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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第2章 信頼
35/41

信頼と体裁

「・・・」


「・・・」


 客間へと案内された後、ポールさんは他にも仕事があるようで部屋を後にし、日本人風のメイドさんと2人きりになった。

 と言っても、御田が着替えを済ませるまでだろうし、そんなに長い時間かからないだろう。

 俺はソファーに座り、スマホをいじっていた。


「・・・」


「・・・」


 が、いかんせん気まずい。

 そもそも俺はメイドなんてリアルで見たのは今日が二度目だし、実際にメイドを従えるのなんて初めてだ。


「あ、あのっ!」


 そんな沈黙に耐えかねてか、メイドさんが大きな声で俺を呼んだ。


「は、はいっ?!急にどうしました?」


「あの、気まずいので何かお話ししてもよろしいですかっ!」


 それ、あなたが言っちゃうの?

 いや、メイドさんとか分からないけど、俺お客として来てるのに気まずいって言っちゃう?

 いや待て待て。先入観は良くない。メイドだって主人と話すことだってあるだろう。それに客として呼ばれたからって偉いわけではないのだ。

 ここはちゃんと話しに乗らなくては、、、


「あ、はい。別にいいですよ」


「ホントですか!私今日からここで働くことになった智慧ちえと言います」


「へー、そうなんですか」


 なんか、新しい職場での挨拶みたいだな。いや、まさにその通りか。メイドにとっては主人の家が職場みたいなもんだからな。


「今日までメイドリーダーのご指導のもと、メイド道の極みへと邁進してまいりましたが、本日ようやくメイドとして採用されるに至ったわけです」


「な、なるほど」


 メイドリーダーとかいるのか。バイトリーダーみたいなもんかな。

 というか、メイド道?


「ですが、今日1日緊張のせいで失敗の連続でして、他の仕事を任せられず玄野様の担当になりました」


「そうなんですか」


 メイドも大変なんだな。

 ぶっちゃけ家事とか主人の身の回りの仕事するだけなら楽だと思ってたけど。

 一般家庭の俺がやる家事とは格が違うんだろうか。

 まぁでも


「それって、お客様に見てもらうメイドとしては合格ってことなんじゃないですか?」


「えっ?」


「いや、普通客の前に出すメイドをしっかりしてない奴には任せないはずなんじゃないですか?」


「な、なるほど。それは考えつきもしませんでした。玄野様は頭の回転が早いんですね」


「そうでもないけど・・・」


 悪い気はしないが。

 実際、貴族なんかは体裁が大事らしい。一流のものは会う相手によって服を着分ける、なんてこともやるとかなんとか。服1つとっても相手にとっては印象がまるで違うんだろう。

 まぁ、御田の家が貴族かどうかはわからないが、少なくとも客人の前にとぼけたメイドを出すような真似をあのポールさんがするとも思えない。


「もっと自信持ったらいいと思いますよ」


「わぁ、ありがとうございます!そのお言葉を忘れず、心″を″刻んでおきます」


「うん、心″に″刻んでね」


 心の千切りだろうか。何か辛いことでもあったのか、智慧さん。


 コンコン


 ちょうどその時、ドアをノックする音が聞こえ智慧さんがドアを開けた。

 そこから出て来たのは、初めて会った時と同じようなゴスロリの服に身を包んだ御田と、サファイアのような真っ青な目をした外国人風のメイドが立っていた。先ほど智慧さんが言ってたメイドリーダーだろうか。


「きちんとおもてなしはいたしましたか?智慧」


「はっ、はい!つつがなく」


 それ、メイドさんが口にする言葉かな?どことなく智慧さんの日本語が心配になってくる。


「待たせたの、玄野。着替えに少し手間取ってしもうた」


「いや、別に。そんなに待ってもないよ」


「そうか、では夕食に参るかの」


 嬉しそうに答えた御田はそのままくるりとスカートを翻し、来た道をまた歩いていた。

 俺もそれに続き客間を後にしようとした。

 が、それをこっそり止める手があった。掴まれた袖を辿ると、智慧さんが口に手を添え俺の耳元へと持って来た。


「またお話しするの楽しみにしています、玄野様」


 小さくつぶやきとびきりの笑顔を浮かべると、すぐに一歩下がり何もなかったかのように頭を下げた。


「行ってらっしゃいませ、玄野様」


「あー、行ってきます」


 女性の吐息が耳にかかり少し熱くなった顔を隠すように振り返り、俺は御田の後をついていくのだった。




  ■ ■ ■




「はー、美味かった」


「満足してもらえればわらわも満足じゃ」


 御田の家の夕食はそれはそれは美味しいものだった。一流のシェフでも雇っているのかと思いきや、作っていたのはポールさんだったのだ。なんでも数十年前に一流レストランで修行を積んだ身とか。

 濃厚なクラムチャウダー。季節の野菜を使った色とりどりのサラダ。エゾシカのソテーやデザートには桃のゼリーまであり、もはやフルコースである。

 そして今は御田の部屋で2人で紅茶を飲んでいた。

 いわゆるお嬢様の部屋のように天蓋付きのベッドもあったりするが、所々に年頃の女の子を思わせる可愛いぬいぐるみなんかも置いてある部屋だった。


「今日はなんかありがとな。こんなに豪華な飯食わせてもらって」


「良いのじゃ。玄野へのわらわからの感謝の気持ちじゃ」


 満面の笑みで御田がこちらを見て言った。

 俺としてはそこまで御田に何かしてやった気持ちは持ってないが、感謝されることはやはり嬉しいものだ。


「して、玄野よ」


「ん?なんだ?」


「いや、、、その・・・」


 いつも言いたいことははっきりと物申す御田にしては珍しく、どこか言い淀んでいる様子だった。目線もさっきから泳ぎまくりである。


「なんだよ。言いたいことあったらなんでも言えよ」


 なるべく御田の気持ちを軽くさせるために一言添えた。

 その一言で気持ちが固まったんだろう。俺に目を真っ直ぐ見て、御田が話した。


「そなた、今好いておるものはおるか?」

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