや誰かしらの陰謀としか考えられないな・・・。

その、なにかしらの力が働いて俺の後ろの席にいる柳が話しかけてきた。


「どうした?」


「お前部活入んの?」


「あー、部活ね」


「また帰宅部か?お前」


柳の言う通り、中学の頃の俺は特に部活動でやりたいこともなかったので、帰宅部生活を送っていた。


「うーん、まあ料理研究部はのぞくつもりだけど?」


「は?なんでそんなところ行くんだよ」


「いや、紗羅の分の弁当も作るからおかずのレパートリー増やしたくて」


「お前は主婦かなんかかよ」


「まぁ、よく言われる」


正直なところ、両親が共働きなので家事なんかは自分でやらなきゃいけないし、主婦スキルが伸びるのも当たり前だろう。


「お前はやっぱサッカーなのか?」


「まあね。入学前からいろいろ誘われてたし」


こんな女好きの変態野郎の柳だが、運動神経はやたらいい。小さい頃からサッカーをやっていて、中学ではクラブチームのスタメンでもあったらしい。

俺の周りには意外とすごいやつらが多い。


「え?玄野って料理研究部とか行くの?」


横の席に座っていた井口が話しかけてきた。身長は低めで、体型は太めだ。


「うん、まだ入るかはわからないけどね」


「そうなんだ。良かったら俺らと一緒に回らない?」


今度は左隣の橋本が輪に入ってきた。こちらは井口とは対照的に身長は高めで、痩せている。さっきの自己紹介を聞くと、2人は同じ中学らしい。


「え?」


しかし、俺はそれどころではなかった。

新学期は周りがどういう人か観察するせいで、目つきが悪く第一印象が悪いと評判の俺だが、まさか初日から一緒に行こうなんて誘われるとは思ってなかった。


ーーーここは、何かが違うのかもしれない


「いいけど、お前らはどこ行くの?」


「俺らはな」


「あぁ。ゲーム部だよ」


あー、、、ゲーム部ね。


星野ヶ丘高校はその部活動に関しても注目されていたりする。公式の部活動でもその数30を超え、非公式のものも含めると数え切れないとかなんとか。というのも、事前の許可さえ取れれば、たとえ非公式でも教室を借りることができ、同士たちでワイワイ話すもよし、元に戻すことさえできればパーティなんかも出来るらしい。なんて学校だ。

その部活の中でもひときわ異彩を放っているのが『ゲーム部』。どうやら地方大会レベルでの優勝経験もあるらしく、公式の部活動として認められているのだ。しかも、ジャンルによって10ほどの部門に分かれているらしい。


「玄野もゲームするでしょ?」


「部門もいろいろあるみたいだから、試しに行ってみない?」


「え?あー、、、そうだな。ちなみにお前らはどの部門志望なの?」


すでに2人ともワクワクを抑えきれていない様子ではしゃいでいた。


「ん?俺らはアレだよな」


「そう、FPS部」


・・・・


FPS。略さずに言うとFirst Person Shooting。一人称視点のシューティングゲームのことを言う。世界的にも有名なジャンルで、世界大会が開かれているタイトルもある。


「・・・おい、玄野。大丈夫か?顔色悪いぞ?」


「あー、悪いな。大丈夫だ」


・・・大丈夫だ。


「じゃあ、それ俺もついてくわ」


は?


「おい、柳。お前はサッカー部があるだろうが」


「いや、もう先輩方への挨拶終わってるし、後でいいかなって」


「そ、そうなのか?」


そんなんでいいのかよ。

柳の急な参加に戸惑っていると、肩に手を乗せられた。


(大丈夫だ)


口パクで柳にそう言われた。

はぁ〜。こういうところは憎めないんだよな。


「じゃあ柳も連れてくけどいいか?井口、橋本」


「もちろん」


「大人数の方が楽しいし」


こうしてなぜか柳も加わった4人で部活動見学をすることになった。

まぁでも、初日からクラスメートと一緒に行動できるのは俺の中でも成長したかな。

とりあえず楽しむことに集中しよう。


「じゃあC組は廊下に整列しろー」


七瀬先生の言葉が廊下から聞こえてきて、クラス全員が教室を後にした。



ーーー秘密の過去を思い出しながら俺も体育館へと向かった。

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