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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第2章 信頼
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信頼と洋館

「それでは出発しまーす」


 昨日の朝と同じくバスのスピーカーからナセの声が車内に響いた。

 ようやく宿泊研修も終わりを迎え、俺たちは学校へと帰路についた。


「いやぁ、こんなにも楽しいものだったとはのう。わらわも感激じゃ」


 バスの座席は行きとは違う人と隣にならなくてはいけないらしく、俺の隣には紗羅ではなく御田が座っていた。

 ここにもこの宿泊研修の『親交の輪を広げよう』という意図が見て取れる。


「がーるずとーく?かの。夜に部屋のものと一緒に話をしたのも楽しかったんじゃ」


「そうか」


 そりゃ良かったな。

 初めて学校に来た時とはまるで別人のような御田の姿に、俺は微笑まざるを得なかった。

 お節介を焼いてよかったよ。

 ただ、俺自身の状況を考えると笑ってばかりもいられなかった。


「はぁ〜」


「どうした、玄野。元気がなさそうじゃぞ?楽しくなかったのか?」


「ん?あーいや。別に楽しくなかったわけじゃないよ。悪いな、ため息ついて」


 普段は息をするようにため息をするため、自分がため息をついていることすら意識してない。ただ、今回は自覚があった。


 今悩んでいることが思ったよりきついのだ。まさか俺がこんなにも疲れるとは思いもしなかった。

 これ以上御田の気分を害さないように窓の外を眺めた。今日は曇り。晴れでも雨でもない。ただ、雪をかぶった蝦夷富士がそびえ立っていた。


「のう、玄野」


 俺の袖を引っ張りながら御田が呼んでいた。

 振り返ると自分の顔を俺に近づけ、目の奥を見ようとするかのようにじっと見つめられた。


「な、なんだよ」


 流石に不意をつかれて焦った。今まではそんなに気にしていなかったが、こいつはハーフの整った顔をした美人なのだ。

 そんな俺の気を知ってか知らずか、首を少し傾げて御田が話を続けた。


「話を勝手に終わらせるでない。何があったのじゃ」


「い、いや。別に大したことじゃ・・・」


「大したことがないのなら話して欲しいのじゃ」


 まだ御田と出会って数日しか経っていなかったが、こいつが今本気で俺の話を聞こうとしてる事くらいはわかった。身を乗り出して俺の服の袖をぎゅっと掴んで、、、


「はぁ〜。本当に大した事じゃないんだ。ただ、、、」


「ただ。なんじゃ?」


「なんていうかな。簡単に言えば、上手く体が動かせなくなったみたいな、感じ?」


「なぜそなたのことなのに疑問形なんじゃ」


「そう言われても」


 実際何に悩んでるかもよくわかんないのに、説明する方が無理ってもんだ。

 そんな、客観的に見れば説明にもなっていない説明を聞いた御田は少し考え込み、小さく頷いた。


「ふむ、、、玄野よ」


「なんだ?」


「そなた、今夜は暇かの?」


「え?うーん・・・まぁ明日は休みだし、暇っちゃ暇だけど。なんでまた」


 そう答えると、御田はニッコリと笑ってこうつぶやいた。


「今夜わらわの家に泊まらぬか?」




  ■ ■ ■




 数日前に見た御田の家。

 よくもまあこんな洋館が近くにあったもんだなと驚く一方、外に出なさすぎて何も知らなかったのでは、と落胆もしていた。


 時刻は夕方の5時前。

 宿泊研修から帰り学校へと到着した俺は、御田の誘いにより家へと招かれることになった。さすがに女子の家に単独で泊まるのはまずいので宿泊は遠慮した。御田には『メイドたちもおる故、心配することは何もない』と言われたものの今回はやっぱり泊まるのはなしにさせてもらった。

 ただ、それでも俺と話がしたいのか『では、夕飯を食べていくと良い。ポールもこの前のお礼をしたいと申しておった』と半ば強引に約束を取り付けられ、現在に至る。


「何がそんなに気になるのやら」


「数日前のわらわと同じことを考えておるな。まぁよい。入れ、玄野」


「お邪魔しまーす」


 大きな両開きのドアを開けるとそこには驚きの光景が広がっていた。


「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」


「えぇ!!」


「何を驚いておる、玄野」


「いや・・・」


 メイドがいるとは聞いてたけど、


「マジでお出迎えとかしてもらえんのかよ」


「当たり前じゃろ。メイドをなんだと思うておる」


 お前は一般人をなんだと思ってるんだよ。


 家に入ると先ず目に飛び込んでくるのはエントランスの天井につるされたシャンデリアだ。綺麗な細工が施され、眩いばかりの光を放っていた。そして目の前には赤い絨毯と中央から左右に広がる大きな階段。手すりの1つ1つにも細かな装飾がされている。

 うん、ザ・洋館!みたいな感じだな。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 俺が豪邸に目を奪われていると、そばに来たポールさんが御田の荷物を預かっていた。


「ただいまなのじゃ、ポール。して、連絡入っておるかの?」


「はい、ただいま夕食の方ご用意させてもらっています」


「さすが、ポールじゃ。では、玄野。わらわは着替えがある故しばらく外す」


「あー、はいはい」


「その間は客間で好きにくつろいでくれ」


 そう言うと、御田は数人のメイドを連れて2階へと向かった。


「玄野様、本日はお越しいただきありがとうございます」


「いえいえ、そんな。俺も誘ってもらって嬉しいですよ」


「お嬢様がこのようにご友人を誘うのは久しぶりでして、メイドたちも戸惑っておりますが、何卒ご了承ください」


 そういえば、あいつ前までいじめられてたんだっけか。


「御田は今、クラスのやつとうまくやっていけてるみたいなんで、こういう機会も増えるかもしれません」


「そうですか」


 ポールさんは穏やかな顔で微笑むと、少し涙ぐんでいるようだった。


「あっ!立ち話をしてしまい申し訳ない。客間はこちらですのでどうぞ」


「どうも」


 ポールさんに案内された客間は1階の部屋だった。

 部屋には冬に使うだろう暖炉や、値段の高そうな置き時計があった。


「ではこちらでしばしお待ちください」


「丁寧にありがとうございます」


「何かご用がありましたら、こちらのメイドに何なりとお申し付けください」


 そう言って紹介したのは、今まで見たいかにも外国人風な顔立ちのメイドとは違い、明らかに日本人の顔つきをしているメイドだった。

 少しカールのかかった綺麗な茶髪。隣に外国人のポールさんがいるせいもあってか身長はかなり小さく見える。


「よ、よろしくお願いしましゅ!」


 明らかに緊張しているのが見て取れる表情で思い切り噛んだ。

 この人と2人で部屋にいて、何も起こらない気がしないのはなんでだろうか。

 不安しか感じない・・・

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