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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第2章 信頼
32/41

信頼と風呂上がり

「風呂出たぞ」


「はいよ、じゃあ俺も入ろっかな」


 髪の毛にまとわりつく水分をタオルでとり、ベッドの方へ向かった。

 夕飯も終わり今は自由時間。俺は早々と部屋のユニットバスでシャワーを浴びた。本当は風呂に入りたかったんだが、まぁそれは仕方ない。

 風呂に入ると落ち着くのは、胎児の頃を思い出すからだとかなんとか。そんな大層な理由ではないが、俺は昔から風呂に入るのが好きだった。

 悩んでいることを考える時間としても・・・


 部屋にいた柳は着替えと共にユニットバスのある部屋へと入った。

 俺は暇をもてあそぶためにテレビの電源を入れたが、今日は平日。大して面白い番組もなく、スマホいじりに移るのに時間はかからなかった。

 と言っても、ネットのニュースも見飽きたものばかり、新作のゲームの情報などもなく、いよいよ暇になってしまった。


「・・・ちょっと、、、」

「、、いじゃない・・・」


 ちょうどそんな時、廊下が何やら騒がしくなっていた。この階は全て男子の部屋になっているはずだが、廊下から聞こえる声はどうやら女子のものらしい。

 しかもそのうち1人はとても聞き覚えがある声だった。


 ピンポーン


 その声は俺たちの部屋の前で止まり、同時に部屋のチャイムがなった。

 はぁ、なんとなくだが嫌な予感がする。


「はーい、どちらさま?」


「周くん?わたし・・・と、あとクラスの友達」


 答えたのは意外にも灰山だった。

 鍵を開けてドアを開くと2人の女子と灰山と、


「どうかしたのか?紗羅」


「なんでもないわよ!」


「なんで怒ってんだよ」


「お、怒ってないわよ!」


 なぜか顔を赤くして眉を吊り上げている紗羅がいた。


「どうしても玄野くんに聞きたいことがあって」


「中入っても大丈夫?」


「あー、まぁ散らかってはないけど、、、」


 柳が風呂入ってるのはどうしようか。

 まぁいいか。


「どうぞ、入って」


「「わーい」」


 そう言うとクラスの女子は、半ば強引に紗羅のことを引っ張り、廊下にいた全員が部屋に入ってきた。

 各々が俺や柳のベッド、備え付けの椅子などに腰かけた。俺は仕方なく自分のベッドにいる灰山の隣のスペースに腰かけた。


「で、なんでここに来たのか聞いてもいいか?」


「だから言ったじゃん。玄野くんに聞きたいことがあるって」


「そうなのか?灰山」


「え?ええ、そうだけど、、、」


 いまいち信用がないから灰山に確認したが、なぜか灰山の様子もおかしい。

 さっきから俺と目を合わせようとしない。

 俺が何かしたんだろうか。


「で?聞きたいことって?」


 どうせ紗羅のことだろうけど。


「実はね、さっきまで部屋で恋バナしてたんだけどさ〜」


 そう言うこいつは椎名しいな。パーマのかかった茶髪で、肌は小麦色に焼けて、耳には小さなピアスをしている。見た目は明らかにギャルっぽいんだが、中身は意外とそうでもなく純粋な恋愛感を持っているらしい。

 という、女子のことのみならば絶対的信頼を持つ柳情報。


「紗羅が好きな人のこと教えてくれないのよ」


「だから!私は!」


「でもさっき好きな人いるか聞いたら小さく頷いたじゃん」


「そ、それは・・・」


「なんか知らない?玄野」


 俺を呼び捨てにするこいつは柴田しばた。椎名とは中学から一緒らしく、パーマはかけていないものの、椎名と似たような色の茶髪に化粧をしていたりと、まぁ見た目は相変わらずギャルっぽい。だが、こちらも内面はそうではなく、男に尽くすタイプで見た目とは大きなギャップがあるらしい。

 とてもそうは見えないが、柳がそう言うんだからきっとそうなんだろう。

 どこからそんな情報得るのかは知らないが。


 ちなみになんでそこまで覚えてるのかと言うと、ついさっきまでクラスの女子のことを語る柳に付き合わされていたからだ。約1時間も。


「知らない?って聞かれても、俺もこいつに好きなやついるの初耳だよ」


「そうなの?」


「あぁ」


 そうか、紗羅は好きな奴いたのか・・・


「なーんだ。玄野くんも知らないんならここに来ても仕方なかったね」


「じゃあ玄野は誰か好きなやついるの?」


「はっ?!なんで俺の話になるんだよ」


「えー、別にいいじゃん。減るもんじゃないし」


 いや、俺の精神的なにかが減るんだが。


「いや、俺は・・・」


 そう言いかけてふと強い視線を感じた。

 前に座る紗羅と隣にいる灰山の視線。

 明らかに俺の解答に注目しているようだった。


「ーーー別にいないよ」


「なぁんだ。面白くないの」


「まぁ玄野には期待してなかったけどね」


「答えさせてそれはないだろ」


 誰も気付きはしないさ。俺の気持ちなんて。


「「いないんだ・・・」」


 そう小さく誰かが呟いたように思えたが、それが誰の声なのかは分からなかった。


「いやー、ユニットバスって使いづら・・・」


 ちょうどそんなタイミングで、柳が下半身だけタオルで隠した状態で現れた。

 あ、、、




  ■ ■ ■




「いや、悪かったって」


「グスッ、なんで・・・」


 いや、あんだけ部屋の中で騒いでたのに気付かず出てくるお前もお前だけどな。


 結局あの後、部屋にいた女子は全員悲鳴をあげ、近くにあった枕などを柳に集中砲火。

 さらに悲鳴を聞きつけて駆けつけた教師陣に事情を説明させられ、なぜか俺まで説教をくらう羽目になった。

 その後、この件は噂となって学年中に広まり『東雲、玄野ペアが女子に裸体を見せつけた』という間違った情報が流れることとなった。


 なにが間違ってるって、そもそも俺はなにもしていない。

 まぁ、クラスの奴らには悲鳴をあげた女子(主に灰山)が中心となって火消しに回ってくれて、誤解は解けつつあるようだった。

 しかし、その悪い噂のことを柳はえらく気にしているのだった。


「うぅ、、、俺の評判が」


「断り入れなかったことは謝るから」


「まだまだ学年の女の子でインタビューしてない子いっぱいいたのに」


 俺の謝罪を返せ。

 全く。結局こいつは学年の女子に悪い印象を植え付けたことしか気にしていなかった。


 というか、一人一人インタビューしてたのか・・・


「もうお嫁にいけない、、、」


「あっそ」


「周、そこは『俺がもらうよ』っていうところだぞ?」


「冗談でもいうかアホ。呑気なジョーク言ってる暇あったらクラスの女子に誤解解いてこいよ」


「うぅ・・・」


 はぁ〜。疲れる。

 なんでこんなところまで来て、友人の尻拭いさせられているのか。

 そう思いながら俺は、ひたすらスマホに来る誤った内容のメッセージに返信するのだった。

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